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IASBとFASBによる金融資産の減損に関する共同提案

2011年1月31日、国際会計基準審議会(以下、IASB)と米国財務会計基準審議会(以下、FASB)は、貸出金及びその他の金融資産の減損アプローチを共同提案する追補文書を公表した。

IASBとFASBは、それぞれ別個に公表した公開草案(以下、ED)の中で、金融資産の減損について異なるアプローチを提案していた。今般、公表された共同文書は、両審議会へ寄せられたEDに対するコメント及びその後の共同審議を踏まえ、減損の会計処理に関する共通のアプローチについて、関係者からの見解を要請するものである。

IASBは、この共同文書を、IASBのみ添付した付録も含め(以下、双方を併せて追補文書)、2009年11月公表ED「金融商品:償却原価及び減損」を補足するものと位置付けている。IASBは、この追補文書の中で、オープン・ポートフォリオで管理される金融資産について、EDと異なる共通のアプローチを提案すると共に、クローズド・ポートフォリオ及び減損の個別的評価が行われた資産についても、このアプローチと、EDにおける当初提案のいずれを適用すべきかに関するフィードバックを求める質問を行っている。

アーンスト・アンド・ヤングは、本Outlook増刊号にて、共同提案されたアプローチ及びその他の提案内容について解説し、併せてこれにより想定されるビジネスへの影響について考察する。

追補文書における提案内容の概要

適用範囲

  • 短期売掛債権は、割引の影響が重要でない場合には適用対象外

期待損失の見積り

  • 期待損失の見積りは、過去の実績データ、現在の経済情勢、将来の事象及び経済情勢に関する裏付けのある予測を含む、企業独自(内部)及び外部のあらゆる利用可能な情報に基づく。
  • 将来の事象に対する予想は、合理的かつ裏付けのある情報に基づき、かつ、利用可能な現在のデータと整合するものでなければならない。

共通アプローチ

  • 期待損失は、各報告期間の純損益に規則的に按分するが、総利息収益は、これとは別個に計算する。
  • ポートフォリオは、優良資産(Good Book (以下GB))と不良資産(Bad Book (以下BB))に区分する。
  • GBに含まれる金融資産ポートフォリオの残存期間全体にわたる期待損失は、残存期間にわたって、定額法又は年金法により、純損益へ規則的に按分する。
  • 残存期間全体にわたる期待損失の見積りの変更は、時間比例で計上する。
  • 各報告日のGBに対する引当金は、予想可能な将来期間に発生すると見込まれる信用損失の合理的な見積金額(フロアー)を下回ってはならない。なお、予想可能な将来期間は少なくとも12ヵ月超でなければならない。
  • 個々の資産がGBからBBへ振り替えられた場合には、当該資産の残存期間全体にわたる期待損失の全額を引き当てる。
  • こうした振替は、企業内部の信用リスク管理要件に従って行う。

表示及び開示

  • 重要な新たな表示及び開示規定を設ける。

追補文書の公表に至った経緯

IASBは、2009年11月にEDを公表したが、そこでは償却原価測定される金融資産の信用損失を期待キャッシュ・フロー・モデルに基づき決定することが提案されていた。このモデルによれば、当初見積られた信用損失は、当該資産の実効金利に含められ、残存期間にわたって利息収益の減少として認識される。

一方、FASBは当初、IASBと異なるモデルを提案していた。FASBが2010年5月に公表した減損アプローチでは、金融資産からの契約上約束されたキャッシュ・フローの全額が回収できないと見込まれた時点で減損を認識し、信用損失を計上することとされていた。提案されたアプローチでは、減損が集合的に評価される金融資産については、ポートフォリオに含まれる金融資産の残存期間にわたって発生すると予想される信用損失は、当該資産がオリジネート(組成)された報告期間に認識されることになる。

両審議会は、IASBの期待キャッシュ・フロー・アプローチは実務上適用が困難であるとの問題にどのように対処するかを検討するため(及びFASBが開発していた当初のアプローチに対するインプットを提供するため)、リスク管理の専門家を含む外部作業グループである専門家諮問委員会を設置したが、当該委員会は、期待キャッシュ・フロー・アプローチは、オープン・ポートフォリオには適用困難であると指摘した。専門家諮問委員会の多くのメンバーは、オープン・ポートフォリオで管理される金融資産であっても運用可能と考えられる代替的なアプローチを提案していた。

その後、両審議会は、共通の減損アプローチを求める関係者からの要請を受け、共同審議を重ねてきたが、今般の追補文書による共通アプローチの提案は、一連の議論を反映したものである。

追補文書の要点

適用範囲

追補文書で提案された共通アプローチは、オープン・ポートフォリオに含まれる金融資産への適用が想定されている。ここで、オープン・ポートフォリオとは、類似の特性を有する金融資産グループで、随時に資産の入替(追加及び除外)が行われるが、企業がこれらの個別資産をトラッキング(記録・追跡)していないものをいう。両審議会は、現在のところ、負債性証券への投資や、オープン・ポートフォリオの一部でない資産あるいは個別評価される資産についての減損規定については共同審議していない。しかしながら、両審議会は、同じアプローチをクローズド・ポートフォリオにも適用すべきかについても関係者の見解を要請している。

約定金利がなく、貨幣の時間的価値の割引の影響が重要でない短期売掛債権は追補文書の適用対象外とされている。収益を期待信用損失控除後の純額で純損益に計上すべきかどうかは、収益認識プロジェクトにおいて決定され、そこでの収益の表示方法により、短期売掛債権の当初測定も決まることになる。IASBは、この決定が行われた後で、短期売掛債権に適用すべき減損アプローチを検討する予定である。

追補文書には、最終基準において、その適用範囲に公正価値測定されないローン・コミットメントを含めるべきかについての見解を求める質問も含まれている。この質問は、多くの関係者から、類似の信用リスクを有する商品については、同様の減損アプローチを適用すべきとの懸念が寄せされたことを反映したものである。しかし、ローン・コミットメントと異なり、現在、金融保証契約は保険契約EDに含まれており、IASBは、今のところ、こうした契約の会計処理の見直しを検討していない。そのため金融機関は、ローン・コミットメントと金融保証契約について、それぞれ異なるシステム及びプロセスを構築しなければならなくなる可能性がある。

期待損失の見積り

追補文書の提案によれば、期待損失の見積りにあたっては、企業内部(企業独自)及び外部のあらゆる利用可能な情報に基づかなければならない。これには、過去の実績データ、現在の経済情勢、将来の事象及び経済情勢に関する裏付けのある予測も含まれる。また、将来の事象に対する予想は、合理的かつ裏付けのある情報に基づき、かつ、現在、市場で入手可能なデータ(例:フォワード・カーブ、経済成長率及び失業率に関する市場のコンセンサス予想)と、企業が内部リスク管理目的で用いるデータの両方と整合するものでなければならない。

追補文書の中で損失の見積りについて提案されたガイダンスは、IASBが2009年11月に公表したEDにおけるガイダンスを拡充するものである。これに対し、FASBの当初提案における利用可能なあらゆる情報とは、契約上のキャッシュ・フローの回収可能性に影響を与える過去の事象及び現在の状況に限定されていた。このため、信用損失を見積る上で、将来の経済情勢を考慮するという今回のガイダンスは、このFASB提案を事実上変更するものといえる。

同文書では、残存期間全体にわたる期待損失の見積方法について特定のアプローチは強制されていない。したがって、実務上、この見積りを行うために、短期的な予測情報、及び、より長期的な過去の実績データに基づく長期平均貸倒実績率といった一定のインプットに基づく期待損失の予測モデルを開発する企業もあるかもしれない。なお、見積りにあたって、各企業は、それぞれ異なる予測期間について、独自の予測及び長期平均貸倒実績率を使用することができる。これは、たとえ同じ金融資産ポートフォリオであっても、残存期間にわたる期待損失について、企業によって著しく異なる見積りが行われる可能性があることを意味する。

また、同文書は、GBに含まれる資産について、少なくとも12ヶ月超の「予想可能な将来」期間にわたる期待損失を計算し、その金額をGBポートフォリオの最低引当額(フロアー)とすることを求めている。ここで、予想可能な将来における期待損失の見積りとは、具体的には、「将来の事象及び状況に関する具体的な予測が可能であり、かつ、当該予測に基づき信用損失の金額を合理的に見積ることができる一定の期間における信用損失の最善の見積り」を意味し、これを行う上では、残存期間全体にわたる期待損失の見積りに用いるのと同じ情報源に基づかなければならない。たとえば、期末に、企業が、加重平均残存年数が5年の貸出金ポートフォリオから、今後2年間に15百万米ドルの信用損失が発生するとの予測を立てたとする。この場合、予想可能な将来期間は2年間であり、最低引当額は15百万米ドルとなる。これは、文字通り、企業が「予想可能な将来」又は「合理的な見積りを行い得るか?」についてどのような考えを採るかにより、異なる見積金額が計算される可能性があることを意味する。

さらに、同文書のガイダンスは、「見積りの実施は、事象及び状況に関する企業の予測能力に大きく依存する」とも述べている。これは、より洗練された企業ほど、より長期の予測を行うことができるため、その結果、より多くの最低引当額が計算される可能性があることを意味する。逆にいえば、最低引当要件が適用される場合には、あまり複雑でない企業ほど小額の引当金しか計上されない結果が生じ得るということである。

加えて、同文書は、予想可能な将来期間は、特性の異なる資産群ごとに異なってもよいが、特定のポートフォリオについて、その期間が各期に大きく変化することは想定されないと述べている。

共通アプローチの特徴

追補文書における共通アプローチの特徴は以下のとおりである。

  • 金融資産の減損は、類似の特性を有する資産ポートフォリオごとに判定される。
  • ポートフォリオは、経営者が、約定通りの支払いを受け取ることができると見込んでいる資産から成るGBと、資産の全部又は一部の回収を目的とするBBに区分する。

GB

  • 期待損失の按分と利息収益の計算を"分離(デカップリング)"するアプローチを適用する。GBに含まれる金融資産の残存期間全体にわたる期待損失の総合計は、規則的に純損益に按分し、加重平均満期にわたって引当金を増加させる。按分方法の詳細は以下のとおりである。
  • GBに含まれる資産ポートフォリオの期待損失は、毎期、その時点の実績及び状況(ポートフォリオへの新たな資産の追加も含む)を反映するように再評価する。引当金は、見直し後の期待損失が、あたかも過去から按分されていたかのように調整し、調整額は即時に純損益で認識する。たとえば、ポートフォリオの加重平均満期が5年で、経過年数が2年だとすると、当期末の引当累計額は、見直し後の期待損失の2/5となる。すなわち、引当金の金額は時間比例で計算される。
  • 各期末にGBについて実際に計上される引当金残高は、上記の時間比例で計算された金額と、予想可能な将来期間(少なくとも期末日後12ヵ月超)に発生すると見込まれる信用損失の金額(フロアー)のいずれか大きい金額となる。

BB

  • 個別資産又は資産グループの回収可能性が非常に不確実になったことにより、企業の信用リスク管理目的が、約定通りの支払いを受けることから、金融資産の全部又は一部の回収へと変化した場合には、GBの資産ポートフォリオから切り離し、 BBに振り替えた上で、その報告期間に、残存期間全体にわたる期待損失の全額を引き当てる。

共通アプローチ

共通アプローチ


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