国際会計基準審議会(以下、IASB)と米国財務会計基準審議会(以下、FASB)(総称して、以下両審議会)は、金融資産の減損に関して、現行モデルの改訂案をそれぞれ公表した。世界的な金融危機により、「発生損失」モデルでは信用損失の認識が遅くなるという批判があったからである。
IASBが予想損失を金融資産の存続期間にわたり認識する新しいモデルを提案する一方、FASBはより早期に信用損失を認識できるように、現行の減損モデルを修正することを検討している。また、外部関係者も他の減損モデルを提案しており、その内容はIASBが提案しているモデルといくつかの点で異なっている。
本稿では、両審議会が提案している減損モデルと外部関係者が提案しているその他のモデルについて解説するとともに、このトピックに関する我々の見方について説明する。
IASBが提案している減損モデル
IASBは、2009年11月に公表した公開草案「償却原価及び減損」(以下、IASBのED)において、期待キャッシュ・フロー・モデルを提案している。期待キャッシュ・フロー・モデルでは、償却原価で測定される金融資産の当初認識時に見積信用損失を算定することが求められる。このような信用損失の当初予想は、実効金利の算定に含められる。
契約上の利息収入から当初の見積信用損失を控除した金額は、金融商品の存続期間にわたり損益計算書において認識される。見積信用損失は毎期再評価され、見積りの変更による影響は、実効金利が一定となるよう、キャッチ・アップ調整として直ちに損益に認識される。
本公開草案の要旨については、IFRS outlook 2009年12月増刊号-2「IASBによる償却原価で測定される金融商品に対する新たな減損アプローチを提案する公開草案「金融商品:償却原価及び減損」の公表」を参照されたい。
FASBの提案
FASBの提案は、IASBのものと比べて、複数の点で異なっている。FASBは、2010年5月に公表した金融商品に関する公開草案(以下、FASBのED)の中で、大部分の金融資産を公正価値で測定し、その変動を純利益、またはその他包括利益(以下、OCI)、すなわち資本で認識することを提案している。また、公正価値変動がOCIに認識される金融資産、償却原価で測定される短期債権、及びその他の特定の資産に、信用損失が発生しているか判定することを企業に求めている。企業は、(自らが創出した金融資産については)受取るべき契約上の金額、及び(購入した金融資産については)取得時に当初回収を見込んでいた金額につき、全額を回収できないと予想する場合、信用損失を認識しなければならない。このとき企業は、過去の事象及び現在の状況に関するすべての利用可能な情報と、それらがキャッシュ・フローの回収可能性に与える影響を考慮することとなる。信用損失が存在するかどうかを判断する際に、起こりうる結果の発生に関する蓋然性基準(probability threshold)は適用されない。すなわち、信用損失の発生可能性が高くなるのを待たずして減損を認識することになる。そして、その後の利息収入は、減損累計額を控除した償却原価に実効金利を乗じて認識することになる。
金融資産は、個別又は(類似のリスク特性を有する資産群については)集合的に(すなわち資産群ごとに)減損テストを行う。しかし、金融資産について個別に減損テストを行い、減損がないと判断した場合であっても、金融資産を集合的に評価することにより減損損失が生じるかどうかを判断しなければならない。報告企業が、過去の情報や現在の状況により、(自らが創出した金融資産については)受取るべき契約上の金額、又は(購入した金融資産については)当初回収を見込んでいた金額を、資産群における金融資産の存続期間にわたり回収できないと予想される場合(たとえば、類似のリスク特性を有する金融資産群において信用損失の実績がある場合)、減損損失を認識する。これにより、資産が創出された報告期間に、資産群における金融資産の存続期間にわたり予想される損失の全額について減損が認識される場合がある。
欧州銀行協会による代替的な減損モデル
欧州の銀行から構成される欧州銀行協会(以下、EBF)は、IASBの期待キャッシュ・フロー・モデルを一部変更した減損モデルを提案している。これは、予想される信用損失を反映するため収益を繰延べるというIASBのEDの原則に基づいて策定されたものであるが、IASBのEDと比較して、主に以下の3つの相違点がある。
- i) 利息収入を繰延べるために行う調整を、「総」利息収入と別個に計算することで、収益の繰延べを利息計算から「切離す」。予想損失合計は、引当金を計上するにあたり、金融資産群の存続期間にわたり、たとえば定額法などによって、「規則的に」損益に配分される。
- ii) 将来損失の見積りを変更することによる影響は、変更が生じた報告期間に全額を計上するのではなく、毎期の減損に係る費用を増加又は減少させることにより、金融資産の残存期間にわたり配分する。この計算は、ビンテージ(金融資産の創出年と満期の年に基づく別)ごとに期待キャッシュ・フローの見積りを紐付けず、新しい資産が追加され、満期になった古い資産が取り除かれる「オープン・ポートフォリオ」が前提とされる。これは、IASBのEDによれば、実務的にキャッチ・アップ調整を行うためには、ビンテージ及びリスク特性ごとに資産をグループ化する「クローズド・ポートフォリオ」を前提とせざるを得ないのとは対照的である。
- iii) 減損損失が実際に発生した場合、当該損失は計上済みの減損引当金から控除する。発生損失がそれまでに計上した引当金の金額を上回る場合、その超過額は損益計算書に計上する。このように、実際発生損失に基づくバッファーを設けるということは、すなわち、企業が期待損失モデルと発生損失モデルを平行して運用しなければならないということを意味している。発生損失を計算するためのシステム及びプロセスはすでに構築されているものの、このモデルにおいて、今後も発生損失要素を考慮するということは、例えば、発生可能性は高いが、いまだ顕在化していない損失に関する見積りを含めるべきなのか、含めるとした場合、どのように計算すべきかなどを判断しなければならないことに他ならず、実務上、発生損失をどのように算定するのかという論点について、今後も議論が続くことを意味する。
IASB、EBF、FASBが提案した減損モデルの主な特徴については表1を参照されたい。
表1: IASB、EBF、FASBが提案した減損モデルの主な特徴
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IASB |
EBF |
FASB |
| 適用範囲 |
償却原価で測定される金融資産 |
償却原価で測定される金融資産 |
その他の包括利益を通じて公正価値で測定される金融商品、償却原価で測定される短期債権、それ以外の一部の資産 |
| 原則 |
金融資産の見積信用損失を算定し、当該見積損失を金融資産の当初認識時から会計処理するために実効金利に織り込み、利息収入の一部を繰延べる。 |
見積信用損失をポートフォリオ・レベルで算定し、ポートフォリオの平均存続期間にわたり(定額法又は他の規則的な方法で)配分することにより引当金を計上する。 |
報告期間の末日ごとに行う評価に基づき、創出された資産について受取るべき契約上の金額(又は購入された金融資産について当初回収を見込んでいた金額)のうち、回収すると見込まれない金額全額について減損損失を認識する。 |
| 将来事象に関する検討 |
将来事象に関する予想は、見積損失の評価に含める。 |
過去の損失実績は、見積損失を予測する上での出発点となるが、これは、報告日時点で存在する状況を反映するべく、必要に応じて修正されねばならない。 |
過去の事象及び現在の状況について調整した実績データのみを、回収不能と見込まれる金額の算定に用いる。 |
| 減損損失の認識 |
信用損失は、実効金利法(又は実務上の簡便法)に基づき、金融資産の存続期間にわたり配分する。 |
信用損失は、定額法又は他の規則的な方法に基づいて金融資産の存続期間にわたり配分する。発生損失が既存の減損引当金を上回る場合、その超過額は損益計算書に計上する。 |
信用損失は、創出された資産について支払われるべき契約上の金額(又は購入された金融資産について当初回収を見込んでいた金額)の全額は回収されないと判断した期間に認識する。集合的に評価する金融資産(個別には減損していない金融資産を含む)については、通常、金融資産が創出された期間に信用減損を認識する。 |
| 将来回収額の見積りの変更 |
「キャッチ・アップ」調整により損益計算書に直ちに認識する。 |
金融商品の残存期間にわたり、事後的な損益の修正として将来に向けて認識する。 |
変更が生じた期の損益計算書で直ちに認識する。 |
| オープン・ポートフォリオへの適用 |
キャッチ・アップ調整額を算定するには、資産について当初想定損失、実効金利及びビンテージを紐付けなければならないため、当該モデルをオープン・ポートフォリオに適用することは困難である。 |
IASBのEDで求められるようにキャッチ・アップ調整を算定するためにビンテージごとに資産の当初予想損失を紐付ける必要はないので、クローズド・ポートフォリオに代えて、類似のリスク特性を有する資産のオープン・ポートフォリオについて見積損失を評価する。 |
類似のリスク特性を有する資産のオープン・ポートフォリオの損失を評価することができる。(FASBが提案しているモデルでは、IASBのEDのようにキャッチ・アップ調整の計算は求められない。したがって、当初想定損失をビンテージごとに紐付ける必要はない。) |
| 損益への潜在的影響 |
利息収入の一部が繰延べられる。また、将来の回収金額や回収時期の見積りが変更になる場合、キャッチ・アップ調整により損益が変動する可能性がある。 |
資産のポートフォリオの平均存続期間にわたり予想損失が配分される。将来の回収に関する見積りの変更は将来に向けて修正されることから、IASBが提案している減損モデルよりも損益計算書の変動性が少ない。 |
貸付金又はその他金融資産の資産群について、現時点において存続期間にわたり発生すると予想される損失の全額が、資産が創出又は購入された報告期間に認識される。 |
| 運用上の複雑性 |
複雑である(ただし、実務上の簡便法により適用が簡素化される可能性がある)。 |
期待損失モデルと発生損失モデルが平行して適用されるため、IASBの提案よりも複雑になる可能性がある。 |
IASBが提案しているモデルよりも複雑性は低い。 |
専門家諮問パネル(Expert Advisory Panel)
減損に関する提案の実務上の問題にどのように対応すべきかについて両審議会に助言するために設置された専門家諮問パネル(以下、EAP)は、IASBモデルがもたらす多くの課題に対応するための実務上の簡便法や解決策、そしてEBFモデルをはじめとするその他の減損モデルについて審議してきた。
EAPでは、複数のメンバーが以下に示す、期待キャッシュ・フロー・モデルを簡素化したアプローチを提案している。
- i) 当該アプローチでは、EBFモデルと同様に、収益の認識と減損の認識を切離す。(類似のリスク特性を有する資産で構成される)金融資産のオープン・ポートフォリオの見積損失合計は、当初認識時に見積り、収益を繰延べることで引当金が計上されるように、損失はポートフォリオの平均存続期間にわたり配分する。
- ii) ポートフォリオにおける金融資産が減損していることが判明した場合、当該資産を減損していない資産ポートフォリオから分離し、当該見積損失の全額を損益計算書に計上する。
減損していない残りの資産ポートフォリオの見積損失は、実績や状況の変化を反映するよう、各報告日において再度見積りを行う。そして、収益の繰延べに当たり、見直し後の見積損失があたかも当初から想定されていたかのように、ポートフォリオの平均存続期間のうち、すでに経過した期間に対応する金額について、引当金を調整する。要するに、たとえば平均予想存続期間が5年であるポートフォリオについて、平均して2年が経過している場合、引当金累計額は見直し後の見積損失の5分の2を表すものとなる。
弊社のコメント
予想信用損失を反映すべく収益を繰延べるというIASBのEDの原則は、会計理論的には優れている点があることは認めるものの、提案されている期待キャッシュ・フロー・モデルを実際に適用するためのコストと、その運用がきわめて難しい点を鑑みれば、これを導入することは費用対効果に乏しいと言わざるを得ない。
IASBのEDが採用しているアプローチは、次の(関連する)2つの目的を基礎としているようである。
- i) 利息収入及び費用の報告期間への配分を決定する
- ii) 償却原価で計上されている金融資産の減損を測定する
これらの目的が2つの個別の目的として設定されていれば、とるべき方向性がより明確になっていたと思われる。そうしていれば、提案されているアプローチに限らず、収益認識と減損を切離し、これらを分けて考える他のアプローチが、より素直に導かれていた可能性もある。具体的に言うと、IASBのEDにより求められている即時のキャッチ・アップ調整は、最近両審議会により共同で公表された公開草案「顧客との契約からの収益」(以下、収益認識ED)の原則と整合していないと我々は考えている。当該収益認識EDの原則に従えば、取引価格の変動は、履行義務全体に対して割り当てられるが、当該履行義務は金融資産の存続期間を通じて充足されるものである。そのため、仮に期待キャッシュ・フロー・アプローチが採用されるならば、我々は、金融商品のキャッシュ・フロー予想の変更は、履行された義務の金額に比例して収益に配分すべきであると考える(この考え方は、上記で説明した、EAPの一部メンバーにより提案された代替モデルと類似している)。
IASBにより提案されたアプローチが、より深く作りこまれ、簡素化されていくことを通じて、適用に伴うコストや運用上の難しさに関する我々の懸念が解消される可能性はある。解決策としては、過去の貸倒実績率を、出発点となる「当初想定」値とした上で、これを(経済の当面の成長率に関するコンセンサス予測を含む)過去の事象や現在の状況を反映するよう調整することにより、上記で説明したEAPの提案を簡素化することが考えられる。また、貸倒実績率にそのような調整を加えたことの影響については、これを開示する必要があると思われる。
我々は、FASBのEDに定められる金融資産の減損の会計処理に対するアプローチが、IASBのEDに定められるアプローチと大きく異なっていることを懸念している。少なくとも、両基準に基づき財務情報を開示している企業間の損益計算書を容易に比較できる程度には、2つの減損モデルは類似したものになる必要があると考えられる。我々は、金融商品会計というより幅広いトピックに関しては、IFRS第9号「金融商品」に定められる混合測定モデルを引続き支持するとともに、両審議会がコンバージェンスに向けた努力を今後も継続することを望む。
IASBのEDへのコメントは2010年6月30日に締め切られた。IASBは、2011年の第2四半期に新しい基準書の公表を予定している。
金融商品に関するFASBのEDのコメント提出期限は2010年9月30日である。FASBは、2011年の第2四半期に金融商品に関する新しい基準書の公表を予定している。