新日本有限責任監査法人
国際財務報告基準
(IFRS、国際会計基準)
IFRS Outlook

迫りくるIFRS改訂の波:対策は万全ですか?

2012.10.30

国内ではそもそもIFRSを採用すべきか否かという入り口の議論が続いているが、すでにIFRSを適用している企業にあっては、また別の問題に直面している。それは2013年から多くの重要なIFRSの新基準、改訂及び解釈指針が発効することへの対応である。本稿では、2013年から適用される新たな規程群がもたらす主な変更点と、それらが財務諸表やその作成実務に生じうる影響についてまとめている。

 主な変更点及び財務諸表に与えうる影響  実務で必要となる判断

IFRS第10号「連結財務諸表」及びIAS第27号「個別財務諸表」
支配の概念のみが連結の基礎となる。
新しく、より幅広い支配の定義により、以下の時点において連結グループに変更が生じうる。
  • IFRS第10号への移行時。
  • 将来の報告期間においても、連結の要否について継続的な再評価が求められる。
投資者の権利とエクスポージャーの評価、ならびに投資先の目的及び設計など、既存及び新規の取決めを包括的に理解する必要がある。
被支配企業を識別し、連結の要否を判断するために新たな手順や統制手続を設ける必要があるかもしれない。この際、事業部門、顧問弁護士及び他部署からのさらなる協力や情報が必要となる場合もある。
IFRS第11号「共同契約(ジョイント・アレンジメント)」及びIAS第28号「関連会社及びジョイント・ベンチャーに対する投資」
IFRS第11号では、共同支配を定義するにあたり、IFRS第10号の支配の概念が用いられている。 IAS第31号「ジョイント・ベンチャーに対する持分」においては3つに区分されていた共同契約の会計処理が、IFRS第11号では、以下の2つのものに変更されている。
  • 共同営業(ジョイント・オペレーション): 共同支配を有する当事者が、取決めに係る資産に対する権利及び負債に対する義務を有しているケース。共同営業は、各当事者の資産、負債、収益及び費用、ならびに/又は当事者に共通して発生したそれらに対する持分相当額を認識する。
  • ジョイント・ベンチャー: 共同支配を有する当事者が、取決めに係る純資産に対する権利を有しているケース。ジョイント・ベンチャーは、持分法により会計処理する。
以前はIAS第31号に基づき被共同支配企業に分類されていた取決めに係る会計処理が、変わる可能性がある。 IFRS第11号の下では、比例連結が禁止されるため、IAS第31号の下で被共同支配企業に対して比例連結を適用している企業においては、会計処理が大きく変わることになる。
共同支配が存在するか否かを判断するため、既存の取決めを評価する必要がある。取決めを「共同営業」又は「ジョイント・ベンチャー」のいずれかに正しく分類するために、各取決めの構造や、取決めの当事者の権利及び義務について、より細やかな検討が必要となる。
比例連結が禁止されることにより影響を受ける場合は、財務情報を収集、開示するにあたり、新しいプロセスが必要になると考えられる。
IFRS第12号「他の事業体への関与の開示」
IFRS第12号では、他の事業体に対して有する関与及び支配の有無を判断した方法について、広範な定性的及び定量的開示が要求されている。
新しい開示に向けた情報収集のために、追加の手続や情報システムの変更が必要になる可能性がある。
その他、IFRS第10号、IFRS第11号及びIFRS第12号に関して、一般に以下の点に留意が必要であろう。
  • 企業が有する投資先に対する議決権が、過半数に満たない場合であっても当該企業が支配を有しているか否か(事実上の支配の有無)
  • 潜在的議決権によりパワーが付与されているか
  • 保有する権利は単なる防御的な権利ではないか
  • 企業を本人当事者として見るのか代理人として見るのか
  • 企業は、別の企業に対し、代理人として行動するよう指示できるか(事実上の代理人)
  • ストラクチャード・エンティティーに対する支配の有無
  • 資産及び負債は目的を限定して隔離されているか(すなわち、サイロは存在するか)
  • 事実及び状況の変化によって、支配(又は共同支配)の有無に変更が生じるか
  • 複数の共同契約が存在するか
  • 共同契約は、共同営業とジョイント・ベンチャーのいずれに分類されるか
IFRS第13号「公正価値測定」
IFRS第13号では、公正価値測定に関する単一の原則を定めている。

新しい原則を適用することで、評価技法や計算上の仮定に変更が生じ、その結果、資産及び負債の公正価値の測定や開示に影響が及ぶ可能性がある。
IFRS第13号により、評価モデル適用やそのためのインプットの収集に関するプロセスの変更など、公正価値の測定方法の再検討が必要となる可能性が高い。

また、開示の拡充に対応するために新たなプロセスを構築しなければならない場合もあり、新基準に基づく公正価値評価を行なうための十分な専門知識が組織内で用意されているか再確認しておく必要がある。
その他、IFRS第13号に関して、一般に以下の点に留意が必要であろう。
  • 非金融資産を利用している方法は「最有効利用」の考え方に合致しているか
  • 企業が通常取引を行う市場は主要な(又は最も有利な)市場か
  • 評価技法は状況に適合しているか、もしくは他に適切な評価技法があるか
  • 経済的利益の最大化を目指す市場参加者は、資産の価格設定を行う際、プレミアム又はディスカウントを考慮するか
  • 市場での取引量又は取引水準が大きく減少していないか
  • 市場での取引が秩序立っていないという証拠があるか
  • 観察可能なインプットに対して調整を行なう場合、それが測定される公正価値全体に重要な影響を及ぼすか
  • 複数の観察不能なインプットがある場合、一方のインプットが変動したとき、他方がその影響を受けるか(すなわち、インプット間の相互関係はあるか)
  • 測定される公正価値は観察不能なインプットの影響を受けやすいか(すなわち、観察不能なインプットの変動により公正価値が大きく変動する可能性があるか)
改訂後IAS第19号「従業員給付」
確定給付制度について、以下の変更が生じる。
  • 回廊アプローチが廃止され、制度資産/負債の変動が即時認識されることになる。その結果、貸借対照表の変動性が大きくなる可能性がある。
  • 期待運用収益の概念が廃止され、利息は確定給付制度債務から制度資産を控除した純額に基づき計上される。したがって、制度資産に対する期待運用収益の影響は純損益に反映されなくなる。
  • 勤務費用及び純利息は純損益に計上される。
  • それ以外の制度資産/負債の変動はその他の包括利益に認識される。
  • 数理計算上の差異が純損益に計上されることは恒久的にない。
  • 過去勤務費用は即時認識される。
  • 確定給付制度の感応度分析など、新しい開示が導入される。
その他の変更には以下が含まれる。
  • 従業員給付の長短分類は、権利発生時期ではなく、決済が予想される時期に基づいて行われる。これにより、長短分類が変更される可能性がある。
  • 解雇給付の認識時期が変更される。
変更に際して、新規定への適切な対応を担保するためには、保険数理人やその他の関係者とのコミュニケーションの在り方を見直す必要が生じることもあろう。

新規及び改訂後の開示に必要な保険数理情報に関し、判断や見積りだけでなく、新たな手順や統制手続を設けることが必要となる場合も考えられる。
その他、IAS第19号(改訂)に関して、一般に以下の点に留意が必要であろう。
確定給付制度:
  • 数理計算上の仮定(たとえば、割引率、死亡率、離職率、退職時の年齢及び退職日)が、改訂後の規定と整合しているかどうかを確かめる。
  • 開示を要する感応度に係る情報を適時に入手できるように、保険数理人と緊密な連携をとる。
その他の従業員給付:
  • 従業員給付を短期又は長期のものとして分類するため、将来の事象、従業員の行動(たとえば、累積年次有給休暇の予想取得日数)、及び従業員の将来の給与を見積る必要がある。
  • 利益分配、賞与及び解雇給付に係る企業の債務、及び企業の会計実務から生じるさまざまな従業員給付に係る債務の金額を算定する必要がある。
IFRS第7号「金融商品:開示」-金融資産と金融負債の相殺-IFRS第7号の改訂
新しい開示規定により、ネッティング契約及び担保の影響評価に関する情報が提供される。
新たな開示により、必要な定量的情報を抽出するために信用リスク管理システムと会計システムをリンクさせるなど、情報システムや関連する内部統制の見直しが必要になる場合がある。

期中及び比較期間の財務情報を含む、2012年及び2013年度財務報告に係る情報を収集するためのプロセスを早急に確認する必要がある。
IFRS第7号の改訂に関して必要になる可能性のある主な評価には、以下が含まれる。
  • マスター・ネッティング契約又は類似契約がどのような場合に「強制可能」となるかを判断する。

その他の変更

上記の新規程以外にも、さまざまな改訂が2013年から適用される。これらには、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」の改訂である「政府融資―IFRS第1号の改訂」が含まれる。これは、IFRSの初度適用企業にのみ適用されるものであり、IFRS財務諸表をすでに作成している企業には関係しない。また、2013年から適用されるIFRIC第20号「露天掘り鉱山の生産段階で生じる剥土費用」によって、鉱業・金属及び石油・ガス業界における生産段階の剥土費用の会計処理が変わる可能性がある。他にも、IFRSの年次改善(2009-2011年サイクル)を通じて、緊急性はないが必要性が認められる、5つのIFRS基準に対する改訂が公表されている。これらの改訂は、現行の実務を大きく変えるものではなく、規定の明瞭化を意図したものである。ただし、企業は、これらの改訂に鑑み、現在の方針、手続又は開示を再検討すべきである。

弊社の刊行物であるIFRS Update of Standards and Interpretations 31March 2012には、最近公表されたIFRS等の詳細なリストとともに、これら規定の概要を記載している(www.ey.com/ifrsで入手可)。

おわりに

会計基準の変更の多くは、ビジネスにおける意思決定が及ぼす長期的影響を表現する手段として、また、それらの決定に係る統治責任や説明責任を果たしていくうえで重要な役割を担う。2013年には、IFRSのさまざまな分野において重要な改訂が発効することにより、現行の会計処理や財務報告、事業プロセス及び税務上のポジションに影響を及ぼす可能性がある。経営者は、自社に固有の状況に関し、十分な情報に基づき検討するとともに、その影響を投資家やその他利害関係者に早期に周知する必要がある。また、経営者やガバナンス責任者(例:監査委員会)は、会計基準の変更に伴って行われた重要な意思決定、及び変更の適用に向けた進捗状況の双方をモニタリングする必要がある。


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