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情報センサー2017年11月号 会計情報レポート

固定資産の減損会計の実務ポイント解説シリーズ
第6回 連結財務諸表における論点

第4事業部 公認会計士 山澤伸吾
2006年に当法人に入所以来、主に化学業界、石油業界の監査業務に従事。主な著書(共著)に『減損会計の実務詳解Q&A』『ケースから引く 組織再編の会計実務』『連結財務諸表の会計実務(第2版)』(いずれも中央経済社)などがある。

Ⅰ はじめに

固定資産の減損会計において、通常は個別財務諸表上の減損損失の合計額を連結財務諸表においても計上しますが、連結財務諸表上で減損損失を調整する必要がある場合、個別財務諸表上と連結財務諸表上で減損損失の金額が異なることになります。
第6回の本稿では、固定資産の減損会計に関する連結財務諸表固有の実務論点として、固定資産の帳簿価額が個別財務諸表上と連結財務諸表上で異なる場合における、連結財務諸表上の減損損失の調整について解説します。
なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 過年度の子会社の支配獲得時に時価評価した固定資産の減損

1. 連結財務諸表上の調整の概要

会社が他の会社に対する支配を獲得して子会社とした場合、連結財務諸表上、当該子会社の資産及び負債の全てを支配獲得日の時価により評価して資本連結を行います。これにより、個別財務諸表と連結財務諸表で固定資産の帳簿価額に差異が生じる場合があります。このように、個別と連結で帳簿価額に差異がある固定資産について、個別財務諸表上で減損損失を計上した場合、当該減損損失について連結財務諸表上で調整が必要となります。個別財務諸表上と連結財務諸表上でどちらが大きいかによって会計処理は異なりますが、どちらのケースでも個別財務諸表上で計上した減損損失を連結上の簿価を基準に測定したかのように調整します。
子会社が減損損失を計上した場合には、この連結財務諸表上の調整が漏れることがないように、それが支配獲得時に個別上の簿価と連結上の簿価に差異が生じていた固定資産に係る減損損失であるかどうか、子会社から情報を収集する必要があります。

2. 個別上の簿価<連結上の簿価のケースの会計処理

支配獲得時に子会社の固定資産に含み益がある場合、個別上の簿価<連結上の簿価となります。このように連結上の簿価の方が上回っている固定資産について、個別財務諸表上で減損損失を計上した場合には、当該上回っている部分については回収可能性がないものとして、連結財務諸表上、追加で減損損失を計上します(<図1>参照)。

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3. 個別上の簿価>連結上の簿価のケースの会計処理

支配獲得時に子会社の固定資産に含み損がある場合、個別上の簿価>連結上の簿価となります。このように連結上の簿価の方が下回っている固定資産について、個別財務諸表上で減損損失を計上した場合には、当該差額分の全部又は一部について減損損失を個別財務諸表上で多く計上しているため、連結財務諸表上で減損損失を戻すことになります(<表1>参照)。

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4. 減損対象が資産グループの場合の論点

個別財務諸表上で資産グループについて減損損失を計上した場合、子会社の支配獲得時に連結財務諸表上で識別可能資産として計上した無形資産が当該資産グループに含まれていることがあります。また、個別財務諸表上で資産グループよりも大きな事業の単位で減損損失を計上した場合、支配獲得時に連結財務諸表上で計上したのれんが当該事業に分割されていることがあります。
このような場合には、個別上の簿価<連結上の簿価のケースと同様に、当該無形資産及びのれんについて、連結財務諸表上、追加で減損損失を計上することになります。
なお、連結財務諸表上で計上した無形資産については将来加算一時差異となりますので、当該無形資産について税効果を認識して繰延税金負債を計上しますが、のれんについては税効果を認識しません。当該無形資産について追加で減損損失を計上した際には繰延税金負債が取り崩されることになりますので、無形資産とのれんは税効果の影響の分だけ減損による損益影響が異なることになります。
また、連結財務諸表上の無形資産については子会社の支配獲得時に全面時価評価法により評価しているため、当該無形資産に係る減損損失について非支配株主持分に配分します。一方、連結財務諸表上で計上したのれんは親会社持分のみを計上しているため、のれんの減損損失については非支配株主持分には配分しません。このため、子会社に非支配株主が存在する場合の無形資産とのれんは、減損による親会社株主に帰属する当期純利益への影響が異なることになります(<表2>参照)。

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Ⅲ 過年度に未実現利益を消去した固定資産の減損

連結会社相互間で固定資産を取引した場合、未実現利益については連結財務諸表上消去し、固定資産の帳簿価額を調整します。このように過年度に未実現利益を消去した固定資産について、個別財務諸表上で減損損失を計上した場合、「Ⅱ3. 個別上の簿価>連結上の簿価のケースの会計処理」と同様の調整を連結財務諸表において行うことになります。
ただし、未実現利益を消去したのが子会社から親会社への固定資産の取引(アップストリーム)である場合には、親会社の固定資産の帳簿価額が連結財務諸表上で調整されているため、次の点に留意する必要があります。

1. 開示上の留意点

親会社の個別財務諸表上で減損損失を計上した固定資産について、連結財務諸表上で未実現利益の消去を行っていた場合、他に子会社で減損損失が計上されなければ、開示上、<表1>のケースのように個別財務諸表上の減損損失と連結財務諸表上の減損損失の大小が逆転して表示されることになります。このようなケースが生じた場合には、社内外に対してその要因を説明できるようにしておく必要があります。また、連結財務諸表における減損損失の注記について、個別財務諸表における減損損失の注記の金額をそのまま記載しないよう留意が必要です。

2. 売手側の子会社に非支配株主が存在する場合の留意点

連結財務諸表上で未実現利益の消去を行っていた固定資産について、親会社の個別財務諸表上で減損損失を計上した場合、子会社においては未実現利益が実現したものとして利益となります。
売手側の子会社に非支配株主が存在する場合、連結財務諸表上の未実現利益の消去について非支配株主持分に配分しますが、当該未実現利益が親会社の個別財務諸表上で減損損失を計上したことにより実現した場合には、同じようにその実現した利益についても非支配株主持分に配分することになります。このため、未実現利益の実現だけでなくその非支配株主持分への配分によっても、親会社株主に帰属する当期純利益への減損損失の影響が個別財務諸表とは異なることになります(<図2>参照)。その影響が重要であれば、対外的に減損損失について説明する際には留意が必要です。

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