資産の意図した使用が可能になる前に稼得された収益

2017年7月13日 PDF
カテゴリー その他のIFRS基準

重要ポイント

  • IFRS解釈指針委員会(IFRS IC)とIASBは、資産の意図した使用が可能になる前に稼得された収益について、企業の会計処理方法にばらつきがみられることに留意した。
  • IASBはIAS第16号の修正を提案するEDを公表した。
  • EDがそのまま最終基準化された場合、資産の意図した使用が可能になる前に稼得された収益を、関連する有形固定資産の取得原価から控除することは禁止され、当該金額は純損益に認識されることになる。
  • コメント募集期限は2017年10月19日である。

概要

国際会計基準審議会(IASB)は、2017年6月20日に公開草案(ED)「固定資産-意図した使用の前の収入」(IAS第16号の修正案)を公表した。

当EDでは、経営者が意図した方法で資産を稼働可能にするために必要な場所及び状態に置くまでの間に(すなわち、資産の意図した使用が可能となるまでに)生産された物品の売却から生じる収入を、有形固定資産項目の取得原価から控除することを禁止すべく、IAS第16号「有形固定資産」の修正が提案されている。したがって、そのような収入は純損益に認識される。

発効日は今後決定される。提案されている経過措置によれば、当該修正を最初に適用する年度の財務諸表に表示される最も古い期間の期首以降に、経営者が意図した方法で稼働可能にするために必要な場所及び状態に置かれた有形固定資産項目に対してのみ、当該修正が遡及適用される。

背景

経営者が意図した方法で資産を稼働可能にするために必要な場所及び状態に置く過程のなかで、収益が稼得されるケースもある。そうした状況は、鉱業及び石油ガス事業で一般的にみられる。

  • 鉱業:資産の意図した使用が可能になる前に鉱物が採掘され、売却されるケースは多い。鉱山の評価段階もその1つであり、最も利益性が高くかつ最も効率的な開発方法を決定するために「試し堀」が行われる場合がある。また、鉱山の建設中(たとえば、目的物たる鉱石を含んだ岩石がある深さまで採掘用の立坑を掘る場合)に、販売可能な「生産物」が採掘される場合がある。
  • 石油ガス:油ガス田の開発計画の評価及び具体化の過程の一環で、長期の生産テストのために沿岸部に坑井が設置されることが多い。この期間中、試験的に生産された産出物が販売されることがある。

このような状況などでは、建設中の工場の試運転中に生産される物品の売却から生じる正味収入が、試運転に要するコストを上回る場合がある。IAS第16号は、資産の試運転の過程で稼得される収益相当額を、資産の取得原価から減額させるという原則を定める一方で、そうしたコストを上回る収入を純損益に計上すべきなのか、それとも資産の取得原価から控除すべきなのかを明確にしていない。

IFRS解釈指針委員会(IFRS IC)に、IAS第16号に関する以下の2つの論点を明確化して欲しいとの要望が寄せられた。

(a)IAS第16号において言及されている収入は、試運転により生産された物品から稼得された収入のみなのかどうか
(b)企業は、有形固定資産項目の取得原価から試運転のコストを上回る収入を控除するのかどうか

IFRS ICは、当該論点に対する様々なアプローチを検討したうえで、IAS第16号の修正を提案し、IASBはそれを了承した。

何が変わるのか

収益の認識

提案されている修正が最終基準化された場合、資産の意図した使用が可能になる前に有形固定資産項目により産出された物品の売却から生じる収益を、有形固定資産項目の取得原価から控除することが禁止される。したがって、それらの売却収入は、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に従って純損益として会計処理及び開示が行われる。EDでは、当該修正により、その売却がいつの時点で生じるかに関係なく、一貫して売却が生じた時点ですべての売却を収益として純損益に認識しなければならなくなり、これにより財務諸表利用者に目的適合性のある情報が提供されるとされている。

EDでは、意図した使用が可能となる前の資産により生産される棚卸資産が、企業の通常の活動によるアウトプットではないと結論付けるための根拠は存在しないとされている。従って、生産された棚卸資産の売却から生じる収入は、IFRS第15号が適用される顧客との契約から生じる収益を表すものと考えられる。

原価の配分

修正案では、資産の意図した使用が可能になる前に生産された棚卸資産項目の原価は、該当する基準書、すなわちIAS第2号「棚卸資産」に従って純損益に認識しなければならない。

しかし、EDは、原価を以下の間でどのように配分すべきかについて追加のガイダンスを提供していない。

  • 有形固定資産項目の意図した使用が可能になる前に生産され売却された棚卸資産の原価
  • 有形固定資産の取得原価
  • 異常な金額の仕損費など、棚卸資産の原価から控除すべき原価

EDの結論の根拠によると、IASBは、原価を識別するにあたり判断が求められると述べているものの、修正案では、発生した原価を配分する場合に、現在のIFRS基準書を適用する際にすでに求められている以上の判断は求められていないとしている。

EDは、そうしたアプローチにより、生産過程で使用される有形固定資産の減価償却費が当該棚卸資産の原価から控除されることになるものと考えられるが、意図した使用が可能になる前の有形固定資産の使用はごくわずかなものとなる可能性が高いとしている。

EDには具体的なガイダンスが定められていないが、今まで、そうした売却から生じる収益が純損益で認識される場合、特に採掘産業などで、売却に関する売上原価として純損益に計上される金額を算定する様々なアプローチが実務上存在している。たとえば、

  • 認識された収益に相当する金額を売上原価に計上し、発生した残りの原価を資産の原価の一部として認識する。このアプローチでは、試作品の売却から生じる正味利益はゼロとなる。このアプローチは、以前の英国石油産業会計委員会の会計実務勧告書(OIAC SORP)に定められていたガイダンス及び以前のオーストラリアGAAPに従って採掘企業が一般的に適用していたアプローチに類似している。
  • 生産した数量に標準又は予想生産原価(例:過去の期間(たとえば直近の2,3年)の実績に基づくトン/バレル当たりの加重平均原価)を乗じることで計算する。あるいは、新規の事業であれば、事業計画又は生産計画に示されているトン/バレルあたりの予想生産原価率を用いて計算し、発生した残りの原価は資産の原価の一部に含める。
  • 資産を意図した使用が可能となるようにする際に発生したコストは、売上原価として認識せず、その代わり製品を生産するための増分原価をその発生時に純損益で認識する。

開示

IASBは、関連する基準書の既存の開示規定で十分であると判断し、開示について追加の規定は定めないこととしている。その代わり、IASBは、収益と有形固定資産項目の意図した使用が可能となる前に生産された棚卸資産の原価が、企業の財務諸表にとって重要な場合、以下の基準書の開示規定を適用することになると考えている。

  • IFRS第15号:IFRS第15号の開示規定のうち、関連性があるものを検討する。特に、試作の棚卸資産の売却から生じる収益は、収益情報の明細を開示する際に、収益の一つのカテゴリーとみなされる可能性がある。
  • IAS第2号:例えば会計方針、棚卸資産の帳簿価額(もしあれば)及び費用に認識された棚卸資産の金額など、棚卸資産の製造原価に関する開示が求められる。

発効日及び経過措置

この修正の発効日はまだ決定されておらず、今後決定される。

経過措置に関し、EDは、当該修正を最初に適用する年度の財務諸表に表示される最も古い期間の期首以降に、経営者が意図した方法で稼働可能にするために必要な場所及び状態に置かれた有形固定資産項目に対してのみ、当該修正を遡及適用することを提案している。当該修正の当初適用時の累積的影響額は、表示される最も古い期間の期首時点の利益剰余金(又は適切な場合には、その他の資本の内訳項目)の修正として認識される。

例えば、修正が2019年1月1日以降開始する年次報告期間から適用され、1年分の比較情報の開示が求められる場合、2018年1月1日までに経営者が意図した方法で稼働可能な状態にするために必要な場所及び状態に至っていない開発プロジェクトは修正再表示が必要になる。

弊社のコメント

当該修正案により、有形固定資産から得られる収益の認識方法の一貫性が確保される。すなわち、収益の稼得時期に関係なく、すべての収益が純損益に計上されることになる。しかし、それで実務のばらつきを減少させることには必ずしもならない。なぜなら、修正案には、資産の意図した使用が可能になる前に発生した原価について、a)資産、b)生産された棚卸資産、c)即時に純損益に認識すべき原価との間で、どのように配分すべきかが示されていないためである。

さらに、当該収益がIFRS第15号に従って個別の開示が求められるほどに重要である場合、収益の源泉がより把握しやすくなるが、資産の意図した使用が可能になる日、すなわち試運転の完了日に関してより注目が集まることになる。原価(借入コストを含む)の資産化をいつの時点で停止すべきか、剥土コストの会計処理をいつの時点で変更すべきか(鉱業会社に限る)、いつの時点から減価償却を開始すべきかなど、この日付は、当該資産のその他の会計処理にも影響を与える重要な日付だからである。

次のステップ

コメント募集期限は2017年10月19日である。我々は、利害関係者が、修正案に関するフィードバックをIASBに提出することを推奨する。

関連資料を表示

  • 「IFRS Developments 第128号 2017年6月」をダウンロード

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