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情報センサー2016年12月号 押さえておきたい会計・税務・法律

貸倒損失の計上に関する留意点
-法人税基本通達9-6-1(1)~(3)および2を中心に-

公認会計士 太田達也
当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。

Ⅰ はじめに

民間の調査によると、企業の倒産件数は、平成20年度に16,475件を記録してから7年連続で減少し、平成26年度からは1万件を下回っているとのことです(「企業倒産調査年報」一般財団法人 企業共済協会)。
しかし、企業活動に伴って債権が生ずる限り、不良債権および貸倒れの発生をゼロにすることはできず、これを会計上および税務上適切に処理することが重要です。
そこで本稿では、不良債権および貸倒れに係る会計処理を確認するとともに、税務上の処理の留意点につき、特に法人税基本通達(以下、法基通)9-6-1(1)~(3)および2の論点を中心に解説します。

Ⅱ 会計上の処理

1. 貸倒引当金の計上

金融商品会計基準においては、債権の貸借対照表価額は、取得価額から貸倒見積高に基づいて算定された貸倒引当金を控除した金額によるものとしています。
貸倒見積高の算定に当たっては、債権を、①経営状態に重大な問題が生じていない債務者に対する債権(一般債権)②経営破綻の状態には至っていないが、債務の弁済に重大な問題が生じているか又は生じる可能性が高い債務者に対する債権(貸倒懸念債権)③経営破綻又は実質的に経営破綻に陥っている債務者に対する債権(破産更生債権等)の3区分に区分します。①については、過去の貸倒実績率等の合理的な基準により貸倒見積高を算定し、②については、債権の状況に応じて、イ.債権額から担保の処分見込額および保証による回収見込額を減額し、その残額について債務者の財政状態および経営成績を考慮して貸倒見積高を算定する方法(財務内容評価法)と、ロ.債権の元本および利息について元本の回収および利息の受け取りが見込まれるときから当期末までの期間にわたり、当初の約定利子率で割り引いた金額の総額と債権の帳簿価額との差額を貸倒見積高とする方法(キャッシュ・フロー見積法)のいずれかの方法により貸倒見積高を算定し、③については、債権額から担保の処分見込額および保証による回収見込額を減額し、その残額を貸倒見積高とする方法(財産内容評価法)によることとされています。
なお、③については、原則として、貸倒引当金として処理しますが、債権金額又は取得価額から直接減額することも認められています。

2. 回収可能性がほとんどないと判断された場合

破産更生債権等に分類され、債権の回収可能性がほとんどないと判断された場合には、貸倒損失額を債権から直接減額して、当該貸倒損失額と当該債権に係る前期貸倒引当金残高のいずれか少ない金額まで貸倒引当金を取り崩し、当期貸倒損失額と相殺します。
なお、当該債権に係る前期末の貸倒引当金が当期貸倒損失額に不足する場合、当該不足額を、原則として営業取引に基づく債権については営業費用、営業外取引に基づく債権については営業外費用に計上します。

Ⅲ 税務上の処理

1. 貸倒引当金

税務上、貸倒引当金については、適用対象法人※1に該当しない場合には損金の額に算入されず、繰入時に申告調整(加算・留保)し、戻入時に認容減算します。破産更生債権等についても、更生計画や再生計画の認可決定等により切捨額等が確定するまでは損金算入されず、加算調整を行うこととなります。

2. 貸倒損失

法人税においては、貸倒損失は法人税法第22条第3項により損金の額に算入されますが、貸倒れの事実認定はかなり難しい面があることから、法基通9-6-1~3において、貸倒れの判定に関する一般的な基準が定められています。

法基通9-6-1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)
法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。
  1. (1)更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
  2. (2)特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
  3. (3)法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
    1. 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
    2. 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの
  4. (4)債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

法基通9-6-2(回収不能の金銭債権の貸倒れ)
法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。
(注)保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。

(1) 法基通9-6-1(1)~(3)の取扱い

これらの取扱いは、法的に債権が切り捨てられることとなった場合に、その切り捨てられることとなった部分の金額について損金算入するもので、損金経理を要さず、損金経理をしていない場合には申告調整(減算・留保)することとなります。
(3)に該当する事由として、国税庁ウェブサイトでは、簡易裁判所の特定調停制度で、債権者集会と同様に大部分の債権者が特定調停手続に参加し、かつ、負債整理が合理的な基準により定められているものなどを挙げています。このほか、裁判所の和解なども該当することとなるでしょう。また、合理的な基準とは、すべての債権者について同一の条件で定められることを基本としつつ、第三者同士が、債権の発生原因、債権額の多寡、債権者と債務者の関係などについて総合的に協議し、切捨額等が決定されている場合には、切捨率に差が生じても許容されるものと考えられます。
(1)~(3)の「切り捨てられることとなった部分の金額」については、例えば、債権の70%を切り捨て、10%については数年間をかけて分割弁済し、その分割弁済が完了した時点で残り20%を免除する、という条件で決定があった場合、70%部分については決定があった事業年度に損金算入されます。しかし、20%部分については停止条件が付されており、条件が成就するまでは貸倒損失としての損金算入は認められません。この場合、貸倒引当金の適用対象法人であれば、分割弁済を含めた30%部分について、いわゆる長期棚上げ債権に係る貸倒引当金の計上を検討することとなります(法法52①、法令96①一)。

(2) 法基通9-6-2の取扱い

① 全額回収不能が明らかな場合

この取扱いは、法的に債権が消滅していないが事実上回収不能という場合についての取扱いを定めているもので、担保物があるときはその処分後、通達上は明記されていないものの保証人がある場合には保証人からも回収できないとき、すなわち、全額回収不能が明らかとなった時点で適用が認められます。
ただし、担保物の適正な評価額からみて、その劣後抵当権が名目的なものであり、実質的に全く担保されていないことが明らかである場合には、担保物はないものとして取り扱うことが認められます(国税庁ウェブサイト質疑応答事例「担保物がある場合の貸倒れ」)。なお、担保物があるがその処分に時間がかかるというような場合には、貸倒引当金の適用対象法人であれば個別貸倒引当金の計上を検討することとなります(法基通11-2-8(1))。
「その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった」場合とは、「債務者について破産、強制和議、強制執行、整理、死亡、行方不明、債務超過、天災事故、経済事情の急変等の事実が発生したため回収の見込みがない場合のほか、債務者についてこれらの事実が生じていない場合であっても、その資産状況等のいかんによっては、これに該当するものとして取り扱う等弾力的に行われるべき※2」とされています。
また、過去の裁判例においては、「法人の各事業年度の所得の金額の計算において、金銭債権の貸倒損失を法人税法22条第3項第3号にいう「当該事業年度の損失の額」として当該事業年度の損金の額に算入するためには、当該金銭債権の全額が回収不能であることを要すると解される。そして、その全額が回収不能であることは客観的に明らかでなければならないが、そのことは、債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情のみならず、債権回収に必要な労力、債権額と取立費用との比較衡量、債権回収を強行することによって生ずる他の債権者とのあつれきなどによる経営的損失等といった債権者側の事情、経済的環境等も踏まえ、社会通念に従って総合的に判断されるべきものである(最高裁 平成16年12月24日第二小法廷判決・民集58巻9号2,637頁)。」として、債務者側のみならず債権者側の事情等も考慮すべきとするものがあり、その後の裁判例でも引用されることがあります(東京地裁 平成25年10月3日判決・税務訴訟資料第263号-177(順号12301)など)。

② 破産の場合

破産については、法基通9-6-1には記述されておらず、実質的に判定することとなります。
具体的には、破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるときに破産手続開始の決定と同時に破産手続廃止の決定が行われる場合(同時廃止事件)にはその廃止決定時に、破産管財人を選任して手続きを進める場合(管財事件)には破産手続の終結決定時又は廃止決定時に、それぞれ貸倒れが確定するものと考えられます。また、破産終結決定前であっても、破産管財人から配当がゼロ円であることの証明があるなど、配当がないことが明らかな場合はこの通達により貸倒損失として損金算入することが認められるとする裁決例もあります(平成20年6月26日裁決・TAINSコードJ75-3-21)。

③ 損金算入の時期

貸倒損失は、回収不能が明らかになった事業年度において計上することが求められ、その後の事業年度において損金算入をし、利益操作に利用するような処理は認められません。例えば、金銭の貸付業を行う法人が、個人債務者の死亡および相続人の不存在の確認を受けて貸倒損失を計上したところ、当該債務者は過去に原告に対する返済を停止した状況で自己破産を申し立て、破産手続が終結して完結し、免責決定を受け確定した経緯があり、遅くとも破産手続終結時には全額回収不能が明らかとなっており、原告もこれを認識していたものとして、死亡時の損金算入が認められなかった事例(秋田地裁 平成17年10月28日判決・税務訴訟資料第255号-303(順号10184))など、貸倒れの損金算入時期については多くの裁判例があり、慎重に検討する必要があります。

Ⅳ 会計と税務の計上時期が異なる場合の取扱い

法人が、会計上貸倒損失を計上した事業年度において、税務上の貸倒損失の要件を満たさない場合には、申告調整(加算・留保)しておき、要件を満たした事業年度に認容・減算することが考えられます。なお、貸倒引当金の適用対象法人については、個別貸倒引当金の計上事由に該当すれば、個別貸倒引当金繰入限度額までの損金算入が可能です。申告時に繰入超過額を加算調整するのはもちろんのこと、税務調査で指摘された場合であっても救済が可能です(法基通11-2-1、2)。
逆に、税務上の貸倒損失の要件を満たしたが経理処理を行っていない場合、例えば、更生計画認可決定があったにもかかわらず会社が経理を失念していたといったときは、法基通9-6-1によるものであれば損金経理要件が付されていないため、法定申告期限から原則として5年以内であれば更正の請求を行うことが可能です。
一方、法基通9-6-2では、「その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。」としています。これを損金経理要件とみると、破産手続終結決定時など回収不能が明らかとなった事業年度に損金経理しなかった場合、後から更正の請求ができず、損金算入できないこととなってしまいます。本来、貸倒損失の損金算入の根拠は法人税法第22条第3項であり(前記最高裁判決参照)、損金経理は法令上の要件ではなく、過去の裁判例でも「当該債権の回収ができないことが明らかとなった事業年度中に貸倒れとして損金経理をしておかなければ、その後になって、当該債権についてこれを貸倒損失金であるとする主張がし得なくなるものと解すべき実定法上の根拠はない(東京地裁 平成元年7月24日・税務訴訟資料第173号292頁)。」とするものもあります。
しかし一方で、金銭債務の保証業を営む法人が、債務者から収受した保証料を保証預り金(負債)として計上し、債務保証の履行の際に保証預り金を取り崩す処理を行っていたところ、保証料の受領時に収益計上すべきとして更正処分を受けたため審査請求におよびましたが、保証預り金の取崩し分については貸倒損失として経理処理していないため法基通9-6-2の要件を満たさないものと判断した裁決例(平成16年3月17日裁決・TAINSコードF0-2-235)もあります。経理実務上は機を逃さずに損金経理を行うことが必須と考えるべきでしょう。
そのためには、相手先が整理手続に入った場合には、官報をチェックして管財人に連絡をとる、法人であれば登記簿謄本に破産手続廃止決定等の情報が記載されるため確認※3する、といった方法で、進捗(しんちょく)度合いを定期的、かつ積極的に確認することが重要です。これは、個別貸倒引当金に繰り入れた債権について貸倒処理に切り替えるかどうかの判断をする上でも必要な作業となります。

Ⅴ 債権放棄をした場合の留意点

法基通9-6-1のうち(4)は、書面により債務免除を行った場合にその債務免除額を貸倒損失として認めるものですが、①債務超過状態が相当期間継続し、②その金銭債権の弁済を受けることができないと認められること、という両要件を満たした上で、書面により明らかにする※4ことが必要です。これらの要件を満たさない場合には、寄附金として損金算入限度額を超える部分が損金不算入(加算・流出)とされ、損金算入の機会が永久に失われてしまうこととなります。
なお、債務超過の状態にない場合であっても、業績不振の子会社等の倒産を防止するために、やむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものであるといった、その債権放棄につき相当の理由があると認められるときは、寄附金課税はされません(法基通9-4-1、2)が、要件を満たさなければやはり寄附金とされますから、安易な放棄は禁物です。

(注)文中、法令条文等は、以下の通り略して表記しています。
法法:法人税法
法令:法人税法施行令


  • ※1公益法人等・協同組合等・人格のない社団等、銀行・保険会社等、期末資本金1億円以下の一定の普通法人、リース債権を有する法人など。
  • ※2小原一博 編著『八訂版 法人税基本通達逐条解説』(税務研究会出版局)P876
  • ※3インターネットの登記情報提供サービスで登記情報を確認することもできる。
  • ※4内容証明郵便等による交付が望ましいとされている。