新日本有限責任監査法人
国際財務報告基準
(IFRS、国際会計基準)
IFRS Developments

IAS第39号及びIFRS第9号への改訂案:デリバティブが更改(ノベーション)された場合のヘッジ会計の取扱い

2013.03.15
重要ポイント
  • 国際会計基準審議会(IASB)は、2013年2月28日に、法律又は規制により、ヘッジ関係に指定されているデリバティブのカウンター・パーティーを、中央清算機関(CCP: Central Counterparty)に変更するようにノベーション(契約の更改)しなければならない場合に、ヘッジ会計の中止を不要とすることを提案するEDを公表した。
  • ヘッジ中止規定に対する例外は、法律又は規制に基づくノベーションにのみ適用される。
  • 救済措置は自発的なノベーションには適用されない。
  • コメント募集期限は2013年4月2日である。

概要

国際会計基準審議会(IASB)は、2013年2月28日に、公開草案(ED)「デリバティブのノベーション及びヘッジ会計の継続(IAS第39号及びIFRS第9号の改訂)」を公表した。EDは、法律又は規制により、ヘッジ関係に指定されたデリバティブのカウンター・パーティーをCCPに変更するために契約がノベーションされる一定の場合に、ヘッジ中止規定に対する例外措置を認めることを提案している。

提案内容

この論点は、今後、欧州市場インフラ規制(EMIR)が施行されると、企業はヘッジ関係に指定しているデリバティブをノベーションしなければならなくなることを背景に、IFRS解釈指針委員会(IFRIC)に提出された(日本国内における動向については下記を参照)。IFRICは、この論点を2013年1月の会議で最初に討議したが、そこでは、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」により、「ヘッジ手段に指定されている店頭(OTC)デリバティブが、EMIRに従いカウンター・パーティーをCCPとするようにノベーションされる場合には、既存のデリバティブの認識を中止し、CCPを相手方とする新たなデリバティブ契約をノベーション時点で認識しなければならないため、その時点でヘッジ会計を中止せざるをえない」と述べていた1。もしそうであるとすると、唯一、ノベーションがあらかじめヘッジ文書に記載されている例外的な状況をのぞき、EMIR対応によるノベーションにより、ヘッジ会計は中止されてしまう。この場合でも、企業は、ノベーション後にデリバティブをヘッジに再指定することはできる。しかし、再指定したとしても、これらのデリバティブは、ほとんどの場合、その時点の公正価値がすでにゼロではないため、キャッシュフロー・ヘッジにおいて、非有効性を計上しなければならなくなる可能性が高い。

このためIFRICは、一定の場合に企業がヘッジ会計を継続することができるように、限定された範囲に限って改訂を行うことをIASBに提言した。これを受けて、IASBは今般、IAS第39号のヘッジ会計の中止に関する規定、及びIFRS第9号「金融商品」のヘッジ会計に関する規定(新たなヘッジ基準は近々、公表予定)に例外を設けることを提案している。なお、例外は、以下の条件すべてに該当するデリバティブのノベーションに限って認められる。

  • ノベーションは法律・規制によるものである。
  • ノベーションされるデリバティブのすべての当事者のカウンター・パーティーがCCPになる。
  • カウンター・パーティーがCCPになることに伴い当初の契約条件が変更される場合、その変更はノベーションに直接起因するものに限られる。すなわち、変更は、当初からCCPとデリバティブ契約を締結したとしたら必要とされたであろう条件に合わせる程度に限定されている(例:担保要求、CCPとの間での債権・債務の相殺権、CCPから課される賦課金)。

上記3つ目の条件は、ノベーションに直接起因して生じる契約条件の変更を、将来に向けたヘッジ継続の評価に影響させないことを意味している。ただし、契約変更によるデリバティブの公正価値の変化は、ヘッジ非有効性として認識しなければならない。

金融危機を契機とする店頭デリバティブの一元決済~日本の状況

金融危機の渦中における一部の金融機関の破綻により、信用リスクがグローバルなデリバティブ市場に及ぼす影響が浮き彫りになった。こうした状況に対処すべく、G20諸国は、2009年9月に開催されたピッツバーグ・サミットにおいて、標準的な店頭デリバティブを、CCPを通じて一元決済すべきことに同意した。CCPは通常、デリバティブに担保を要求するため、それにより(潜在的に)カウンター・パーティー信用リスクが大幅に減少することになる。

これを受けて、各国又は地域では、デリバティブの相手先をCCPとするように店頭デリバティブのノベーションを求める法律又は規制が、すでに導入、あるいは導入過程にある。

日本においては、平成22年の改正金融商品取引法により、標準化された取引に係る清算集中制度、及び取引情報保存・報告制度が導入され、金融商品取引業者等に対し、一定の店頭デリバティブ取引について、①国内外の清算機関を用いて清算を行うこと、又は②国内の清算機関を用いて清算を行うこと、のいずれかが義務付けられた。

なお、清算集中制度の具体的な対象者や対象取引については内閣府令等で定める必要があるとされたが、2011年12月26日には、金融庁から、"「店頭デリバティブ市場規制にかかる検討会」における議論の取りまとめ"が公表され、制度の具体化の方向性が示されている2

同文書の要点は以下のとおりである。

<対象者>
対象者は2段階で範囲を拡大するものとし、第1フェーズでは、対象取引を高頻度で大量に行い、想定元本残高も大きく、清算機関への適正な価格提供能力を有する等の要件を満たす金融商品取引業者等を対象とする。その後、制度が施行される第1フェーズ開始後2年程度を目処とし、第2フェーズとして、状況を勘案しつつ、カウンター・パーティー・リスクが一定以上の金融商品取引業者等に対象範囲を拡大する。

<対象取引>
制度施行当初は、取引量の多さや重要性を鑑み、以下の取引とする。なお、施行後も、取引の規模や清算機関での取扱いの有無や国際的な議論の動向などを踏まえ、機動的に見直しを行う。

  • 円建て金利スワップのうち、プレーン・バニラ型で変動金利の対象指標をLIBORとするもの
  • CDSの指数銘柄であるiTraxx Japan

なお、その後、状況を踏まえ、ドルやユーロ建プレーン・バニラ金利スワップや日本企業を参照企業とするシングルネームCDS等の取引への対象拡大を検討するものとされている。

なお、海外においても、米国のドッド=フランク・ウォール・ストリート改革及び消費者保護法(ドッド=フランク法)やEUのEMIRが導入過程にある。


今回提案された例外措置は、強制的なノベーションのみに限定されており、その範囲が狭すぎるとの懸念を表明する関係者もいた。このためIASBは、EDへのコメント募集にて、範囲を限定する今回の提案に同意するかどうかについて、特に関係者の意見を要請している。

強制的なノベーションと自発的なノベーション

今回提案された例外措置は、強制的なノベーションのみに限定されており、その範囲が狭すぎるとの懸念を表明する関係者もいた。このためIASBは、EDへのコメント募集にて、範囲を限定する今回の提案に同意するかどうかについて、特に関係者の意見を要請している。

ドッド=フランク法などの一部の規制は、将来に向けてのみ適用しなければならないとされる。すなわち、カウンター・パーティーをCCPにするようにノベーションしなければならないのは、新たなデリバティブについてのみである。企業は、今後締結する新たなデリバティブ契約をヘッジ指定する上では、ノベーション後の契約内容を粛々とヘッジ文書に織り込めばよいため、今回提案された例外措置は、そのような新たなデリバティブには要求されないことになる。

一方、CCPが提供する標準化された一元決済処理を利用するために、既存のデリバティブについても自発的にノベーションしたいと考える企業も存在する。また、金融機関の自己資本比率も厳格化しており、金融機関には強制されなくとも、自発的にカウンター・パーティーをCCPとするようにデリバティブをノベーションする経済的なメリットも生じている。

さらに、企業結合において、デリバティブの当事者を、被取得企業から取得企業に変更するように契約を更改すること(ノベーション)は一般的であり、この場合、被取得企業の相手方としてデリバティブを保有する企業もカウンター・パーティーを変更しなければならなくなる。当該デリバティブがヘッジ関係に指定されている場合、こうしたノベーションについてもヘッジ会計の中止として扱わなければならないのかについて疑問を呈する関係者もいる。

次のステップ

欧州においては、店頭デリバティブに関する法律及び規制は、2013年後半には発効する。このためIASBは、新たな規定を適宜に最終基準化するため、EDに対するコメント募集期間を最短の1ヵ月に設定している。こうした国際的な動向を踏まえ、日本においても、今後、上記の清算集中制度が施行される可能性がある。このため、EYは、関係者に対して、現行、あるいは今後予想される現地の法律又は規制に基づき行われる店頭デリバティブのノベーションに関連して生じる懸念が、今回の提案で払拭されるかどうかを十分に検討することを強く推奨している。


  1. IFRIC Update 2013年1月
  2. (出所)金融庁「店頭デリバティブ市場規制にかかる検討会」における議論の取りまとめ


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