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上場インフラ投資法人が登場-J-REITとの共通点および相違点について

2016年10月31日 PDF
カテゴリー Trend watcher

情報センサー2016年11月号 Trend watcher

EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
インフラストラクチャー・アドバイザリー 斉藤直毅

大手金融機関に勤務後、不動産ファンド運用会社、格付け会社などで、社債引受業務、不動産運用会社のコンプライアンス体制整備、ストラクチャード・ファイナンス商品への格付け付与業務に従事した後、2016年3月にEYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)に参画。現在は、再生可能エネルギー事業や空港民営化案件に係るアドバイザリー業務を担当。不動産証券化協会認定マスター。

Ⅰ はじめに

2016年6月、太陽光発電設備を投資対象とするインフラ投資法人が、初めて東京証券取引所(以下、東証)に上場しました。同様に、太陽光発電設備を投資対象とするインフラ投資法人を、17年3月までに東証に上場させることを目指している企業が複数あるとの報道もあります。そこで本稿では、上場インフラ投資法人登場の背景およびその特徴について、上場投資法人としては先行事例である日本版不動産投資信託(以下、J-REIT)との類似点、あるいは相違点に触れながら説明します。(<図1>参照)

図1 インフラ投資法人の主な仕組みと関係者

Ⅱ 上場インフラ投資法人の登場

1. 法令などの改正による後押し

14年の投資信託及び投資法人に関する法律の改正により、太陽光発電設備を含む再生可能エネルギー発電設備を投資法人の投資対象とすることが可能となりました。その後、東証でもインフラ投資法人上場に関わる審査規則などが15年に整備されました。そして最後に上場インフラ投資法人の登場を後押ししたのは、16年4月に施行された租税特別措置法施行令の改正により、一定の要件を満たしたインフラ投資法人について、税制上の導管性(法人課税を回避し、配当課税等の二重課税を回避する仕組みのこと)を認める期間が、太陽光発電設備を初めて取得してから20年間に延長(改正前は10年間)されたことといわれています。

2. 導管性要件容認期間のFIT期間との一致

導管性要件を満たすことで、投資法人が投資主に支払う配当金額は、税務上の損金に算入されるため、投資法人と投資家の間での二重課税の状態が回避されることとなります。また、20年という期間は、「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」にて規定される、10キロワット以上の太陽光発電設備の固定価格買取期間(以下、FIT期間)と一致します。導管性を認める期間が、FIT期間と一致したことにより、太陽光発電設備を投資対象とするインフラ投資法人がFIT期間の終了前に導管性が認められなくなり、法人税負担が急激に重くなるという事態が回避される可能性が高くなりました。この改正に伴い、インフラ投資法人の上場への機運が一気に高まりました。なお、J-REITは、導管性の要件を満たした場合、同じく配当金額が損金に算入されますが、適用される期間の定めはなく、この点ではインフラ投資法人はJ-REITよりも仕組み上やや劣後していることになります。

3. インフラ投資法人特有の導管性要件

J-REITと共通の導管性要件としては、配当可能利益の90%超を配当する、というものがあります。一方、インフラ投資法人特有の要件として、発電設備の運用方法は賃貸に限定されています。直接投資の形態の場合、投資法人が太陽光発電設備を取得して所有者になります。しかし、同時に発電事業者であるオペレーターに発電設備が賃貸され、投資法人はオペレーターから賃料を受け取ることになります。また、J-REITと異なり、インフラ投資法人については、17年3月31日までに対象資産を取得することが要件とされており、この期日を念頭に置きながら、上場に向けた作業が進められているようです。

Ⅲ J-REITと異なる制度設計

1. 賃料収入の予測可能性について

インフラ投資法人が太陽光発電設備を貸すことで得られる賃料は、オペレーターが電力会社より受領する売電収入に連動するのが一般的です。FIT期間中に得られる売電収入の1キロワット時当たりの単価は、経済産業省からの認定を受けた時点で、20年間固定で決まります。したがって、FIT期間中の売電収入は、日射量の想定と実際の差異以外の要因で、計画から大きく乖離(かいり)する可能性は低い仕組みとなっています。一方、J-REITが受領する賃料収入は、主に面積当たりの賃料単価および賃貸稼働面積に左右されます。しかし、これらの数字は市場環境あるいはプロパティマネジメント会社の運用の巧拙などのさまざまな要因によって、大きく上下する可能性があります。相対的にみて、インフラ投資法人が得る賃料収入は、安定した予測可能性が高い性質のものという見方ができるでしょう。

2. 複数の専門家による価格調査

投資法人が資産を取得する場合、法令上、利害関係人以外の第三者による価格などの調査が定められています。J-REITでは不動産などの取得について、不動産鑑定士による価格調査が行われます。インフラ投資法人による太陽光発電設備の取得に際しては、発電設備の敷地を取得する場合は、不動産鑑定士による土地の鑑定評価が行われます。一方で発電設備の取得については、動産であることから、公認会計士などによる価格調査が行われます。なお、先行事例を見ると、不動産鑑定士が土地のみの評価を行い、公認会計士が設備のみの評価を行うということではなく、評価手法は異なりますが、敷地と発電設備を一体として捉えた場合の価格調査を行っています。

Ⅳ おわりに

J-REITと比べて、いまだ資産規模は小さいインフラ投資法人ではありますが、J-REIT同様、投資証券の上場により一定の流動性の確保が可能となったことで、参加する投資家層の厚みも今後増していくことが期待されます。また、将来的には太陽光発電設備以外のインフラ資産への投資を行うインフラ投資法人上場の可能性もあり、マーケットでの動きに呼応したさらなる制度変更も含めて、その動向に今後も注目していく必要があるでしょう。

※当初の発電設備所有者あるいはスポンサー

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