国際財務報告基準
(IFRS、国際会計基準)
IFRS Outlook

資産の減損の開示に対する規制当局の懸念:どうすればIAS第36号に基づく開示を改善できるか

2013.08.01
IFRS Outlook 2013年8月号 (PDF:429KB)

IAS第36号「資産の減損」に基づき、IFRS財務諸表提出会社が行っている減損の開示の妥当性について、ヨーロッパの規制当局が懸念を示している。本稿では、欧州証券市場監督局(ESMA)が今年初めに公表したレポートの主な指摘事項について解説する。

2013年1月にESMAは、「IFRSに基づく財務諸表におけるのれん及びその他の無形資産の減損に関する欧州規制当局によるレビュー報告」と題するレポートを公表し、減損の開示の妥当性に対して懸念を表明した。ESMAは特に、IFRSへの準拠性に関して、欧州経済領域1(EEA)に属する各国の規制当局の活動を取りまとめることに責任を有している。本レポートや、ESMA及び関連する規制当局が課す優先事項はEEAにのみ直接関係するが、ESMAのような機関が懸念を表明することで、企業やその監査人の関心も呼ぶことになる。レポートの内容は、ある程度予測されたものであり、EEA内外における各国の規制当局及び学術研究機関は、金融危機以降の減損の開示について、同様の指摘をしていた。

同レポートは、「金融・経済危機、及びそれに伴う弱含みの経済見通しの中、多くの産業における資産は、取得時の見込みを上回るキャッシュ・フローを創出していない。そのため、非金融資産の帳簿価額が回収可能価額を上回り、減損損失の計上が必要となる可能性が高まっている」と指摘している。しかし、今回のレビューで、減損損失が増加していないばかりか、「2011年に大きなのれんの減損損失を計上した企業は、金融サービス業や電気通信業界を中心に、わずかな発行体に限定されていた」ことが分かった。同レポート公表時のプレス・リリースでは、「2011年の財務報告で開示されている減損の水準が、企業を取り巻く困難な経済・事業環境の実態を反映しているかについては疑問が残る」と指摘している。2012年度の情報はまだ入手できないが、経済情勢に大幅な改善は見られず、減損に関する開示は、引き続き重要な関心事項となろう。

同レポートは、財務諸表における開示の質に焦点を当てており、一部の開示は雛型どおりの定型的な開示で各企業の実態を表しておらず、中にはIFRSの規定に準拠していない開示も見受けられる、と批判している。CASS Business Schoolによる減損の開示に関する調査結果も、同じような問題点を指摘しており、「開示内容を任意で選択する際に、経営陣のより積極的な関与が必要となる減損の開示は、多大な労力を要し、より少ない労力ですむ開示規定よりも、規定への準拠性は低く、雛型どおりの開示になりがちであることが判明した2」としている。この点は重要で、開示が質的に不十分だと、財務諸表利用者が、減損テストやのれん又は他の資産に配分される価値を信頼できなくなってしまうであろう。

レポートは、使用価値(VIU)、又は処分費用控除後の公正価値(FVLCD)のいずれを用いているかには関係なく、のれんや耐用年数を確定できない無形資産の減損テストにディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF)法を適用している企業に対する見解を述べている。

  1. 主要な仮定の適切な開示:主要な仮定とは、資金生成単位(CGU)又はCGUグループの回収可能価額が最も敏感に反応する仮定をいう。主要な仮定は、企業の事業活動と明確に関係しなければならず、割引率や長期成長率が含まれるが、それぞれ個別の開示規定が存在する。
    経営者は、例えば販売数量、価格や利益率など、キャッシュ・フローを導出する際の基礎となる仮定を決定するために用いた方法、及びこれらの仮定が、どの程度過去の実績や外部の情報源を参照しているか開示しなければならない。仮定がこれら過去の実績や情報源と異なる場合、その程度及び理由を開示する必要がある。新規市場へ参入する場合や、事業活動が規制を受ける見込みがある場合など、予測はしばしば過去の実績と異なる。これらの要素は、キャッシュ・フローに織り込み開示すべきである。
  2. 割引率の詳細な説明:重要なのれん及び耐用年数が確定できない無形資産が配分される各CGU又はCGUグループに適用する割引率を開示しなければならない。CGU又はCGUグループの割引率を一定のレンジとして開示することは認められない可能性が高く、単一の加重平均割引率の開示も適切ではないだろう。また、これらの開示は、特定のCGU又はCGUグループに配分されたのれん及び耐用年数を確定できない無形資産の金額が、のれん及び耐用年数を確定できない無形資産の帳簿価額総額に対して有する重要度に応じて、必要となる点を念頭に置くべきである。
  3. 長期成長率の留意点:より高い成長率が正当化されないかぎり、成長率は、製品、業界又は国の長期平均成長率を上回ってはならない、とIAS第36号は規定している。ESMAレポートは2008年以降、ゼロ成長かほとんど成長が見られない地域、及び近い将来に大きな成長率が達成されることが楽観視できない地域に対しても、意外にも多く(全体の約20%)の発行体が成長率を3%以上としている点に気付いた。
    成長率の算定は、関係するセクターや国の影響を受ける。新興経済圏の成長率はより高くなるであろうし、スタートアップ段階の成長率は、市場が飽和状態にある既存の技術の成長率よりも高くなるかもしれない。しかし、高い成長率は、高いリスクを伴うため、少なくとも短期的な割引率はより高くなるだろう。
  4. FVLCDを適用するキャッシュ・フローに関する開示の質の改善:DCF法を用いてFVLCDを計算する場合、VIUと同様の開示を行わなければならない(但し、キャッシュ・フローは異なる条件のもとで算出される)。企業は、経営者がキャッシュ・フローを予測した期間、その推定に用いた成長率及び割引率を開示する必要がある。主要な仮定、それらの算定に経営者が用いた方法、及びIFRS第13号「公正価値測定」に定められる公正価値ヒエラルキーにおけるレベルは、FVLCDを算定するために用いられた方法に関係なく、常に開示が求められる。なお、IASBは先日、減損が生じている場合の開示規定を改訂した3
  5. 有意義かつ現実的な感応度分析:「主要な仮定の合理的に起こり得る変化」により、回収可能価額が帳簿価額に等しくなるまで(すなわち、回収可能価額が帳簿価額を超過する金額である余裕額がなくなるまで)減少する場合、IAS第36号に従い追加の開示を行わなければならない。重要なことは、感応度の開示が定量化されなければならない点である。余裕額の金額、主要な仮定に割り当てた値、及び当該値の変動値を開示しなければならない。例えば予算における、支払利息、税金及び減価償却前利益(EBITDA)が主要な仮定であり、EBITDAの売上に対する比率が11%から8%に減少した場合に帳簿価額が回収可能価額に等しくなるとする。こうした変動が合理的に起こり得ると考えられる場合には、企業はこれらの値を開示しなければならない。過去数年をみると、そのような変動は実際に生じうるし、変化のスピードも非常に速くなりうると考えられる。従って、主要な仮定の合理的に起こり得る変化によって、余裕額が減少することはないと断定する前に、それが現実的であることを確認する必要がある。
    これらの開示は、単一の主要な仮定に対して行われるが、他の変数への影響を考慮し、主要な仮定の変化を組み合わせて同様の開示を行うこと(シナリオ分析)が、より有意かどうか検討することもあるだろう。また、IAS第1号「財務諸表の表示」では、見積りの不確実性をもたらす要因、すなわち翌期の帳簿価額に重大な修正を生じさせる要因となる著しいリスクを有する仮定についても開示が求められている。
    売上高の10%減少や割引率の2%上昇といった、仮定の変化率が及ぼす影響を開示する企業もある。これは、減損テストの信頼性を財務諸表利用者が評価する上で、有用な追加情報である。しかし合理的に起こり得る変化によって、減損損失を生じさせる、又は増加させる場合、このような開示が、同基準に定められる規定を充足することにはならない。

ESMAレポートは、サンプル企業のうち43%の企業で、純資産の帳簿価額が株式時価総額を上回っていたことに懸念を示していた。自社の資産から生成するリターン以外の要因のために、帳簿価額を下回る時価総額が、必ずしも当該差額が減損損失に反映されるわけではない。企業は、時価総額が帳簿価額を下回っている理由を示すために、より詳細な開示を行うべきか、また、翌期以降に減損を生じさせる可能性のある要因についても説明すべきか、検討する必要がある。

  1. EU加盟国、アイスランド、リヒテンシュタイン及びノルウェー
  2. Cass Business School, Accounting for asset impairment: a test for IFRS Compliance across Europe, 2013年1月号
  3. 2013年5月に公表された「非金融資産の回収可能価額の開示(IAS第36号の修正)」

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