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情報センサー2015年11月号 Tax update

新興国における課税事案への対応について 前編

EY税理士法人 移転価格部 西村 淳
IT、ソフトウエア、自動車・自動車部品、エレクトロニクス、金融、化粧品・家庭用品等の産業に属する日系多国籍企業をはじめとし、欧米企業の日本子会社等多くのクライアントに対し、国際税務戦略の立案・実行支援、事前確認の取得サポート、税務調査における対応のサポート等のコンサルティング業務に携わる。無形資産評価等の業務にも従事。「Asia-Pacific Tax Bulletin」「国税速報」「税務弘報」へ寄稿し、日本機械輸出組合、税務研究会、租税研究会でのセミナー講師を務める。ロチェスター大学博士号(経済学)。

Ⅰ はじめに

移転価格税制などの国際課税ルールに関しては、経済協力開発機構(OECD)をはじめとした国際機関が基礎となる指針を定めています。もっとも、新興国においては、税法の解釈が不明確であったり、調査官によって執行の基準が不統一であったりする問題が従前から指摘されています。こうした現地で発生する税務問題への対応は、第一義的には各現地子会社の役割だと考えられてきました。しかし、現地子会社の人員や予算等のリソースが限定的であるという点を踏まえると、親会社が現地の状況を理解した上で、現地子会社と一体となって新興国における税務問題に取り組むことが肝要となります。
前記のような問題に対して、EY税理士法人は、経済産業省の委託を受け、グローバル企業が新興国で直面する典型的な課税事例につき調査を行いました。本調査の結果を報告書「新興国における税務人材の現状と課税事案への対応に関する調査」(以下、調査報告書)として取りまとめましたので、この調査報告書の内容について2回にわたり解説します

Ⅱ 新興国における課税事案の概要

われわれの調査にせんだって行われた経済産業省のアンケート結果によると、新興国の中でも中国、インド、インドネシアでは、かなり課税事案が発生していることが見受けられました(<図1>参照)。これらの国は日本から進出している企業が多いという以外に、例えば中国においては、役務提供に係る対価の支払やロイヤルティに対する課税強化がなされていること、インドでは、地域や調査官によって課税手法や課税根拠が異なり、同じ会社に対する調査であっても年によって課税手法が異なるということ、インドネシアにおいては追徴課税目標額が設定されていること、などを理由として課税が増えていると考えられます。

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また前記の課税事案における課税理由については、移転価格、出向者・出張者等に関連するPE、そしてロイヤルティ関連の課税が多いという結果となりました(<表1>参照)。


表1 課税事案の措置の内容(過去6年以内)

前記の経済産業省によるアンケート結果を踏まえ、今回は移転価格関連の課税について、その具体的な内容を説明します。

Ⅲ 移転価格関連の課税

前記課税理由の内で最も多かったのが、移転価格に関連した課税です。具体的には、機能限定的な企業の連年損失の否認(<図2>参照)及び調査対象会社の利益率が低い場合に利益率の高い比較対象企業を選定(<図3>参照)といったケースが報告されました。


図2 連年損失を理由とした課税

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<図2>のケースでは、現地の子会社が連年損失を出しているのに対して、現地の税務当局が、機能限定的な企業は損失が計上されるべきではないということで課税を行いました。このような事例は、中国、インド及びベトナムにおいて報告されています。
また、<図3>のようなケースでは、現地子会社は親会社と現地の顧客との仲介取引を行い、数%のコミッション手数料をもらっていました。しかし、現地の課税当局は、当該取引の分析に当たって主に仕入・販売取引を行っている企業を比較対象として選定し、独立企業間の利益率は、現地子会社よりも高い水準であるべきとして課税しました。このようなケースは、中国、インド、インドネシア、ベトナムで報告されています。
前記のような機能及びリスクを無視した課税を行うに当たって、現地の課税当局は、シークレットコンパラブルを適用する場合があります。シークレットコンパラブルが適用されると、当局がどのような選定過程で比較対象企業を選んだのかということが納税者にとっては不明となるため、納税者が反証できないという問題点があります。
次号では、ロイヤルティ関連の課税事例について解説した上で、その対応策を説明します。


  • 当該報告書の調査対象国は、中国、インド、インドネシア、タイ、ブラジル及びベトナムの6カ国

情報センサー 2015年11月号