国際財務報告基準
(IFRS、国際会計基準)
業種別IFRS解説

IFRS導入が卸売業に与える影響について

2011.03
卸売業研究会 公認会計士 三品正博

I 卸売業におけるIFRS適用上の主要な論点

国際会計基準(IFRS)の特徴は「原則主義」、すなわち原理原則を明示することによって簡潔明瞭な会計基準を作ろうとする思考にあるといわれます。このため、IFRSは数値基準、簡便法や例外的取扱いが極めて少ないものとなっています。各企業は業種または企業特有の状況を考慮した上で、IFRSに準拠した会計方針や会計処理方法を選択しなければならず、導入に当たっては十分な検討が必要だといわれています。

卸売業といっても業態はさまざまで、すべての業種・企業で生じる論点を網羅的に挙げることは困難です。従って、本稿では卸売業を営む企業がIFRSを適用する際に影響が大きいと思われる論点につき、収益認識を中心にしながら、各社でおおむね共通する、その他の論点も交えて解説します。なお、本稿の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

II 収益認識

1. 収益認識基準

現行実務における収益認識基準は、出荷基準、納品基準、検収基準などが代表的なものとして挙げられます(<図1>参照)。卸売業では、さまざまな形態による取引が行われています。直送取引であればメーカー出荷日、非直送取引であれば自社の出荷日といったように、商品の出荷をもって収益認識時点としているケースが多く見られます。これに対して、IFRSでは次の要件をすべて満たした時点で、収益を認識できると規定しています。

図1 収益認識基準
図1 収益認識基準

  1. 物品の所有に伴う重要なリスクおよび経済価値を買手に移転している。
  2. 販売された物品に対して、企業は所有と通常結び付けられる程度の継続的な管理上の関与も有効な支配も保持していない。
  3. 収益の額が信頼性をもって測定できる。
  4. その取引に関連する経済的便益が企業に流入する可能性が高い。
  5. その取引に関連して発生した、または発生する原価が信頼性をもって測定できる。

これらのうち、特に要件①のタイミングを検証することが重要となります。その際、契約書上における所有権およびリスク負担についての記載や、商品の検収内容などを総合的にかんがみて、リスクおよび経済価値が移転するタイミングを判断する必要があります。

例えば、現在、出荷基準によっている取引の売買契約で、所有権移転のタイミングが納品時または検収時と明記されていれば、出荷時点より後に経済価値が移転すると考えられるので、当該取引の収益認識基準の見直しを検討する必要があります。また、所有権移転に係る書面契約がない状況でも、輸送中のリスクを売手が負担する場合や、詳細な検収作業を要する場合などは、出荷時点より後にリスクおよび経済価値が移転していると考えられます。

こうした検討の結果、収益認識基準の変更を行う際には、適時に納品や先方の検収完了を把握し、会計処理に反映させるようなプロセスやシステムの構築が必要となります。特に、卸売業では直送取引のような、物品が自社倉庫を経由しない取引が多く見られます。こうした取引では、情報を適時に取得することが困難な可能性があるため、取引のパターンに応じた対応方針の検討が重要となります。

2. 当事者取引と代理人取引

商社の仲介業務においては、取引の当事者として仕入先および販売先と契約を締結する取引と、代理人として業務を遂行する取引があります。実務上は、代理人取引であっても、収益を取引金額の総額で表示していることも多いものと思われます。

しかしIFRSでは、企業が物品の販売または役務の提供に関する重要なリスクと経済価値にさらされている場合には、本人当事者としての活動とされ、企業の収益は総額表示し、そうでない場合には、代理人としての活動とされ、手数料部分のみを収益として計上します(収益の純額表示)。

IFRSでは、企業が本人当事者として活動していることを示す具体的な指標を、次のとおり挙げています。これらの判断ポイントについて、契約上の取り決めだけでなく、総合的に勘案する必要があります(<図2>参照)。

図2 当事者取引・代理人取引の判断イメージ(直送取引)
図2 当事者取引・代理人取引の判断イメージ(直送取引)

  • 顧客に対して物品または役務を提供する、もしくは、その注文を履行する主たる責任を負っている。
  • 売れ残りや陳腐化などの注文に関する在庫リスク、出荷過程における事故・破損などのリスク、または返品リスクを負っている。
  • 直接的または間接的に価格を決定する権利を有している。
  • 企業は対価の回収可能性に関して、顧客の信用リスクを負っている。

例えば、商社の直送取引について、顧客の信用リスクを負っていると判断された場合でも、次のような状況が存在するときには、総合的には重要なリスクと経済価値にさらされているとはいえないと判断され、純額表示となる可能性もあります。

  • 仕入先が返品を受け入れる(在庫リスクがない)。
  • 注文履行の義務は仕入先にある。
  • 価格・マージンはあらかじめ固定されている。

従って、企業は自社の主要な顧客や取引パターンについて、前述の判断ポイントに照らして実態を整理し、本人当事者か代理人かの境界線を具体化することが重要となります。

3. リベート

卸売企業は、期間、量、金額など、さまざまな契約条件によって顧客にリベートを支払っており、特に食品業界などの一部の業種では、リベートが重要な取引構成要素となっている場合があります。会計処理は、売上高から控除する方法と、販売費および一般管理費として処理する方法が併存しています。

IFRSでは、収益は受領した、または受領可能な公正価値(企業が許容した値引きおよび割戻しの額を考慮後)により測定しなければならないとしています。そのため、リベートが買手における販売促進費などの経費の補填であることが明らかな場合を除き、リベートを売上高から控除することが適切と考えられます。

例えば、売上数量に一定の料率を乗じたリベートや、一定期間内で契約販売数量に達した際の達成フィーは、一般的に販売条件決定時の重要な要素であり、売上高から控除する必要があると考えられます。一方で、リベートや割引などという名称にもかかわらず、実態としては販売先のプロモーション活動への協賛金や補填であるような場合には、販売費として処理することになると考えられます。このように、リベートについては支出の名目にかかわらず、性質を個別に判断する必要があります。

4. 仮単価売上

鉄鋼や非鉄金属、エネルギーなどを取り扱う卸売企業では、商品の市況変動が価格決定に直接の影響を及ぼすため、当初は暫定的な価格で売上を計上し、事後的に価格精算および売上高の修正を行うような商慣習があります。

IFRSでは、II. 1③のとおり、「収益の額が信頼性をもって測定できる」ことが収益認識の一要件として規定されているため、暫定的な価格について合理性がないと判断される場合には、収益の額を合理的に見積もることができるようになる時点まで収益認識を遅らせる必要があります。

5. 有償支給

商社など一部の卸売企業では、仕入れた材料・部品を加工先へ有償支給し、完成した加工品を再び引き取って買手に販売する取引を行っています。加工先への有償支給時に売上を計上し、加工品の引き取り時に仕入計上した後、買手に製品を販売した際に再度、売上を計上するケースがあります。

一方、IFRSでは、買戻条件の付された販売契約における収益認識について、次のとおりとしています。

企業は物品を販売し、同時に、その物品を後日、買い戻すという契約を結んで、その取引の実質的効果を打ち消すことがあるが、このような場合、二つの取引は一体として取り扱われる。

同様の取引に対しては、販売取引と買戻取引をまとめた上で、単一の収益認識要件を適用する必要があります。将来、買い戻されることが相当程度、予想される有償支給材については、契約により加工先への所有権が移転するとされている場合であっても、加工先への有償支給時点では、物品の所有に伴う重要なリスクおよび経済価値が移転していないと判断される可能性があるため、その部分の収益を計上することはできないと考えられます。

6. 公開草案「顧客との契約から生じる収益」の公表

2010年6月に、さまざまな業界に適用される単一の収益認識基準の開発を目的として、公開草案「顧客との契約から生じる収益」が公表されました。

この公開草案によれば、次の五つのステップを経ることによって、収益として認識すべき適切な金額および時期を決定するとされています。

  1. 顧客との契約の識別
  2. 契約における独立した履行義務の識別
  3. 取引価格の決定
  4. 取引価格を独立した履行義務へ配分
  5. 各履行義務が充足された時点(すなわち顧客が物品またはサービスに対する支配を獲得した時点)において収益を認識

ここで、収益を認識する時点でいわれている支配とは、顧客が物品またはサービスの使用を指示し、かつ、それらから便益を享受する能力であるとされます。

本公開草案は、11年6月末までに最終基準として公表される予定です。現在のさまざまな取引について、最終基準となった際に影響が生じ得る履行義務の識別や、支配の獲得による収益認識などの論点を検討することが必要になります。

III その他の論点

1. のれん

近年の卸売業界の再編や、商社の活発な事業投資もあり、企業結合から生じる、のれんに関する論点は、卸売業各社にとって重要度の高い論点です。

IFRSでは、のれんを取得企業の持分相当額についてのみ認識する「購入のれんアプローチ」のほか、非支配持分も含めた被取得企業全体を公正価値で測定し、のれんは非支配持分に帰属する部分も含めて認識する「全部のれんアプローチ」も認められています。従って、全部のれんアプローチを採用する場合は、企業結合時に、非支配持分の公正価値を測定するプロセスが必要となります。

また、IFRSでは、のれんは償却されず、兆候の有無を問わず毎期、減損テストを実施する必要があります。従って、資金生成単位ごとに毎期、のれんの回収可能価額を算定するプロセスが必要となります。

2. 債権の評価

卸売業には、売上債権が多額かつ取引口座数が小口で膨大という特徴があります。また、卸売企業は生産者と小売業の間に位置して代金の回収、一時立替払いなどを行うため、実質的には資金の貸付と同様の効果となる金融機能も有しており、比較的長期の信用を供与するケースがよく見られます。従って、債権の評価は、卸売業では重要な論点になることが多々あります。

債権の評価については、現行のIAS第39号に基づくと、次に例示される債権の減損発生の客観的証拠がある場合には、帳簿価額を減額することになります。

【客観的証拠の例示】
  • 発行体または債務者の重大な財政的困難
  • 利息または元本の支払不履行または遅滞などの契約違反
  • 貸手による返済猶予等の譲歩
  • 発行者が破産または他の財務的再編成に陥る可能性の高まり
  • 当該金融資産についての活発な市場が財政的困難により消滅
  • ある金融資産グループの見積将来キャッシュフローの減少を示す観察可能なデータ(個々の金融資産に関してそれが認識されているかを問わない)

従って、IFRSでは減損の測定に当たり、過去複数年の貸倒実績率をそのまま利用することはできず、貸倒実績率などのデータは見積将来キャッシュフローに反映させる点に留意が必要です。

3. 有価証券の評価

卸売企業は、新規ビジネスの開拓や既存ビジネスの業容拡大のための事業投資、商権獲得のための仕入業者への投資など、取引関係を通じた投資を多く行っています。そのため、有価証券、とりわけ非上場株式に代表される時価のない有価証券の評価は、多くの企業で論点となります。IFRS第9号に基づくと、すべての株式が公正価値で評価されることになり、日本基準でいう減損処理はされなくなります。


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