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少額減価償却資産に係る会計と税務

情報センサー2017年2月号 押さえておきたい会計・税務・法律

公認会計士 太田達也

当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。

Ⅰ  はじめに

減価償却資産を取得した場合で、取得価額10万円未満の場合は、事業の用に供した事業年度において取得価額の全額を損金の額に算入することができるとされています。また、取得価額が20万円未満の場合は、一括償却資産として3事業年度で均等に損金の額に算入することができるとされています。
これらの少額な減価償却資産の特例について、会計と税務との関係や実務上の留意点などを総合的に解説します。

Ⅱ 少額な減価償却資産の特例

取得価額が10万円未満の減価償却資産については、取得・事業供用時に一時に損金算入することが認められ、取得価額が20万円未満の減価償却資産については、3事業年度にわたって均等償却することが認められます。(<表1>参照)

表1

経理要件について、①および③の規定では、事業供用年度において取得価額相当額すなわち全額の損金経理を要するため、事業供用時に消耗品費等として単純に費用計上することが想定されます。これに対し、②の規定では、全額費用計上して3事業年度にわたって申告調整を行う方法と、いったん資産計上して3年間にわたって費用に振り替える方法のいずれも認められます。
また、中小企業者等の場合、10万円以上20万円未満の減価償却資産につき、②の規定又は③の規定を選択できることとなりますが、①および②については償却資産税が課せられず、③については償却資産税が課せられる(地方税法341条4号、地方税法施行令49条)ことから、法人税については3年間を通算すれば同じ結果となるため、②の規定の適用を受ける場合も多いようです。

Ⅲ 取得価額の判定

前記の取扱いの適用については、取得価額の判定が重要となりますが、これにつき、次の取扱いが置かれています。

  • 法基通7-1-11(少額の減価償却資産又は一括償却資産の取得価額の判定)

法令第133条《少額の減価償却資産の取得価額の損金算入》又は法令第133条の2《一括償却資産の損金算入》の規定を適用する場合において、取得価額が10万円未満又は20万円未満であるかどうかは、通常1単位として取引されるその単位、例えば、機械及び装置については1台又は1基ごとに、工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろいごとに判定し、構築物のうち例えば枕木、電柱等単体では機能を発揮できないものについては一の工事等ごとに判定する。

判定の例示として、国税庁ウェブサイトの質疑応答事例に次のようなものがあります。

間仕切り用パネルに係る少額減価償却資産の判定等

【照会要旨】
賃借したビルについて間仕切りをすることとなり、その間仕切り用に用いるパネル(反復して撤去・設置が可能なもの)を複数枚取得しますが、当該パネルの取得価額が一枚当たり10万円未満であるときは、そのパネルは、少額の減価償却資産に該当するものとして一時に損金の額に算入して差し支えありませんか。
【回答要旨】
このような間仕切り用パネルについては、間仕切りとして設置した状態において少額の減価償却資産であるかどうかを判定することが相当と考えられます。
(理由)
本件の場合のような間仕切り用のパネルについては、通常パネル一枚では独立した機能を有するものではなく、数枚が組み合わされて隔壁等を形成するものですから、個々のパネル1枚ごとに少額の減価償却資産であるかどうかを判定することは相当ではありません。

ワンルームマンションのカーテンの取替費用

【照会要旨】
ワンルームマンション200室のカーテンの取替費用800万円は、資本的支出として資産計上を要しますか。
【回答要旨】
1組として使用されるカーテン(本件の場合は1部屋(室)ごと)の取得価額が10万円未満である場合には、消耗品として損金の額に算入しても差し支えありません。
(理由)
カーテン1枚では独立した機能を有しませんので、1組として使用される単位(部屋)ごとに取得価額を判定することが相当と考えられます。

間仕切り用パネルについては、数枚を組み合わせて間仕切りとして設置した状態で判定することとしています。これに対し、「建築用足場として使用されるパイプ、丸太等は、建築現場の規模に応じてその本数が決定することから、一定の単位を設けることは難しいため(何本をもって1単位と判定すべきであるか明確にできない。)、1本ごとに判定して差し支えないものと考えられる。」とする事例があります(東京国税局「減価償却関係質疑応答集」TAINS 償却事例東京局0015)。
また、ワンルームマンションのカーテンについては1組(1部屋)ごとに判定することとしています。

Ⅳ 一括償却資産を償却中に除売却した場合の取扱い

一括償却資産を償却中に除却又は売却した場合、税務上は、あくまでも取得価額の3分の1ずつ損金算入するしかなく、未償却帳簿価額を全額損金算入することはできません(法基通7-1-13)。一括償却資産については、その全部又は一部が消滅しても、その消滅による損失を認識することができないことになります。税務の規定において、償却限度額ではなく損金算入限度額という定め方になっているため、償却中に除却又は売却しても、損金算入限度額はあくまでも取得価額の3分の1相当額ということになります。
しかし、企業会計上は除却又は売却した以上、帳簿価額を残すべきではなく、未償却帳簿価額を全額費用に計上することが考えられます。従って、法人税申告書別表4において、除却(又は売却)した事業年度は加算(留保)、翌事業年度は減算(留保)の申告調整を行うことになります。除却(又は売却)した事業年度において、税効果会計における将来減算一時差異が発生し、翌事業年度に解消することになります。除却(又は売却)した事業年度においては、繰延税金資産の回収可能性を判断し、回収可能性があると認められるときは繰延税金資産を計上し、翌事業年度に取り崩すことになると考えられます。

Ⅴ 資本的支出に係る少額基準

資本的支出に該当する費用であっても、次のような少額又は周期の短い費用については、修繕費として損金経理をすることができるとされています。

  • 法基通7-8-3(少額又は周期の短い費用の損金算入)

一の計画に基づき同一の固定資産について行う修理、改良等(以下「一の修理、改良等」という。)が次のいずれかに該当する場合には、その修理、改良等のために要した費用の額については、7-8-1にかかわらず、修繕費として損金経理をすることができるものとする。

(1) その一の修理、改良等のために要した費用の額(その一の修理、改良等が2以上の事業年度にわたって行われるときは、各事業年度ごとに要した金額。)が20万円に満たない場合

(2) その修理、改良等がおおむね3年以内の期間を周期として行われることが既往の実績その他の事情からみて明らかである場合

(注) 本文の「同一の固定資産」は、一の設備が2以上の資産によって構成されている場合には当該一の設備を構成する個々の資産とし、送配管、送配電線、伝導装置等のように一定規模でなければその機能を発揮できないものについては、その最小規模として合理的に区分した区分ごととする。

同一の固定資産とは、(注)後段のようなものを除き、通常1単位として取引されるその単位であり、木造住宅であれば1棟ごとに、乗用車であれば1台ごとに20万円未満か否かを判定します。
(1)は、一の修理、改良等に要した費用の額が20万円に満たない場合に適用できます。従って、機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替え、たとえば通常の取り替えに要する費用が100万円のところ、115万円の部分品を使用したものとし、超える部分の金額が15万円であった場合には、要した費用の額は115万円であって20万円未満でないため、この取扱いを受けることはできません。
なお、「一の計画に基づき同一の固定資産について行う修理、改良等が」とされているように、一の計画に基づき同一の固定資産について行われる修理、改良等のための費用の合計額によって判定する必要がある点に留意する必要があります。例えば、一の計画に基づき同一のNC旋盤に対して、新たな加工ができるようにするために5本のソフトウェア(1本当たり15万円)を組み込む改良をしたものとします。この場合は、5本の合計額75万円で判定することになるため、修繕費として損金経理することはできません。そのNC旋盤については、その改良によって75万円に相当する価値の増加があったとみることになります。同様に、一の計画に基づき同一の建物の窓を断熱窓に交換する建物の改良(資本的支出)をしたものとします。1枚の断熱窓が仮に18万円であり、12枚の窓を交換したとすれば、216万円(18万円×12枚)で判定することになるので、修繕費として損金経理をすることはできないものと考えられます。

Ⅵ リース資産の取扱い

1. 企業会計上の取扱い

ファイナンス・リース取引のうち、所有権移転外ファイナンス・リース取引については、個々のリース資産に重要性がないと認められる場合は、オペレーティング・リース取引の会計処理に準じ、通常の賃貸借取引に係る方法に準じ会計処理を行うことができるとされています(「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下、リース適用指針)34項)。個々のリース資産に重要性がないと認められる場合とは、次の①から③のいずれかを満たす場合です(リース適用指針35項)。

  • 賃貸借処理が認められる少額リース資産・短期のリース取引

① 重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法が採用されている場合で、リース料総額が当該基準額以下のリース取引

② リース期間が1年以内のリース取引

③ 企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引で、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース取引

①は、先に説明しました少額の減価償却資産を取得したときに費用処理する基準額を指しています。従って、10万円としている企業が多いわけですが、中には20万円としている企業もあります。
また、③の企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引とは、当該リース物件が主要な設備ではない場合が想定されています。また、一つのリース契約に科目の異なる有形固定資産又は無形固定資産が含まれている場合は、異なる科目ごとに、その合計金額により判定することができるとされています。300万円基準は契約ごとに判断するので、1物件当たり300万円以下であっても、1契約のリース料総額が300万円超であれば賃貸借処理は認められない点に留意が必要です。
①は物件1単位ごとに判定するのに対して、③は1契約単位で判定する点で、判定する単位が異なっている点に留意が必要です。

2. 税務上の取扱い

法人税法施行令48条の2に規定するリース資産、すなわち所有権移転外リース取引により取得したものとされる資産については、リース期間にわたって定額法により償却する趣旨から、法人税法施行令133条の少額の減価償却資産、法人税法施行令133条の2の一括償却資産をはじめ、各種の圧縮記帳や、租税特別措置法の特別償却の適用が認められません。ただし、租税特別措置法の税額控除は適用可能です。また、中小企業者等は、30万円特例を適用することができます。この場合、取得価額が10万円以上30万円未満であること、賃貸借処理ではなく全額損金経理をすること等の所定の要件を満たす必要があります。
会計上、少額リース資産や短期リース取引について賃貸借処理した場合の税務上の取扱いが問題となりますが、法人税においても、減価償却につき、売買処理のほか、賃貸借処理によることも認められています。その場合には、賃借料を償却費として取り扱い、償却限度額を超える部分の賃借料につき、償却超過額として申告調整(加算・留保)することとなります。
また、賃貸借処理した場合において、賃借料の額と償却限度額が一致している場合には償却費の計算に関する明細書の記載が不要ですが、異なる場合には記載しなければならないとされている点に留意が必要です(法令63条、法基通7-6の2-16)。

Ⅶ 企業会計上の取扱い

税務上は、少額の減価償却資産および一括償却資産の取扱いは「できる規定」であるため、適用するかどうかは個々に選択できますが、企業会計上は、一定の会計方針を定めて、それを継続適用する必要があります。
税務上の取扱いに合わせて、取得価額10万円未満のものについて費用処理し、取得価額10万円以上20万円未満のものについて一括償却資産として3年間で均等償却する旨の会計方針を定めている企業が多いようですが、取得価額20万円未満のものについて費用処理する旨の会計方針を定めている企業もあるようです。取得価額20万円未満のものについて費用処理する旨の会計方針を定めている企業の場合は、申告調整をしていると考えられます。
それぞれの有価証券報告書における会計方針の注記例(抜粋)を示すと、次のとおりです。

A社
なお、取得価額10万円以上20万円未満の少額減価償却資産については、3年均等償却しております。

B社
なお、取得価額10万円以上20万円未満の少額減価償却資産については、費用処理しております。

(注)文中、法令条文等を、以下の通り略して表記している箇所があります。
   法令:法人税法施行令
   措法:租税特別措置法
   法基通:法人税基本通達

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