IFRS解釈指針委員会(以下、解釈指針委員会)は、IFRSを適用する企業に対しより多くのガイダンスを提供したいと考えているが、これは必ずしも容易ではない。原則主義のフレームワークに基づき企業を支援していく上での課題について、解釈指針委員会の新しい議長であるウェイン・アプトン氏に話を聞いた。
解釈指針委員会の議長を引き受けたときはどのようなお気持ちでしたか。
IASB副議長であるイアン・マッキントッシュ氏から議長への就任を依頼されたとき、最初は戸惑いました。私は、2001年にIASBに入ったときに、解釈指針委員会だけには特に関与したくないと前IASB議長のデイビッド・トゥイーディー卿に打ち明けたことを思い出しました。しかし、次第に解釈指針委員会の活動の価値や重要性を理解できるようになり、今ではその議長に就任することをとても嬉しく思っています。何よりも、解釈指針委員会の議長という役割は、私がIASBで兼務する国際活動担当ディレクターの役職ととても良く合っていると思います。どちらの仕事もその中心は問題解決であり、私はそれを得意としています。
2008年に金融危機が発生したとき、IASBはその対応として金融商品の会計基準を改訂し、それ以外にいくつかの金融危機関連プロジェクトをアジェンダに加えました。現在我々はソブリン債務不履行問題に直面していますが、これは将来、国際会計基準の設定にどのような影響を及ぼすのでしょうか。
会計基準の設定にかかわる人々は、常に政治的圧力に対処しなければなりません。これは、仕事の性質上避けられない問題です。政治家は、会計基準が自らの政策を受け入れるものであって欲しいと考えます。私はこれまで、従業員ストック・オプションの会計処理や、石油・ガス資産又は電力・公共事業資産の取扱いなどで、何度もこの問題をみてきました。このような問題は理解できますが、しかし、この様な要因は会計基準が存在する理由ではありません。政治家は、基準設定に効果的なシステムの確保に責任を負わなければなりませんが、基準設定自体が政治家の関心事によって影響を受けることがあってはなりません。
解釈指針委員会が直面する主な課題にはどのようなものがありますか。
私達の最大の課題は、迅速な対応です。私達は、原則主義の基準に従うために必要なガイダンスを世界中の企業に提供したいと考えています。問題は、原則主義モデルの場合、企業が特定の論点にどのように対応すべきかについて、まったく正反対の考え方が存在する可能性が高いということです。IFRSの解釈にばらつきが生じている論点について、より多くのガイダンスを提供することが私達の仕事であると感じています。ただ同時に、IFRSの核となる考え方、すなわち基準書は、企業は自身の状況に照らして常に解釈しなければならないという一般原則を基礎としているという考え方を守らなければなりません。私達は、原則主義の基準を適用する必要性を排除することなく、作成者を支援していきたいと考えています。このバランスを取るのは簡単ではありません。
同時に、国際会計基準とその解釈指針の品質を保つためにはデュー・プロセスが欠かせません。利害関係者の問題に素早く対応したいとは思いますが、利害関係者にしっかりとした解決策を確実に提供するにはデュー・プロセスに従う必要があります。
IFRSへ移行中の国に対し、解釈指針委員会はどのような手助けをできるでしょうか。また、その国固有のガイダンスが必要な国に対し、何かできることはあるのでしょうか。
この問いには、国際活動担当ディレクターとしてお答えしたいと思います。私達は、IFRSに移行中の国への支援を最大限行なっています。たとえば、韓国が今年初めにIFRSを採用する前、私はKASB1が主催したラウンドテーブルに招かれました。このラウンドテーブルの目的は、韓国企業におけるIFRS初度適用時の問題を特定し、可能な場合はそれらに対する対応策を見つけることでした。KASBが開催したラウンドテーブルには主要韓国企業の代表者、会計事務所の会計専門家が参加しました。問題ごとに1つの解決策を見つけることが目的ではありませんでしたが、それらの議論の過程でしばしば国内レベルでのコンセンサスが生まれました。
では、その国固有の状況が存在する場合、その国の会計基準設定機関が解釈指針を策定すべきであるとお考えですか。
それについてはどちらとも言えません。何らかの質問が寄せられた場合、私達は必ず世界中の他の基準設定機関や規制当局に、「自身の国・地域で同じ論点が生じているか」、「この論点に対するIFRSの適用方法に関し、自身の国・地域でばらつきが生じているか」という2つの質問をします。10回のうち9回は、ある国・地域に固有に見えた論点が実際にはその国・地域に固有のものではないことが多いです。解決すべき問題がある場合、それは地域固有のものではなく、国際的な問題であることが多いのです。
しかし、国の基準設定機関が果たせる重要な役割が少なくとも2つあります。第1に、法律が違うことによって、類似の取引が異なって会計処理される場合がありますが、国の基準設定機関は国の法律や規制をより深く理解しているため、それが会計上の解釈にどのような影響を及ぼすかを我々が理解するうえで手助けをしてくれます。第2に、特定の国・地域においてガイダンスが至急必要な場合、国の基準設定機関の力を借りることが考えられます。というのも、解釈指針委員会は、緊急の問題に素早く対応することを目的としていないからです。
国の会計基準設定機関がその国の懸念に対応するための解釈指針を公表した場合、IASBはそうしたガイダンスがIFRSに整合していることをどのように確認するのでしょうか。
企業がIFRSを適用する場合、必要に応じて、各国独自の解釈指針をどのように開発するかについて、合意済みのベスト・プラクティス・ガイドラインを参照します。しかし、国が私達の同意なく独自の解釈指針を策定したいと考える場合、私達にできることはあまりありません。各国の基準設定機関の活動を監視することは私達の仕事ではありません。しかし、国の基準設定機関が独自の解釈指針を公表した例は僅かしかないため、これは大きな問題ではありません。ただし、国独自の解釈指針がIFRSと整合していない場合、当該解釈指針を適用している企業はIASBが公表したIFRSへの準拠を表明できない点には留意すべきです。
解釈指針委員会の役割がどのように発展していけば良いとお考えですか。
現在、IASBと解釈指針委員会をつかさどるIFRS財団の評議員会がIASBの長期計画をレビューしています。解釈指針委員会は、企業に対しより多くのガイダンスを提供したいと考えていますが、その際はデュー・プロセスに従わなければなりません。企業は、私達により迅速な対応を求めることがあります。問題に対応するための一助になるのであれば、ガイダンスがどのような形態であっても企業は気にしないのかもしれません。これは、私達の課題です。比較的容易に合意に達することが可能と思われる論点があれば、ガイダンスをもっとすみやかに提供できる方法が必要です。たとえば、解釈指針委員会が基準書又は解釈指針書の個々の改訂を行い、基準の設定が必要な論点についてはIASBに検討を求めるようにすることもできます。これが解釈指針委員会に適した役割になるかもしれません。まだ解釈指針委員会の同僚と一緒に仕事をしてきた期間は短いですが、私は彼らが会計上の論点に対応する建設的な方法を見つける意欲があることを確信しています。これは、解釈指針委員会の将来にとって明るい兆しです。
ウェイン・アプトン氏について
アプトン氏は、2011年7月に国際会計基準審議会のIFRS解釈指針委員会の議長に任命された。彼は、リサーチ・ディレクターとして2001年にIASBに加わり、2008年に国際活動担当ディレクターに就任、現在も引き続き国際活動ディレクターとして活動している。当該役職において、IFRSへの移行及びIFRSの適用に関し、主要経済国及び新興経済国の両方に対して支援を行なっている。IASBに加わる前は、FASBのシニア・スタッフとして17年勤務した。
アプトン氏は、会計に関する会議で度々講演を行っており、会計に関するトピックについていくつかの論文を執筆している。彼の論文は、Journal of Accountancy、Journal of Reinsuranceや、FASB、ACCA及びアクチュアリー協会の刊行物などの多くのジャーナルに掲載されている。彼は、3つのFASBスペシャル・レポートの著者でもあり、デンバーのリージス大学を極めて優秀な成績で卒業している。
- 韓国会計基準審議会(Korean Accounting Standards Board)