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情報センサー2015年12月号 Tax update

新興国における課税事案への対応について 後編

EY税理士法人 移転価格部 西村 淳
IT、ソフトウエア、自動車・自動車部品、エレクトロニクス、金融、化粧品・家庭用品等の産業に属する日系多国籍企業をはじめとし、欧米企業の日本子会社等多くのクライアントに対し、国際税務戦略の立案・実行支援、事前確認の取得サポート、税務調査における対応のサポート等のコンサルティング業務に携わる。無形資産評価等の業務にも従事。「Asia-Pacific Tax Bulletin」「国税速報」「税務弘報」へ寄稿し、日本機械輸出組合、税務研究会、租税研究会でのセミナー講師を務める。ロチェスター大学(経済学博士)。

Ⅰ はじめに

前号に引き続き、EY税理士法人が経済産業省の委託を受けて行った「新興国における税務人材の現状と課税事案への対応に関する調査」(以下、調査報告書)の内容を解説します。前号は新興国における課税事案の概要及び移転価格関連の課税事案について解説しました。今号では、ロイヤルティ関連の課税事案につき解説した上で、先日、経済協力開発機構(OECD)より最終レポートが公表された税源侵食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting:BEPS)に対する行動計画が、新興国における課税事案に今後与えると想定される影響について解説します。

Ⅱ ロイヤルティ関連の課税

新興国における課税理由では、ロイヤルティに関連した課税も多く見受けられました。具体的には、欠損企業の支払うロイヤルティの損金算入否認(<図1>参照)及び陳腐化した技術に対するロイヤルティの損金算入否認(<図2>参照)といったケースが報告されました。

(下の図をクリックすると拡大します)


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<図1>のケースでは、新興国の子会社が親会社に対して支払うロイヤルティについて、子会社が損失を出していることから、現地の税務当局がその子会社が使用している無形資産には価値がないと判断し、ロイヤルティの支払いを否認して課税するというものです。取引セグメントごとの利益率やロイヤルティ支払い前後の利益率の検証などを通じて課税されるケースもあり、このような事例は、中国、インド及びインドネシアで報告されました。
また<図2>のようなケースでは、ロイヤルティ支払いの基となっている無形資産が、10年以上前に子会社に供与されたものであって、長年同じ技術提供を受けているため当該技術は既に陳腐化しているとされました。技術の陳腐化以外にも、無形資産の対価は既に棚卸資産の取引価格に計上されているという理由や、対象となる無形資産とその価値が特定できないという理由によって課税されたという報告もありました。このようなケースは、中国、インド、インドネシア、タイで報告されました。

Ⅲ BEPS行動計画が新興国における課税に与える影響

新興国における課税への対応策ということを考えるに当たっては、今後どういう動きが予測されるかというところも含めて考える必要があります。特にOECDにおけるBEPS行動計画の動きというのは、新興国もその動向を注視しているため、その影響についても調査報告書において分析しました。
BEPS行動計画の中でも、行動計画8として挙げられている無形資産に関連した議論においては、無形資産に係る利益配分は価値創造の度合いに応じて行う、という点が明記されました。これを受けて、「無形資産の法的所有者である親会社は、収益を獲得している市場における価値創造(value creation)に寄与していない」といった新たな課税根拠を、新興国の課税当局が主張する可能性がある点に注意が必要です。行動計画8に関する最終レポートにおいても、無形資産に係る「開発」「改良」「維持」「保護」及び「活用」機能の重要性が論じられています。このような機能を直接的に遂行するか、またはその機能をコントロールし付随するリスクを負担しているか、といった点が利益受領の重要な要件となるとされました。無形資産に関連したこれらの機能を、新興国に存在する子会社が行っている事例も多いと考えられるため、それを基礎として現地にも無形資産が存在すると主張され、超過収益を得るべきだとする課税事例の増加が懸念されます。
このような課税に対しては、無形資産を特定し、それに対する重要な機能を誰がコントロールしているかについての分析が必要です。そして、新興国で行われている活動はルーティンとしてとらえるべきなのか、それとも価値を高めることに重要な貢献をしているのかといった点を整理していくことが、今後ますます重要になると思われます。


  • 当該報告書の調査対象国は、中国、インド、インドネシア、タイ、ブラジル及びベトナムの6カ国

情報センサー 2015年12月号