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税効果会計に係る会計基準等の改正公開草案及びASBJで検討されているテーマの概説

2017年7月31日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2017年8月・9月合併号 会計情報レポート

会計監理部 公認会計士 安原明弘

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『減損会計の実務詳解Q&A』『連結財務諸表の会計実務(第2版)』(いずれも中央経済社)などがある。

Ⅰ  はじめに

本稿では、平成29年6月6日に公表された、税効果会計に係る会計基準等の改正公開草案を概説するとともに、企業会計基準委員会(以下、ASBJ)で検討中のテーマの概要をASBJが公表している審議資料等に基づき、筆者の判断で概説します。本稿で記載している検討中のテーマは、執筆の関係上、平成29年6月6日現在のものとなっています。直近の情報については、ASBJのウェブサイトでご確認ください。

Ⅱ   税効果会計に係る会計基準等の改正公開草案の概説

平成29年6月6日に企業会計基準公開草案第60号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(案)」(以下、税効果会計基準一部改正案)、企業会計基準適用指針公開草案第59号(企業会計基準適用指針第26号の改正案)「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(案)」(以下、回収可能性適用指針案)が公表されました。また、同時に企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」を廃止統合し、日本公認会計士協会が公表している個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針(以下、個別税効果実務指針)、連結財務諸表における税効果会計に関する実務指針(以下、連結税効果実務指針)、税効果会計に関するQ&A(以下、税効果Q&A)及び中間財務諸表等における税効果会計に関する実務指針(以下、中間税効果実務指針)に置き換わるものとして、企業会計基準適用指針公開草案第58号「税効果会計に係る会計基準の適用指針(案)」(以下、税効果適用指針案)及び企業会計基準適用指針公開草案第60号「中間財務諸表等における税効果会計に関する適用指針(案)」(以下、中間税効果適用指針案)が公表されました。
以下では、これらの公開草案による現行の取扱いの改正点を概説します。なお、中間税効果適用指針案は中間税効果実務指針及び税効果Q&Aの取扱いの内容を基本的に踏襲し表現の見直しを行ったもので、実質的な変更がありませんので、説明を割愛します。

1. 税効果会計基準一部改正案

(1) 繰延税金資産及び負債の固定・流動区分

我が国では繰延税金資産及び繰延税金負債は、これらに関連した資産・負債の分類に基づいて流動・固定を区分する(税効果会計に係る会計基準 第三1.)のに対して、IFRS及び米国会計基準では全て非流動項目に表示する取扱いとなっています。このことから、我が国の取扱いも投資その他の資産又は固定負債の区分に表示する改正が提案されています。

(2) 注記事項の見直し

以下の2項目を追加的に注記の対象とすることが提案されています。①(b)及び②の注記については、連結財務諸表を作成している場合には個別財務諸表において記載を要しないこととすることが提案されています。

① 評価性引当額の内訳注記

(a)繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金の額を記載し、当該金額が重要である場合の評価性引当額は、税務上の繰越欠損金に係るものと将来減算一時差異の合計に係るものとに区分して記載

(b)評価性引当額の重要な変動が生じている場合の当該変動の主な内容の記載

② 税務上の繰越欠損金の繰越期限別の注記

繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として税務上の繰越欠損金の額を記載し、当該金額が重要である場合に次の事項を記載します。

(a)繰越期限別の税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額控除前の繰延税金資産の額、評価性引当額、評価性引当額控除後の繰延税金資産の額

(b)税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合の当該繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由

2. 回収可能性適用指針案

完全支配関係(法人税法第2条12の7の6号)にある国内子会社株式の評価損は、税務上、当該株式を売却する場合には損金に算入されますが、当該子会社を清算した場合には損金に算入されません。当該評価損について、将来売却するか清算するか明らかでない場合でも、一時差異に該当するものとして整理することが提案されています。当該子会社を清算するまで当該子会社株式を保有し続ける方針がある場合等、将来において税務上の損金に算入される蓋然(がいぜん)性が低いときに、(分類1)の企業であっても当該評価損に係る繰延税金資産を回収可能性がないものと判断する場合があることを明示することが提案されています。

3. 税効果適用指針案

(1) 個別財務諸表における繰延税金負債の支払可能性の見直し

現行の個別税効果実務指針第24項では繰延税金負債について支払が見込まれないため、認識しない場合の要件に「事業休止等により、会社が清算されるまで明らかに将来加算一時差異を上回る損失が発生し、課税所得が発生しないことが合理的に見込まれる場合に限られる」旨を定めています。それに対して、連結税効果実務指針第37項では、連結子会社の留保利益のうち配当送金されると見込まれるもの以外の将来加算一時差異については、「親会社がその投資の売却を親会社自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却を行う意思がない場合には当該将来加算一時差異に対して税効果を認識しない」取扱いとされています。このように個別と連結で認識要件が異なる記載となっていることから、個別税効果実務指針第24項の取扱いを税効果適用指針案では、以下の定めとすることが提案されています。
将来加算一時差異の解消に係る増額税金見積額について以下の場合を除き計上します。

(a)企業が清算するまでに課税所得が生じないことが合理的に見込まれる場合

(b)子会社株式等に係る将来加算一時差異(事業分離に伴い分離元企業が受け取った子会社株式等を除く)について、親会社又は投資会社がその投資の売却等を当該企業自身で決めることができ、かつ、予測可能な将来の期間に、その売却等を行う意思がない場合

(2) 子会社投資時の留保利益に対する税効果の取扱いの削除

連結税効果実務指針第58項では、子会社投資の留保利益について、配当時に親会社において税金負担が生じると見込まれる場合には、子会社投資時に税効果を認識し、子会社株式を相手勘定として繰延税金負債を計上することができる定めがあります。しかし、同項による個別財務諸表上の子会社株式の取得原価の取扱いは金融商品に関する会計基準第17項、企業結合に関する会計基準第23項、連結財務諸表に関する会計基準第23項(1)の定めと必ずしも整合していないことから、税効果適用指針案では、当該取扱いを削除することが提案されています。

4. 適用時期等

(1) 適用時期

税効果会計に係る会計基準等の改正公開草案では、改正基準等を平成30年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することが提案されています。また、前記Ⅱ1.の税効果会計基準一部改正については、改正基準等の公表日以後最初に終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から早期適用できることが提案されています。

(2) 適用時の取扱い

前記Ⅱ1.の改正については表示方法の変更として取り扱い、会計上の変更及び誤謬(ごびゅう)の訂正に関する会計基準(以下、遡及(そきゅう)会計基準)第14項の定めに従って比較情報の表示を修正することになります。しかし、実務に配慮し、改正基準適用初年度の前記Ⅱ1.(2)の注記事項については比較情報に記載しないことができると提案されています。
前記Ⅱ2.及び3.の改正により、これまでの会計処理と異なることとなる場合、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取扱い、遡及会計基準第6項(1)に従って、遡及適用することとされています。

Ⅲ 現在検討中のテーマ

1. 退職給付債務の計算における割引率について、債券の利回りがマイナスとなる場合の平成30年3月末以後の取扱い

平成29年3月29日に公表された実務対応報告第34号「債券の利回りがマイナスとなる場合の退職給付債務等の計算における割引率に関する当面の取扱い」により、平成29年3月末に終了する事業年度から平成30年3月30日に終了する事業年度の取扱い(利回りの下限としてゼロを利用する方法とマイナスの利回りをそのまま利用する方法のいずれかの方法)が定められました。しかし、平成29年6月6日にASBJから公表されている「現在開発中の会計基準に関する今後の計画」(以下、今後の計画)では、平成30年3月末以後に終了する事業年度の取扱いに関して、平成29年12月までに最終基準化することを目標として検討を行っているとされています。

2. 実務対応報告第18号及び実務対応報告第24号の見直し

我が国の会計基準では、当期純利益と株主資本との連携(クリーン・サープラス関係(包括利益の表示に関する会計基準第21項))を重視する考え方があります(実務対応報告第18号 注5)。修正国際基準である企業会計基準委員会による修正会計基準第2号「その他の包括利益の会計処理」で資本性金融商品のノンリサイクリング処理について、修正又は削除されていますが、現状、実務対応報告第18号及び実務対応報告第24号では修正が強制される項目とはなっていません。子会社又は関連会社がIFRSに準拠して、資本性金融商品をノンリサイクリング処理している場合に実務対応報告第18号及び実務対応報告第24号で修正すべき事項とするかどうかについて、「今後の計画」では現在、これらを修正項目とする場合の実務対応の可否等を検討中であり、速やかに対応を図る予定であるとされています。

3. 一括取得型による自社株式取得取引に関する検討状況

一括取得型による自社株式取得取引(Accelerated Share Repurchase:ASR)では、自己株式を自己株式立会外買付取引で取得するに当たって証券会社と契約を交わし、証券会社が株券貸借市場で当該企業の株式を借り入れて売り応募します。証券会社が借り入れた株式のその後の平均株価が自己株式立会外買付価額より高い場合の差額の支払いに充てるため、証券会社に新株予約権を割当、平均株価が高い場合には、証券会社が新株予約権を行使して借株の精算を行い、低い場合には証券会社から差額が企業に返金されます。このような自己株式立会外買付取引後の調整取引について、一連の取引を一つの取引として会計処理を行い、取得価額が事後的に決定される自己株式の取得取引とするのか、個々の取引ごとに会計処理を行い、自己株式立会外取引による自己株式の有償取得取引とその後の新株予約権の割当又は現金決済の調整取引をデリバティブ取引とするのかが主要な論点となっています。「今後の計画」では公開草案の公表時期を定めていないとされています。

4. 仮想通貨に係る会計上の取扱いに関する検討状況

「今後の計画」では、資金決済に関する法律に基づく仮想通貨交換業者及び仮想通貨利用者における会計上の取扱いについて、公開草案を平成29年8月から9月に公表することを目標にするとしています。

5. 企業結合会計に関する検討状況

(1) 条件付取得対価の取扱い

「今後の計画」では、条件成就時に取得対価の一部が返還される場合が企業結合に関する会計基準第27項に定める条件付取得対価に含まれるか否かを検討することが予定されているとしていますが、会計基準等の開発の目標時期は特に定められていません。

(2) 子会社、関連会社株式の減損とのれんの減損の関係(連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針第32項の削除)

連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針第32項では、上場子会社株式や上場関連会社株式の市場価額の著しい下落に伴い、株式を減損処理した場合、これらの会社に係るのれんについて減損の兆候がなくても、のれんを一時償却することを求めています。当該定めを削除するか否か検討することが予定されていますが、「今後の計画」では会計基準等の開発の目標時期は特に定められていません。

(3) 企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第289項(2)の記載の見直し

企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(以下、適用指針)(2)では関連会社の企業結合により持分比率が減少するものの引き続き関連会社である場合に連結上、持分変動差額を計上することと定めています。しかし、事業分離等に関する会計基準第48項(1)、第40項(2)では、のれん(又は負ののれん)と持分変動差額に分解して処理することを定めていて、取扱いが不整合となっているため、適用指針の記載を事業分離等会計基準第48項(1)①、第40項(2)に整合させることを今後の適用指針改正時に行うことが検討されています。

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