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情報センサー2017年11月号 業種別シリーズ

新たな収益認識基準が業種別会計に与える影響 第6回 物流業

物流セクター 公認会計士・米国公認会計士 中山了俊
主に国内事業会社の監査業務や、米国基準に準拠した財務諸表の監査業務に従事。業種は、テクノロジーを中心に物流、製造業、不動産業などを担当。2014年から3年間、大手国際総合物流企業に出向。出向中は、IFRS、M&Aおよび決算期変更に関連するアドバイザリー業務に従事。

Ⅰ はじめに

2014年5月、国際会計基準審議会(IASB)はIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」を公表しました。これを踏まえ、企業会計基準委員会(ASBJ)は日本基準の体系の整備を図り、日本基準を高品質で国際的に整合性があるものとするなどの観点から、収益認識に関する包括的な会計基準の開発について検討を進め、17年7月に「収益認識に関する会計基準(案)」および「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下、公開草案)を公開しています。
本連載では、こうした状況を踏まえながら、業種に特化した収益認識の論点などについて解説します。
なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 物流業における収益認識の論点

1. IFRSの取り扱い

IFRS第15号では、五つのステップから構成される収益認識モデルが採用されています。具体的には、①顧客との契約を識別する②契約における履行義務を識別する③取引価格を算定する④取引価格を契約における履行義務に配分する⑤履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識するというステップで構成されています。
これらのステップのうち、特に物流業に影響すると考えられる(1)履行義務の識別(ステップ2)、(2)取引価格の決定(ステップ3)および(3)履行義務の充足(ステップ5)について解説します。

(1) 【ステップ2:履行義務の識別】

企業は、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、顧客に次のいずれかを移転する約束のそれぞれを履行義務として識別しなければならないとされています(IFRS第15号第22項)。

  1. (a)別個の財又はサービス(あるいは財又はサービスの束)
  2. (b)ほぼ同一で、顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス

物流業では、集荷、梱包、一時保管、ラベリング、通関業務等のさまざまな業務を行っています。このように契約に複数の業務が含まれている場合には、まずは前記の基準にしたがって、それぞれの業務を別個の履行義務として識別するかどうかを検討する必要があります。
ここで、一連の業務が運送という一つの履行義務を満たすための一部である場合には、複数の履行義務を認識することは顧客に対する企業の約束を忠実に表現するものではないと考えられます。そのため、一連の業務が運送という一つの履行義務を満たすための一部であると判断される場合には、これらの業務をまとめて一つの履行義務として識別する必要があります。
その判断に当たっては、当該財又はサービスから単独で、もしくは容易に利用可能な他の資源と組み合わせて便益を得ることができるかどうかに加え、契約内に含まれる他の財やサービスへの依存性や相互関連性、大幅な修正やカスタマイズの状況等を勘案することとなります(IFRS第15号第27項および第29項)。
例えば、①集荷②梱包③配達というサービスが一つの契約に含まれる場合があります。荷物を輸送するという業務の中で、それぞれのサービスの相互関連性や依存性が高いと判断される場合は、一つの運送契約として履行義務が識別されることになると考えられます。

(2) 【ステップ3:取引価格の決定】

企業は取引価格を算定するために、契約の条件および自らの取引慣行を考慮しなければならないとされています。取引価格は、顧客への約束した財又はサービスの移転と交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価の金額であり、第三者のために回収する金額(例えば、一部の売上税)は除かれます。顧客との契約において約束された対価には、固定金額、変動金額、あるいはその両方が含まれる場合があります(IFRS第15号第47項)。
物流業において第三者のために回収する金額とは、消費税や輸入関税等が該当し、これらは取引価格に含まれないと考えられます。また、協力会社等のサービスを用いて運送業務を実施する場合、本人又は代理人のいずれに該当するか検討する必要があります(IFRS第15号B34項)。すなわち、収益を総額又は純額で計上するか慎重に判断する必要があります。
さらに、取扱件数や取扱重量等の成果に応じて割戻契約を締結する場合があります。これは、IFRS第15号における変動対価に該当し、「期待値」又は「最も可能性の高い金額」によって変動対価を見積もることが必要です(IFRS第15号第53項)。ここでの期待値とは、考え得る対価の金額の範囲における確率加重金額の合計となります。一方、最も可能性の高い金額とは、考え得る対価の金額の範囲における単一の最も可能性の高い金額となります。

(3) 【ステップ5:履行義務の充足】

企業は、約束した財又はサービス(すなわち、資産)を顧客に移転することによって企業が履行義務を充足した時に(又は充足するにつれて)、収益を認識しなければならないとされています(IFRS第15号第31項)。
また、履行義務が一定期間にわたって充足するのか、一時点で充足するのかについては、契約開始時に決定しなければなりません(IFRS第15号第32項)。
IFRS第15号BC126項において、カナダのバンクーバーから米国のニューヨークまでの物流サービスの事例が示されています。例えば、行程の途中である米国のシカゴまでしか輸送されなかったとしても、シカゴまでの輸送という履行を別の企業が実質的にやり直す必要はありません。すなわち、別の企業がニューヨークに運ぶためにバンクーバーまで荷物を戻す必要はないでしょう。
このように行程の途中ではあるが、すでに完了した履行を別の企業が実質的にやり直す必要がない場合には、一定期間にわたって収益を認識することになると考えられます。
従って、物流業における輸送サービスにかかる履行義務は、通常は一定の期間にわたって充足することになるものと考えられます。
一定期間にわたって充足される履行義務については、当該履行義務の完全な充足に向けての進捗(しんちょく)度を測定することが求められています(IFRS第15号第39項)。
輸送サービスにおける進捗度は、出発地から到着地までの見積期間や距離数等に対する実際の経過日数や運送距離数などが考えられ、これらに応じて収益を認識することが考えられます。

2. 実務への影響

日本基準で、積込日、運送状の発行日、配送完了時点等の一時点で収益を認識している場合で、IFRS第15号では一定期間での収益認識が求められる場合、今後、進捗度を何にするか、どのように把握していくかを検討する必要があると考えられます。
前述のとおり、輸送サービスにおいては、日数、距離等が進捗度となると考えられますが、システムや内部統制を用いてどのように把握していくかが重要になると考えられます。

Ⅲ おわりに

物流業は他の業種に比べてIFRS適用企業が少なく、多くの企業が日本基準を適用している状況です。
ASBJが公表した公開草案は、船舶による運送サービス等について、重要性等に関する代替的な取扱いを定めていますが、基本的にはIFRS第15号を踏襲しています。このため、日本基準を適用している企業においても、ASBJによる基準開発の状況を注視するとともに、業績、内部統制および情報システム等への影響を十分に検討することが必要と考えます。