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収益認識基準公開草案の解説

2017年9月29日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2017年10月号 会計情報レポート

会計監理部 公認会計士 加藤圭介

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『業種別会計シリーズ 自動車産業』(第一法規)、『連結手続における未実現利益・取引消去の実務』(中央経済社)などがある。

Ⅰ  はじめに

本稿では、企業会計基準委員会(以下、ASBJ)から平成29年7月20日に公表された、企業会計基準公開草案第61号「収益認識に関する会計基準(案)」(以下、会計基準案)及び企業会計基準適用指針公開草案第61号「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「適用指針案」といい、会計基準案と合わせて「本公開草案」という)についての解説を行います。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ   本公開草案公表までの経緯

わが国では、これまで実現主義に基づき収益を認識する実務があったものの、収益認識に関する包括的な会計基準はありませんでした。しかし、国際的な動向を踏まえ、ASBJが「収益認識に関する包括的な会計基準の開発についての意見の募集」を公表し、これに寄せられた意見に基づき検討を重ね、今般、本公開草案を公表するに至りました。本公開草案に対し平成29年10月20日(金)までコメントが募集されていますが、寄せられたコメントを踏まえた検討を行った上で、最終的な会計基準等として公表される予定です。最終的な判断に当たっては、最終化された基準等を参照する必要がありますが、わが国において初めて収益認識に関する包括的な会計基準が定められることから、幅広い業種の企業における経営指標や会計実務に影響を及ぼす可能性があると考えられます。

Ⅲ 本公開草案の概要

1. 開発に当たっての基本的な方針(会計基準案第91項から第94項)

基本的な方針として、国際財務報告基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」の基本的な原則を取り入れることを出発点として会計基準を定めた上で、わが国で行われてきた実務等に配慮すべき項目がある場合には比較可能性を損なわない範囲で代替的な取扱いを追加することとしています。また、個別財務諸表についても、基本的には、連結財務諸表と同一の会計処理を定めることとしています。
なお、本公開草案とIFRS第15号との主な相違点は<表1>のとおりです。

表1 本公開草案とIFRS第15号との主な相違点

2. 適用範囲(会計基準案第3項)

次の(1)から(6)を除き、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用することとされています。

(1) 「金融商品に関する会計基準」の範囲に含まれる金融商品に係る取引
(2) 「リース取引に関する会計基準」の範囲に含まれるリース取引
(3) 保険契約
(4) 同業他社との商品又は製品の交換取引
(5) 金融商品の組成又は取得に際して受け取る手数料
(6) 不動産流動化実務指針の対象となる不動産の譲渡

また、本公開草案では、IFRS第15号における契約コストの定めを範囲に含めていないほか(会計基準案第102項)、固定資産の売却取引についても適用対象とはされていません。
なお、顧客との契約から損失が見込まれる場合の取扱いは企業会計原則注解(注18)に従って引当計上の要否を検討することとされますが、工事契約等から損失が見込まれる場合の取扱い(工事損失引当金)については当適用指針案の定めに従うこととなります(適用指針案第89項、第142項、第143項)。

3. 会計処理

(1) 収益認識に関する基本となる原則(会計基準案第13項から第15項)

「約束した財又はサービスの顧客への移転を、当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように収益の認識を行うこと」を基本となる原則とし、五つのステップを適用して収益を認識します。
事務用機器の販売とその後3年間の保守サービスをワンセットとした内容で、対価120にて顧客と合意した契約を例にとると、五つのステップを<図1>のように適用して収益を認識します。

図1 ステップ1~5

各ステップの詳細な内容は以下のとおりです。

【ステップ1:契約の識別(会計基準案第16項から第28項)】

顧客と合意し、かつ次のすべての要件を満たす契約を識別します。

  • 当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること
  • 移転される財又はサービスに関する各当事者の権利を識別できること
  • 移転される財又はサービスの支払条件を識別できること
  • 契約に経済的実質があること
  • 顧客の支払いの意思と能力を考慮し、顧客に移転する財又はサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと

【ステップ2:履行義務の識別(会計基準案第29項から第31項)】

履行義務とは、顧客との契約において次のいずれかを顧客に移転する約束をいいます。

  • 別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)
  • 一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)

契約において顧客への移転を約束した財又はサービスが、以下の二つの要件をいずれも満たす場合には別個のものとして、当該約束を履行義務として区分して識別します。

  • 当該財又はサービスから単独で顧客が便益を享受することができること、あるいは、当該財又はサービスと顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて顧客が便益を享受することができること
  • 当該財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約に含まれる他の約束と区分して識別できること

【ステップ3:取引価格の算定(会計基準案第43項から第61項)】

取引価格とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(ただし、第三者のために回収する額を除く)をいいます。取引価格を算定する際には、変動対価又は現金以外の対価の存在を考慮し、金利相当分の影響及び顧客に支払われる対価について調整を行います。

【ステップ4:履行義務への取引価格の配分(会計基準案第62項から第73項)】

契約において約束した別個の財又はサービスの独立販売価格の比率に基づき、履行義務に取引価格を配分しますが、独立販売価格が観察できない場合は独立販売価格を見積もる必要があります。

【ステップ5:履行義務の充足による収益の認識(会計基準案第32項から第42項)】

約束した財又はサービスを顧客に移転することによって、履行義務を充足したときに、又は充足するにつれて、充足した履行義務に配分された額で収益を認識します。履行義務は以下の三つの要件のいずれかを満たす場合には一定の期間にわたり充足され、いずれも満たさない場合には一時点で充足されます。

  • 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること
  • 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること
  • 次の要件のいずれも満たすこと
    • 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用することができない資産が生じ、あるいはその価値が増加すること
    • 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること

(2) 特定の状況又は取引における取扱い(適用指針案第34項から第88項)

IFRS第15号の定めを基礎として、11の特定の状況又は取引について適用される指針が記載されていますが、このうち主なものは次のとおりです。

① 本人と代理人の区分(収益の総額表示・純額表示)

企業が本人に該当するときには収益を総額表示し、企業が代理人に該当するときには収益を純額表示します。なお、本人の履行義務が顧客に財又はサービスを自ら提供することであるのに対し、代理人の場合は財又はサービスが他の当事者によって提供されるように手配することを履行義務とする点で異なります。

② 追加の財又はサービスを取得するオプションの付与(ポイント制度等)

既存の契約に加えて追加の財又はサービスを取得するオプションを顧客に付与する場合で、その契約を締結しなければ重要な権利を顧客が受け取れないときにのみ、当該オプションから履行義務が生じます。この場合には、将来の財又はサービスが移転する時、あるいは当該オプションが消滅する時に収益を認識します。

③ ライセンスの供与

ライセンスを供与する約束は、他の財又はサービスを移転する約束と別個のものであり、当該約束が独立した履行義務である場合には、ライセンスを顧客に供与する際の企業の約束の性質が、顧客に次のⅰ又はⅱのいずれを提供するものなのかを評価します。

ⅰライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利
ⅱライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利

ライセンスを供与する約束については、ライセンスを供与する際の企業の約束の性質がⅰである場合には、一定の期間にわたり充足される履行義務として処理し、企業の約束の性質がⅱである場合には、一時点で充足される履行義務として処理します。

4. 重要性等に関する代替的な取扱い

(1) 代替的な取扱い(適用指針案第91項から第102項)

本公開草案では、IFRS第15号と同様に重要性に関する定めを個別に置かず一般的な重要性の判断に基づくことを原則としています。ただし、これまでわが国で行われてきた実務等に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、<表2>のとおり重要性等に関する代替的な取扱いを定めています。

表2 重要性等に関する代替的な取扱い

(2) 代替的な取扱いを設けなかった項目

(1)に記載の項目以外は代替的な取扱いが設けられていませんが、特に以下の項目については、本会計基準を適用した場合に現行の実務と大きく異なる可能性があるとされています。

  • 顧客に付与するポイントについての引当金処理(ステップ2)
  • 返品調整引当金の計上(ステップ3)
  • 割賦販売における割賦基準に基づく収益計上(ステップ5)

5. 開示(会計基準案第76項、第77項及び第85項、適用指針案第103項、第104項)

本公開草案では、以下に記載の早期適用時における必要最低限の注記事項のみを定め、それ以外の注記については原則適用時までに検討することとしています(会計基準案第133項)。

  • 主要な事業における主な履行義務の内容
  • 当該履行義務を充足する通常の時点

6. 適用時期等(会計基準案第78項から第85項)

(1) 適用時期(会計基準案第78項から第80項)

経営管理やシステム対応を含む業務プロセスの変更の必要性を考慮し、通常よりも長期の準備期間を想定した適用時期が提案されています。

① 原則適用の時期

平成33年4月1日以後開始する年度の期首から適用します。

② 早期適用の時期及び早期適用時の取扱い

平成30年4月1日以後開始する年度の期首からの適用が認められるほか、平成30年12月31日に終了する年度から平成31年3月30日に終了する年度までにおける年度末に係る財務諸表からの適用も認められます。この場合の適用翌年度の比較情報については期首にさかのぼって適用します。

(2) 本会計基準適用初年度の取扱い(会計基準案第81項から第85項)

本会計基準の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱います。遡及(そきゅう)適用に当たっては原則的な取扱いのほか、経過措置が定められています。

① 原則的な取扱い

新たな会計方針を過去の期間のすべてに遡及適用します。
なお、一定の要件を満たす契約については適用初年度の比較情報等を遡及的に修正しないことをはじめ、幾つかの容認規定があります。

② 経過措置(会計基準案第81項ただし書き、第83項)

適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができます。また、適用初年度の期首より前又は前年度の期首より前に行われた契約変更について、累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減する方法を選択できます。

③ IFRS又は米国会計基準を連結財務諸表で適用している企業(又はその連結子会社)の取扱い

これらの企業においては、個別財務諸表においてもIFRS第15号又は米国会計基準の「収益認識(Topic606):顧客との契約から生じる収益」における経過措置に従うことができます。

7. 設例(適用指針案-設例)

会計基準案及び適用指針案の理解を深めるための参考として、IFRS第15号の設例を基礎としたものに加え、収益を認識するための五つのステップについての設例及びわが国に特有な取引等(消費税、小売業における消化仕入等、設備工事のコストオン取引、他社ポイントの付与、有償支給取引、工事損失引当金)についての設例が示されています。

※本人又は代理人

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