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情報センサー2015年6月号 Tax update

BEPS 行動13 移転価格文書化の再検討

EY税理士法人 移転価格部 パートナー 高浜 学
2000年3月EY税理士法人に入所後、自動車、電機、電子部品、商社、エンターテインメント業界などの二国間APA案件のほか、移転価格調査対応、主にアジア各国の文書化案件に多数関与。近年では日系企業の移転価格ポリシー構築案件を主に担当。10年11月よりEY中国に出向し、移転価格調査対応、文書作成案件に多数関与し、15年1月EY税理士法人に帰任。

Ⅰ はじめに

経済協力開発機構(OECD)で議論が進められてきた「税源浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting:BEPS)」プロジェクトで、移転価格文書化の再検討(以下、行動13)についての「移転価格文書化及び国別報告書に関するガイダンス」が2014年9月に、また「移転価格文書と国別報告書の実施ガイダンス」が15年2月にOECDより公表されました。今後、これらを受け各国での移転価格文書化の法令化が進められることになりますが、OECDが公表した行動13の概要を本稿でまとめます。

Ⅱ BEPSとは

近年、欧米系の多国籍企業が、各国税制の隙間を突いて実際の経済活動が行われている国と異なる低税率国または優遇税制措置国にその経済活動で得た利益を移すことで、実際の経済活動国で課税できない状況や、いずれの国からも課税されない状況(二重非課税)を生み出しているのでは、との懸念が先進国の議会で取り上げられ、報道されました。このため、G20諸国はOECDにこの問題への対処を要請し、OECDはOECD/G20共同でBEPSプロジェクトを始動しました。

Ⅲ 行動計画とは

BEPSプロジェクトはOECDの租税委員会を中心に議論され、その議論にはOECD非加盟のG20メンバー8カ国(アルゼンチン、ブラジル、中国、インド、インドネシア、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ)が参画しています。この議論の結果、13年7月にBEPSに対処すべき主要15項目を定めたBEPS行動計画が<表1>の通り、公表されました。

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Ⅳ 行動13とは

行動13とは、このBEPS行動計画の主要15項目の一つであり、税務執行の透明性を高めるために従来の移転価格文書化のOECDガイドラインを再検討し、新たに国別報告書、マスターファイル、ローカルファイルの3層構造の移転価格文書の作成を求めたものです。

Ⅴ 国別報告書

1. 目的と概要

国別報告書は、多国籍企業の究極の親会社※1(以下、親会社)に対して、その親会社の所在国の税務当局に国ごとのグループ所得(利益)及び税額等の配分状況や各国で活動する事業体※2(以下、子会社等)の名称や果たしている機能に関する情報を、親会社の事業年度終了日から1年以内に報告(提出)させるものです。子会社等の所在国の税務当局が、親会社の所在国の税務当局と国別報告書を共有する方法は、租税条約の自動情報交換規定によるとしています。ただし、この自動情報交換規定による共有ができない場合、現地子会社による提出や親会社の次の段階の会社の居住地国との情報交換等の方法を認めるべきとしています。
14年9月に公表された指針には国別報告書の様式が2種類添付されており、<表2>のような第一の様式には、各国ごとの収入等の記載項目があり、各国の各子会社等の財務情報の合算値を記載するとしています。

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また、<表3>のような第二の様式には、各国ごとの子会社の名称と、その子会社ごとの主な事業内容にチェックマークを入れるとしています。

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国別報告書は16年1月1日以降に開始される事業年度から適用され、適用事業年度の前年度の連結グループ年間売上高が7億5千万ユーロ(約1,000億円)を下回る多国籍企業については、提出を免除するとしています。

2. 企業の課題

国別報告書を作成するための使用データは監査済み財務諸表の数値に限らず、一貫性があるデータであれば、内部管理用の情報、連結用パッケージ、各子会社の財務諸表の情報でもよいとしています。
ただし、連結パッケージ等から情報を入手する場合、例えば支払法人税や、サブ連結の内訳を把握できないなど、データ入手の可能性への懸念が出てきます。また、国別報告書によって国別の子会社の財務状況が親会社もこれまで把握してこなかった観点(例:従業員一人当たりの税前利益)で、各税務当局に「透明化」されることになります。
従って、国別報告書で求められる財務情報の入手可能性の確認に加え、主要な複数の財務情報を16年の適用初年度開始前に入手し、この情報を用いて複数の財務指標を試算し、それらの指標で国別に大きな差異があるか、あるとすれば説明可能かどうかを事前に把握する必要があります。

Ⅵ マスターファイル

1. 目的と概要

税務当局はBEPSに対処する上で、従来の移転価格文書化では必要な多国籍企業の事業の「全体像」が把握できないとしています。税務当局が重要な移転価格リスクの有無を評価するために、グループ全体のグローバル事業の内容、グループ内の移転価格設定ポリシー、所得及び経済活動のグローバルな配分等についての概要を記載したマスターファイルの作成が、行動13で求められました。
マスターファイルで求められる情報は、<図1>の通りです。

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マスターファイルは親会社の税務申告書提出期限までに見直され、必要に応じて更新し、親会社及び子会社が所在する各国の税務当局から要求があった場合に提出することが推奨されています。また、マスターファイルは、事業ラインごとの作成が妥当な場合※3は各事業ラインで作成し、それらをまとめる形でもよいとされています。

2. 企業の課題

多国籍企業の親会社がこのマスターファイルを作成する上では、今後どのように記載するかを決定するための内部議論が必要な内容があります。例えば、多国籍企業の事業における利益の重要な源泉について記載が求められていますが、企業の利益が製品開発、マーケティング、資金力等々、企業のさまざまな要素が複合的に結合して生み出されている場合、企業としてどのように利益の源泉を定義付け、記載するかを決定することは時間がかかる作業になります。

Ⅶ ローカルファイル

1. 目的と概要

マスターファイルを補完し、特定の国外関連者間取引に係る詳細情報を記載するローカルファイルの作成が、行動13で求められました。
ローカルファイルの記載内容としては、現地企業が関与した重要な関連者間取引に係る取引概要、取引金額、選定した移転価格算定方法、納税者及び関連者間取引に関連する関連企業の詳細な比較可能性と機能分析、選定した比較対象会社の選定過程、関連者間取引が独立企業間原則にのっとって行われたとする結論に関する説明、使用した財務データ等となっています。
ローカルファイルは子会社の対象事業年度の税務申告書提出期限までに作成し、親会社及び子会社が所在する各国の税務当局から要求があった場合には提出することが推奨されています。
税務当局は納税者の作成負担を軽減させるために、比較対象会社の選定を3年ごととし、財務データのみを毎年更新することを認めるかもしれないとしています。また、作成免除規定等を設けるべきとしていますが、これらは今後の各国の法令化に委ねられています。

2. 企業の課題

ローカルファイルは、各国における従来の移転価格文書化規定での記載内容と、おおむね同じ内容になっています。従来の各国の移転価格文書を各子会社で作成していた日系企業では、ローカルファイルの作成も各子会社が担うこととする企業も少なくないかと思われます。ただし、その場合でも、各子会社が作成したローカルファイルとマスターファイル、国別報告書との整合性※4についての確認等を親会社で行う必要性が出てくると思われます。更に、各子会社での文書作成の進捗(しんちょく)管理や文書作成後の保管等、親会社での文書の一元管理が必要となると思われます。

以上の「Ⅴ 国別報告書」から「Ⅶ ローカルファイル」について、OECDのガイドラインで推奨された移転価格文書の概要は、<表4>の通りです。

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Ⅷ 今後の対応

行動13で示された3層構造の移転価格文書の内容及び様式は、OECDから各国へ推奨されたものであり、その導入時期をはじめ実務で必要となる詳細かつ具体的内容は、今後各国での法令化を待つことになります。このため、各企業は今後の日本及び各国の法令化の状況を注視しておく必要があります。
また、3層構造の移転価格文書で「透明化」されるグローバル事業の内容を、制度導入後も把握・管理できない状況のままにしている企業は、思わぬ移転価格課税リスクを内在化する恐れがあります。従って、無用な課税リスクを避けるためにも、国別報告書で求められるデータ収集が可能かどうかの確認に加え、国外関連者間取引の移転価格設定の現状及び利益の配分状況の把握、価格設定ポリシーの作成又は既存の価格設定ポリシーがある場合は、必要に応じたポリシーの更新等を現時点から開始しておくことが望まれます。


  • ※1多国籍企業構造の最上位の会社
  • ※2財務報告目的の連結グループに含まれる法人、信託、パートナーシップ等
  • ※3例えば、最近買収した事業ラインがある場合、事業ライン間の関連性がない場合
  • ※4例えば、マスターファイルとローカルファイルの機能分析が同じかどうか等

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