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情報センサー2014年8月・9月合併号 EY Institute

シェアリングエコノミー
-サステナブル社会に向けた新たな価値創造-

EY総合研究所(株) 産業調査部
上席主任研究員 ルレ美華子
欧州での大学研究職、日系大手自動車メーカー勤務等を経て、2013年にEY総合研究所(株)入社。大手自動車メーカーでは、クリーンカー技術の先端研究、車両・部品開発、電気自動車などeモビリティ開発戦略に携わり、欧州における都市モビリティプロジェクトを企画、推進した。環境エネルギー、スマートシティー、先端材料技術、CSR、BOPビジネスを専門とする。

Ⅰ はじめに

これまでの過剰生産・過剰消費の弊害により、人々の消費スタイルは、徐々に単独所有から共同利用へと変化しています。欧米では、インターネットやソーシャルメディアを活用した「シェアリングエコノミー」と呼ばれる非所有型の経済活動が急速に拡大し、今後約11兆円規模(MIT Sloan Experts 2011年12月)の巨大市場になると予想されています。日本でも東日本大震災以降、無駄のない、融通し合う生活が見直されていますが、欧米に比べ、まだ浸透が遅れています。
しかし今後、シェアリングエコノミーが日常化し、シェア文化が市民社会に定着し始めると、人々の価値観やライフスタイル、そしてビジネス形態は大きく変化していくと考えられます。

Ⅱ シェアリングエコノミーが変えるビジネスと社会

1. シェアリングエコノミーの概要

フェイスブックなどのソーシャルメディアを利用した個人間シェアによるネットビジネスが、欧米を中心に続々と誕生しています。このような「Peer-to-Peer(P2P)」経済活動をシェアリングエコノミーと呼ぶことが一般的です。しかし、現在まだ明確な定義付けがないため、カーシェアリングのような「Business-to-Consumer(B2C)」や、個人オークションのような「Consumer-to-Consumer(C2C)」を含める場合もあります。
日本では、まだP2Pシェアリング市場はほとんど開拓されていませんが、最近、B2Cカーシェアリングやシェアハウスが注目されています。本稿では、国内市場が拡大するB2Cシェアリングも、シェアリングエコノミーの一つの形態として解説します。

  • (1)B2Cシェアリングエコノミー

最近の日本の大都市では、カーシェアリングやシェアハウス、ソーシャルアパートメントは珍しくなくなってきました。交通エコロジー・モビリティ財団によれば、カーシェアリングの車両台数と会員数は、11年以降、急激に増加し始め、現在その会員数は約45万人に達しています(<図1>参照)。


図1 わが国のカーシェアリング車両台数と会員数の推移

シェアハウスについても、13年の日本シェアハウス・ゲストハウス連盟の調査では、全国に約2,700件以上が立地し、シェアハウス運営事業者数は約600社に上っています。
B2Cシェアリングエコノミーでは、運営事業者が所有している車や不動産を利用者にレンタルします。そのため、車調達や駐車場整備など、大きな初期投資が必要です。
カーシェアリングではスマートフォンのGPS機能や専用アプリなどを利用し、一番近い待機車の位置情報の検索や予約ができるようになりました。また、これまで日本では規制で禁じられていた乗り捨て(One-way)も14年9月から可能になるため、利用者にとっては便利な移動手段の一つになるでしょう。このため、タクシー業界はカーシェアリング普及に大きな危機感を持っています。
英ロンドン、仏パリ、米ニューヨークなど世界の大都市では、自転車シェアリングも広がっています。カーシェアリング同様、専用のアプリを使えば、近くのステーションですぐに乗れる自転車を探せます。年会費が安いのが魅力で、通勤や通学に利用する人が多く、駐輪場や盗難の心配がないことも魅力です。パリでは既に約2万台、ロンドンでは約1万台の自転車が市民の足として利用されていますが、日本では、まだ数百台規模の実証実験にとどまっています。東京都は20年の東京五輪に向けて自転車レーンの整備などを進める計画ですが、スポンサー企業を募り、自転車シェアリングの台数を十分に確保することも必要と思われます。

  • (2)P2Pシェアリングエコノミー

米サンフランシスコで始まり、今、欧米で急速に拡大しているのが、P2Pシェアリングです。従来型のB2Cとは違い、インターネットを通じて個人が保有する遊休資産の貸し出しを仲介するサービスです。取引される資産は、車、自転車、ボート、工具、おもちゃ、キッチン用品、スキルなどと幅広く、貸し手が決めたレンタル料の定率が、手数料としてサービス仲介企業に支払われます(<表1>参照)。初期投資が小さくて済むのもP2Pシェアリングの特徴です。

(下の図をクリックすると拡大します)

2. P2Pシェアリングエコノミーのサービス事例

<表1>に見るように、さまざまな個人資産が消費者間で共有されるP2Pシェアリングサービスを紹介します。

  • 草分け的な存在のAirbnbは、自宅の空き部屋を貸したい人と、部屋を借りたい旅行者を仲介する宿泊仲介サービスで、日本を含む世界192カ国でサービスを展開し、すでに通算ゲスト数1,500万人以上の実績を挙げています。
  • Lyftが提供するライドシェアリングでは、一般ドライバーが同じ目的地に向かう相乗り者を募り、ガソリン代を節約し、道中の話し相手も見つけます。相乗り者にとっても、他の交通機関を利用するより安く遠隔の目的地に移動できるので、若者の間で人気です。
  • Getaroundが提供するP2Pカーシェアリングでは、車を使っていない時にレンタカーとして貸し出せます。

これ以外にも、旅行中の飼い主に代わり犬の世話をするドッグシッターや、料理の得意な人といろいろな料理を食したい人とのマッチングなど、さまざまな有形無形のサービスが生まれています。
このような個人間での部屋や車の貸し借りには、リスクも伴います。サービス仲介企業は、手数料の中に保険料を入れていますが、現行の国・地域の規制や保険法に合わず、トラブルも発生しています。そのため、今後P2Pシェアリングに沿う形で、規制や法律を修正していく必要があります。

3. 仲間とつくるP2Pコミュニティー

P2Pシェアリングエコノミーの最大の特徴は、参加者で形成される信頼の上に成り立つP2Pコミュニティーであり、その特徴は次のとおりです。

  • 強い信頼関係
  • 相互利益(Give and Take)
  • コミュニティーへの帰属意識と仲間への貢献

サービス提供者(宿泊ホストや車のドライバーなど)や、サービス利用者(宿泊ゲストや車の相乗り者など)の評判は、プロフィルやレビューを通して、P2Pコミュニティーに公開されます。サービス利用後に、満足度などをレビューして仲間とシェアすることで、コミュニティーへの帰属意識と貢献度を高めていきます。
一般サイトを介さずに、ネット上のソーシャルネットワークで身分証明書や運転履歴などの個人情報を共有できる点も、特徴の一つです。
従来の賃貸契約では、収入やクレジット履歴などが評価されるのが一般的ですが、シェアリングエコノミーでは利用者のマナーや仲間の評判、貢献度など「個人の信用」が財産となり、評価を受けます。つまり、いくらお金があっても、個人の信用が不足していると、シェア仲間との経済活動への参加が難しくなります。

4. シェアリングエコノミーが提供する価値

物を無駄にせず、人と共有することで生まれるシェアリングエコノミーは、気楽に利用できるところが長所ですが、さらに、経済的メリット、環境負荷低減、新しい人や文化との出会いなど、さまざまな価値も提供します。

  • (1)経済的メリット

米国で急速にP2Pシェアリングエコノミーが拡大した理由は、金融危機以降、人々が節約し、持ち物を利用して副収入を得ることが必要だったためといわれています。P2Pシェアリングを利用することで、通常よりも安くサービスを利用でき、さらに珍しいものやオリジナルなサービスを受けられる、うれしさがあります。
前述のように、P2Pシェアリングでは大きな初期投資を必要とせずに起業できるので、新規事業参入がしやすく、新たな雇用創出が期待できます。

  • (2)環境負荷低減

シェアすることで物の数を減らせるため、製品ライフサイクル(製造-使用-廃棄またはリサイクル)で消費される資源、エネルギー、CO2排出を低減できると考えられます。また、それによるライフスタイルの変化も、環境負荷低減に貢献します。
「カーシェアリングによる環境負荷低減効果の検証報告書」(交通エコロジー・モビリティ財団2013年)によると、カーシェアリング加入後、約3割の会員が保有車を手放し、必要な時だけ車を借り、公共交通機関を利用するモビリティパターンに変化しています。事実、入会後の年間自動車総走行距離も入会前と比較し、約3割減少しています。これは、それまで車で目的地に移動していたのに対し、鉄道で最寄り駅まで移動し、そこからカーシェアリングを利用するようになったためと考えられます。
このようにカーシェアリングによって、車の使用が減り、さらに燃費の良い小型車利用が増えた効果などにより、1世帯当たりの年間CO2排出量は約45%削減されています(<図2>参照)。
都市全体で見た場合、車の台数の減少で交通渋滞が軽減され、駐車場を探す時間も短縮されるため、CO2排出量も軽減できます。


図2 加入前後における車利用による世帯当たり年間CO2排出量

  • (3)新しい人や文化との出会い

シェアリングエコノミーでは、物や部屋の貸し借りを通じて、さまざまなジャンルの人たちや、新しい文化との出会いを生む魅力があります。また、地域コミュニティーでシェアリングサービスを提供している場合には、豊かな近所付き合いや、地域コミュニティー活性化が促進されるでしょう。
今、若い人に人気があるシェアハウスやソーシャルアパートメントは、さまざまな工夫により、高齢化社会に向けた一つのソリューションになることが期待されています。

Ⅲ シェアリングシティー:都市イノベーション

1. シェアリングシティー・ソウル

高い人口密度と、年々深刻化する都市問題に頭を悩ます韓国ソウル市は、自治体主導による「シェアリングシティー・ソウル」プロジェクトを発足しました。シェアリングエコノミーによる利点や効果を活用して、都市問題解決と地域活性化を推進しています。12年12月に「ソウル特別市共有促進条例」を制定、公布し、行政・財政・広報面でシェアリング事業者や団体を支援することを約束しました。政策の基本方針は次のとおりです。

  • 民間企業中心でシェアリングエコノミーを発掘、実施
  • 市はシェアリングシティーの基盤づくりと民間の活動促進を支援

シェアリングエコノミーの市民生活への普及による、人口増加に伴う過度なインフラ整備(道路、学校、図書館、駐車場など)の削減と、市民が満足する行政サービスの提供を目指しています。例えば、市が保有する土地やスペースなどの公的資産を市民と共有することで、建設費を削減し、市民と行政、市民間の信頼関係を回復することでコミュニティー再生を図ります。

2. 具体的な取り組みと今後

現在、ソウル市は、ビジネスインキュベーション、規制整備、市の遊休資源の活用、認知度向上、コミュニティー活性化などに取り組んでいます(<表2>参照)。
今後、ソウル市は、策定したシェアリング政策や、実施している取り組みを国内外に幅広く紹介し、シェア文化の普及を推進する計画です。日本にとっても、シェアリングシティー先行事例として学ぶことが多いと思います。

(下の図をクリックすると拡大します)

Ⅳ 新興国での潜在市場

先進国で発達するシェアリングエコノミーは、BOP(Base of the pyramid)とMOP(Middle of the pyramid)を合わせて約54億人(World Resources Institute「THE NEXT 4 BILLION」2007年)という人口規模からみて、新興国・途上国に巨大な潜在市場が存在すると考えられます。新興国には、シェアリングエコノミーに欠かせないインターネットや携帯電話が既に普及していることも有利です。経済力がまだ発展途上なため、高価な物を手ごろな値段で借りられれば、消費者にとって大きな魅力になるでしょう。また、車や物の数が減るため、交通渋滞やゴミ問題などの社会課題解決にもつながると思われます。
ところが、まず経済力をつける必要があるBOP層では、物のシェアリングより先に、お金のシェアリング、「P2P金融」が普及する可能性が高いでしょう。
P2P金融は、ネット上で資金の借り手と貸し手をマッチングさせるサービスで、ここ数年で欧米、中国を中心に急速に拡大しています。マッチング会社を通じて、借り手の返済能力の審査が行われますが、クレジット履歴がない状態でもお金を借りられるので、起業家や小規模・零細企業に人気があります。返済能力が高く、貸し倒れリスクが低いと評価された「信用力」のある借り手ほど、銀行からの借入よりずっと低い金利でお金を借りられます(Deutsche Bank Research 2006)。また、貸し手側は、資産運用の一手段としてP2P金融を利用しますが、その際、借り手の使い道が把握できることも付加価値の一つと感じています。
このように信用力がカギとなるP2P金融は、個人間での貸し借りのため、貸し手側のリスクも高まります。事実、中国では経済成長の減速で、破綻や連絡不通が多発し、全国で約6,400億円のP2Pの残高が生じるなど、深刻な社会問題につながっています(エコノミスト 2014年5月)。
今後、世界中でP2P金融の拡大が予想されますが、現在、ほとんどの国で、規制やルールが存在していません。信用供与に伴うリスクの発現を最小限に抑えるためにも、中国で発生した問題を分析し、適切な規制をかけることが必要と思われます。

Ⅴ おわりに

世界は「サステナブル社会」構築に向けて動いています。スマートシティーは、その最も重要な取り組みの一つで、都市課題をスマートな都市インフラにより解決する試みが進められています。ところが、このようなハード面中心のアプローチだけでは、市民社会への真の定着は難しいでしょう。
市民の意識、ライフスタイルを、よりサステナブルに変えていくシェアリングエコノミーこそ、スマートシティーをソフト面から補完する、新たな価値創造になると期待しています。


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