新たな収益認識モデルの具体化
重要ポイント
- IASBとFASBは、2010年6月に公表した収益認識に関する提案に対してコメント提供者から寄せられた数々の懸念に対応すべく、本プロジェクトの再審議に取り組んでいる。IASBのワークプランによれば、最終基準書は、2011年6月末までに投票が行われ、2011年下半期に公表される予定である。
- 両審議会が連続的に充足されるサービス及び長期契約に関する収益認識モデルを改訂したことから、より多くの取引が履行義務の充足に比例して収益認識する方法を用いて会計処理されることになる可能性が高い。
- 両審議会が独立の履行義務の識別に関する要件を改訂したことから、収益(又は損失)の認識時期が変更になる可能性がある。
- 両審議会は、取引価格(変動性のある対価を含む)の見積り及び識別した履行義務への取引価格の配分に関していまだ審議を行っておらず、これらの領域において変更が行われる可能性がある。
概要
国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)(以下、総称して「両審議会」)は、コメント提供者から寄せられたフィードバックを受けて、収益認識に関する共同公開草案「顧客との契約から生じる収益」(以下、公開草案)に対するさまざまな提案について再審議を行なっている。現在、両審議会が公開草案における提案を変更しようとしている点の多くは、新たな基準書がIFRSに基づく現行実務に及ぼす影響を、可能な限り抑えようとするものである。
IASBが最近更新したワークプラン1によれば、新たな収益認識基準に関する両審議会によるすべての決定及び最終投票は2011年第3四半期までに行われる予定であるが、最終基準書は少なくとも努力目標である2011年第4四半期までは公表されない。しかし、以下で詳しく説明しているように、両審議会はいくつかの重要な論点についていまだ結論に至っておらず、これらの論点により本基準書の公表にさらなる遅れが生じるかどうかは不透明である。
両審議会はこれまで、再審議計画で特定された数多くの論点の検討に取り組んできた。下記では、公開草案で提案されたモデルに対する変更のうち、より重要性の高いものをまとめているが、これには両審議会によるすべての暫定的決定が含まれているわけではない。
顧客との契約の識別
契約の存在
両審議会は、契約の定義について、収益に関する基準書と金融商品に関する基準書ではその目的及び適用範囲が異なることから、それぞれの基準書において異なる定義を用いることを確認した。また両審議会は、収益を認識するためには契約で取引価格が明記されている必要はないことを確認した。その代わり売手は、当基準書を適用して取引価格を見積り、それに基づき当該契約を会計処理することになる。
契約の分割
両審議会は、契約の分割に関して提案されたガイダンスは分かりにくいという関係者の意見に同意した。そのため、両審議会は、契約の分割を求める規定を削除し、代わりに契約を独立した履行義務にのみ区分することを求めることとした。
独立した履行義務の識別
当初の提案によれば、まず企業は、契約をその契約条件と自社の通常の商慣行に照らして検討し、約束したすべての財及びサービスを識別しなければならない。その上で、それらの財及びサービスを他のものと区別することができるか否かの判断に基づき、それらが独立した履行義務に当たるかどうかを判断しなければならない。
履行義務の定義
両審議会はまず、「履行義務」の定義を改訂することを決定した。当初公開草案では、履行義務は「財又はサービスを顧客に移転するという当該顧客との契約における(明示的であれ、黙示的であれ)強制可能な約束」であると定義されていた。関係者は、法的に強制可能な義務のみがこの定義を満たすと解釈した。両審議会は、履行義務は法的に強制可能である必要はないと結論づけ、よって最終基準書では「強制可能」という文言を含まない改訂後の定義が採用される予定である。
履行義務の分割
契約における履行義務の識別後、企業は、履行義務を分割できるかどうかを判断しなければならない。ここで重要になるのが、1つ又は複数の財又はサービスが「区別できる」かどうかの判断である。両審議会には、「区別できる」という概念に関する公開草案での提案に対し、多数のフィードバックが寄せられた。結果として両審議会は、財及びサービスを個別に会計処理すべきかどうか判断するためのモデルを簡略化し、下記の2段階アプローチを用いることとした。
- 約束した複数の財又はサービスを一つにまとめるサービスを企業が顧客に提供している場合には、当該財又はサービスの組み合わせを単一の履行義務として会計処理する
- 次の両方の要件を満たす場合には、約束した財又はサービス、あるいは財又はサービスの組み合わせを別個の履行義務として会計処理する
- 財又はサービスの移転パターンが、契約における他の財又はサービスの移転パターンと異なっている(財又はサービスの間で移転パターンに差異がない場合には、財又はサービスを分割して、又は結合して会計処理するかにかかわらず、収益認識は同じになる)
- 財又はサービスに区別できる機能がある。すなわち、当該財又はサービスにそれを他の財又はサービスから峻別し得るような性質が備わっている場合、これを別個の履行義務と考える。以下のいずれかを満たす場合には、財又はサービスに区別できる機能があるとされる
- 企業が、経常的に当該財又はサービスを別個に販売している
- 顧客は、当該財又はサービスを、以下のいずれかの方法により使用することができる
- 当該財又はサービスを単独で使用することができる
- 当該財又はサービスを容易に入手可能な資源と組み合わせることにより使用できる(容易に入手可能な資源には、すでに移転された財又はサービスにより取得した資源、あるいは顧客が別途購入できる資源の双方が含まれる)
約束したものが財とサービスのどちらに該当するかの判断
公開草案からの変更点として、両審議会は財及びサービスについて、それぞれ個別のガイダンスを定めることを暫定的に決定した。企業が財又はサービスのどちらを提供しているかを判断する際の一助となるように、両審議会は、サービスとは連続的に充足される履行義務であると定義し、履行義務は次のいずれかの場合に連続的に充足されると結論づけた。
- 企業の履行により、顧客が支配する資産が創出されるか又はその機能が向上する
- 企業の履行により、企業にとって代替的用途がある資産が創出されず、かつ、下記の条件の少なくとも1つが満たされる
- 各作業が実行されるに従い、顧客が便益を受け取る
- 他の企業が残りの義務を履行するとした場合に、当該他の企業はそれまでに履行されたすべての作業を再度履行する必要はない
- 顧客又は企業が任意に契約を解除するとした場合に、企業は、それまでの履行に対して支払いを受ける権利を有する
取引価格の算定
変動性のある(不確実な)対価
両審議会により提案された5つのステップから構成される収益認識モデルの3番目のステップは、取引価格の見積りである。公開草案では、契約開始時に、確率で加重平均した見積りを用いて、業績ボーナスやロイヤルティなど変動性のある対価を含めて取引価格を見積ることを求めている。関係者はこのアプローチに対し数々の懸念を表明したが、両審議会はいまだ最終的な結論に至っていない。弊社は、両審議会が、2011年4月に開催される共同会議において、この点に関し審議を続けるものと予想している。
回収可能性
最近の再審議において、両審議会は、顧客の信用リスクの影響は収益の測定に反映させるべきではないと決定した。これは、公開草案における提案からの変更点である。企業は、回収不能と見込まれる金額を控除せずに収益を表示し、総収益のすぐ下に独立の表示科目として、予想される減損損失に対する引当金を表示することになる。当該表示科目には、当初の引当金額及び事後的な回収可能性の変動による影響が含まれる。
貨幣の時間的価値
両審議会は、貨幣の時間的価値の影響が重要な場合には、取引価格を測定するにあたりこれを考慮することを求める公開草案における提案を再確認した。しかし両審議会は、どのような場合に貨幣の時間的価値の影響が重要になるかを企業が判断する際の一助となるように、要件を定めることにも同意した。両審議会は、契約にとって重要な財務要素が含まれている場合にのみ、企業は貨幣の時間的価値の影響を考慮しなければならないと暫定的に結論づけた。さらに両審議会は、契約に重要な財務要素が含まれているかを判断するにあたり、企業は以下の要因を考慮すべきであることに同意した。
- 顧客が財又はサービスの移転時に現金で支払いを行うとしたら、顧客による支払対価が大きく異なることになる
- 財及びサービスの引渡時期と対価の受領時期とが大きく異なる
- 契約における(黙示的又は明示的な)金利に重要性がある
両審議会はまた、顧客による支払いと企業による履行義務の充足時点との間の期間が1年未満である場合には、貨幣の時間的価値を考慮する必要はないと暫定的に結論づけた。
履行義務の充足
収益の認識
上記「独立した履行義務の識別」で説明したように、両審議会は、サービスの提供を財の提供とは区分して取り扱うことに同意した。財及びサービスに対する支配の顧客への移転を描写するように収益を認識するという提案されたモデルの基本原則に変更はないものの、どの時点で顧客にサービスが移転されるかをより明確化するため、両審議会は公開草案における提案を再検討している。
財に対する支配の移転
両審議会は、財に対する支配の移転に関する基本原則を変更しないことを決定した。しかし、両審議会は、「支配」の定義を削除し、その代わりに顧客が特定の財又はサービスに対する支配を獲得しているかどうかを企業が判断する際の一助となるように、次の指標を含めることにより提案されたモデルに対して軽微な変更を行うことを決定した。
- 顧客が無条件の支払義務を負っている
- 顧客が法的所有権を有している
- 顧客が物理的に占有している
- 顧客が所有に伴うリスクと経済価値を有している
サービスに対する支配の移転
両審議会は、サービスからの収益は、サービスが提供されるに従い連続的に認識されるべきであると結論づけた。
企業は、(上記要件に基づき)履行義務がサービスに該当すると判断した場合には、完成までの進捗度を適切に測定する方法を選択しなければならない。両審議会は、公開草案で提案された進捗度の測定に関するガイダンスの多くをそのまま維持する予定である。公開草案におけるガイダンスでは、企業は、サービスの連続的な移転を最もよく描写する単一の収益認識方法(アウトプット法、インプット法又は時の経過に基づく方法)を選択することが求められている。選択された方法は、類似の履行義務を含むすべての契約に適用される。
財とサービスの両方に関する契約
最終基準書では財とサービスが区別され、それぞれに個別の収益認識ガイダンスが定められることから、両審議会は財とサービスの両方を含む取引の会計処理についても取り上げた。両審議会は、財とサービスが区分できるのであれば、それぞれに適切なモデルを用いて個別に会計処理すべきであると結論づけた。しかし、財とサービスが区分できないのであれば(すなわち、財とサービスが単一の履行義務として会計処理すべき一体となった組み合わせに該当する場合、又は財とサービスが、互いを区別できるような機能を有していなければならないという、上記で説明した分割要件を満たさない場合)、財とサービスの組み合わせに対しサービスに関するモデルを適用しなければならない。両審議会は、この方法のほうが、取引の経済的実質をより忠実に表すと考えている。
製品保証の会計処理
公開草案からの変更点として、両審議会は、一定の保証は、繰延収益アプローチではなく発生コストアプローチを用いて、保証債務として会計処理することを暫定的に合意した。製品保証が契約に定められた仕様どおりの製品を引き渡したことを顧客に保証するものである場合には、企業は引当金として当該保証債務を会計処理しなければならない。逆に言えば、引き渡した製品が契約に従ったものであるとの保証に加え、顧客にサービスとして提供される保証がある場合には、当該サービスとして提供される保証部分だけを別個の履行義務として会計処理する必要がある。
契約コストの会計処理
提案された収益認識モデルに加え、公開草案では、顧客に財及びサービスを提供する契約を獲得し履行する際に企業に発生するコストの会計処理に関するガイダンスも提供されている。両審議会は、契約を履行するためのコストの会計処理については再審議を行っていないものの、契約を獲得するためのコストの会計処理については重大な決定を行っている。
両審議会は、契約獲得のための増分費用(すなわち、契約を獲得しなければ発生しなかったコスト)は資産として認識すべきであると暫定的に決定した。コストは、直接(すなわち、契約に基づき補填される場合)又は契約に固有のマージンを稼得することを通じて回収可能な場合にのみ資産化される。
その後、資産化されたコストは個別の資産として計上され、契約に基づき財又はサービスが移転される期間にわたり規則的に償却される。このガイダンスは、獲得した契約に関するコストと交渉中の契約に関するコストに適用される。
不利な契約
関係者が表明した懸念を受けて、両審議会は、不利な契約の判定における当初の会計単位は、別個の履行義務ではなく、契約であると暫定的に決定した。これは、公開草案からの大きな変更点である。
両審議会はまた、契約が不利かどうかの分析において、コストには、契約における履行義務を充足するための直接コストを含めるという決定を再確認した。しかし、企業が契約を解除すると決定し、その決定を通知した場合には、当該企業は履行義務の充足のためにコストを負担するのではなく、契約を終了するためにコストを支払う。現在の計画では、両審議会は履行コストの定義について引き続き審議する予定であり、これにより不利な契約の判定に含められるコストが変更される可能性がある。
しかし、両審議会は、将来の販売契約から生じる利益が当初の契約から生じる損失を上回ると予想される場合に、当初の契約において財又はサービスをあえて赤字で提供する、いわゆる「ロス・リーダー」契約は、不利な契約の判定から除外されないという公開草案における提案を再確認した。提案されたガイダンスでは、企業が契約を締結した時点(当該日が引渡日と異なる場合)で損失が計上されることとなる。
弊社のコメント
弊社は、公開草案に対するコメント募集プロセスにおいて関係者が表明した懸念の多くに対する両審議会による取り組みにより、公開草案における提案に対し非常に重要な改訂が行われたと捉えている。しかし、まだ審議が行われていない多くの重要な領域が存在する。くわえて弊社は、両審議会がこれまでに行った暫定的な決定について、報告企業に対するフィールド・テストを行うべきであるとも考えている。特に、連続的な移転に関する新たな提案は、さまざまなケースに照らしてテストされるべきであろう。
弊社は、最終基準書の完成までのスケジュールがタイトであることを鑑みれば、共同プロジェクト・チームは、これらの決定を反映した最終基準書の作成と並行して、必要なアウトリーチ活動を実行するため、綿密に調整された作業プロセスを持つことが必要であると考える。
次のステップ
- 不確実な対価、取引価格の配分、コストの会計処理、ライセンス又は使用権の会計処理など、両審議会が取り組むべき重要な論点がまだいくつか残っている。これらの論点は、今後数カ月のうちに取り上げられる予定である。弊社は、これらの論点に関する決定が行われた時点で、最新情報を皆様にお届けする予定である。
- 両審議会は、基準書案をコメント募集のために再公表するかどうかについてまだ議論していない。そのため、弊社は、関係者は引き続き当該プロジェクトの動向を注視し2、最近の決定に関し何か重大な懸念があれば、その旨を両審議会又はプロジェクト・チームにできるだけ早く伝えるよう奨励する。
- 両審議会による最近の決定の多くは、IFRSに基づく現行実務に重大な変更をもたらすことになっていたであろう公開草案における提案の一部を取り除くものであるものの、最終基準書の公表により多くの企業の会計処理が変更されることに変わりはない。すべての企業は、最終基準書が公表された時点で、その内容を慎重に検討し、その適用に向けて準備を始めるべきである。
- IASBワークプラン(2011年3月28日現在の予想スケジュール)は、http://www.ifrs.org/Current+Projects/IASB+Projects/IASB+Work+Plan.htmで公表されている。当ワークプランは定期的に更新される。
- IASBのプロジェクト・チームは、収益認識に関する文書、要約、比較などをIASBのウェブサイトで公表している。これらは、http://www.ifrs.org/にて入手可能である。