主要な提案
- 負債は、債務を履行する金額、キャンセルするための金額、移転する金額のうち最も低い金額に基づいて測定する
- 債務を履行する金額とは、債務の履行に必要な資源の期待現在価値である。その金額には、企業自ら履行する場合も含めて、サービスを履行する第三者に対するマージンを含むことになる
- 発生可能性が50%超(more likely than not)という蓋然性認識基準が廃止されている
アーンスト・アンド・ヤングの見解
- 当該提案が現行の規定の改善にはなっていないと考える
- 下記の提案に同意しない
- 自らサービスを履行する場合の債務の測定にマージンを含める提案。予想コスト測定アプローチを推奨する
- 蓋然性認識基準を廃止する提案
国際会計基準審議会(以下、IASB)は、負債に関する「可能性」を基にした認識基準を廃止し、企業が自ら履行する負債を、マージンを含む金額で測定することを提案している。我々は、これらの提案には同意しかねる。
2010年の初めに、IASBは負債の測定に関して新しく公開草案(以下、ED)を公表し、最終的なIFRSのワーキング・ドラフトを公表した。本稿では、最も議論を招き、最大の懸念材料になると考えられる負債の認識及び測定に関する提案についてコメントしている。
負債は認識すべきか
IAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」の認識規定が改訂され、負債の認識要件の一つである債務を決済するために、資源の流出が必要となる可能性が高くなくてはならない、すなわち、その可能性が50%超でなければならない(more likely than not)という規定が廃止される。この規定が廃止される場合、負債は「過去の事象から発生した企業の現在の債務で、その決済により経済的便益を有する資源が企業から流出する結果となることが予想されるもの」であるとするフレームワークにおける負債の定義が注目されることになる。図1では、改訂によるこの変更を図で説明している。
図1 : 負債を認識するために満たすべき要件

現在の債務が存在するかどうかを判断する必要があることに変わりはないため、ほとんどの場合、蓋然性基準が廃止されても現行の実務と異なる結果が生じることはない。
しかしその一方で、法的訴訟など、現在の債務が存在するかどうかを判断することが困難なケースも多く存在する。たとえば、訴訟が結審するまでは、請求が正当なものであるかがはっきりせず、現在の債務が存在するかどうかが必ずしも明確ではないケースもある。また、経営者及びその弁護士が、請求に正当性はないと公に断言することは通常ありえない。こうしたケースでは、有効な請求は存在しないと無条件に判断することは不可能である。
当該提案により、企業は、結局のところ現在債務は存在するか否かという二者択一を迫られることになる。つまり、「存在するかもしれない」という答えは認められないのである。それゆえ、今回の新しい提案により、表1で説明しているように、係争案件が負債として認識される場合が増える可能性がある。
我々は、蓋然性基準を廃止することが現行の規定の改善にはならないので、当該基準を残すべきであると考えている。
表1:訴訟の潜在的結果及び負債が認識されるか否か
| 訴訟 |
可能性は高い (50%超)? |
現在の債務 |
負債を認識 |
| |
|
|
公開草案 |
IAS第37号 |
| 請求は合理的 |
高い |
存在する |
認識する |
認識する |
| 請求に一定の合理性あり |
高い |
存在する1 |
認識する |
認識する |
| 請求に一定の合理性あり |
高くない |
存在する1 |
認識する |
認識しない (偶発負債) |
| 請求は不合理 |
高くない |
存在しない |
認識しない |
認識しない |
- 請求に一定の合理性があるため、企業は現在の債務が存在しないと断定することができない。
負債の測定 - 債務から解放されるために企業は合理的に何を支払うことになるのか
IASBが提案している測定原則は、現行のIAS第37号、すなわち債務から解放されるために企業が合理的に支払う金額で負債を測定するという測定原則と整合している。これは、実務では「最も起こりうる結果」、又はある範囲における最低金額もしくは最高金額であると解釈されることもあるが、そのいずれもがIASBが考える負債の測定方法に整合していない。IASBは、この実務におけるばらつきをできる限りなくすため、企業が合理的に支払う金額とはどのようなものであるべきか、明確な指針を提供することを提案している。その提案によれば、負債は、債務を履行する金額、キャンセルする金額、移転する金額のうち最も低い金額に基づいて測定することになる(図2参照)。これにより測定原則が明確化されることから、この改訂は有用である。
図2 : 企業が債務から解放されるために合理的に支払う金額の算定に関するEDの提案
| 負債はキャンセル又は移転することができるか |
| できない↓ |
できる↓ |
債務を履行するために必要な資源の期待現在価値で測定する
- 発生確率による加重平均
- 流出が予想と異なるリスクについて調整
- 請負業者のサービスに対して将来支払う金額
|
以下のうち、どちらか低い金額で測定する
- 債務を履行するために必要な資源の予想現在価値
- 債務をキャンセルする、又は第三者に移転するために企業が支払うべき金額(キャンセル費用又は移転費用を含む)
|
債務を履行するために必要な資源の流出額が不確定である場合には、企業は予想される価値を見積ることになる。これは起こり得る複数のキャッシュ・フローをそれぞれの発生確率で加重平均した金額に、実際の資源の流出額が予測と異なるリスクを調整した金額となる。このリスク調整を行うことにより、企業が当該リスクから解放されるために、資源の流出額の予想現在価値以上に、合理的に支払う金額が算定される。債務を履行するために必要な資源の流出について不確実性が存在する場合、予想現在価値は、市場金利で割引いた起こりうる結果の発生確率の加重平均を使って計算する。また、現在価値を計算するにあたり、実際の資源の流出額が予測と異なるリスクを調整しなければならない。このリスク調整を行うことにより、企業が当該リスクから解放されるために、資源の流出額の予想現在価値以上に、合理的に支払うであろう金額が算定される。この場合、企業は最も起こりうる金額だけでなく、可能性のあるそれぞれの金額を算定し、それぞれの金額に発生する確率を割り振っていかなければならない。我々は、発生確率による加重平均金額が何を表すのか、財務諸表の読み手には明確ではないのではないかと考えている。というのも、発生確率で加重平均した金額は、期待キャッシュ・アウトフローを表さなくなるからである。いずれにしても、リスク調整がこの評価にどのように影響するのか、あるいはリスク調整をどのように行うべきなのかは明確でない。
債務がサービスの提供により履行される場合の資源の流出は、請負業者がサービスを提供するのに請求する金額となる。そのため、EDで提案されている測定値には、企業が自ら債務を履行するか請負業者に依頼するかに関係なく、常にマージンが含まれることになる。
これらの提案は、負債の測定に関して、より理論的にしっかりしたフレームワークを定めることを意図したものであるが、当該提案に反対しているIASBの審議会メンバー同様、以下の理由から企業が自ら債務を履行することを考えている場合にマージンを含めることには同意できない。
- 認識される金額は、キャッシュ・アウトフローの見積りを表すものではなく、債務の「価値」を表すものである
- 債務が履行される時に利益が計上されてしまう。顧客との契約からではなく、営業活動の結果として債務を履行するために実行されるサービスにより収益が生成されるべきではないと考えている
我々は、反対意見を表明しているIASBの審議会メンバーの、債務から解放されるために企業が合理的に支払う金額は、企業が決定した履行方法(すなわち自ら履行するか請負業者を使うか)に基づく、当該債務を履行する際の予想コストが望ましいという意見に同意する。この測定方法であれば、利用者により目的適合性が高く信頼性のある情報が提供され、みなしマージンを認識する必要がなくなる。
したがって、起こりうる結果の発生確率の加重平均アプローチと組み合わせたときに、測定値にマージンを含めることは財務報告の改善にはつながらないと考えている。これらはすべて負債の測定の複雑性を増すだけであり、それに見合うほどのメリットはないと考えられる。
結論
我々は、負債の認識及び自ら債務を履行する場合の負債の測定に関する主要な提案に同意できるものではなく、EDの提案がIAS第37号の現行規定の著しい改善にはならないと考えている。IASBに提出されたコメント・レターをみても、今までのところ、この提案に対するコメント提供者の中で本提案を支持する人はほとんどいないようである。
IASBは、経過措置に関する審議に加え、今後、寄せられたコメントを検討し、討議していくことになる。その結果がいかなるものになろうと、何らかの修正が加えられる可能性が高く、それによって上記の測定原則の適用方法がより明確化されるであろう。業種を問わず、すべての企業は、負債の認識及び測定に関する今回の改訂の影響を受けることになる。企業は、プロジェクトの動向や受領したコメントに関するIASBの審議状況を把握しておくとともに、今後に備え、また、将来的な提案に対してコメントできるようにしておくためにも、上記提案により、自社の会計実務がどのように変化することになるかを検討しておくことが勧められる。