国際財務報告基準
(IFRS、国際会計基準)
IFRS Developments

開示イニシアティブ-重要性プロジェクトに関するアップデート

2017.10.11
重要ポイント
  • IASBの開示イニシアティブは、リサーチ・プロジェクトと適用プロジェクトで構成されており、IFRS財務諸表における開示の有効性の改善を目的としている。
  • IASBは、IFRS財務諸表作成時の企業による重要性の判断に役立つ、強制力のない実務記述書を公表した。
  • 実務基準書は、重要性の概念を企業の財務諸表に適用する際の4ステップから構成されるプロセスを提案しており、また特定の状況において重要性をどのように判断すべきかについてガイダンスを設けている。
  • IASBは、「重要性がある」の定義を明確にし、いずれの基準でもその定義が同じように適用されるようにIAS第1号及びIAS第8号の改訂を提案する公開草案「『重要性がある』の定義」を公表した。コメントの募集期限は2018年1月15日である。

概要

国際会計基準審議会(IASB)は、2017年9月14日にIFRS実務記述書第2号「重要性の判断の行使」(以下、「PS」という)及び公開草案「『重要性がある』の定義」(以下、「ED」という)を公表した。これらはいずれもIASBの開示イニシアティブの一部である重要性プロジェクトの成果物である。

「コミュニケーションの改善」というテーマ

財務報告におけるコミュニケーションを向上させるため、IASBは「財務報告におけるコミュニケーションの改善」を2017年から2021年のアジェンダの中心テーマとして位置付けている。「開示イニシアティブ」は、この「コミュニケーションの改善」の一環として、IFRS財務諸表における開示の有効性の改善を目的としている。重要性プロジェクト以外に、以下の2つのプロジェクトも開示イニシアティブの一環である。

  • 開示の原則:本プロジェクトは、開示の問題点を識別しその理解を深め、開示に関する新たな原則の開発又は既存の原則の明確化を目的としている。IAS第1号「財務諸表の表示」の一般的な開示規定及び既存の「概念フレームワーク」を改訂するプロジェクトで開発されている概念がプロジェクトの対象となる。IASBは、2017年3月にディスカッション・ペーパーを公表している※1
  • 基準レベルでの開示規定の見直し:本プロジェクトでは、新基準の策定又は既存の基準を改訂する際の開示規定の設定時に、IASBが利用する草案作成ガイドの開発を目的としている。既存の基準書の開示規定も開示の有効性を改善すべく再検討される可能性がある。

次の2つのプロジェクトがすでに完了している。

  • IAS第1号の狭い範囲での改訂:IASBは2014年に、財務諸表作成時の企業による判断に資するため、IAS第1号の改訂を行った。
  • IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」の改訂:2016年1月に公表された改訂では、財務活動から生じる負債の変動に関する開示が求められるようになった。

IASBは「開示イニシアティブ」の他にも、「基本財務諸表」プロジェクトにおいて基本財務諸表の構造及び内容の変更の可能性について検討している。さらに、IFRS財務諸表に表示及び開示される情報を分類することでIFRSに基づく財務情報の電子媒体による報告を促進する「IFRSタクソノミ」プロジェクトも「コミュニケーションの改善」におけるテーマの1つである。IFRSタクソノミによって電子的財務情報のタグ付けが可能になり、コンピュータによりこの情報を識別、読取及び抜粋することができるようになる。

IASBはまた、より完全かつ明確な最新の概念を定めることで財務報告を改善すべく、別個のプロジェクトとして「財務報告に関する概念フレームワーク」(概念フレームワーク)を再検討している。

※1: ディスカッション・ペーパー DP/2017/1, 開示イニシアティブ-開示の原則

実務記述書

PSには、IFRSに基づく一般目的財務諸表を作成する際の企業による重要性の判断に役立つ、強制力のないガイダンスが含まれている。このガイダンスは、財務諸表には目的適合性のある情報が十分に含まれておらず、目的適合性に欠ける情報が含まれている場合があるとの懸念に対処するためのものである。 IASBはこれらの懸念を、いわゆる「開示における問題」の主要因と考えている。PSはまた、財務諸表の利用者が、財務諸表を作成する際に企業がどのように重要性についてどのように判断しているのかを理解する際の一助ともなろう。

PSには以下に示した主要な3つの分野に関するガイダンスが含まれている。

  • 重要性の一般的特徴
  • 財務諸表作成時に重要性を判断する際に適用されうる4つのステップから構成されるプロセス(「重要性プロセス」)
  • 特定の状況(具体的には過年度の情報、誤謬及び財務制限条項さらには期中報告)において、どのように重要性を判断すべきかについて指針を与えるガイダンス

PSはさらに、企業に求められる重要性の判断と各国の法律や規制との関連性についても説明している。各国の法律や規制が、財務諸表に含まれる情報に影響を与えうる追加的な規定を定めている場合がある。IFRSでは、重要な情報が曖昧となってしまわない限り、IFRSの観点からは重要でなくても、各国の法律又は規制が要求する事項を充足するために、そうした追加的な情報を開示することは容認されている。

PSはいくつかの設例を用いて、ガイダンスの適用方法を説明している。

重要性の一般的特徴

PSは、以下の特徴を検討することで重要性を考察している。

  • 「重要性がある」の定義:財務諸表の目的は、主要な財務諸表利用者にとって有用となる、報告企業に関する財務情報を提供することである。企業は適切に重要性を判断することで、この目的を達成するのに必要な情報を識別する。PSでは「財務報告に関する概念フレームワーク」における「重要性がある」の定義に言及している。しかし、ED(下記参照)における提案の結果、「重要性がある」の定義に変更が生じた場合、PSもそれに応じて修正されることになる。
  • 重要性の判断は広範に及ぶ:重要性の判断は、財務諸表の作成において広範に及ぶ。すなわち、企業は、認識及び測定、さらに表示及び開示を検討する際に、その重要性を判断する。IFRSの規定は、完全な1組の財務諸表に対しその影響が重要となる場合にのみ、適用する必要がある。しかし、ある特定の表示をしたいがために、IFRSからの逸脱を行う、又は逸脱を是正しないのは、その重要性を問わず適切ではない。PSでは、IFRSに具体的な開示に関する要求事項が列挙されている、又は「最低限の要求事項」と記述されていたとしても、重要性がない場合、そのような開示は必要ないことが明確にされている。
  • 判断:重要性の判断においては、企業の状況(及び過年度からの変化)、及び情報が財務諸表の主要な利用者の情報ニーズにどのように資するのかのいずれも検討しなければならない。
  • 要な利用者及びその情報ニーズ:重要性を判断する場合、情報が財務諸表の主要な利用者の意思決定にどのように影響を及ぼすと合理的に見込まれるか、及び、当該利用者は財務諸表に基づきどのような決定を行うかを考慮する必要がある。財務諸表の主要な利用者とは、既存の及び潜在的な投資家、既存の及び潜在的な貸手、さらには既存の及び潜在的なその他の債権者であり、事業や経済活動に関する合理的な知識を有し、財務諸表に含まれる情報のレビュー及び分析を熱心に行うことが想定されている。財務諸表では利用者が必要とするすべての情報を提供することはできないため、企業は、(ある特定の利用者又はニッチな利用者グループに特有なニーズではなく)主要な利用者に共通する情報ニーズを満たすことを目的とする必要がある。
  • 一般に入手可能な情報の影響:財務諸表はそれ自体独立したものでなければならない。したがって、企業は、情報が別の情報源から一般に入手可能であるかどうかにかかわらず、重要性を評価する。

重要性の判断

PSでは、財務諸表作成者が重要性を判断する際の一助となる、4つのステップからなる重要性プロセスを提案している。重要性プロセスは、認識、測定、表示及び開示上、情報が重要であるか否かをどのように評価しうるのかを説明している。

4ステップ・プロセスはPSでは次のように説明される。

(下の図をクリックすると拡大します)

この重要性プロセスでは、重要ではない情報が不必要に含まれることだけではなく、潜在的な脱漏や虚偽記載についても検討している。いずれの場合も、情報が財務諸表利用者の意思決定にどのように影響を及ぼすと合理的に見込まれるかに焦点が当てられている。

特定の論点

PSは、以下のような特定の状況において、どのように重要性を判断すべきかについてガイダンスを提供している。

  • 過年度情報
    企業は、過年度の財務諸表に含まれているかどうかに関係なく、当期の財務諸表の理解に資すると判断される場合、過年度情報も提供する必要がある。すなわち、従来提供されていなかった過年度情報を(当期の財務諸表の理解に資する場合)含める、又は当期の財務諸表の理解に必要な情報のみを残した、過年度情報の要約を提供することもありうる。
  • 誤謬
    企業は誤謬(脱漏及び(又は)虚偽記載)の重要性を個々に、及び全体として評価し、すべての重要な誤謬、さらには財務諸表におけるある特定の表示を達成したいがために意図的に行われた重要性のない財務報告上の誤謬を訂正する。誤謬の累計額(すなわち数期間にわたって累積された誤謬の額)に重要性が出てきたかを評価するにあたり、状況の変化があったか、当期に誤謬がさらに累積したかを検討する。誤謬の累計額は、当期の財務諸表において重要性が出てきた場合、訂正する必要がある。
  • 財務制限条項
    財務制限条項に関する情報の重要性を評価する際に、財務制限条項違反が財務諸表に及ぼす潜在的影響及びそれが生じる可能性を検討する。
  • 期中報告に関する重要性の判断
    期中報告においても、年次財務諸表における評価と同様の重要性の要因を検討する。ただし、期中財務諸表の期間及び目的(すなわち直近の完全な1組の年次財務諸表のアップデートの提供)は年次財務諸表のそれらとは異なるという点は考慮される。

公開草案「『重要性がある』の定義」

IASBは、「重要性がある」("material")の定義を明確にし、いずれの基準でもその定義が同じように適用されるよう、EDを公表し、IAS第1号及びIAS第8号「会計方針、会計上の見積り及び誤謬」に対する改訂を提案している。本EDにおける提案は、既存の規定に対する理解の改善を意図するものであり、企業による重要性の判断又は財務諸表に著しい影響を与えることを意図するものではない。

EDにおける提案の結果として、IAS第1号及びIAS第8号の「重要性がある」の定義が修正された場合、PS及び近々公表される予定の修正版概念フレームワークも改訂される。

次のステップ

PSは強制力のないガイダンスであることから、直ちに適用することができる。ED「『重要性がある』の定義」に対するコメント募集期限は2018年1月15日である。

弊社のコメント

今回のPSは、企業が重要性を判断する際に有用となるガイガンスを提供しており、財務諸表を用いたコミュニケーションの有効性は向上するものと考えられる。さらに今回のPSは、企業、その監査人及び規制当局が重要性の評価を議論する際に参照することのできるものとして有用な文書である。PSのガイダンスに強制力はないが、財務諸表を作成する際に、このガイダンスを用いて検討することを推奨する。


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