新日本有限責任監査法人
国際財務報告基準
(IFRS、国際会計基準)
IFRS Developments

ヘッジ会計に重要な変更~
それに伴う最終化のさらなる遅れ

2013.02.07
重要ポイント

2013年1月の審議会において、IASBは、ヘッジ会計基準についていくつかの重要な変更と明確化を行った。

  • IASBは、為替予約又は通貨金利スワップのフォワード要素に含まれる通貨ベーシス・スプレッドは、「ヘッジのコスト」として認識されるべきと考えた。
  • その結果、オプションの時間的価値や為替予約のフォワード要素と同様に、企業は通貨ベーシス・スプレッドをその他の包括利益(OCI)に計上することができるように提案されている。
  • こうした取扱いは、キャッシュフロー・ヘッジと公正価値ヘッジの両方に適用される。そのため、IAS第39号「金融商品:認識及び測定」に基づく公正価値ヘッジの現行処理と比べると、純損益のボラティリティを大幅に解消することができる。
  • IASBは、IAS第39号に含まれているマクロ・キャッシュフロー・ヘッジの会計処理に関する適用ガイダンスをIFRS第9号に引き継がない、という従前の決定を確認した。その上でそれが、IFRS第9号でマクロ・キャッシュフロー・ヘッジ会計を適用することができないことを意味するものではないことを明確にした。
  • その一方でIASBは、関係者が、IFRS第9号の下でのマクロ・キャッシュフロー・ヘッジ戦略の適用について、どのような懸念を抱いているかをさらに理解するために限定的な範囲でアウトリーチを実施することを決定した。

概要

国際会計基準審議会(IASB)は、2012年9月に、最終版のIFRS第9号「金融商品」の第6章「ヘッジ会計」の基準案(以下、RD)を公表した。IASBが特に要請したわけではないものの、RDには多くの関係者からコメントが寄せられた。これを踏まえ、IASBは、2013年1月の審議会において、RDについて関係者が抱いている主な懸念を解消することになる重要な決定を行った。

その一方で、IASBは、IFRS第9号におけるマクロ・キャッシュフロー・ヘッジ戦略の適用について関係者の懸念についてさらに深く理解するために限定的な範囲でアウトリーチを実施することも決定しており、それに伴い最終基準の公表が遅れる可能性が高くなっている。

通貨ベーシス・スプレッドのヘッジのコストとしての会計処理

RDの第B6.5.5項は、ヘッジ非有効の測定に、「ヘッジ対象と主要な条件が一致するデリバティブ(これは一般に「仮想デリバティブ」と呼ばれる)」を用いることができると述べている。さらに、RDでは、「仮想デリバティブ」の使用は、それ自体は方法ではなく、ヘッジ対象の価値を計算するためにのみ使用できる計算上の便法であるため、仮想デリバティブには、「ヘッジ手段にのみ存在している(しかしヘッジ対象には存在しない)要素を含めてはならない」とされている。仮想デリバティブ法は実務において幅広く利用されているにもかかわらず、IAS第39号では具体的に取り扱われていないことから、こうした明確化は、無論、関係者にとって歓迎すべきものであったが、RD第B6.5.5項において、ヘッジ対象には存在せずヘッジ手段にのみ存在する特徴の例として、通貨金利スワップ(CCIRS:Cross-Currency Interest Rate Swap)における通貨ベーシス・スプレッドが挙げられている点が問題となった。


今回、IASBは、通貨ベーシス・スプレッドは「ヘッジのコスト」であり、ヘッジ活動に伴う費用は、ヘッジ対象取引と同じタイミングで純損益を通じて認識されるべきと決定した。

通過ベーシス・スプレッドとは

通貨ベーシス・スプレッドとは、カントリー・リスク及び流動性リスクをカバーするための、リスク・フリー金利への上乗せであり、その拡大は金融危機を契機に見られるようになった現象である。こうしたスプレッドは、将来のある時点において異なる通貨を交換する取引(例:為替予約や通貨金利スワップ)にのみ上乗せされる。

金融危機以前では、為替予約や通貨金利スワップのフォワード価格からスポット相場を差し引いた値は、取引対象となる2国間のリスク・フリー金利の差とほぼ同じあった。しかし、ベーシス・スプレッドは、金融危機及びそれに続く債務危機を契機に著しく拡大し、為替予約や通貨金利スワップの価格に大きな変動をもたらした。

仮に通貨ベーシス・スプレッドを仮想デリバティブに含めないとしたら、為替予約又は通貨金利スワップをヘッジ手段とする公正価値ヘッジ及びキャッシュフロー・ヘッジの両方の場合において、非有効性が生じることになる。現在のキャッシュフロー・ヘッジに関する実務では、通貨ベーシス・リスクの変動から生じる非有効性は計上していないため、関係者は、今回の決定を、キャッシュフロー・ヘッジに関する現行実務への重要な変更をもたらすものと考えていた。

今回、IASBは、通貨ベーシス・スプレッドは「ヘッジのコスト」であり、ヘッジ活動に伴う費用は、ヘッジ対象取引と同じタイミングで純損益を通じて認識されるべきと決定した。したがってIASBは、為替予約のフォワード部分の会計処理に関する現行の規定案を、通貨ベーシス・スプレッドにも拡張することを決定した。具体的には、以下のようになる。

  • 取引に関連するヘッジ対象:通貨ベーシス・スプレッドの変動額はOCIに計上し、ヘッジ対象となる取引が発生した時点で、ベーシス・アジャストメント又は組替調整により資本の独立項目から純損益に振り替える。
  • 期間に関連するヘッジ対象:通貨ベーシス・スプレッドの変動額はOCIに計上する。ヘッジの指定時に存在している通貨ベーシス・スプレッドは、ヘッジ期間にわたり規則的かつ合理的な基準でOCIから純損益に償却する。

この会計処理は本源的価値のみがヘッジ指定されるときのオプションの時間的価値の会計処理に似ているが、キャッシュフロー・ヘッジと公正価値ヘッジの双方に適用される。

弊社のコメント

今回提案されている変更により、キャッシュフロー・ヘッジの非有効性について関係者が抱いている懸念が払拭されるだけでなく、同時に公正価値ヘッジに関する純損益のボラティリティが大幅に解消することになる。このため、EYは、IASBの決定を歓迎している。

なお、上記のIASBの提案は、通貨ベーシス・スプレッドのみに関する例外措置であり、「ヘッジのコスト」が一般的な原則として導入されるものではない点には留意が必要である。

一方、ヘッジ手段の公正価値のうち、どの部分が通貨ベーシス・スプレッドによるものなのかを判断しなければならなくなり、ヘッジ会計実務が相当難しくなる可能性もある。

マクロ・キャッシュフロー・ヘッジの適用

IFRS第9号の会計処理

2012年5月の審議会にて、IASBは、マクロ・ヘッジの会計処理に関するプロジェクトをIFRS第9号のプロジェクトから切り離し、それと同時に、マクロ・ヘッジが最終基準化され発効されるまでは、企業は引き続き金利リスクのポートフォリオ・ヘッジに関し、IAS第39号で定義される公正価値ヘッジ会計を適用できるという決定を下した。しかし、IAS第39号の適用ガイダンス(IG)には、金融機関が金利リスクを純額ベースで管理する際のキャッシュフロー・ヘッジ会計の適用に関する具体的なガイダンス(IAS第39号IG. F.6.2及びF.6.3)が設けられている。2012年5月にIASBは、これらの指針をIFRS第9号に引き継がないとの決定を行った。それにより、多くの金融機関が、IFRS第9号の下ではマクロ・キャッシュフロー・ヘッジ戦略を継続することができないのではないかとの懸念を持つことになった。

今回、IASBは、従前の決定を確認すると共に、IGが引き継がれないこと自体に深い意図はないことを明確にした(すなわち、IFRS第9号でマクロ・キャッシュフロー・ヘッジが適用できなくなることはないことを明確にした)。その上でIASBは、同IGはIAS第39号の不可分となる一部を構成するものではないことにも注意を促した。つまり、マクロ・キャッシュフロー・ヘッジ会計は、ヘッジ会計モデルを適用する上での一つの手法である一方、マクロ公正価値ヘッジ会計は同モデルの例外という位置付けである。そうした中でIGをそのまま引き継ぐと、現在のマクロ・キャッシュフロー・ヘッジ会計の手法が新たなヘッジ会計モデルとの不整合があるかのように受け取られてしまう可能性がある。

同時に、IASBは新たなヘッジ会計モデルに関する他の側面、とりわけマクロ・キャッシュフロー・ヘッジ戦略に関係する事項についても明確化した。金融機関のマクロ・ヘッジ戦略は、償却原価で保有される利付金融資産と金融負債から生じる金利マージン・リスクをヘッジすることを目的にしている。しかし、ヘッジ指定は、キャッシュフロー・ヘッジ(予定キャッシュフローの変動性をヘッジ)又は公正価値ヘッジ(公正価値の変動性をヘッジ)のどちらかしかなく、いずれも金利マージンの変動性をヘッジするという実際のリスク管理活動と完全に合致するものわけではない。また、金融機関は、キャッシュフロー・ヘッジにあたっては、通常、ネット・キャッシュフローをヘッジ対象に指定している。しかし、RDの第6.6.1項(c)は、純額ポジション(ネット)のキャッシュフロー・ヘッジを、外国為替リスクのヘッジのみに限定している。

これにより、企業が基本となるリスク管理活動を完全に反映させることにならないヘッジ(しばしばプロキシー(代理)・ヘッジと称される)を指定することができるのかどうかという疑問が生じる。これは、「企業のリスク管理活動の影響を財務諸表に反映させること」という新たなヘッジ会計モデルの目的と密接に関係するものである。今回、IASBは、ヘッジ指定が実際のリスク管理活動の「方向性に沿う」ことを条件に、プロキシー・ヘッジも容認されることを明確にした。ネット・キャッシュフローを総額ポジションとしてヘッジ指定することは、純額ポジションをヘッジするというリスク管理戦略に方向性としては合致しており、第6.6.1項(c)に矛盾しないことになる。

その他の明確化として、IASBは、ダイナミック・ヘッジ戦略は、リスク管理の目的に沿う形で中止(すなわち部分的中止又は完全な中止)をしなければならないというように第6.5.24項(b)の設例を拡張することを決定した。

IASBはマクロ・ヘッジの会計処理を開発するため、独立したプロジェクトを進めているが、そのプロジェクトが完了するまでの間はIAS第39号のマクロ・ヘッジを実際に適用している企業に制約を課すことは考えていなかった。しかし、上記の明確化を踏まえても、なおその目的が達成されるのかどうかについて、依然確証が得られないため、関係者の懸念をより理解するために、IASBは限定的な範囲でアウトリーチを実施することを決定した。

弊社のコメント

EYは、IASBによる、金融機関はIFRS第9号の下でもマクロ・キャッシュフロー・ヘッジを適用できるという明確化を行ったことを歓迎している。

さらに、プロキシー・ヘッジについての明確化は、金融機関以外の会社にとっても幅広く有用なものであると考えている。

一方、追加のアウトリーチが計画されたことにより、最終基準の公表は2013年第2四半期以降に遅れることとなった。




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