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情報センサー2015年新年号 新年寄稿

本社主導型税務マネジメントの確立に向けて

EY税理士法人 統括代表社員 税理士 網野健司
2010年7月から、EY税理士法人 統括代表社員。02年から05年まで、EYニューヨーク事務所の税務パートナーとして、多国籍企業への国際税務アドバイザリー業務を行う。日系多国籍企業向けのM&Aトランザクションや国際税務プランニング、税務リスク管理に係る国際税務アドバイザリー業務に従事。

Ⅰ はじめに

平成24年12月に自民党の第2次安倍政権が誕生してから、2年余りがたちました。安倍首相は、この間、長らく続いたデフレ経済を克服して日本の国際競争力をよみがえらせるために、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「民間投資を喚起する成長戦略」を三本の矢と称した一連の経済対策である、いわゆる「アベノミクス」を強力なリーダーシップの下に推進してきました。一方で、危機的な国家財政の赤字に対処して社会保障制度の持続的な安定を図るために、平成26年4月に十数年ぶりの消費税率引き上げ(5%から8%へ)を実施しました(なお、消費税率の10%への引き上げ時期は、平成29年4月1日に延期されています)。
6月には、政府が新しい成長戦略と「骨太の方針」を閣議決定しました。この中で、政府は法人税改革の必要性を示し、日本の法人実効税率を現在の約35%から20%台まで引き下げる方針を明らかにしました。一方で、税率引き下げで失われる税源の確保のために、法人課税ベースの拡大も検討していくことになりました。
また平成26年は、グローバル企業の行き過ぎた節税行為について新聞・マスコミなどで取り上げられ、多くの人々の耳目を引きつけた一年でもありました。
これについては、現在、経済協力開発機構(OECD)において「税源浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting:BEPS)」というプロジェクトが推進されています。平成25年に正式にスタートしたこのプロジェクトは、グローバル企業の過度の節税行為が目に余るものとして問題視されたことに端を発し、国際課税ルールの新たな枠組みを、OECD加盟国および非加盟新興国の連携の下に策定しようというものです。

Ⅱ 税務マネジメントの必要性

企業は、持続的にグループの企業価値を高めて、市場の高い評価を受けなければ、内外のライバル企業に伍(ご)して競争を勝ち抜いていくことができません。そのためには、毎年の企業の連結純利益を極大化する必要があり、とりわけ事業上の大きなコストである「税金」について真剣に考え、削減することが不可欠です。必然的に、企業には適切な「税務マネジメント」を常に行うことが求められるのです。それでは今後、日本企業が向かうべき望ましい税務マネジメントの姿とは、どのようなものなのでしょうか。
企業の税務マネジメントには、大きく分けて二つの側面があります。「税務リスクの管理」と「税金コストの管理」です。

Ⅲ 税務リスクの管理

日本企業の国際化が加速する中、税務ガバナンスを取り巻く環境が大きく変化するとともに、企業のさまざまな局面における税務リスクが高まっています。平成26年、EYが全世界の企業内税務・財務エグゼクティブ800人以上(日本は62人)に対して行った「2014年税務リスクと税務係争に関する調査」においても、次の四つの主要なリスク要因に対する懸念が示されています。

  • 風評リスク
  • BEPSと法制上のリスク
  • 執行上のリスク
  • 管理上のリスク

日本および各国・地域の税制改正およびBEPSの動向を注視し、重要な改正等が事業計画に与える影響を事前に把握し、適時・適切に対処する必要があります。また、自社が選択している税務ポジションのリスクを認識し、継続的に管理する体制が確立されていないと、想定外に多額な更正処分等を受ける可能性があります。また、そのような場合に報道リスクへの対応を誤ると、企業の信頼に大きなダメージが生じます。

Ⅳ 税金コストの管理

リスク管理も重要ですが、グローバルビジネスの競争に打ち勝つためには、「コスト」としての税金の管理という側面も、また重要です。欧米のグローバル企業では、税をコストとして捉えたタックスプランニングの考え方が一般的です。
最近のBEPSに関する報道によって、世界のグローバル企業が積極的な税務プランニングを実行していることが広く知られるようになりました。税金は、企業利益から控除される巨額のコストであり、重要なキャッシュアウト項目です。この巨額のコストを適切に管理し、全体最適の観点から削減(極小化)するために、企業内に適切なリソースを配置する必要があります。

Ⅴ 本社主導型税務マネジメントの確立

グローバル企業が成功を収めるためには、税務におけるリスク管理と税金コスト管理を車の両輪と捉え、両者のバランスを考慮した戦略的な取り組みを行うことが必要となります。二つの側面に十分目を配り、税務をめぐる環境変化とリスク要因に適切に対処するためには、経営戦略と合致した税務戦略の策定が必要であり、経理財務部門にとどまらない税務への「全社的な対応」が求められます。また、各国・地域や各社での個別対応ではなく、全社方針に従った「統一的な対応」が有効です。全社的・統一的な対応、リソース・情報・ノウハウの共有という観点からも、「本社主導型の税務マネジメント」を確立することが重要です。本社税務部門をまず充実させ、税務に関するトップマネジメントの関与を強化します。その上で、税務部門のグローバルネットワークを構築する必要があります。

Ⅵ おわりに

私どもEY税理士法人は、多くの専門家を擁して、国内外の税務に係るさまざまなサービスを皆さまに提供し、税務マネジメント体制の整備・構築のお手伝いをいたします。
新しい年、平成27年が皆さまにとって、より良い年になりますように祈念して、私の新年のごあいさつとさせていただきます。

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