新日本有限責任監査法人
国際財務報告基準
(IFRS、国際会計基準)
IFRS Developments

IASBによる新たな期待信用損失モデルの提案

2013.03.12
重要ポイント
  • IASBは、(発生信用損失ではなく)期待信用損失に基づいた貸倒引当金の認識及び測定を提案する公開草案を公表した。
  • 新たな期待信用損失モデルの適用対象は、貸付金、負債性証券、売掛債権、リース債権、取消不能なローン・コミットメント及び金融保証契約である。
  • 信用損失は、12カ月期待信用損失として測定されるが、(一定の例外はあるものの)仮に信用リスクが当初認識時以降、著しく増加した場合には、残存期間にわたる期待信用損失として測定されることになる。
  • 売掛債権及びリース債権について、簡便法が用意されている。
  • 期待信用損失の見積りには、加重平均されたシナリオ、貨幣の時間的価値及び入手可能な最善の情報を反映する必要がある。
  • IASBによる提案は、FASBによる提案とは異なっている。
  • 公開草案に対するコメント期限は、2013年7月5日である。

概要

国際会計基準審議会(IASB)は、公開草案「金融商品:期待信用損失」(以下、ED)を2013年3月7日に公表した。EDでは、期待信用損失モデルに基づいた貸倒引当金の認識及び測定が提案されている。なお、EDでは、

  • 特定の金融資産に関し、期待信用損失の認識を求めている
  • 12カ月期待信用損失または残存期間にわたる期待信用損失に基づき、貸倒引当金を測定することを求めている
  • (IAS第39号「金融商品:認識及び測定」で認識されていた)既発生の損失だけではなく、将来の期待損失をも含む信用損失が、より早い段階で認識される結果となる可能性が高い

IASBによる提案は、米国財務会計基準審議会(FASB)との共同プロジェクトとして開発されていたものの、FASBの関係者から提起されたモデルの複雑性に係る懸念から、FASBは単一の測定目的を有する他のモデルを提案するに至っている。ただし、IASBと共に開発した主要な原則の多くの部分は維持されている。FASBによる現在期待信用損失モデルは、回収が予想されない契約上のキャッシュ・フローに関する企業の現在の見積りに係る貸倒引当金を認識することを企業に求めている。

以下は、IASBによるEDのうち、主要な部分を要約したものである。

EDの適用範囲

EDは、以下に適用される。

  • 償却原価またはIFRS第9号でその他の包括利益を通じて公正価値で測定される1金融資産(ローン、負債性証券及び売掛債権等の負債性商品を含む)
  • IFRS第9号で純損益を通じて公正価値で会計処理されない、取消不能なローン・コミットメント及び金融保証契約
  • リース債権2

一般的なアプローチ

期待信用損失モデルにおける指針となる原則は、金融商品(すなわち、EDの適用対象である、金融資産、ローン・コミットメント及び金融保証契約)の信用状況の悪化もしくは改善の一般的なパターンを反映することにある。

金融商品の当初認識時(簡便法が適用される場合や、当初認識時に信用減損している金融資産を除く(以下を参照))に、12カ月期待信用損失に等しい貸倒引当金を計上する(第1段階)。その後、信用リスクが当初認識時以降、著しく増加した場合(以下、「残存期間にわたる期待信用損失要件」)には12カ月期待信用損失ではなく、残存期間にわたる期待信用損失が計上されることになる(第2段階)。その後、信用状況が改善し、残存期間にわたる期待信用損失要件がもはや満たされなくなった際には、再度、12カ月期待信用損失に相当する貸倒引当金が計上されることになる。

残存期間にわたる期待信用損失要件の適用を簡易なものとすべく、EDでは報告日における信用リスクが低い金融商品は残存期間にわたる期待信用損失要件を充足することはないとの提案がされている。例えば、報告日において'投資適格'に格付けされている金融資産は、著しい信用状況の悪化は生じていないものとみなされ、また'投資適格'未満に格下げされるまでは継続して、著しい信用状況の悪化は生じていないものと判断される。

その他のすべての金融商品に関し、その信用状況の悪化を追跡し、信用リスクが著しく増加しているか否かを決定するため、企業側には判断が求められる。例えば、もし現在において著しく異なる条件で金融資産を実行または購入することになる場合には、信用状況の著しい悪化が生じているものと考えられる。

なお、契約上の支払いが30日超延滞した場合には、残存期間にわたる期待信用損失要件を充足するという反証可能な仮定が置かれている。

弊社のコメント

期待信用損失モデルでは、現行の発生損失モデルと比較し、より早期に信用損失が認識される結果となる可能性が高い。これは、既発生の信用損失だけではなく将来の期待損失も含む、12カ月または残存期間にわたる期待信用損失に係る引当金の認識を求めているためである。

EDにより、多くの金融機関で計上される貸倒引当金は増加する可能性がある。しかし、貸倒引当金の増加額は企業によって異なり、短い期間かつ信用リスクの低い金融商品を保有する企業ではあまり大きな影響は生じないこともあろう。

提案されている期待信用損失モデルの概要

提案されている期待信用損失モデルの概要

  • 提案されているモデルは、一般的に'3区分'期待信用損失モデルと言われている(ただし、EDではこの用語は用いられていない)
  • 測定基礎は2つ(第1段階について12カ月期待信用損失、第2及び第3段階について残存期間にわたる期待信用損失)に限られるものの、利息収益の認識方法は第2段階と第3段階では異なる。

簡便法

EDでは、簡便法も提案されており、簡便法に拠った場合、当初認識時及びその後の報告期間のいずれにおいても、残存期間にわたる期待信用損失に基づく貸倒引当金を認識することになる。

財務要素のない売掛債権に対してはこの簡便法の適用が強制される一方、財務要素のある売掛債権やリース債権には会計方針として選択することができる。

弊社のコメント

当該簡便法を適用した場合、信用状況の悪化を追跡する必要性がなくなり、また12カ月期待信用損失にかかる情報や信用状況の変化を開示する必要もなくなる。よって、多くの関係者(主として一般事業会社)は、当該簡便法を歓迎することになろう。

当初認識時に信用減損している金融資産

減損したという客観的な証拠(IAS第39号の'損失事象'に類似)が金融資産の実行時または取得時に存在した場合、EDでは、残存期間にわたる当初の期待信用損失は信用調整された実効金利に反映されるため、当初認識時に貸倒引当金を認識することはできない。その後、当初認識時以降の残存期間にわたる期待信用損失の増加に基づき、貸倒引当金は認識される。信用リスクが良い方向に変化した結果、実効金利の計算に織り込まれている当初の見積りよりも、残存期間にわたる期待信用損失の見積りが小さくなった場合には、利得が認識されうる。

利息収益

EDでは、利息収益は損益計算書上、個別科目として表示することが求められている。信用減損している金融資産を除き、報告日において減損しているという客観的な証拠が存在しない限り、グロスの帳簿価額に対する実効金利法(IAS第39号と類似)を用いて、利息収益を計算する。例えば、当初認識時に手数料等が存在しなかったとすれば、約定金利がそのまま計上されることもありうる。なお、減損の客観的な証拠が存在する場合には、その後の報告期間において貸倒引当金をネット後の帳簿価額に基づき、利息収益を計算することになる(第3段階)。すなわち、この場合、発生損失を考慮した見積将来キャッシュ・フローを当初の実効金利で割り引いた金額まで帳簿価額を調整(差額は利息又は損失)し、当該帳簿価額に、当初の実効金利を乗じて利息収益が計上されるため、受取利息は減損を反映した金額となる。

期待信用損失

EDでは、金融商品の残存期間におけるすべてのキャッシュの不足額の現在価値に基づき、残存期間にわたる期待信用損失を見積もることが提案されている。12カ月期待信用損失は、残存期間にわたる期待信用損失のうち、報告日後、12カ月以内のデフォルトの発生可能性に対応する部分である。

EDでは'デフォルト'の正確な意味は定義されておらず、また期待信用損失を見積もるための具体的なアプローチを規定もしていない。ただし、使用するアプローチは期待信用損失を見積もるうえでの以下の属性を反映したものであることが強調されている。

  • 加重平均された帰結 :企業は、すべての可能性のあるシナリオを識別する必要はないものの、可能性のある複数の帰結を考慮する必要がある。期待信用損失を見積もるにあたり、信用損失の可能性をその可能性がどれほど低くても考慮に入れる。これは、最も可能性のあるシナリオや最良の単一の見積りとは異なる。
  • 貨幣の時間的価値:信用減損した金融資産を除き、金融商品の当初認識時に算定された割引率で期待信用損失を報告日まで割り引く必要がある。リスク・フリー金利及び金融資産の実効金利の間(両率を含む)の率を割引率として選択することができる。 ローン・コミットメント及び金融保証契約については、貨幣の時間的価値に関する現在の市場評価及びそのキャッシュ・フローに固有のリスクを反映した割引率を用いる必要がある(割引率を調整することによりリスクを考慮する場合)。
  • 入手可能な最善の情報:過大なコスト及び労力をかけずに合理的に入手可能な情報(過去の事象、現在の状況及び将来の事象に関する合理的で裏付け可能な予測を含む)を検討する必要がある。
弊社のコメント

貸倒引当金の見積りには重要な判断が常に求められてきた。現行の発生損失モデルから、期待信用損失モデルへと移行した場合、過去及び現在のみならず、将来に関する情報も考慮することになり、より判断が求められることになろう。

償却原価またはOCIを通じて公正価値で測定される負債性商品


  • * 簡便法は、財務取引ではない売掛債権に強制され、財務要素を含む売掛債権や、リース債権については(適用可能な場合)選択可能である。
  • **その後の期間において、信用状況が改善し、残存期間にわたる期待信用損失要件がもはや充足されなくなった場合、残存期間ではなく12カ月の期待信用損失を認識する。同様に、減損しているという客観的な証拠がもはやなくなった場合、ネットではなくグロスの帳簿価額に基づき利息収益を計算する。

追加の検討事項

会計単位

リスク特性を共有する金融商品がグループ化されている場合には、期待信用損失の測定及び残存期間にわたる期待信用損失要件の適用を、個々の金融資産ごとではなく、集合的に行うことができる旨がEDでは明確にされている。リスク特性には、商品の種類、信用リスク格付、実行日、満期までの残存期間及び借手の地理的なロケーションが含まれる。

インディケーター

EDでは、残存期間にわたる期待信用損失要件を適用する際に企業が検討する情報の種類(インディケーター)の例が提供されている。これには、信用リスクに係る内部及び外部のインディケーター(例えば、信用格付、信用スプレッド及び公正価値情報)及び借手に特有のインディケーター(例えば、業績、パフォーマンス及び借手の行動)が含まれる。

償却

EDでは、回復することがもはや合理的に見込めなくなった期に、その金融資産(または金融資産の一部)のグロスの帳簿価額を償却することが求められている(いわゆる直接償却)。

開示

  • EDでは、期待信用損失に関する企業の見積りや金融商品の信用状況の変動を財務諸表利用者が理解できるように、IFRS第7号「金融商品:開示」の規定を拡充することが提案されている。これには、以下が含まれる。
  • 12カ月期待信用損失で貸倒引当金を測定している金融資産、残存期間にわたる期待信用損失で貸倒引当金を測定している金融資産、購入または実行した信用減損金融資産以外で、報告日において減損しているという客観的な証拠がある金融資産、及び購入または実行した信用減損金融資産のそれぞれについて、 グロスの帳簿価額及び貸倒引当金に関する期首残高から期末残高への個別の調整表
  • ローン・コミットメント及び金融保証契約について、貸倒引当金に関する期首残高から期末残高への調整表
  • 期待信用損失を見積もるにあたり使用したインプット、仮定及び技法及び残存期間にわたる期待信用損失要件を適用するにあたり使用したインプット、仮定及び技法
  • 信用減損した金融資産、簡便法を適用した金融資産及び12カ月または残存期間にわたる期待信用損失で測定される金融資産のそれぞれについて、グロスの帳簿価額及び引当金を信用状況ごとに分解したもの
  • 担保に関する情報(減損しているという客観的な証拠のある金融資産に係る定量的情報を含む)
  • 残存期間にわたる期待信用損失で測定される条件変更された資産の詳細(条件変更時の利得または損失を含む)
  • 償却方針及び企業が依然として回収に努めている償却した金融資産の名目金額

すべての開示は、開示される情報の性質及びリスク特性が共有されているか否かといったことを考慮して、適切な金融資産の種類(class)に分解される。

弊社のコメント

提案されている開示により、企業の信用リスク管理及び引当プロセスの透明性が向上することになるものと考えられる。

経過規定

EDは、遡及適用が求められる。

救済措置として、当初の信用リスクを算定するために過大なコストまたは労力が必要とされる場合には、当初適用日における信用リスクが低いか否かに基づき(例えば、投資適格水準か否か)、残存期間にわたる期待信用損失要件を適用することができる。

加えて、比較可能期間の修正再表示は求められず(ただし、後知恵を利用しない限りにおいて、修正再表示は認められる)、利益剰余金(及び貸倒引当金)の期首残高を調整することが認められている。

当初適用時において、過年度に関し、期待信用損失モデルが適用されていたとした場合に報告されたであろう金額、及び当期に関し、IAS第39号の減損規定が適用されていたとした場合に報告されたであろう金額を開示する必要はない。代わりに、IAS第39号及びIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」における引当金期末残高及びIFRS第9号(期待信用損失モデル)に基づく引当金期首残高を、財務諸表利用者が調整することができるような情報の開示が求められる。

IFRS第9号の他のフェーズとの関連

提案されている期待信用損失モデルは、IFRS第9号の最終版において適用可能であり、これは分類及び測定、及び一般ヘッジ会計の改訂プロジェクトの結果を反映したものとなる。

「IFRS第9号分類及び測定の限定的な改訂(公開草案)」では、IFRS第9号の最終版をすべて適用する場合に限った、期待信用損失モデルの早期適用が提案されている。

今後

IASBによるEDのコメント期限は、2013年7月5日である。FASBによる提案に対するコメント期限は2013年4月30日となっている。

弊社のコメント

我々は、IASBとFASBがそれぞれの提案に対して提出されたコメントを共同で検討することを願っている。そうすることで、収斂された解決策に向けて協働する機会も生じ、貸倒引当金に関する会計処理が一貫したものとなり、ひいては利害関係者にとって比較可能性も向上することになろう。

適切な場合、関係者はIASBスタッフによるアウトリーチ活動に参加し、実務で適用可能であり、すべての利害関係者の利益に資する強健な会計基準の開発に協力することが望まれる。


  1. IFRS第9号「分類及び測定の限定的な改訂」(公開草案、2012年11月公表)における提案
  2. IAS第18号「収益における売掛債権」及びIAS第17号におけるリース債権、及び収益認識及びリースに関する現在の提案が含まれる