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情報センサー2016年10月号 Tax update

国際事業再編における現物出資・現物分配の利用

EY税理士法人 公認会計士 南波 洋
1993年から、太田昭和アーンスト アンド ヤング(現EY税理士法人)にて、日本企業・外資系多国籍企業に対する国内および国際税務アドバイザリー業務に従事。国際税務、税制改正、組織再編税制などに係る講演、寄稿、執筆多数。2004年から、日本公認会計士協会 租税調査会国際租税専門部会 専門委員。

Ⅰ はじめに

多国籍企業は、グループ会社間の資本関係の整理・最適化(資金還流に係る税務コストの削減等も含む)や持株会社(統括会社)等を利用した地域・事業別のグループ内再編を行うために、国際的な事業再編を実施します。この場合、基本的には傘下の子会社群をグループ内で移転させて、新しい資本関係ストラクチャーを構築する必要があります。株式(会社)を移転させる最もシンプルな方法は、グループ会社間における株式の「譲渡」による移転です。
しかし、株式に含み益がある場合、単純な譲渡(売買)ではキャピタルゲインが発生し、キャッシュアウトを伴う法人税の負担が発生してしまうケースがあります。株式(会社)移転時にこのような税負担を発生させないようにするために、「現物出資」や「現物分配」を利用して株式を移転することが一般的に行われています※1。これは、現物出資や現物分配に関しては、各国の税制度の中に、一定の条件の下に再編時における移転資産譲渡益(株式譲渡益)の課税を繰り延べる制度があるからです。課税の有無が事業再編の遂行を阻害することがないように、政策的な配慮がなされています。
国際的事業再編の実施において現物出資等を利用するときは、多くの再編が国をまたいで行われます。現物出資(現物分配)において課税を繰り延べる税制度は、国内で完結する再編について適用されるだけではなく、クロス・ボーダーの再編(関係する当事会社が複数国に及ぶ再編)についても、多くの国で認められています。

Ⅱ 現物出資における課税の繰延

グループ内再編において、親子会社関係を新たに構築するケース※2では、現物出資が利用されます(<図1>参照)。税務上、全ての国の現物出資制度が無条件で課税繰延扱いとされているわけではありませんが、日本を含む多くの国で一定の要件を満たす現物出資による資産移転の課税を繰り延べる制度が設けられています。


図1 親会社が子会社2を子会社1に現物出資

日本の法人税法上においても、100%親子会社間の現物出資では、一定の要件の下に現物出資資産(本稿では株式)の含み益の課税を繰り延べる取扱いが規定されており(いわゆる「適格現物出資」)※3、多くの国でも同様の制度が手当されています。

Ⅲ 現物分配における課税の繰延

グループ内再編において、兄弟会社関係を新たに構築するケース※4では、現物分配が利用されます(<図2>参照)。現物出資同様に、全ての国が親会社への現物分配を無条件で課税繰延扱いしているわけではないので、現地の税制度を前もって調査する必要があります。


図2 子会社が親会社に孫会社を現物分配

日本の法人税法上においても、100%親子会社間の現物分配では、一定の要件のもとに現物配当資産(本稿では株式)の含み益の課税を繰り延べる取扱いが規定されています。

Ⅳ おわりに

前述のとおり、国際的な事業再編のために株式(会社)を税負担なしに移転する際には、現物出資及び現物分配は非常に有用な制度です。ただし、通常は、100%親子会社間の現物出資・現物分配に課税繰延が認められている場合が多いので、ご留意下さい。各国によって税制の違いや例外規定等があるので、このような制度を利用した無税の事業再編を行う場合には、必ず日本及び関係国の税務専門家に前もって十分に相談することが大事です※5。株式のキャピタルゲイン課税(所得課税)の有無だけではなく、現地の間接税や資本税等の課税にも留意が必要です。また、外国法人が現物出資や現物分配を行う場合には、日本のタックスヘイブン対策税制の適用にも注意する必要があります※6


  • ※1金銭以外の資産(株式も含む)を、親会社から子会社に出資したり(現物出資)、子会社から親会社に配当する(現物分配)制度
  • ※2<図1>では、再編後、子会社2が「子会社1の子会社」になる。
  • ※3100%の資本関係にない会社間の現物出資についても、一定の要件を満たせば適格現物出資が認められる。
  • ※4<図2>においては、再編後、孫会社が「子会社の兄弟会社(親会社の子会社)」になる。
  • ※5例えば、移転する会社(株式)の所在地国においても、キャピタルゲインの源泉地国課税が生じるケースがある。関連す る租税条約の取扱いにも留意が必要
  • ※6株式移転にかかるキャピタルゲインが(課税繰延ではなく)永久に課税を受けないような再編である場合には、当該キャピタルゲインが「非課税所得」とされて、日本の親会社に合算所得課税が生じる可能性がある。

情報センサー 2016年10月号