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情報センサー2015年7月号 EY Institute

超高齢・人口減少社会の成長の鍵となるシビックエコノミー

未来社会・産業研究部 エコノミスト 小杉晃子
内閣府、シンクタンクのエコノミスト、アナリストを経て、2013年にEY総合研究所(株)入社。内閣府では、経済対策策定のための企画立案、政策調整、調査研究業務に従事。アナリスト時代は、企業経営者にとって重要な経営課題等にフォーカスした調査・分析業務にも携わった。日本経済とグローバル化に関する分析や公共政策、第三次産業、住宅市場の動向等を専門とする。

Ⅰ はじめに

日本社会は、高齢化・人口減少の進展、単身世帯の増加、地域のつながりの希薄化など、さまざまな課題を抱えています。こうした課題を国や地方行政の力だけで解決することには限界があり、これからは民間部門の活力がますます重要になってくると考えられます。
本稿では、住民の積極的な参加・共創により持続可能な地域社会を実現させている欧州での先進事例を取り上げ、超高齢・人口減少社会に突入した日本の成長戦略の在り方について考察します。

Ⅱ 日本の未来への課題と展望

1. 日本社会の直面する変化(現状から見えてくること)

日本の少子化、人口減少および高齢化は世界にも例を見ない速度で進行しています。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(中位推計)によると、日本の総人口は2008年の1億2,808万人(65歳以上人口比率22.1%)をピークに、30年に1億1,662万人(同31.6%)、そして50年には9,708万人(同38.8%)と1億人を割り込み、高齢化率も上昇していくと推計されています。
加えて、このまま人口減少が進行していくと、40 年には全国の自治体の半数の存続が難しく※1、50年に全国居住地域の6割以上で人口が半分以下に減少し、そのうち2割は無人になる※2など、地域社会の消滅を示唆する予測も相次いでいます。
人口の変化は、出生と死亡による自然増減と、転入と転出による社会増減から構成されます。今後も高齢化の進展による自然減少は避けられないものの、政府や自治体としては、出生率向上や転入増などの政策により人口増減をならし、地域経済、さらには地域住民活性化へとつなげていきたいところです。

2. 日本の未来像(各種調査結果から)

(1) 日本の未来に対する意識

「人口、経済社会等の日本の将来像に関する世論調査」(14年、内閣府)によると、50年後の日本の未来は現在と比べて「(どちらかといえば)暗いと思う」と回答した割合が60.0%でした。これに対し、「(どちらかといえば)明るいと思う」と回答した割合は33.2%にとどまっており、日本の先行きに対して暗いイメージを持っていることが分かります。
「若者の意識に関する調査」(13年、厚生労働省)でも同様に、日本の未来は明るいと思うかと尋ねたところ、「(どちらかといえば)そう思わない」と回答した人(45.1%)が「(どちらかといえば)そう思う」と回答した人(19.2%)の倍以上を占める結果となっています。
「日本の未来が暗い」と考える理由としては、財政悪化や社会保障制度に対する不安を挙げた人が最も多く(72.9%)、次に経済不安(60.9%)、雇用不安(49.2%)のほか、地方衰退(28.2%)なども挙がっています(<図1>参照)。

(下の図をクリックすると拡大します)


(2) 日本の未来のために行動する意欲

このように、日本の未来に関しては悲観的な見方が強くなっていますが、一方で、社会への貢献意欲に関する経年変化をみてみると、日本の未来に何かしら貢献したいと考える人は1980年代後半から増加しており、近年、高水準で推移しています(<図2>参照)。

(下の図をクリックすると拡大します)


「若者の意識に関する調査」においても、「社会のために役立つことをしたいと思うか」との質問に対し、「そう思う」が20.8%、「どちらかといえばそう思う」が59.2%と、約8割の若者が社会貢献に対して前向きな傾向がうかがえます。

Ⅲ シビックエコノミー

1. シビックエコノミーとは

超高齢・人口減少に向かう地域社会においても、社会貢献意欲の高まりを地域経済・住民の活性化につなげることができれば、明るい未来を築くことは十分可能と思われます。その証左として、近年、欧州などで広がりをみせている「シビックエコノミー」という市民参加型経済が挙げられます。シビックエコノミーとは、住民が市民活動を通じて互いに持つ資源・能力をシェアし、助け合うことで、地域の小さな経済が自立し、持続可能となる経済社会システムであり、日本における地域活性化・再生に向け大きな示唆を与えてくれます。次に、欧州におけるシビックエコノミーの先進的な事例を紹介します。

2. シビックエコノミーによる課題解決事例

(1) 英:地域人材の有効活用による地域雇用の創出

多様な住民が暮らすロンドンの中心部で、不況で倒産した安売り食料品チェーンに代わり、「THE PEOPLE'S SUPERMARKET」が10年に誕生しました。このスーパーは顧客が会員となり、共同で出資・運営しています。
会員は年会費(25ポンド)を収め、人件費を削減できる月4時間のボランティアを行うことで、商品が割引になります。さらに、会員には運営方法に関する投票権が与えられており、どんな食品をどこから仕入れるのかも全て会員が決定できる仕組みになっています。会員の多くは住民が占めていますが、会員以外の住民も利用可能で、店は地元の人々の交流の場ともなっています。備え付けのキッチンでは料理教室が開かれたり、食品廃棄物を減らすためのランチのテイクアウト※3なども提供されたりします。
雇用機会やコミュニティーの創出により、地域社会の発展に寄与することを目的として住民の力で立ち上がったこのスーパーは、現在では会員数も着実に増え、運営は軌道に乗りつつあります。
過疎化や人口流出が進展している日本では、雇用創出への取り組みを強化する上で、地域人材・財源や雇用対策のノウハウ不足などが課題となっています。本事例は過疎化が進んだ地域の打開策として、非常に参考になると考えられます。

(2) 独:買い物・交通弱者を作らない街づくり

日本と同様に人口減少・少子高齢化が進むドイツでは、大都市以外にも発展している地方都市が数多く存在します。
環境都市として有名なドイツ南部のフライブルク市において、97年からおよそ10年の歳月をかけて新興住宅地「ヴォーバン」が完成しました。ヴォーバンはフランス軍駐屯地の跡地で、フランスから返還された後の94年にフライブルク市がドイツ連邦政府より買い取り、コンペ形式でアイデアを広く公募した上で住宅地として開発された地区です。
ここでは、住民側から「社会福祉的で環境に優しい住宅をたくさん造る」といった「ソーシャル・エコロジー」コンセプトが提案されています。実際、住宅地は信託組合住宅やコーポラティブハウス※4が多く建築されています。
ヴォーバン住宅地の最大の特徴は、静かな暮らしと安全、子どもの遊び場や住民のコミュニティーの場の確保を目的とした交通構想です。ここでは、宅地エリアはカーポートフリー(各戸における駐車場設置の禁止)とし、宅地エリア端に共同駐車場やカーシェアリング用駐車場を設置することになっています。こうした仕組みは無駄な車の利用を回避し、徒歩・自転車・公共交通の促進にもつながっています。駐車場を設置しないことで生まれたスペース(宅地エリア内の道)は、徐行が義務付けられた「遊びの道路」となっており、住民の社会的な交流の場として利用されています。
加えて、ヴォーバンでは中心部の住宅の地上階には生活必需品の商店建築を必須にしています。これにより、住民の日常的な買い物は、車を必要としない住宅地内で済むようになっています。
社会情勢の大きな変化に伴い、現在、日本の多くの地域で買い物、交通などといった日常生活に不可欠な生活インフラが弱体化しています。今後、買い物・交通弱者を作らないためにも、本事例のような住民や店舗を集約した都市、いわゆるコンパクトシティー政策の普及が期待されます(<図3>参照)。


図3 目指すべき「コンパクトシティー」の姿

(3) 伊:地域医療における支え合いづくり

60年代、高度経済成長期の日本では、産業構造の変化や核家族化に伴う家庭の介助機能低下などを背景に、精神科病院が次々と設立され、患者の隔離と長期の収容が進んでいました。一方、世界では大規模な精神科病院と、そこへの長期入院の弊害などが認知されるようになり、地域精神科医療への転換が起こり始めていました。
イタリアでは、60年代に改革運動が始まり、精神科医師らは精神科病院の廃止や社会復帰のための共同体創設などの目標を掲げ、取り組みました。その結果、78年に世界初の精神科病院廃絶法であるバザーリア法が成立、精神科病院の新設および新規入院が禁止されました。その後、次々に精神科病院は解体され、現在は全廃されています。
98年にミラノで立ち上がったオリンダ社会協同組合は、それまでの入院患者らが安全かつ適切な住居に収まることを見届け、彼らに社会とつながる機会を提供した好例です。病院の跡地にレストランやユースホステルなどをオープンし、職業訓練を受けた元患者と健常者が協同して、現在も仕事に従事しています。
こうした精神科医療改革によって、イタリアでは患者だけでなく、近隣住民もその恩恵を受けました。それまで精神疾患患者の治療の場とされていた病院施設が、患者や郊外を含む人々のための新たな公共空間に生まれ変わったのです。
長寿化や核家族化の進行に伴い、認知症高齢者の増加や孤独死などの問題が顕在化している日本において、今後、人々が住み慣れた街で安心して暮らしていくためには、このような共に支え合う体制づくりを進めていくことが不可欠です。

Ⅳ 今こそシビックエコノミー実現に向けた土壌作りを

本稿で紹介した欧州における市民参加型街づくりの事例からも分かる通り、シビックエコノミーを築くのは、自らの使命(「目的」の代わりに)、情熱、リーダーシップに導かれ、その人的つながりと信頼を重要な資産として活用する主導者達です。彼らは、オープン・ガバメント※5によって改革を実現しています。新しいアイデア・技術、革新的な資金対策、幅広い人的つながりを画期的な方法で利用し、それまであまり価値が認識されていなかった物理的・社会的資源に利用価値を見いだしています。そして、最も重要なことは、彼らが創出したベンチャーが多面的な形態を持ち、社会、経済、環境にわたって多様なイノベーションを生みだしていることです。
本稿での事例をみても、イノベーションを阻んでいるのは、現実の制約でも公共部門の問題でもなく、「全く歯が立たない」という意識の問題と思われます。シビックエコノミーに必要なのは、既存の組織の内外のさまざまな人々のリーダーシップとイニシアチブを歓迎し、促進するという意識変革なのです。
最近は日本でも、顕在化しつつある低所得・低資産高齢者の住宅確保の問題を改善するために、地域善隣事業※6が提案されるなど、シビックエコノミーともいうべき仕組みが顕(あらわ)れ始めています。
人口減少などの制約下で持続的発展と地域活性化を実現するためには、行政依存を超えた新たな経済の開花とイノベーションの加速(オープン・シビック・イノベーション)が必要不可欠です。今こそ、その実現に向けて市民参加の肥沃(ひよく)な土壌を作るときではないでしょうか。


  • ※1日本創成会議・人口減少問題検討分科会提言
  • ※2国土交通省「国土のグランドデザイン2050」
  • ※3商品の残り・賞味期限の近い商品を使った調理・販売
  • ※4共通した趣味やライフスタイルを持つ人たちが共同で土地を購入、建築家に発注し、完成後の維持管理費まで相談して納得のいく住まいを造り、生活していくスタイル
  • ※5①透明性の確保②市民の行政参加③組織の枠を超えた官民連携の3原則を掲げた取り組み
  • ※6既存の社会的資源および事業体を地域横断的に組織化し、空き家などの既存ストックを活用した住まいの確保と生活支援を行う事業スキーム