2011年5月、国際会計基準審議会(以下、IASB)はIFRS第13号「公正価値測定」を公表した。これにより、IFRS(及び米国会計基準)における公正価値の測定方法に関し、単一の原則を確立する共同プロジェクトが完了したことになる。この新基準は、いつ公正価値により測定すべきかを変えるものではなく、公正価値の使用が要求または容認される場合に、金融資産及び負債、非金融資産及び負債の公正価値をどのように測定すべきかを定めたものである。
これらのIFRSの改訂により、最も影響を受ける可能性が高い企業は以下のとおりである:
- 金融商品を保有する企業
- 投資不動産を公正価値で測定している企業
- 有形固定資産または無形資産を再評価する企業
- 生物資産または農産物を保有する企業
企業が検討すべき5つの質問
- 測定または開示に関して、企業が財務諸表で公正価値を用いるのはどこか?
- 現行の実務を変える可能性が最も高いのは、新基準のどの部分か?
- 財務諸表において最も判断を要する、且つ(または)注意を要する?公正価値測定は何か?
- 新たな開示規定のためにどのように情報を収集するか?
- プロセスには誰を関与させるか?外部の専門家に評価を依頼する必要があるか?企業及び評価を支援する専門家が評価慣行ではなくIFRS第13号を適切に適用しているかをどのように判定(及びモニタリング)するか?
なぜIASBは公正価値測定に関する新基準を公表したか?
IASBがIFRS第13号を公表したのにはいくつかの理由がある。最大の理由は、公正価値測定にまつわる様々な実務上の複雑性を解消するとともに、その測定にかかる首尾一貫性を向上させることにある。IFRSの基準の多くは資産、負債または資本性商品を公正価値で測定すること、またはそれらを開示することを要求または容認しているが、IFRS第13号の公表以前は、公正価値測定方法に関する解説は限られており、規定に矛盾が生じる場合もあった。IFRS第13号は公正価値測定に関する規定を統合し、明確にするものである。
もう一つの理由は、公正価値に関する開示を充実させることにある。新たな開示規定は、企業が公正価値を測定する際に用いた評価技法及びインプットを財務諸表の利用者がより深く理解する上で役立つことになるであろうとIASBは考えている。これは、金融危機後のG20の要請を受けてIASBが行った対応の重要な部分でもある。
IFRS第13号公表の第3の理由は、米国会計基準とのコンバージェンスの達成である。米国会計基準も同時にFASBが改訂を行った。IASB及びFASBは協働し、IFRS及び米国会計基準で「公正価値」という表現が同じ意味で用いられるようにし、また、両基準における公正価値の測定方法と開示規定を整合させた。 ただし、IFRSと米国会計基準との間には、いつ公正価値の使用が求められるか、または許容されるかについていくつかの差異が残る。
新基準とは?
新基準で概説されている公正価値フレームワークの基本的な要素は以下のとおりである:
- 公正価値は、測定日における市場参加者間の秩序立った取引において資産の売却により受領する、又は負債の移転により支払う価格(すなわち、出口価格)と定義される。
- 出口価格は、資産を売却する、または負債を移転する企業の意図や能力とは無関係に測定日時点で対象項目に適用される。
- 公正価値測定においては、資産の売却や負債の移転といった取引は主要な市場で行われると仮定する。主要な市場とは、当該資産や負債に関し、取引量が最も多く、取引額が最も大きい市場である。主要な市場が存在しない場合、公正価値測定は、最も有利な市場で取引が行われると仮定する。最も有利な市場とは、取引費用及び輸送費用を考慮した上で、資産の売却により受領する金額が最大となる、もしくは負債の移転により支払う金額が最小となる市場である。
- 公正価値を決定するにあたり、市場参加者が当該資産や負債の価格付けの際に利用するであろう仮定を使用する。
- 非金融資産に関し、市場参加者が当該資産を最有効利用することを前提とする。 それは現在の利用状況とは異なる可能性がある。
- 負債及び自社の資本性金融商品の公正価値は、同一商品を資産として保有している市場参加者の視点から測定する。
- 負債の公正価値は、不履行リスクの影響を反映させる。不履行リスクには、自社の信用リスクが含まれるが、それだけに限定されない。
- いかなる公正価値測定においても、ブロック・ディスカウントの考慮は禁じられている。ブロック・ディスカウントとは、市場参加者が大量保有する資産や負債を一度あるいは数回の取引で販売した場合に発生する値下げ調整である。
- 市場参加者が資産又は負債の取引時にプレミアム及びディスカウントを考慮するのであれば、(ブロック・ディスカウント以外の)当該プレミアム及びディスカウントを考慮に入れ、公正価値を調整することは認められる。ただし、プレミアム又はディスカウントによる調整が、公正価値測定を要求または容認するIFRSにおける会計単位(各IFRSの認識要件を適用するために、資産または負債を合算又は分解する水準)と矛盾しない場合に限られる。
公正価値測定時に、適切で観察可能なインプットを最大限利用し、観察不能なインプットは可能な限り利用しないことが求められている。IFRS第13号では3つのレベルから構成される公正価値ヒエラルキーと呼ばれるものが定められており(下表参照)、公正価値を測定する際のインプットの優先順位付けがなされている。
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レベル1 |
レベル2 |
レベル3 |
| 定義 |
測定日において企業がアクセス可能な、同一の資産または負債に関する活発な市場における(調整なしの)公表価格 |
レベル1に含まれる公表価格以外の、直接または間接的に観察可能な、資産または負債に関するインプット |
資産または負債に関する観察不能なインプット |
| 例 |
東京証券取引所で取引される株式の公表価格 |
一般的と認められる頻度で公表される、観察可能な金利及びイールド・カーブ、インプライド・ボラティリティ及び信用スプレッド |
事業または非上場企業の非支配持分の評価時に利用する、過去のキャッシュ・フローに成長率を加味したもの |
IFRS第13号は、公正価値の最も適切な指標として、利用可能な場合は、同一の項目に関する活発な市場における公表価格(すなわち、レベル1インプット)を用いることを求めている。活発な市場とは、価格情報が継続的に提供されるのに十分な頻度及び取引量をもって、資産または負債が取引される市場である。