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オーストラリアの就労ビザ制度の改正について

2017年6月30日 PDF
カテゴリー JBS

情報センサー2017年7月号 JBS

パース駐在員 公認会計士 諸貫健太郎

2004年、当法人に入所。石油開発企業、製造業、小売業をはじめとする上場企業を中心に、会計監査およびIFRSアドバイザリー業務に従事。13年よりEYパース事務所に駐在。会計監査を中心として、現地日系企業をサポートしている。

Ⅰ  はじめに

2017年4月18日、オーストラリア政府は現行の就労ビザであるTemporary Work (Skilled)visa(subclass 457 visa:457ビザ)を18年3月に廃止し、代わりに新しい一時的就労ビザ(Temporary Skill Shortage visa:TSSビザ)の導入を発表しました。また、当該発表とともに17年4月19日から現行の457ビザの改正についての発表も行っています。

Ⅱ   457ビザの主な改正点

新しいビジネスビザ制度への完全な移行は18年3月からですが、17年4月19日より457ビザの段階的な改正を経て新制度が導入される予定です。以下、17年3月までに実施される457ビザの改正について、時系列に沿って概要を説明します。

1. 17年4月19日より適用される主な改正点

  • 高度なスキルが要求される職業リストがConsolidated Sponsored Occupation List(CSOL)からShortterm Skilled Occupation List(STSOL)へ、スキルギャップを埋めるための職業リストがSkilled Occupation List(SOL)からMedium and Longterm Strategic Skills List(MLTSSL)へ変更されるとともに、両者の該当職種リストが651から435の職種へ減少
  • STSOLの職業リストについては、457ビザの申請は2年間を限度とする

2. 17年7月1日より適用される主な改正点

  • Department Of Employment(雇用省)のレビューに基づいたSTSOLの職業リストのさらなる見直し
  • 年間基本給与96,400豪ドル超の457ビザ申請者に対する英語力テストの義務化
  • 無犯罪証明書の提出の義務化
  • 雇用者によるオーストラリア従業員に対するトレーニング実施要件の厳格化

3. 17年12月31日までに実施される主な改正点

  • 移民局はTax File Number(納税者番号)を入手し、457ビザ申請時に記載された給与が457ビザ保有者に適切に支払われているか、オーストラリア国税局(ATO)が保有する記録データとの照合を行う
  • 雇用者の義務を適切に履行していないとされる雇用者の公表

Ⅲ 新しい一時的就労ビザの概要

457ビザは、前記の改正を経た後18年3月に廃止され、全く新しいTSSビザに置き換わる予定です。なお、新しい制度では以下の2種類の一時的就労ビザが導入されます。
高度なスキルが要求される職種には、短期ビザ(短期TSSビザ)が利用できます。このビザの移民局の申請手数料は、1,150豪ドルとなります。このビザでは、雇用者が高度なスキルを保有する外国人を2年間まで就労させることができます。
スキルギャップを埋めるためには中長期ビザ(中長期TSSビザ)が利用できます。このビザの移民局の申請手数料は、2,400豪ドルとなります。このビザでは必要とするスキルを保有する外国人を4年間まで就労させることが可能で、さらに将来的に永住権の取得が可能となります。

1. 短期TSSビザ要件

  • オーストラリア国内におけるビザの更新は1回のみ
  • オーストラリア都市部においてはSTSOLが職業リストとして適用
  • オーストラリアの地方部についてもSTSOLが職業リストとして適用されるが、雇用者の職業ニーズに合わせた優遇措置の適用を予定
  • International English Language Testing System(IELTS)もしくは同等の英語力テストの各項目(リスニング、リーディング、ライティング、スピーキング)で最低でも4.5以上のスコアを獲得し、全体で5.0以上のスコアの獲得が必要

2. 中長期TSSビザ要件

  • 中長期TSSビザで3年間就労後、永住権申請が可能
  • オーストラリア都市部においては、MLTSSLが職業リストとして適用
  • オーストラリアの地方部についてもMLTSSLが職業リストとして適用されるが、短期TSSビザ同様、雇用者の職業ニーズに合わせた優遇措置の適用を予定
  • IELTSもしくは同等の英語力テストの各項目において、最低でも5.0以上のスコアの獲得が必要

3. 短期TSSビザおよび中長期TSSビザいずれにも適用される要件

  • 労働市場テストの義務化(ただし日豪経済連携協定により、日本人のビザ申請者には該当しないことが予想される)
  • 各職種において最低2年の実務経験を保有すること
  • オーストラリア給与市場価格に見合い、かつTemporary Skilled Migration Income Threshold(最低賃金基準)を満たすこと
  • 無犯罪証明書の提出
  • オーストラリア従業員に対する差別が行われていないことをチェックするための非差別テストの導入
  • 雇用者によるオーストラリア従業員に対するトレーニング実施要件の厳格化

Ⅳ 想定される影響について

1. 現行の457ビザ保有者

オーストラリア政府は今回発表された新ビザ制度による現行の457ビザ保有者への影響はないと表明しました。今後、雇用者に対して新制度への移行措置が導入され、現行の457ビザ保有者の在住ステータスが明確化されると予想されます。

2. 17年4月19日時点で457ビザ申請中の場合

17年4月19日より該当職種リストが651の職種から435の職種へ減少しています。このため、該当職種が職業リストから除外された場合には、457ビザの申請は許可されません。なお、申請を取り下げることで、申請料金の返金の措置が取られることとなります。また、該当職種リストにある職業についても、一連の改正で承認までに時間がかかることが想定されます。

3. 17年4月19日以降457ビザもしくは新しい一時就労ビザを申請する場合

職業リストのさらなる見直し、英語力要件の厳格化、オーストラリア従業員に対するトレーニング実施要件の厳格化など、雇用者による一時就労ビザ申請に対する厳格化がなされています。そのため、駐在員派遣に対する選考プロセスの長期化、コンプライアンスに費やすコストの増加が企業への大きな影響として想定されます。

Ⅴ 17/18年度連邦予算案

17年5月9日に連邦予算案の発表があり、18年3月より現行のTraining Benchmark Financial Obligationsを廃止し、代わりに新たに設立されるSkilling Australians Fundへの納付が義務付けられることになりました。新規定上では、雇用者は、売上が1,000万豪ドル以上の事業所の場合は、TSSビザ保有者一人当たり毎年1,800豪ドル、売上が1,000万豪ドル未満の事業所の場合は、1,200豪ドルを納付することになります。

※16年4月12日時点で53,900豪ドル

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