国際財務報告基準
(IFRS、国際会計基準)
IFRS Outlook

IFRS第9号「分類及び測定」に関するプロジェクトの最新動向

2013.04.18
IFRS Outlook 2013年4月号 (PDF:600KB)

2008年の金融危機を契機に、G20加盟国及び金融安定化理事会は、IASB(国際会計基準審議会)に対し、金融商品会計の簡素化及び改善、ならびに米国会計基準とのコンバージェンスを目的とする、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」を全面的に刷新するプロジェクトのプロセスを早めることを要請した。これを受けて、IASBは、2008年以降、新たな金融商品プロジェクトとして、新基準IFRS第9号「金融商品」1を策定すべく、広範な分野について作業を実施してきた。

IFRS第9号プロジェクトの第1フェーズでは、金融資産の分類及び測定が取り扱われ、2009年11月に新基準が公表された。その後、2010年10月に、金融負債の分類及び測定に関する規定を織り込む形で改訂が行われた。また、IASBは、2011年12月にはIFRS第9号を改訂し、強制適用日を2013年1月1日から2015年1月1日に変更している。

さらに、IASBは、昨年2012年11月に、公開草案(ED)「IFRS第9号「分類及び測定」の限定的な改訂」(IFRS第9号(2010年)の改訂案)を公表した。このEDでIASBが意図したのは主として以下の3点である。

  • (i)IFRS第9号の早期適用企業から提起されていた特定の適用上の問題への対処
  • (ii)保険契約プロジェクトの中で識別された、損益計算書上における会計上のミスマッチ、及び短期的な純損益のボラティリティーの問題への対処
  • (iii)IFRS第9号とFASB(米国財務会計基準審議会)の暫定的な分類・測定モデルとの間に存在する主要な差異の解消

本稿では、改訂案の重要なポイントを説明した上で、それらがビジネスにどのような影響を及ぼすかについて簡単に解説していく。

新たな測定カテゴリーの導入

IFRS第9号によれば、金融資産は当初認識時に、当該金融資産を管理・運用する企業のビジネスモデル、及び契約上のキャッシュ・フローの特徴に基づき、純損益を通じて公正価値で測定(FVPL)、又は償却原価で測定に分類され、事後測定される。2これらの測定基礎は、それにより金融商品の将来キャッシュ・フローの内容と、それがどのように実現されるかに関する情報を提供することが意図されている。

具体的には、金融資産は、それが元本及び金利の支払いのみの契約上のキャッシュ・フローを生じさせるものであり(すなわち単純な負債性金融商品)、企業が、それを契約上のキャッシュ・フローの回収を目的とするビジネスモデルに従って保有している場合には、償却原価で測定される。

それ以外の場合、(負債性)金融資産はすべてFVPLで測定される。こうしたアプローチは、例えば、積極的な売買により公正価値変動から利益を獲得することを目的とするビジネスモデルに従って金融資産が保有されている場合や、金融資産のキャッシュ・フローが複雑である場合には、償却原価より公正価値の方が企業の財政状態及び収益性の変化に関する正確かつ適時の評価に資する有用な情報を提供する、というIASBの考えに基づいている。

一方、EDでは、3番目の測定カテゴリーとして、「その他の包括利益(OCI)を通じて公正価値で測定(FVOCI)」を導入することが提案されている。このカテゴリーは、契約上のキャッシュ・フローの回収と売却によるキャッシュ・フローの実現の両方を目的とするビジネスモデルの下で管理される「プレーン・バニラ」のローン又は負債性金融資産によるポートフォリオを会計上適切に捕捉するように提案されたものである。

この新たなカテゴリーの導入により、企業が金融商品に対する投資を一定期間にわたって一定の水準に保持しつつ、投資機会によっては一部を売却し、より高い利回りの金融資産に再投資することによってリターンを最大化しようとするポートフォリオを捕捉することが可能となる。一例としては、銀行が流動性を管理するために保有するポートフォリオ、あるいは、保険会社が保険負債のデュレーションとマッチさせることを目的として管理する保険負債対応資産のポートフォリオを挙げることができる。

EDで示された設例を参考に、金融商品が契約上のキャッシュ・フローの回収と金融資産の売却の両方を目的として管理される場合のビジネスモデルについて以下で説明する。

ある事業会社は、数年後に設備投資の支出によるキャッシュ・アウトフローが発生すると見込んでいる。資金が必要になるまでの間、企業は余剰資金を金融資産に投資する。この企業が金融資産を運用する目的は、企業の投資方針に従い、元利金の受取り、及び売却損益の両方を合計したトータル・リターンを最大にすることである。このポートフォリオの運用担当者は、金融資産からのトータル・リターンに基づき報酬が支払われる。

このカテゴリーは、企業が契約上のキャッシュ・フローの回収及び売却の両方を目的として運用する金融資産を対象としており、これに含まれる金融資産については、公正価値と償却原価の2つの情報が目的適合的となる。そのためEDでは、このカテゴリーについては、公正価値に関する情報を貸借対照表上の帳簿価額として表示しつつ、損益計算書上において、償却原価で測定されているかのように、利息収益、実現損益及び減損損失を表示することを提案している。なお、その他の公正価値の変動は、金融資産の認識が中止されるまで、その他の包括利益(OCI)に計上され、認識中止時点で、その利得及び損失の累計額が純損益にリサイクルされる。

FVOCIで測定されることになる負債性金融資産についても、当初認識時にのみ、会計上のミスマッチが解消される、又は大幅に軽減されることを条件に、FVPLに指定する取消不能のオプション(公正価値オプション)を、現行の償却原価測定カテゴリーと同様に適用可能である。なお、IAS第39号の売却可能(AFS)カテゴリーとEDのFVOCIカテゴリーは以下の点で異なる。まず、AFSは企業の選択により分類が可能ではあるものの、基本的には残余カテゴリーであるのに対し、FVOCIは、金融資産グループの運用・管理及びそのパフォーマンスの報告方法によって裏付けられる、企業のビジネスモデルを反映するように決定され、強制的に分類されるものであり、残余カテゴリーではない。さらに、FVOCIで測定される金融資産は、償却原価で測定される金融資産と同じ新たな減損モデルの対象になるため3、信用以外の理由(例えば、金利又は流動性スプレッド)によって生じる公正価値変動は、認識中止時点で初めて純損益に計上される。これに対して、AFSについて計上される減損は、償却原価カテゴリーとは異なる規準で測定される。最後に、EDによれば、単純な負債性金融商品のみが、FVOCI測定の要件を満たすことになる。

(下の図をクリックすると拡大します)

図1:提案された分類・測定モデル

負債性金融商品についてFVOCIカテゴリーを導入するという今回の提案により、現行のIFRS第9号の下では償却原価測定の要件を満たさないビジネスモデルに従って保有され、自動的にFVPLに分類されたであろう一定の金融資産を、FVOCIで分類・測定することが可能になる。これにより、公正価値変動が、純損益ではなく資本で認識されることになる。この変更により、どの程度影響を受けるかは、企業のビジネスモデル及び保有する金融商品の規模によるが、おそらく最も影響が生じるのは銀行と保険会社であろう。

適用にあたっては、報告企業は、自社のビジネスモデルについて詳しく分析する必要があると考えられる。この分析には、各ポートフォリオがどのように管理されているかの評価や、そのパフォーマンスがどのように評価されているか、及び運用担当者の報酬がどのように決定されているかといった点の調査が含まれる。さらに、売却活動の重要性や頻度の評価、及び売却や契約上のキャッシュ・フローの回収といった活動が、たまたま行われたのか、あるいは特定のビジネスモデルの下で所与の活動として行われたのかといった評価もこの分析に含める必要がある。また、銀行や他の規制下にある金融機関においては、規制資本に対する潜在的な影響についても分析する必要があろう。

金融負債の「自己の信用」に関する規定の早期適用

IAS第39号の中でもとりわけ議論の多い規定の1つとして、デリバティブ以外の金融負債に公正価値オプションを適用しFVPLに分類した場合には、その公正価値を決定する際に、当該金融商品の発行体の「自己の信用」リスクを考慮しなければならないという定めがある。これは、当該規程により、財務的に窮地に陥っている企業が発行する負債の公正価値が下落し、その結果、利益を計上する(逆もまた然り)という、直感に反する結果をもたらすからである。IASBは、IFRS第9号の策定に際して、関係者から、公正価値で測定されるデリバティブ以外の金融負債に係る発行体の自己の信用リスクの変化に起因する公正価値変動は、実際には実現されることのない金額であるため、それにより純損益が影響されるべきではないとする、フィードバックを継続的に、かつ、幅広く受けていた。これを踏まえ、IFRS第9号では、公正価値オプションの適用される金融負債の自己の信用の変化に起因する利得又は損失は、(一定の例外を除き)OCIに表示することが要求されている。

IASBは、IFRS第9号における自己の信用リスクに関する上記の取扱いの適用を前倒しするため、EDの中で、IFRS第9号の最終版が公表された時点において企業が他の規定については早期適用せず、自己の信用に関する規定のみ早期適用できるようにすることを提案している。

EYは、IFRS第9号の「自己の信用」に関する規定の早期適用を認めるというEDの提案を支持している。これは、現行規定によれば、自己の信用度が改善される見通しとなった場合に収益が減少し、逆に信用が悪化する見込みの場合に収益が増加するためである。しかしながら、IASBの提案では、IFRS第9号が最終基準化されない限り(一部の国又は地域ではエンドース(採択)がなされない限り)、当該規定を適用することができないため、IAS第39号に同様の改訂を行うべきと考える企業も多い。

米国会計基準とのコンバージェンス

IASBとFASBの間で共同審議が行われ、3つの測定カテゴリーの基本となるビジネスモデルに関し共通の目的が示されたものの、まだ基準レベルでの方向性が収斂したという段階にすぎない。というのも、各ビジネスモデルを実際に適用する上でのガイダンスについては共同審議がなされていないため、それにより最終的な分類・測定結果が異なる可能性もあるからである。

次のステップ

IASBは、2013年3月28日を期限として、関係者からのコメント提出期間を120日間定めており、提案に対して寄せられたコメントを踏まえた再審議を2013年4~9月にかけて行う予定である。

このEDのスケジュールによれば、分類及び測定に関する最終基準の完成は、2013年の下期にずれ込むものと思われる。減損フェーズ及び保険プロジェクトの状況も鑑みると、EYは、IFRS第9号の最終版の強制適用日を2015年とすることが現実的に妥当かについて、関係者から疑問が呈されることは間違いないであろうと考えている。実際、IASBも、2013年3月に公表された新たな減損モデルに関するEDに対するコメント募集の一環として、発効日に関する関係者からのフィードバックについても要請している。

(下の図をクリックすると拡大します)

IFRS第9号の適用までのロードマップ

EYが、現在IFRS第9号による影響度の評価を行っている企業と協働した経験では、新基準を適切かつ戦略的な方法で適用するためには、かなりの時間を要するということが分かってきている。実際、多くの企業が、すでに大規模な会計及び規制上の変更に対応するための作業日程の中に、IFRS第9号の適用も含めており、現在、適用に向けた計画の立案を進めている。

  1. この目的を達成するために、IASBは、本プロジェクトを3つのフェーズ、すなわち、①分類及び測定、②減損、③ヘッジ会計に分けて進めているが、本稿はそのうち分類及び測定についてのみ解説する。
  2. 現行のIFRS第9号では、トレーディング目的以外で保有される資本性金融商品については、当初認識時点にのみ、公正価値評価損益をその他の包括利益に表示するオプションの適用を認めている。
  3. 2013年3月に公表されたEDによる新たな減損モデルによれば、当初認識時点で期待損失が純損益、及びそれと見合いでOCIに計上されることになる。


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