前のページ12|3|

IFRIC第18号「顧客からの資産の移転」の規定は、いくつかの簡単なステップに要約することができるが、公益事業を行う企業(以下、公益企業)にとってこの規定を適用することは決して簡単なことではない。適用プロセスの各ステップにおいて、公益企業は、主にIFRIC第18号と公益企業の料金設定プロセスの不整合にまつわる実務上の問題に直面している。本稿では、これら実務上の問題、およびIFRIC第18号が公益企業の現行の会計処理を変更する原因となりうる理由について考察する。

背景

公益企業が顧客から有形固定資産項目(又はそうした資産を取得するための代金)を受領するという取引は、この業界では日常的なものである。IFRSにはこうした取引に関する特定のガイダンスが存在しないため、実務上、会計処理にばらつきが生じていた。多くの場合、公益企業は、料金設定の際にそれらの取引について規制当局が求める会計処理方法と一致するような会計方針を選択してきた。多くの規制制度では、収益と費用を対応させることに重点が置かれ、公益企業は外部向け財務諸表でも同様のことを行っている。

IFRIC第18号の規定については、表3のフロー・チャートにまとめている。IFRIC第18号は、拠出された項目が資産の定義を満たすかどうかの判断、及び拠出によって発生する公益企業の債務に重点を置いており、料金規制の影響に関する会計処理は取り扱われていない。IASBは、公開草案で料金規制活動の影響について取り扱うことを計画していたが、現在どのような状況になっているか不明である。結果的に、公益企業が規制上の報告で行っている費用と収益を対応させる処理は、費用収益対応よりも資産及び負債の認識を重要視するIFRSの下では認められない可能性がある。IFRIC第18号の規定と公益企業に対する規制制度との間には溝がある。以下、一般的な実務上の論点を検討し、公益企業はそれらにどう対処できるかについて我々の見解を示す。

初期一括支払費用はすべてIFRIC第18号の適用対象となるか?

規制当局は通常、異なる顧客のカテゴリーごとに、どの初期一括支払の接続料金を継続供給する物品に対する料金と同様に課金できるかを規定する。これらの初期一括支払費用は接続手数料またはバックボーン・チャージと呼ばれることがある。顧客に課金される金額は、顧客をネットワークに接続するために発生する実際のコストの一部でしかない場合もある。また、受領した料金はネットワークの一般的なメンテナンスに充てられるという場合もある。例えば、資産がすでにネットワークに接続していても、その資産の所有権が移転されなければ規制当局が初期一括支払費用の請求を認めないような場合である。

IFRIC第18号第6項は代金の拠出について扱っており、次のように述べられている。IFRIC第18号は「企業が顧客から代金を受領し、受領した代金を有形固定資産項目の建設又は取得のみに使用しなければならず、かつ企業が当該有形固定資産項目を顧客をネットワークに接続する、又は顧客が物品・サービスの供給を継続的に受けられるようにする、あるいはその両方のために使用しなければならない契約に適用される」。

これら初期一括支払費用は接続手数料やバックボーン・チャージと名付けられていることが多いが、我々はこれらの支払がIFRIC第18号の適用対象となるためには、少なくともその料金の一部が、顧客をネットワークに接続し、継続的に物品・サービスを提供するために使われる有形固定資産項目を購入又は建設するために直接使用されなければならないと考える。

したがって、規制当局に認められても、有形固定資産の追加的な取得又は建設に直接関係しない料金はIFRIC第18号の適用対象にはならない。これらの支払は、IAS第18号「収益」の規定に基づいて会計処理しなければならない。それだけでなく、これら料金のIAS第18号に基づく会計処理に関係して、以下で検討する実務上の問題が多く存在する。

表3 - IFRIC第18号のフロー・チャート

IFRIC第18号は2009年7月1日以降に受領した移転に適用される。

表3 - IFRIC第18号のフロー・チャート

* 契約に定めがない場合、当該期間は関連する資産の耐用年数より長くなることはない。

資産の定義は満たされているか?

契約がIFRIC第18号の適用対象であると判断されたら、次のステップとして、拠出された項目が受領する企業にとって資産の定義を満たすかを判断する。「財務諸表の作成及び表示に関するフレームワーク」において、資産は以下のように定義されている。

「過去の事象の結果として企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が当該企業に流入すると期待される資源。」

資産の定義を満たすかの判断に際しては、2つの重要な点を検討しなければならない。企業が資産を支配しているか、及び将来の経済的便益が企業に流入するか、という点である。

支配

支配は、法律上の所有権の移転によってのみ判断されるものではなく、事実と状況を慎重に評価することが求められる。拠出された項目を公益企業が支配していることを示す要素として、公益企業の以下の能力が挙げられる。

  • 同一のサービスを提供するため、当該資産を他の資産と交換できる
  • 他の財貨やサービスを生産する、もしくは負債を清算するために当該資産を使用できる
  • 他者による当該資産の使用に対し課金できる
  • 移転された資産をどのように運用、維持し、いつ取り替えるかを決定できる

将来の経済的便益

2つ目の要素は、将来の経済的便益が企業に流入するかの判断である。公益企業が「サービス原価」方式に基づき規制されている場合、顧客から拠出又は代金を拠出された項目について、規制当局の示す会計処理方法とIFRIC第18号の規定との間に不整合が生じる。「サービス原価」モデルの目的は、企業が特定の収益率(又は一定範囲の収益)を稼得する料金を設定することであり、料金は企業の資産を基礎とした計算式を使って設定されることが多い。しかし、ほとんどの規制当局は、顧客により拠出又は代金を拠出された項目もしくは項目の一部を除外している。

ここで、料金設定の計算式から資産が除外されていることが、資産の定義を満たさないことを示すのではないかという議論が生じる。この見解の根拠は、これらの資産が「企業に流入する将来の経済的便益」に関係がないということである。

我々の見解では、有形固定資産項目を料金計算プロセスから除外するという規制当局の決定が、資産の定義を満たさないことを示すこととはならない。「フレームワーク」の第53項で、「資産に具現化された将来の経済的便益とは、企業への現金及び現金同等物の流入に直接的に又は間接的に貢献する潜在能力である」と述べられている。拠出された資産によって規制当局から認可された収益の全体的なレベルは上がらないかもしれないが、公益企業は接続することによって新規顧客を獲得し、確実に便益を得る。これらの顧客は公益企業による継続的なサービスを利用し、公益企業の収益に直接的に貢献する。また、市場によっては、公益企業の事業の一部のみを規制対象としている場合があるが、これら新規顧客が公益企業の規制対象外の事業の収益に貢献する可能性もある。さらに、企業が資産を売却できる能力は将来の経済的便益が存在することを示す。

当初認識時の資産の公正価値

顧客から拠出された代金を使用して公益企業が購入又は建設した資産について、当初認識はIAS第16号に従って取得原価で認識することが明らかである。

企業が支配する拠出された資産については、IFRIC第18号は、有形固定資産項目を公正価値で測定することを求めている。公正価値はIAS第16号で、「独立第三者間取引において、取引の知識のある自発的な当事者の間で、資産が交換され得る価額」と定義されている。ほとんどの場合、公益企業の再調達原価が公正価値算定の出発点となる。

減損の検討

料金算定プロセスから除外される資産は、当初認識の時点で減損しているという議論もある。しかし、これらの資産が顧客全体にサービスを提供するために使用されており、それ自体でキャッシュ・フローを生み出さないことを勘案すると、IAS第36号「資産の減損」の第22項に基づき、個別にではなく、各資金生成単位の一部として減損テストを行うことが求められる。第22項は次のように述べている。

「回収可能価額は、個別資産について算定される。ただし、当該資産が、他の資産又は資産グループからのキャッシュ・フローからほぼ独立したキャッシュ・フローを発生させない場合を除く。その場合、(中略)回収可能価額は、当該資産の属する資金生成単位に対して算定される(後略)」

財務報告上、料金算定で考慮された金額を上回る公正価値で資産を認識することにより、資金生成単位が減損されるリスクは高まる。顧客から拠出された項目ごとに減損テストを行うことは実務的ではないが、公益企業はこれらの減損テストを行う頻度について再検討する必要があるかもしれない。

表4 - 提供されるサービスの種類を判別する特徴

ネットワークへの接続 物品・サービスの供給への継続的アクセス
  • 顧客に接続されており、接続という行為がその顧客にとっての独立した価値を表わしている
  • 接続を通じて受領する物品・サービスに、資産を拠出していない他の顧客より低い金額が課せられる
  • 公正価値を信頼性をもって測定できる
 
  • 接続することにより受領する物品・サービスに対し、資産を拠出していない他の顧客と同じ金額が課せられる

資産との交換により提供される個別に識別可能なサービスとは?

IFRIC第18号は資産と引き換えに提供されるサービスを識別することを求めているが、表4は、提供されるサービスがネットワークへの接続なのか、物品・サービスの供給を継続的に受けられるようにすることなのか、あるいは両方の組合せなのかを示す特徴を要約したものである。

顧客にとっての独立した価値

ネットワークへの接続との引き換えに資産が受領されていることを示す1つ目の指標は、接続という行為が顧客にとって独立した価値を有していることである。しかし、IFRIC第18号において「独立した価値」の定義は示されていない。IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」のヒエラルキーに従い、米国会計基準の独立した価値の定義を参照すると、「売手が個別に売却する、又は顧客が提供されたものを単独で再販売することができる場合」となっている(ASCトピック605-25「収益認識 - 複数要素契約」)。ただし、IFRS報告企業は、独立した価値について米国会計基準の定義に縛られる必要はなく、他の情報源も参照できる。
接続が独立した価値を有するかについての判断に際し、他に考慮できる要素には以下がある。

  • 顧客はサービス提供者を選べるか?
    サービス提供者を選べない場合、接続という行為が独立した価値を有していないことを示す指標になる。
  • 顧客がサービス提供者を選べる場合、接続という行為によって、当該資産の将来の購入者は新たなサービス提供者からの接続料金の課金を避けることができるか(すなわち、接続という行為は資産の価値を高めるか)?
    ネットワークに接続していない資産と比べ、接続によって資産の価値が高まる場合、接続という行為が独立した価値を有することを示す指標になる。

公正価値を信頼性をもって測定できる

2つ目の指標は、接続サービスの公正価値が信頼性をもって測定できるというものである。IAS第18号に基づき初期一括支払の接続料金の公正価値を算定することは、特に接続が個別に販売されていない場合、容易でない可能性がある。本号の別の記事「複数要素契約」で、公益企業にとっても公正価値の算定にあたって参照可能な米国会計基準で認められている見積方法について説明している。対価総額の公正価値は、異なる提供物に配分される。

継続的に提供される物品・サービスの料金

3つ目の指標として、継続的に供給される物品・サービスに対して、すべての顧客が同じ料金を支払う場合、当該資産は接続との引き換えに拠出されたものであって、公益企業による継続的な供給に対するものではないことが挙げられている。つまり、継続的な物品・サービスの提供義務は、移転された資産又は代金の拠出に関する契約からではなく、公益企業の営業免許から生じるということである。しかし、料金規制がある場合、この指標の解釈は難しい。自由競争市場で設定された価格は、継続的なサービスの公正価値と近似すると推定できる。したがって、公益企業の資産に関するコストを拠出したかどうかに関わらず、すべての顧客に課せられる料金が一律である場合、拠出を行った顧客に継続的便益がないことは明白である。しかしながら、顧客に課す料金が規制されている場合、その料金が継続的なサービス提供義務の公正価値を真に示しているとは限らない。したがって、そういった状況においては、この指標は決定的なものにならない可能性がある。

指標間のバランス

IFRIC第18号は、これらの特徴のうち、どれに比重や優先順位を置くかは定めていないため、各指標が異なる結果を示す可能性がある。たとえば、公益企業の多くは、すべての顧客に継続的なサービスを提供する法的義務を有しており、これは接続との引き換えに資産が拠出されたことの指標となるが、接続サービスが顧客にとって独立した価値を持たないこともあり、その場合、指標は逆の結果を示す。我々は、どの指標も絶対的ではないので、企業はすべての指標、事実、及び状況を考慮しなければならないと考える。IFRIC第18号には、指標を評価するためのヒエラルキーを示していないので、企業は各指標が示す結果についてバランスがとれるよう独自の判断を行うことが可能である。

キャッシュ・フロー計算書上、代金の受領をどう表示するか?

IFRIC第18号の公表前は、多くの公益企業は顧客からの代金拠出について、有形固定資産の購入に関わるキャッシュ・インフローであるという論拠に基づき、キャッシュ・フロー計算書上、投資活動のセクションに表示していた。IFRIC第18号は、拠出を受けた現金について、貸方科目は収益か繰延収益のいずれかとしている。したがって、今後これらの現金の受領はキャッシュ・フロー計算書の営業活動のセクションに表示しなければならない。

おわりに

公益企業は、IFRIC第18号適用にあたり、特に公正価値の算定や、IFRIC 第18号が示す指標とそれぞれの規制制度における固有の事実や状況とのバランスを計るため、判断を行う必要がある。また、公益企業は、異なる階層の顧客(たとえば、住宅用と商業用)について、異なる結論に至る可能性が高い。したがって、財務諸表利用者が業績や至った結論が適切であることを理解できるようにするために、会計方針の開示が極めて重要となる。

前のページ12|3|


情報量は適当ですか?

文章はわかりやすいですか?

参考になりましたか?