新日本有限責任監査法人
国際財務報告基準
(IFRS、国際会計基準)
IFRS Outlook

役員報酬及び持分決済型の株式報酬制度の会計処理をめぐる議論

2012.10.30
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最近の経済情勢や金融市況の悪化により、役員報酬をめぐる議論が再燃しており、メディアの注目を集めている。これに加え、企業のスキャンダルや、不安定な金融市場、昨今の欧州財政金融危機により、多くの金融規制当局や投資家が企業経営者に対する報酬のあり方に関して疑問の声をあげはじめている。

役員報酬は、ストック・オプションやその他の株式報酬の形で支払われることも多い。国や地域によっては、役員報酬のうち最も重要な部分をストック・オプションが占めることもある。この傾向は、主に役員と株主の経済的利害関係を、より強固に、かつ長期的に一致させることを指向した結果とも言えよう。

IFRS第2号「株式報酬」に基づく株式報酬の会計処理は複雑になる場合があり、純損益に認識される金額は報酬の個々の条件に応じて著しく変わってくることもある。IFRS第2号の下では、現金決済される従業員に対する報酬は、権利確定日時点の報酬の最終的な価値を反映すべく再測定されるが、企業の資本性金融商品で決済される従業員に対する報酬は、付与日時点の公正価値で測定される。そのため、持分決済型の報酬に関し計上される費用は、報酬決済時に従業員が受領する実際の価値を反映していないことになる。このような会計上のミスマッチの存在が、株式報酬を最も議論を呼ぶ会計分野の1つとしている。

本稿では、現在の市場動向が持分決済型の株式報酬制度の会計処理に及ぼす影響(の一部)を考察し、付与日時点の価値と権利確定日時点の価値の乖離について検討していく。これは、相当な差異になる場合もあれば、権利確定日時点で実質的に価値のない報酬に関して費用が計上される結果につながる場合もある。

持分決済型の従業員ストック・オプションの会計処理

IFRS第2号の下では、持分決済型報酬の付与日時点の公正価値は、役員や従業員が関連する勤務を提供した期間にわたり認識される。持分決済型であるため、その条件が変更されない限り、当該報酬の価値に対し事後的な調整は行われない。

すなわち、たとえばディープ・アウト・オブ・ザ・マネーの状態に陥っているオプションであるため、役員等がそれを実際に行使することはないにも関わらず、費用が認識される。また、ディープ・イン・ザ・マネーの状態にあるオプションの場合、役員等が受領する実際の価値よりもかなり低い金額で費用が計上されることもある。この点について、下記の例1で説明している。

例1-経営者に発行されたストック・オプション

A社は、2010年12月31日に、最高経営責任者(CEO)に対し100,000単位のオプションを発行する。2年間勤務し、かつオプション1単位につきCU5の行使価格を支払えば、このCEOはオプション1単位当たり1株を受領することができる1。オプションの付与日時点の市場価格は1株あたりCU5である。付与日時点のオプションの価値はCU100,000であると仮定する。

シナリオA

2012年12月31日時点で、株価は1株あたりCU7に上昇した。このCEOはA社に継続して勤務しており、またオプションの行使を決定した。

  CU
役員が受領した価値2 200,000
IFRSに基づき計上された費用 100,000
「認識されなかった」価値 100,000

シナリオB

2012年12月31日時点で、株価は1株当たりCU4に下落した。このCEOはA社に継続して勤務しているものの、オプションがアウト・オブ・ザ・マネーの状態にあるため、オプションを行使していない。オプションは行使されないまま失効した。

  CU
役員が受領した価値 0
IFRSに基づき計上された費用 100,000
「過大認識された」価値 (100,000)

  1. CU=通貨単位
  2. 100,000株×(株価CU7から行使価格CU5を控除した金額)

IFRS第2号のこのアプローチは、企業又はその株主からの最終的な経済的価値の流出を反映していないとして、批判の対象となることが多い。しかし、IFRS第2号の支持者は、企業は、従業員による勤務を対価として、付与日時点で何らかの価値がある何か(すなわちオプション)を従業員に提供しているのであり、このアプローチはそのような勤務に係る費用を反映しているため、適切であると考える。仮に企業が、このようなオプションを(勤務の対価として従業員に付与するのではなく)市場において付与日時点で売却したならば、企業はそのオプションの対価として現金を受領したはずである。つまり、IFRSに基づき認識される費用は、従業員にオプションを提供したことにより企業に実際に発生したコスト(すなわち、市場でオプションを売却することで得られたであろう現金に近似する金額)を反映していると考えるのである。したがって、オプション行使時に受領する株式の価値がオプションの価値と異なったからといって、これは費用として計上された額を事後的に変更する理由にはならないとされる。

付与日、権利確定日、それとも行使日?

ここ数年のマーケットのトレンドは、株価が不安定(下落している企業が多い)であることを示しているが、権利確定日時点の価値も従業員が受領する最終的な価値を反映していない場合がある。

権利確定日だけではなく、それ以降の期間にも、従業員がオプションを行使できるというのは、多くのストック・オプション制度にはよく見られる特徴である(たとえば、3年間の勤務により報酬に対する権利が確定するが、オプションはその後10年間行使可能である場合など)。

ここ数年の株価のトレンドを見れば、権利確定日時点のオプションの価値と行使日時点のオプションの価値に重大な乖離も生じうることが分かる。

財務諸表においてどの日時点の価値を捕捉すべきなのかは、依然として議論の残る本質的な問題である。現在の基準では、持分決済型の従業員ストック・オプションに関し、付与日時点の価値が認識され、事後的な再測定は行われていない。

おわりに

付与日測定モデルを、最終的に行使される従業員ストック・オプションの付与に適用した場合、会計上の費用は付与日時点の公正価値で実質的に固定されることになる。これにより、行使日まで継続的に報酬の公正価値を再測定するモデルを適用した場合に生じうるボラティリティが、付与日後の財務諸表で生じることはない。これは、多くの関係者がこのモデルを選好している理由の1つである。しかし、反対に付与日後に報酬の価値が下落した場合であっても、その後も引き続きより高い付与日時点の価値を認識することになる。したがって、過年度に付与したものの、現在は従業員にとって無価値となっているオプションについて、多額の費用が企業の財務諸表に計上される可能性は十分ある。これにより、企業運営に失敗したにもかかわらず、あたかもその経営者に対して報酬を与えたかのような(時として、根拠のない)誤解が生まれる場合もある。

全体として、持分決済型の株式報酬制度の会計処理は、会計に直接かかわる者に限らず、規制当局にとっても注目の話題である。IASBがそのアジェンダ協議プロジェクトについて最近行った審議によれば、IFRS第2号に関する問題点や課題が短期的に取り上げられる可能性は低い。したがって、企業は、投資家やその他利害関係者が経営者報酬に関する事実関係を明確に理解できるように、財務諸表で明瞭で分かりやすい開示(現在の市場環境が当該報酬に与える影響など)を行うことが重要である。

過年度に付与したものの、現在は従業員にとって無価値となっているオプションについて、多額の費用が企業の財務諸表に計上される可能性は十分ある。

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