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金融庁

平成28事務年度金融行政方針の公表について

2016.10.28
小石原 英勝 (こいしはら ひでかつ)
小石原 英勝 (こいしはら ひでかつ)
新日本有限責任監査法人
金融アドバイザリー部 エグゼクティブディレクター
2011年7月検査局検査監理官を最後に金融庁を退職。在職中は、幅広く金融検査・監督行政に携わり、入所後は、セミナー活動やトップマネジメント・インタビューなどに従事。

金融庁は、10月21日、「平成28事務年度金融行政方針」を公表した。金融庁では、昨平成27事務年度から、金融行政の目指すもの(注1)を明確化したうえで、検査・監督の枠組みにとどまらず、証券取引等監視委員会等の施策を含め、金融庁全体の「金融行政方針」として策定・公表している。当該方針については、進捗状況や実績等を評価したうえで、その評価を更に翌事務年度の「金融行政方針」に反映させるため取りまとめられ、本年9月15日、「平成27事務年度 金融レポート」として公表されている。

(注1) 企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大

本事務年度の「金融行政方針」の特徴としては、金融行政の目指すものを実現するためには、①金融当局・金融行政運営の変革、②国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れへの転換、③「共通価値の創造」を目指した金融機関のビジネスモデルの転換、という3つの変革が必要である旨「金融行政運営の基本方針」として明示されたことであろう。

以下は、今般公表された「金融行政方針」の概要及び主なポイントである。

1. 金融当局・金融行政運営の変革

金融当局・金融行政運営の変革として、①検査・監督のあり方を環境変化に適合する形に見直し、②金融機関による開示の促進等により、良質な金融商品・サービス提供に向けた金融機関の競争を実現、③金融庁の組織自身を、環境変化に遅れることなく不断に自己改革する組織に変革の3点が掲げられている。

(1) 検査・監督のあり方の見直し

金融庁では、これまでも「個別資産査定は、金融機関の判断を極力尊重」、「担保・保証に過度に依存しない、事業をみた融資への転換促進」、「将来の課題を見据えた(フォワードルッキングな)問題提起と対話による自主改善」などの検査・監督の見直しに取り組んできたが、新しい検査・監督への転換は未だ道半ばであり、また、金融業界においても、新しい検査・監督の考え方、取組みは必ずしも十分に浸透していないとしている。

このため、本年8月に設置された「金融モニタリング有識者会議」において、「検査・監督の見直しの3つの柱(①形式から実質へ、②過去から将来へ、③部分から全体へ)」が示されており、同会議において新しい検査・監督の基本的な考え方や手法等について議論・整理の上、とりまとめ、浸透を図っていくとともに、国際的にも発信していくとしている。

(2) 良質な金融商品・サービスの提供に向けての競争実現(市場メカニズムの発揮)

顧客が金融機関を主体的に選択できるようにするため、金融機関の行動や取組みの「見える化」を進めていくとしており、具体的には、金融商品・サービスに係る各種手数料等の開示の促進、「金融仲介機能のベンチマーク」等を用いた金融機関による顧客本位の取組みの自主的な開示の促進、当局が検査・監督等で得た知見の積極的な公表・問題提起、優良金融機関の表彰制度の創設等を推進し、こうした「見える化」を通じて、より良い取組みを行う金融機関が顧客に選択されていくメカニズムの実現を目指すとしている。

(3) 金融庁自体を環境変化に遅れることなく不断に自己改革する組織に変革(ガバナンスの改善)

金融行政運営の変革の取組みを進めるに当たっては、金融庁自体を環境変化に応じて不断に自己改革する組織に変革する必要があるとの観点から、① 外部の意見が継続的かつ的確に金融行政に反映される意思決定、② 行政の考え方を公表すること等による関係者との対話、③ 「真の国益を絶えず追求する」組織とするための改革、の3つの取組みを実施するほか、組織全体で国益を念頭に活発な議論が行われる組織文化の構築に取り組んでいくとしている。

2. 活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現、市場の公正性・透明性の確保

資金の流れを変え、国民の安定的な資産形成を促進するため、活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現、市場の公正性・透明性の確保の観点から、以下のような具体的重点施策を講じるとしている。

(1) 活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現

① 家計に対する取組み

  • 非課税投資期間をより長期とする「積立NISA」の実現をはじめ、NISA の改善・普及に向けた取組みの推進
  • 投資初心者を主な対象とした実践的な投資教育の促進と商品比較情報等を判り易く提供するウェブサイトの構築等情報提供
  • 金融審議会において、家計の安定的な資産形成に資するよう、ETF を巡る課題とその改善策について検討

② 金融機関等に対する取組み

  • 金融機関等(金融商品の販売、助言、商品開発、資産管理、運用等インベストメント・チェーンに含まれる全ての金融機関)による「顧客本位の業務運営」(フィデューシャリー・デューティー)の確立と定着

③ 機関投資家に対する取組み

「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」において、「運用機関とその系列親会社等との関係から生じ得る利益相反の管理や運用機関のガバナンスの強化」、「運用機関等の議決権行使結果の開示の充実」等について検討を進めるとしている。

④ 資本市場に対する取組み

金融審議会において、資本市場の更なる活性化や効率化を図る等の観点から、「私設取引システム(PTS)における信用取引の解禁等、PTS 制度の意義やあり方等について検討するとしている。

(2) 市場の公正性・透明性の確保に向けた取組みの強化

市場の公正性・透明性の確保に向けて、以下の取組みを進めていくとしている。

① 金融取引のグローバル化、複雑化、高度化に対応した市場監視機能の強化

  • 市場環境のマクロ的な視点での分析等、フォワードルッキングな対応
  • 自主規制機関や海外当局との連携を強化した機動的な市場監視
  • 課徴金制度を積極的に活用し、証券不正に対する調査・検査を迅速かつ効率的に行う
  • 未然予防・再発防止の観点からの法令違反等の全体像及び根本原因の追究
  • IT 技術を活用した監視システムの強化

② 会計監査の質の向上

  • 監査法人のガバナンス・コードについて、「監査法人のガバナンス・コードに関する有識者検討会」において検討、策定
  • 監査法人のローテーション制度について、深度ある調査・分析を実施
  • 監査法人の業務運営や会計監査に関する透明性を向上させるため、監査報告書の透明化(長文化)も含めて検討
  • 公認会計士・監査審査会においては、改善状況を検証するためのフォローアップ検査を実施
  • 会計監査や公認会計士資格に関する広報活動を、日本公認会計士協会と連携して推進

③ 開示及び会計基準の質の向上

  • 3つの制度(決算短信、事業報告・計算書類、有価証券報告書)に基づく開示内容を整理・共通化・合理化するための取組みを更に進めるとともに、フェア・ディスクロージャー・ルール(注2)の導入に向けた検討を進める。
  • 国際会計基準(IFRS)の任意適用企業の拡大促進等、会計基準の品質向上に向けた取組みを進める
(注2)企業が公表前の内部情報を特定の第三者に提供する場合に、当該情報が他の投資者にも同時に提供されることを確保するルール

④ 市場のインフラ・システムの頑健性の確保

  • 取引所、清算・振替機関のシステム等の安定的な運営を確保するための態勢が構築されているかについて検証

3. 金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保等

金融機関が顧客本位の良質なサービスを提供し、企業の生産性向上や国民の資産形成を助け、結果として、金融機関自身も安定した顧客基盤と収益を確保するという取組み(顧客との「共通価値の創造」の構築)は、持続可能なビジネスモデルの一つの有力な選択肢であるとともに、地域経済の活性化にもつながると考えられ、金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保等の観点から、以下のような具体的重点施策を講じるとしている。

(1) 預金取扱金融機関

① 金融仲介機能の質の向上

(ア) 金融機関の取組みについての実態把握

  • 「日本型金融排除(注3)」の実態把握
  • ファンドによるエクイティ性資金の活用状況の実態把握
(注3)日本型金融排除とは、十分な担保・保証のある先や高い信用力のある先以外に対する金融機関の取組みが十分でないために、企業価値の向上が実現できず、金融機関自身もビジネスチャンスを逃している状況

(イ) 金融仲介の質の向上に向けての金融機関との深度ある対話

  • 「日本型金融排除」、ファンドによるエクイティ性資金の活用状況の実態把握及び「金融仲介機能のベンチマーク」等の客観的な指標を活用し、金融機関との間で深度ある対話を進めていく。

(ウ) 開示の促進等を通じた良質な金融サービスの提供に向けた競争の実現

  • 金融機関に対し、「金融仲介機能のベンチマーク」等の客観的な指標を活用し、その金融仲介機能の発揮状況について、積極的かつ具体的に開示するよう促す。
  • 金融機関の事業性評価に基づく融資や本業支援等の組織的・継続的な取組みについて、優良な取組みを行っている金融機関を公表・表彰する。
  • 「経営者保証に関するガイドライン」及びその活用状況をより広く周知するために、金融機関による開示を更に促す。

(エ) 金融仲介の更なる発揮に向けた関係機関との連携促進

  • 金融機関に対し、地域活性化・事業再生ファンド、地域経済活性化支援機構(REVIC)及び日本人材機構等支援機関との密接な連携やその機能の積極的な活用を促す。
  • 金融機関に対し、REVIC の経営者保証付債権等の買取り・整理業務の積極的な活用を促す。
  • 信用保証制度について、金融機関及び信用保証協会が事業者への経営改善支援に積極的に取り組むインセンティブが働くような制度の見直しの趣旨に沿った対応が進むよう金融機関と対話を行う。

② 金融システムの健全性維持

(ア) マクロプルーデンス

  • マクロ経済・市場動向や市場参加者の動向等について精緻かつリアルタイムに把握し、金融システムの潜在的リスクをフォワードルッキングに分析していく。
  • 国内外の経済や市場に混乱が生じた際にも、我が国の金融機関、金融システムが健全性を保つとともに必要な金融仲介機能を発揮できるよう、様々なストレスシナリオとその影響を分析し、健全性確保に向けた対話を金融機関と実施する。
  • 低金利環境下で収益確保の観点からよりリスクの高い投資を行っていく可能性があることを踏まえ、特定の資産やリスクへの集中が起こっていないか注視をしていく。
  • グローバルな経済・金融市場の変調に応じた対応(外貨流動性管理、海外信用リスク管理)、金利変動リスクや市場の流動性低下・ボラティリティ上昇等への対応、国内与信の集中リスクへの対応についても金融機関と対話を行う。

(イ) グローバルに活動する金融機関

  • 収益・リスク双方のフォワードルッキングな管理や経営戦略の策定を行うとともに、国内外の経済・市場環境等が変化した際には、それに対応して機動的に経営戦略を見直し、実行していくようなリスクガバナンスの実現に向けて、対話を行う。特に、より機動的な海外与信の管理や、より安定的な外貨調達の実現と外貨流動性管理の高度化に向けて、対話を行う。
  • 3メガバンクグループ等は、昨事務年度、政策保有株式の削減目標を公表し、縮減を着実に進めているが、引き続き、取組状況を確認する。

(ウ) 国内で活動する金融機関

  • 市場・金利リスクや与信集中リスクを含む各種リスクテイクが、経済・市場環境が変化した際に金融機関の健全性に与える影響について検証する。
  • ビジネスモデルの持続可能性に大きな課題が認められる金融機関に対しては、そうした課題に係る経営陣(社外取締役を含む)の認識等について、深度ある対話を行い、課題解決に向けた対応を促す。
  • 協同組織金融機関に関しては、中央機関が傘下金融機関のリスク管理や経営分析の指導のほか、財務基盤の強化にも重要な役割を担っていることを踏まえ、これら中央機関と一層密接な連携を図る。

(エ) 海外金融機関

  • 日本拠点の業務の実態が本店において適切に把握・認識されているか、クロスボーダーの業務展開に見合ったマネー・ローンダリング対策、法令等遵守の態勢が強化されているかについて検証する。

(2) 保険会社

本事務年度においては、昨事務年度に引き続き、少子高齢化の進展、貯蓄・投資手段の多様化、低金利環境の継続等の環境変化が保険ビジネスへ与える影響について分析を更に進める。また、保険会社のビジネスモデルが、顧客のニーズに応えつつ持続可能なものとなっているか、実態把握を行うほか、以下の項目について対話等を行うとしている。

  • 生命保険会社の長期の保険負債を持つという特徴を踏まえ、生命保険会社自らが保険負債の質の改善を視野に入れつつ、リスク管理と一体となった資産運用の最適化の観点からどのような取組みを行っているか、また、どのような経済・市場の急激な変化の可能性(ストレスシナリオ)を想定し、どのような対応を行うか、対話を行う。
  • 各社のERM 態勢の高度化の状況を確認するとともに、国際的に検討が進められている資本基準(ICS)の動向も注視しつつ、保険会社との対話を通じ、環境変化に対応するリスク管理を伴った健全なリスクテイクを促す。
  • ガバナンスについては、M&A 事例について大手生損保各社のガバナンスの発揮状況の検証のフォローアップを行う。特に、相互会社形態の保険会社について、経営陣が自社のビジネスのリスクを踏まえながら、どのように経営資源を投入し、どのような考え方で重要課題に対する意思決定を行っているか等、引き続き実態把握を行うとともに、経営陣と対話を行う。
  • 業務運営については、本事務年度においても引き続き、各保険会社や保険募集人において顧客本位の取組みが行われているか、その対応状況等について確認する。

(3) 金融商品取引業者等

① 証券会社

(ア) 大手証券会社グループ

  • ビジネスモデルの持続可能性を確保するため、自社の強みと弱みを的確に分析した上で、市場・景気変動や経営環境の変化を捉えた重要なビジネス戦略の機動的な見直しや、それらに対応したリスク管理ができているかについて、深度ある対話を行う。

(イ) 大手証券会社以外の証券会社

  • 収益や健全性が市場・景気動向の影響をより受けやすいという特性を踏まえ、収益構造等の分析を深め、将来の経営状況や投資者保護のための態勢整備の取組みについて対話を行う。特に、経営環境が厳しくなりつつある地域証券会社については、必要な投資者保護等に向けた対応も含め、経営者の問題意識を確認・醸成する。

② 外国為替証拠金取引業者(FX 業者)

  • 昨事務年度に金融先物取引業協会が中心となって実施したストレステストの結果を踏まえ、同協会と連携しつつ、外国為替証拠金取引業者(FX 業者)に対し、リスク低減に向けた対応を求めていく。また、継続的なストレステストを通じた為替リスク管理態勢の強化を図っていく。これらを通じて、顧客が不測の被害を蒙らないように、投資者保護上の所要の措置が講じられているかについて検証する。

4. IT 技術の進展による金融業・市場の変革への戦略的な対応

金融庁としては、IT 技術の進展が将来の金融業に与える影響やその対応について、引き続き国内外の有識者や関係者の知見を取り入れつつ検討を進めるとともに、具体的な取組みを進めていくとしており、「FinTech への対応」、「サイバーセキュリティの強化」、「アルゴリズム取引等への対応」について、「FinTech の進展に応じた法制面の対応」、「金融業界横断的なサイバーセキュリティ演習の実施」、「金融審議会での検討」などの施策を講ずるとしている。

5. 国際的な課題への対応

具体的重点施策として、①金融規制・監督のあり方についての国際的な提言、②IFIAR を通じたグローバルな監査の品質向上に向けた積極的な貢献、③国際的なネットワーク・協力の強化が掲げられている。

特に、世界的な長短金利の低下やテクノロジーの進化の下で、金融機関が適切なビジネスモデルを構築し、経済の持続的成長に貢献することが国内外で共通する課題となっていることから、こうした課題に対応した金融規制・監督のあり方について、「金融モニタリング有識者会議」における検討も踏まえつつ、国際的な意見発信を行っていくとしている。

6. 顧客の信頼・安心感の確保

具体的重点施策として、昨事務年度と同様、「個人顧客への貸出等における説明や審査態勢の整備」、「利益相反管理の強化」、「障がい者や高齢者の利便性向上」等が掲げられているほか、「海外発行カード対応ATM への対応」、「仮想通貨交換業への対応」が新たに掲載され、計11項目が掲げられており、金融機関においては、顧客の信頼を損ねることがないよう、悪意のある第三者による金融取引に関連した詐欺等への対応も含め、相談・苦情態勢を整備し、利用者保護・法令等遵守を徹底することが重要であるとしている。

7. その他の重点施策

その他の重点施策として、昨事務年度と同様、「東日本大震災からの本格的な復興の支援」、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与への対応」等が掲げられているほか、新たに「平成28 年熊本地震への対応」、「東京国際金融センター構想の推進」、「金融行政の再点検」が掲載され計9項目が掲げられている。

以上が、今般公表された「平成28事務年度金融行政方針」の概要及びポイントである。金融庁は、金融行政が目指すものとして掲げている「企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大」を実現するためには、冒頭述べたように3つの変革が必要であるとしており、この変革を実効性のあるものとするため、検査・監督のあり方の見直し、見える化(競争メカニズムの実現)、「顧客本位の業務運営」(フィデューシャリー・デューティー)、日本型金融排除 等重要なキーワードが掲げられている。金融機関においては、先に公表された「金融レポート」についても合わせ読み、その背景等についても十分理解し、金融庁の対話に臨む必要がある。一方、金融庁においても、財務局等地方支分部局を含め「金融行政方針」の趣旨を現場の職員まで徹底させ、金融機関との対話に臨ませる必要があると考える。

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