管理会計情報の提供先は、経営管理者であると考えられています。もともと、管理会計は、経営管理者の意思決定に資するための情報を提供するものであると考えられていました。もちろん、ここでいう経営管理者には、様々な階層に存在しています。CEO、社長や会長はトップ・マネジメントと呼ばれる経営管理者ですし、取締役や執行役員などはそれに次ぐ階層の経営管理者です。さらに事業部長やカンパニー・プレジデント、部長、課長と続き、組織階層の中に数多くの経営管理者が存在しているわけです。
さて、管理会計情報は、経営行動を集約した情報である場合が多く、とりわけ、財務情報は経営の目標あるいは結果を集約していくつかの数値にまとめたものとなります。たとえば、会社全体の売上高や利益、事業部などのセグメントの利益などがこれに当たります。もちろん、管理会計情報の中には、数量・物量情報や定性的な情報も含まれていますが、今回のトピックで「管理会計情報」という場合は、「財務情報」に限定することをご理解ください。
トップ・マネジメントの方々は、経営のスタート時点では、最終的に会社や事業部がどのくらいの売上高を獲得し、その結果、どれほどの利益をあげることができるのかという点に焦点を当てることは間違いありません。そして、昨年度の実績、同業他社の状況、市場の状態、現在開発中の技術や製品などを勘案して、当年度の財務的な目標を設定していきます。その後、目標を達成するための戦略や戦術を策定していくことになります。
目標管理や方針管理の下では、こうした財務的な目標が組織の下方に向けて展開されていきます。バランスト・スコアカードにおいても、それは同様であることは何回か指摘した通りです。ただし、いずれのツールを使用していても、目標に対して具体的な方策やアクション・プランが考えられることが必須であることは言うまでもありません。目標とアクション・プランはセットで意味が出てきます。一定期間が終わり、生じた結果を確認したときに、目標に達していなければ、アクションの取り方が正しかったかどうか、あるいはアクションを追加すべきか否かなどを検討することによって、目標としての財務数値をリカバリーすることが奨励されます。
問題となるのは、ここで財務数値とアクションとを結び付けて考えるのは、組織のどの階層までか、ということです。財務数値をアクションに変換するのは、マネジャーの役割であるという考えが一般的であろうと思います。工場を例にとって考えてみましょう。工場においては、原価情報が流れています。標準原価計算を活用している工場であれば、標準原価はもとより、実際に発生した実際原価も情報として提供されています。両者を比較して原価差異を算定するのは、原価計算課などの工場管理部門ですが、実際原価や原価差異情報をアクションに変換していくのは、工場長やライン長などの仕事です。サービス業でも同様で、予算実績差異情報を得て、たとえば売上高を増大させるためのアクションを考案するのは、サービスを生産・販売する部門のマネジャーです。こうしたマネジャーは、目標数値と実績値の差異を確認し、そこに負のギャップが存在する場合には、どうすれば将来、そのギャップが埋まっていくのかを考え、それを具体的なアクション・プランとして提案し、財務的な情報を時間や数量などの非財務的情報(アクション・プランそのものであったり、お客さまからの評価といった何らかの目標であったりします)に変換して部下に実行させていくわけです。したがって、そのマネジャーの下で働く人々は、マネジャーから降りてくるアクション・プランを有効に実行していくことが仕事になるわけです。
この考え方は、財務情報を利用するのはマネジャーであり、最前線ではないというものになります。先述の通り、一般的には、企業ではこうした考え方が採用されていると考えられます。
他方、管理会計には、最前線の従業員にも財務情報をオープンして、アクション・プランを具体的に考えさせていこうとする方向も存在しています。たとえば、京セラのアメーバ・システムは、アメーバという非常に小さい組織体(小さいものだと5名程度)において、時間当たり採算という財務的な管理会計情報を活用し、アメーバに所属する人々全員が時間当たり採算を改善するためのアクション・プランを考えていきます(アメーバ・システムおよび時間当たり採算については、本コラム2009年5月12日付で説明しています)。ここでは、マネジャーだけではなく、最前線の従業員が皆、財務情報を活用できる状態になっています。
しかし、実際にはこうした状態を生み出すのは、きわめて長い時間と努力が必要です。最前線の従業員にとって、財務情報は有用とはいえません。というのも、各自が実施している行動が財務的な結果とどのように結びつくのかが明確ではない場合の方が多いからです。それゆえ、先述のようにマネジャーが財務的な結果を導くための行動(アクション・プラン)を導く役割を担っているケースが多いわけです。他方で、最前線の従業員が財務的な結果と自らの行動をダイレクトに結びつけて考えることができれば、それは組織としてはきわめて強力になることは言うまでもありません。アメーバ・システムはその代表的な例なのです。ただ、現場に財務情報を提供し、それによってロワー・マネジャーや最前線の従業員にアクションを考えさせようとする組織にとって、そうした状況を作り出すことためには、従業員に対する教育が必要になります。つまり、財務情報を理解し、数値を改善するための手段としての方策を考える力をつけ、さらに、手段を行った結果を測定して認識していくという能力が求められるのです。私が長崎大学助教の庵谷先生と共同で調査しているある企業では、こうした能力を最前線の組織が身に着けるまでに5年以上の年月がかかったとしています。
組織全体が財務情報を理解して自ら自律的に動けるようにするのか、マネジャーが財務情報を理解した上でアクションに落とし込み、それを伝えて確実に実行していくのか、いずれが良いのかという正解は今のところありません。しかし、「組織の力を上げていく」ことを考えていくと、前者の取り組みをする価値はあると思います。