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情報センサー2015年10月号 JBS

OECD BEPSの行動計画に先行した英国の迂回(うかい)利益税

EYロンドン事務所 米国公認会計士 平井恵理子
国際税務部門 移転価格・効果的事業モデルチームにてEMEA全域において多岐に渡る移転価格アドバイザリー業務に従事。また、EMEAおよびグローバルに展開する事業再編、特に効果的事業モデルの構築、欧州統括会社の設立、資本形態の単純化(支店化等)、合併後の事業統合などに関するコンサルティング業務に従事する。

Ⅰ 英国の迂回利益税の背景

現在、経済協力開発機構(OECD)が検討している税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクトは、多国籍企業による非課税国や低課税国への所得移転を目的としたタックスプランニングに関する政府の懸念に照準を定めています。そのような状況の中、英国は2015年4月1日から迂回利益税(Diverted Profits Tax:DPT)という新しい税法を導入しました。この税法は、まさにBEPSの行動計画を先取りした税法になっており、行動計画7の恒久的施設(PE)および行動計画8-10の移転価格の設定に密接に関わっています。英国の法人税率は現在20%ですが、このDPTは迂回された利益に対して25%の税率で課税されます。
DPTの目的は、グループ会社の全てのサプライチェーンにおいて経済的実体が欠如する取引を検証し、移転価格の設定の見直しを強制すること、および取引を実体に合わせて再認識し、正しく課税することです。従って、タックスプランニングを通じて妥当な移転価格方針を適用せずに、利益を英国から非課税国や低税率国に移転しているようなビジネスモデルがDPTの対象となります。

Ⅱ 日本企業に適用される可能性

DPTの対象となるケースは、①経済的実体に欠ける事業体または取引がある場合②英国内で課税対象となる存在を回避している場合、と2種類あります。このDPTは今までの税法の全ての抜け穴を埋めるべく緻密に起草されたため、非常に複雑な税法となっています。本稿では、日本企業に適用される可能性がある例を数例取り上げます(<図1・図2・図3>参照)。

(下の図をクリックすると拡大します)


<図1>および<図2>の例を検証する際には、更なる条件を検討する必要があります。その一つの重要な条件は、当該取引から実効税額のミスマッチ(effective tax mismatch)が発生することです。この判断は非常に複雑で個別の案件ごとに検証が必要になりますが、当該取引により取引相手国で増加した税額が、英国で減少した税額の80%より少なくなる場合に、ミスマッチが発生する可能性があります。
なお、このミスマッチを検証する際には、相手国の税率のみでなく他の税務メリットの詳細も考慮する必要があります。従って、取引相手が日本のような高税率国に存在し、税務メリットを享受している場合、その税務メリットの種類と額によっては実効税額のミスマッチが発生する可能性があります。なおかつ、税の軽減確保を意図した取引であると合理的に推定される場合には、DPTが課せられる可能性があります。

Ⅲ 対応策

DPT適用についての対応策は次の通りです。

  • まずDPTの対象になるか否かを検討し、さらにDPTの通知義務が課せられるかどうかを検証する。
  • このDPTを検証するためには、グループ全体のサプライチェーンを分析した上で、当該取引に関し妥当な移転価格の方針が適用されているかを検討する必要がある(一者のみを検証対象企業とする今までのアプローチはもはや有効ではない)。
  • 当該取引がDPTの対象となるかどうか不確実な場合には、英国税務当局とDPTの可能性について協議または合意をすることを英国税務当局は奨励している。
  • 事前確認制度(APA)を申請し、移転価格とDPTにつき英国税務当局と合意することも可能である。
  • DPT検証期間中に十分な移転価格調整を行うことにより、課税率を25%から20%に抑えることが可能となる。
  • 明らかに実体が伴わないビジネスモデルを遂行している企業は、事業モデルを見直す必要がある。

Ⅳ 今後の課題

DPTは英国の税法であり、なおかつ実効税額のミスマッチという条件があるため、所得移転を目的としたタックスプランニングを適用していなければ、対象となる日本企業はそれほど多くはないと思われます。しかし、OECDが検討しているBEPSのPEや移転価格に関する行動計画の今後の動向によっては、本稿で取り上げられている例の問題点と同様の課題が英国以外の国にある日本企業にも課せられる可能性があります。


  • このDPTの通知義務に関してはDPT自体の検証とは別の条件があり、その検証が必要となる。

情報センサー 2015年10月号