旬刊経理情報 連載『女性リーダーからあなたへ』― 第4回 自分が何をしたいのかを明確に思い描く

倉原 直美
(株)インフォステラ 代表取締役社長

Entrepreneurial Winning Womenの企画・協力で、旬刊経理情報に『女性リーダーからあなたへ』を連載しています。2017年7月1日号に掲載された記事をご紹介します。

昨年の1月に2人の仲間とインフォステラを起業しました。私は2010年に大学院の博士課程修了後、大学の研究者として数年を過ごし、その後衛星通信のシステム開発を行う企業でエンジニアとして働いていました。固有の専門分野の知識と経験しかなく、起業や経営ということについて何もわからないゼロの状態からのスタートでした。

起業後まもなく、妊娠が発覚しました。今からすべての時間を会社を育てることに、また、起業家としての自分を成長させていくことに使わなくてはいけない、そんな時期のことでした。

会社のメンバーに何と言おう、両親に何と言おう、投資家の方たちに、一緒にプロジェクトを始めようとしている方たちに・・・。悩んだのは、どうやって妊娠と会社の代表という立場の両方を継続させるかということです。妊娠なんかで会社の代表を降りたくない。かといって、私が代表にいることで、会社の成長の足を引っ張ることもしたくない。一方で、会社を続けるために妊娠をあきらめるという選択肢も思い浮かびませんでした。

どうしたら、妊娠とインフォステラの目標の実現を先導する立場を両立できるのか。両方とも捨てたくはありませんでした。私はその思いをそのまま周囲に伝えました。結果は、私にとって大きな驚きでした。会社のメンバーをはじめ、みんな驚くほどすんなりと私の思いを受け入れてくれました。もちろん、驚いてはいましたが・・・。「代表を降りてくれ」、「会社への投資をやめる」、そうした反応もあるのではないかと考えていましたが、そのような言葉はありませんでした。どうすれば、私が両方とも頑張れるのかを一緒に考えると言ってくれました。

自分がこうしたいと明確に伝えれば、周囲はそれに答えてくれる。その答えを受けてまた自分も、周囲に誠意をもって接しなければと思う。このようにチームの関係がつくられていくのかと実感しました。私は妊娠中、何度も海外へ出張しました。出産後は子どもを連れて週の約半分出社、残りの半分は自宅でのリモートワークを行っています。これらのことすべて、私自身で何がやりたいのかを明確に意識し、それに対して周囲の理解と協力が得られたからこそ実現できたと思っています。

私はこの1年の間の起業、妊娠、出産を通じて、自分が本当にしたいことは何か、それはどんな困難があっても絶対に実行したいことなのかを考え抜く大切さを学びました。そして、自分1人で実現できることの限界も経験しました。どんなに頑張っても1人ではどうにもならないことがあります。ただ、周囲の理解とサポートがあれば、そのほとんどはどうにかなるものです。自分がどうしたいのかをきちんと伝えれば、周囲の人は手を差し伸べてくれます。思いが強く明確であるほど、共感し助けてくれる人は増えていきます。困ったときほど、まず自分の思いをみつめ直してはいかがでしょうか。

(「旬刊経理情報」2017年7月1日号より)

倉原直美

倉原 直美(くらはら・なおみ)
(株)インフォステラ 代表取締役社長
2010年、九州工業大学大学院博士後期課程修了(電気電子工学専攻)。在学中は人工衛星の環境計測装置の研究開発に従事。大学卒業後、2013年まで東京大学工学系研究科航空宇宙工学専攻の研究員に着任し、低軌道衛星開発プロジェクトに携わる。プロジェクト終了後、民間の衛生運用システムメーカーの最大手、米国Kratos Integral Systems Internationalの日本チームで国内および海外の複数の商用静止衛星プロジェクトに携わる。2016年、(株)インフォステラを起業。