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情報センサー2016年11月号 EY Advisory

グローバルITプロジェクトにおけるリスクマネジメント

アドバイザリー事業部 リスクトランスフォーメーション 佐藤 肇
大学卒業後、外資IT企業エンジニアを務めた後、大手会計事務所系コンサルティングファームからEYに入所。ITを中心としたアドバイザリー業務に従事。主に製造、機械、電機、医薬、高等教育機関の業界において、財務会計、人事、販売、調達、アフターセールス業務のBPR、およびシステム構想、ベンダー選定から導入までのプロジェクトを複数経験。現在は主にグローバルITプロジェクトのPMに従事。

Ⅰ 企業を取り巻くグローバルIT動向

一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会による「企業IT動向調査2015」の、企業のグローバル化についての調査結果によると、上場企業の6割はすでに海外進出済みであり、売上高1,000億円以上の企業では4社に3社が海外へ進出しています。
ところが、全世界で業務プロセスの「共通化」が実施できている企業は全体の7.4%、まだ予定がない企業が45.5%に上っています。研究開発、購買、生産、販売といったバリューチェーンがグローバル化する中で、売り上げを伸ばし、かつコンプライアンスを維持していくためには、経営や業務の透明性が求められ、ITの共通化は継続的なテーマとなります。
また、ITの技術革新により業務を下支えするクラウド、モバイルなどもIT投資の一要素として定着しつつあり、影響範囲や投資コストが大きい業務アプリケーションシステムを含めたIT投資の選択肢の幅が広がってきています。各企業でITをどのように活用していくべきか、または現在活用しきれているのか、適切に把握した上で共通化したIT投資戦略を図っていくことが望まれます。
一方で、グローバル企業として、顧客ニーズの変化に柔軟に対応し、経営戦略や関係する各国の経済状況、法制度などの事情にも対応しなければなりません。このため、共通化などを目指したITプロジェクトもグローバルな観点から、プロジェクトマネジメントを行う必要があります。

Ⅱ ITプロジェクトの留意すべき視点とその効果

ITプロジェクトを成功裏に完了させるためには、まず有識者をメンバーとして招集し、課題への解決策を検討していくことが必須です。IT部門を中心としてプロジェクトを立ち上げることもありますが、国別の事情や課題の把握、部門をまたがる改善が必要なため、導入するITシステムが対応する業務範囲に関係した部門の有識者を集めてプロジェクトを立ち上げ、期限付きで取り組むことも多く見られます。
次に目的と目標、体制、スケジュール、プロジェクト運営上のルールなどを明確にし、明文化したものを関係者に共有することが重要です。その中で比較的軽視されているものの一つが、リスク管理です。リスクを細かく分類すると「コスト」「時間」「スコープ」「品質」の四つの要素で捉えることができます。コストは、予算を超過するリスクであり、時間は、工数が当初の見積りより超過するリスクです。スコープは、プロジェクトで当初予定していた業務またはシステム範囲から変わるリスク、そして品質は、プログラムを含む成果物が受け入れられないリスクです。このリスクをきちんとコントロールすることで、次の三つの効果が得られます。

  • 実際の問題、課題が顕在化する可能性を極小化することができる
  • 危機的状況に陥った場合にも、決してサプライズが起こるのではなく、結果として対応するための管理工数を最少化できる
  • 前記二つの結果で、計画通りにプロジェクトを完了する可能性を高めることができる

Ⅲ グローバルITプロジェクトにおけるリスクとは

グローバルITプロジェクトでのマネジメント経験から特徴的なリスクを以下に記載します。

1. 意思決定に時間がかかり、プロジェクトスケジュール全体に影響するリスク

グローバルIT投資を行う場合、各拠点の意思決定者全員とのコンセンサスが必要となりますが、地理上の場所が異なるため、時差が障害となります。拠点ごとに個別にコンセンサスを得る場合、ある拠点とコンセンサスを得た後に別の拠点で修正が発生すると、あらためて全拠点にコンセンサスを得る必要が出てくるなど、意思決定に時間がかかることがあります。
例えば、米国、欧州、日本の3拠点で意思決定が必要となる場合には、大体日本と約16時間、約8時間の時差があります。地域によっては会議開催時間が早朝・深夜になるとしても、全意思決定者が参加するテレビ会議などを行い、画面を通じての顔の表情や、声のトーンを関係者全員で共有しながらコンセンサスを得たほうが、結果的に効率的な意思決定につながります。

2. 担当者ごとに作業品質のばらつきがあり、結果として成果物の品質が担保できなくなるリスク

国内の担当者でも、作業や成果物品質に個人差は出てきます。グローバルプロジェクトでは、文化、価値観、経験などが異なる担当者が含まれるため、なおさらです。日本では「あうんの呼吸」で対応しようとすることがありますが、海外では通じません。日本人が考えている以上に細かく、テンプレートの共有、用語統一、記載のレベル感の指定(例文を加えるなど)を行うことがリスクを最小化します。

3. 海外メンバーのスケジュール管理が不十分で、タスクの実行が当初予定から遅延するリスク

プロジェクト開始当初は、詳細計画の立案と、リソースの確保が重要な課題です。その後のプロジェクトのスケジュール管理において見落とされがちなものとして、Vacationがあります。通常の休暇取得はもちろん、海外では日本とは異なる時期にまとまった休暇を取る文化があります。このため、各国の文化的な背景も踏まえてあらかじめバッファ(余裕)を持ったスケジュールを立て、大きな意思決定に関連するイベントは、Vacation期間以外に設定できるように工夫することが必要です。

4. タスクの抜け漏れがあり、次のステップに進めないリスク

海外は契約社会であるとよくいわれるように、個人の役割と責任についてSOW(Statement of work)にて定義されます。これは日本人の感覚からすると良い面と悪い面の両方があります。プロジェクト開始当初に、プロジェクトメンバーがどの成果物を、いつまでに、どのようなイメージで、どの作業方法で取り組むかを曖昧にせず、考えて定義することで責任の曖昧さがなくなります。
一方で、100%完璧な計画を立てることは難しく、SOWに定義しておらず漏れてしまった作業をメンバーが自主的に補完してくれるとは限りません。メンバーの考え方や役割を捉え、人間関係を築くことを第一として、プロジェクト内の進捗(しんちょく)状況や課題の報告様式をあらかじめ決めておくことにより、タスクの抜け漏れを防止することが可能となります。

リスク管理は、国内ITプロジェクトでは対応の優先順位が低くなる場合がありますが、グローバルITプロジェクトにおいては必須のプロジェクト管理要素です。主要関係者で知恵を絞ってあらかじめプロジェクトリスクを識別しておくことが重要であり、それがプロジェクトの成否にも直結すると言えます。


情報センサー 2016年11月号