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情報センサー2015年8月・9月合併号 JBS

米国連邦法人税法の最新動向

EYニューヨーク事務所
米カリフォルニア州弁護士 米国公認会計士 秦 正彦
一般企業(輸出・輸入関連業務)に6年間勤務し、その後25年以上にわたり日本企業に国際税務コンサルティングを提供。法人税、クロスボーダー取引、組織再編、パススルー、米国個人所得税、タックス・プロビジョン、その他幅広い分野に係る税務コンサルティングを提供。関連論文投稿、ブログ執筆、セミナー講演など多数。

Ⅰ 米国連邦法人税の現状

米国の連邦法人税(以下、法人税)の抱える代表的な問題点として、高税率、複雑性、全世界課税がここ何年も指摘されています。いずれも米国企業の競争力、投資先としての国の魅力に影響を与えるため、その改正が模索されていますが、二大政党の確執もあり、現実には抜本的改正の方向性、実現可否はいまだ不透明な状況にあると言えます。

1. 高税率・複雑性

米国の法人税率は州税も合わせると40%前後となり、世界でも最高の税率です。また資源、製造業など特定の業種に対する政策的な減税規定が多く、税金の算定自体も通常の法人税に加え、代替ミニマム税を別途計算する必要があるなど、税法そのものが複雑で、コンプライアンスのコストが高くなる状況にあります。また税法条文そのものに加え、多くの通達、判例、他の法源が多く、課税関係の検討も複雑です。

2. 全世界課税

日本を含む多くの先進国が、一定条件を満たす海外子会社からの配当を非課税とするテリトリアル課税に移行している一方で、米国はいまだに海外子会社からの配当は全額課税という全世界課税システムを維持しています。外国税額控除は取れますが、世界でも米国の税率が最高となるため、低税率国に多額の留保金を持つ多国籍企業は米国に資金を還流できないという問題を抱えています。米国多国籍企業が海外に留保している金額は2兆米ドルともいわれ、海外子会社の所得をどのように課税するかは将来的な税法改正の際の大きな争点となっています。

Ⅱ 抜本的税法改正

1. 改正を取り巻く環境

前述のような問題を軽減しようという動きは長くありますが、税法改正は容易ではありません。米国税法の直近の抜本的改正は1986年のものです。当時の米国は世界唯一の超経済大国の地位にあり、国債残高もGDP比50%程度と比較的健全なレベルと考えられ、より弾力的な対応が可能な状況でした。そのような好条件下でも、改正は80年代前半から調整が行われ、最終的に86年に成立という時間を経ています。
一方、現在の米国は相対的な経済力の低下、膨らむ財政難という厳しい環境下にあり、法人税率を下げるとしても、税収自体を減らすという選択肢はなく、何らかの形で課税所得基盤を拡大させる必要があります。

2. 法人税率

このように選択肢が限られる中、法人税率の低減目標は民主党案では28%程度(製造業は25%)、小さな連邦政府を党是としている共和党案では一律25%程度となっています。

3. 海外子会社の所得

海外子会社の所得の扱いですが、こちらも両党でアプローチが異なります。民主党は、海外子会社の所得は配当の有無にかかわらず、毎期米国株主側で19%課税(そのうち85%までは外国税額控除で相殺が可能)するという「Anti-Deferral」を提唱しています。また、現状の全世界課税システムからの移行時には累積されている過去の海外子会社留保金を14%で課税するとしています。
一方、共和党はCamp議員案(デーブ・キャンプ氏のキャンプ案)にみられるように、海外子会社からの配当は95%非課税と提唱しています。これは日本のテリトリアル課税に類似しています。共和党案もシステム移行時に累積されている過去の留保金に対して3.5%~8.75%程度の課税を想定しています。

4. 無形資産の海外譲渡

米国多国籍企業の多くは、移転価格税制をうまく利用する形で合法的に無形資産を低税率国に帰属させ、多くの利益を低税率国にて認識する形態を構築しています。これに関して議会には、現状の移転価格税制では対応が十分ではないという認識があるため、低税率国の子会社が認識する無形資産からの所得に対して、何らかの形で米国の課税権を強化したいと考えています。この点は、海外所得を配当時に課税することができないテリトリアル課税の導入を取り入れている共和党案ではより重要となり、低税率国で認識される無形資産から発生する所得を一定条件下で「Subpart F(日本のタックスヘイブン税制に相当)」の所得項目とし、米国株主側で課税するという案が提唱されています。

5. 今後の流れ

このようにさまざまな検討が行われていますが、実際にいつどのような形で抜本的な改正が実現するかは、いまだ不透明な状況です。16年11月に大統領選が控えていることを考えると、その時点までに仮に改正が実現しても内容は限定的になるのではないかと予想されています。また選挙後も二党間の確執、多くの利害関係の調整、財政状況の改善などの課題が残ります。

Ⅲ 米国企業側の対応

1. 代表的な対応手段

全世界課税、高税率という米国税法のデメリットに対する米国多国籍企業の対応はさまざまですが、代表的なものとしては、無形資産を海外帰属させるなどの手法を駆使した米国課税所得の圧縮(Base Erosion)、低税率国への所得移転(Profit Shifting)、また究極親会社の米国から海外への脱出(Inversion)などがあります。全て合法的な取引として検討されてきたものです。

2. Inversion

数多い対応の中でもInversionは米国多国籍企業が米国から脱出して、外国法人グループになってしまうという大胆なアプローチです。Inversionをうまく実現させると、米国外の所得を米国の全世界課税システムの対象から外す、米国事業から発生する所得に対するBase Erosion手法の選択肢が増える、という大きなメリットがあります。
Inversionに対しては、90年代から徐々に法的な網が掛けられ、一定条件下で株主レベルのキャピタルゲイン課税、Inversion後の外国法人の内国法人同様扱いなどの税法が規定されていますが、さまざまな手法でInversionが引き続き試みられています。

3. これからの税務プランニング

米国多国籍企業は高度なプランニングに基づき、米国法人税のデメリットを克服してきました。しかし、最近ではプランニングが過度ではないかという認識が広がっています。以前はあまり一般には知られることがなかった国際税務プランニングが、ネガティブなニュースとして報道されることも多くなり、企業側も世評リスクを加味した形のプランニングを模索しています。また、経済協力開発機構(OECD)が進めている「税源浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting:BEPS)」対抗策は、まさしくこれらのプランニングに網を掛ける目的で検討されているものです。ただ、米国内でのBEPS施行は日本に比べると現時点では消極的な感は否めず、長い歴史を持つ米国内国法の移転価格、恒久的施設、CFC(タックスヘイブン子会社)などのルールとBEPSアクションプランの考え方の差異を今後どのように調整していくか、興味深い状況にあると言えます。


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