財務諸表の表示モデルに関するIASBスタッフ・ドラフト
重要ポイント
- IASBとFASBは、財務諸表の表示に関する抜本的な変更を提案する公開草案のスタッフ・ドラフトを公表した
- 財務情報の分解が要求されることで、財務諸表における開示の詳細度が著しく増大する
- 直接法によるキャッシュ・フロー計算書の作成が、任意ではなく強制となる
- 提案された変更内容を実際に適用するためには、プロセスや情報システムに重要な変更が必要となる可能性が高い
- 注記には、再測定に関する開示ならびに一部の資産及び負債の表示項目の変動に関する詳細分析が含まれる
- 当該提案は、FASBがより詳細なセグメント別開示を提案している点を除き、米国会計基準に対する提案内容と整合している
はじめに
国際会計基準審議会(以下、IASB)と米国財務会計基準審議会(以下、FASB)(総称して以下、両審議会)は、新たな財務諸表の表示に関する基準書について、公開草案のスタッフ・ドラフト(以下、ドラフトED)をそれぞれのホームページ上で公表した。このドラフトEDの公表は、両審議会の共同プロジェクトである包括的な財務諸表の表示プロジェクトの作業計画の一環として行われた。
ドラフトEDは、財務諸表の表示に関する新たな基準書を開発するにあたり、両審議会がこれまでに行った暫定的な意思決定を反映したものである。両審議会の提案は基本的に同一であるが、セグメント別開示に関して若干の相違が一部存在している。
両審議会は、新しい基準書の最終的な公開草案を確定し公表する前に、追加のアウトリーチ活動を行うことを決定している。この活動は、当該提案によって生じると予想される便益と費用や、当該提案が金融サービス業に従事する企業に与える影響を検討するために行われる。両審議会は、こうした追加のアウトリーチ活動を完了した後、受領した意見及び情報を考慮して、暫定的な意思決定を変更すべきかどうかを検討することになる1。新基準の公開草案は2011年の早い段階で公表される予定である。
- 当該スタッフ・ドラフトは、アウトリーチ活動を実施するための基礎情報として提供されているものである。両審議会は、スタッフ・ドラフトに対するコメントを公式には募集していないが、関係者からの意見及び情報は歓迎されている。
提案の概要
ドラフトEDの提案が採用された場合、新しい基準書により、業績、財政状態及びキャッシュ・フローの表示方法は、従来のものから根本的に変更されることになる。
財務諸表利用者が現行財務諸表に関して表明している首尾一貫性と比較可能性の欠如という懸念を解消するために、一体性(cohesiveness)と分解(disaggregation)が重要な基本原則として用いられている。新しい表示モデルはすべての報告企業にとって抜本的な変更を意味しており、企業の情報システムに重要な変更が要求される可能性が高い。
基本財務諸表は、企業の事業活動(価値を創造する方法)及びそれとは区別される企業の財務活動(事業活動に必要な資金を調達する方法)と首尾一貫する形で構成される。事業活動は、さらに営業活動と投資活動に区分され、財務活動は現行の負債と資本の定義に基づいて、債務(debt)と資本(equity)のカテゴリーに区分される。さらに個別のセクションとして、非継続事業、法人所得税及び複数カテゴリー取引(multi-category transactions)が表示される。
現行実務からの特に重要な変更の1つとして、営業利益と営業キャッシュ・フローの調整表に加えて、直接法による営業キャッシュ・フローの表示が要求される規定が挙げられる。また、提案されたガイダンスによれば、財務諸表において機能別、性質別及び測定基礎別に財務数値を分解する必要があるため、企業が開示すべき情報量は著しく増加することになる。企業はまた、財務諸表で認識される再測定(当該提案で定義されている)に関する情報及び、一部の貸借対照表における表示項目の変動に関する分析(すなわち、期首と期末残高の調整表)も開示することになる。
基本原則
基準書案は2つの基本原則、すなわち一体性(cohesiveness)と分解(disaggregation)に基づいている。両審議会は、これらの2つの原則が一体となって、報告企業の財務情報の理解可能性が向上すると考えている。
一体性
一体性とは、財務諸表項目間の関係に焦点をあて、財務諸表全体にわたって同一取引を首尾一貫して表示することをいう。
現行財務諸表における支払利息の表示を例にすることで、一体性の原則を容易に説明することができる。すなわち、現在、未払利息が貸借対照表において流動負債として表示される場合でも、一方で利息費用は損益計算書において財務費用に分類され、支払利息はキャッシュ・フロー計算書において営業キャッシュ・フローに分類されることが多い。提案された表示モデルでは、支払利息関連残高は財務諸表全体にわたり首尾一貫して、財務セクションの債務カテゴリーに表示されることになる。
分解
分解の目的は、企業の活動やキャッシュ・フローが明確になり、資産又は負債間の関係と当該資産又は負債の変動の影響が財務諸表に首尾一貫して反映されることで、財務諸表において十分に詳細な情報が提供されることにある。類似の経済的特徴を有さない取引は、それぞれの性質、機能又は測定基礎に基づき、別個の表示項目とされる必要がある。たとえば、売上原価に含まれる労務費及び材料費は、それぞれ異なる経済的特徴を有する場合が多いため、企業はそれらを分解して表示することを検討することになる。
財務諸表の分類モデル
提案されたガイダンスでは、財政状態計算書、包括利益計算書及びキャッシュ・フロー計算書において、報告企業が財務情報を分類するための共通のセクション及びカテゴリーが提供されている。これらの各計算書は、Box 1に示しているセクションとカテゴリー(小計を含む)を有する。
企業は自己の活動にどのように関係しているかに基づき、財務諸表全体にわたり一体性のある方法で、財務諸表項目を適切なセクション及びカテゴリーに分類する。したがって、財務諸表項目の分類は、報告企業が営業活動を行っている業種(たとえば、金融サービスに従事する企業)によって異なる場合がある。報告セグメントを複数有する企業は、各セグメントレベルで財務諸表項目の機能を反映する方法によって分類を行う。
企業は、財務諸表のセクション、カテゴリー及びサブカテゴリーにおける表示項目の分類根拠を開示することが要求される。
財政状態計算書の変更
資産、負債及び資本の現行の表示方法ではなく、上記で説明したセクション及びカテゴリーに基づき分類されることで、財政状態計算書の構成及び様式は大きく変更されることになる。しかし、新しいセクション及びカテゴリーごとに要求される小計に加えて、資産・負債合計、短期/長期資産・負債合計など、財政状態計算書で現在要求されている一定の小計は引き続き表示される。
財政状態計算書には、複数カテゴリー取引セクションを除き、定義されたすべてのセクション及びカテゴリーが含まれる。非継続事業及び法人所得税は引き続き個別に表示される。
Box 1:セクション及びカテゴリーに含まれる項目
| 事業セクション
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報告企業の純資源の相互関連的な利用を要求するプロセスを通じて、収益を生じさせる項目及び取引
例:収益、売掛金、顧客から受領した現金、棚卸資産及び有形固定資産
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- 営業財務(operating finance)サブカテゴリー
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主として営業機能を有し、副次的に資金調達機能を有するが、それらが密接に関連する負債
例:年金費用、年金債務と退職者への現金支払額、リース及び資産除去債務
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一般的に利息、ロイヤルティ、配当の形で報告企業にリターンを生じさせる項目及び取引。報告企業において、投資資産の相互利用による重要なシナジーは生じない。
例:関連会社の利益に対する持分、受取利息及び配当金、負債性証券又は資本性証券への投資 |
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財務セクション
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資金を調達する(又は返済する)目的で締結した借入契約。ただし、報告企業自身の資本に関係する取引から生じる資産及び負債(たとえば、未払配当金)を含む。
例:利息費用、借入金、借入金元本及び利息の支払額 |
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IFRSで資本と定義される項目 |
| 法人所得税セクション |
当期及び繰延税金項目及び当該取引 |
| 非継続事業セクション |
IFRSに基づき決定される非継続事業に関連する資産及び負債、その変動ならびに関連キャッシュ・フロー |
| 複数カテゴリー取引セクション |
包括利益計算書及びキャッシュ・フロー計算書の複数のセクション又はカテゴリーに影響を及ぼす取得又は処分取引の影響
例:事業の取得又は処分 |
現金は常に事業セクションの営業カテゴリーに分類される点に留意が必要である。当該提案では現金同等物の概念が廃止されているため、現金同等物と現在みなされている項目は、ほとんどの営利企業において投資カテゴリーに含まれることになる。
ドラフトEDでは、セクション及びカテゴリー内において、企業の財政状態を理解する上で分解が目的適合性を有する場合には、類似の資産及び負債を分解することが要求されている。企業は、当該判断を行うにあたり、資産及び負債の機能、資産の性質及び流動性、負債の性質及び決済時期、資産と負債の測定基礎を考慮する。たとえば、企業は持分法で会計処理されている関連会社への投資と公正価値オプションで会計処理されている関連会社への投資を分解する。
資産と負債は、各セクション及びカテゴリー内で引き続き短期と長期に分類される。
しかし、当該提案では、この長短分類において12ヵ月より長い営業循環期間を考慮することはもはや認められない。すなわち、資産又は負債は、契約上の満期日又は実現もしくは決済予想日のいずれか早い方が報告日から1年以内である場合には短期に分類され、それ以外の場合には長期に分類される。
企業は、各セクション及びカテゴリー内で、短期と長期による分類ではなく、流動性の順序で表示した方がより有用な情報を提供する場合(たとえば、金融機関)には、財政状態計算書を流動性の順序で表示することができる。
包括利益計算書の変更
両審議会は、2計算書方式により包括利益計算書を表示する選択肢を廃止し、純損益とその他包括利益の2つの区分を含む1つの包括利益計算書の表示を要求する提案を別途行っている。2別途行われた当該提案(以下、OCI ED)の内容についても、ドラフトEDに反映されている。企業は引き続き、包括利益合計とは区別して純損益を表示し、純損益が1株当たり利益の計算基礎とされる。
企業は通常、包括利益計算書の本体において、機能別(たとえば、製品収益、サービス収益、売上原価及び販売費)に収益と費用を分解する。当該提案によれば、企業は、財務諸表の本体か注記のいずれかにおいて、分解によって意味のある情報が提供される場合には、機能別にグルーピングされた収益及び費用について、さらに性質別に分解を行わなければならない(たとえば、売上原価を材料費、労務費、燃料費、輸送費に分解する)。機能別での分解が利用者にとって有用ではないと企業が判断した場合には、包括利益計算書において、収益及び費用項目を性質別でのみ分解することができる点にも留意が必要である。
- 公開草案「その他包括利益の項目の表示(IAS第1号の改訂案)」(2010年5月公表)。新日本有限責任監査法人公表の日本語版IFRS Outlook増刊号第74号を参照。
EYのコメント
表示モデル自体が変更されることに加え、表示すべき情報が著しく増加することにより、報告企業が財務諸表の作成にあたって使用するシステム及びプロセスに関して、重要な変更が要求される可能性がある。
その他包括利益に含まれる表示項目(連結子会社又は比例連結されるジョイント・ベンチャーに関する為替換算差額は除く)は、営業活動、投資活動もしくは財務活動、又は非継続事業のどれに関連するものかが示される。この表示は、事後的な組替調整(リサイクリング)により、影響を受ける損益カテゴリーを特定することを意図したものである。
上記以外にも、その他包括利益の表示に関連して、OCI EDで提案された変更のうち、ドラフトEDに含まれている項目がある。すなわち、その他包括利益は、事後的に純損益に組替調整される項目と、組替調整が禁止される項目とにグルーピングすることが要求される。さらに実際の組替調整額は、その他包括利益の項目別に区分して表示される。
キャッシュ・フロー計算書の変更
提案された現行実務からの最も重要な変更の1つは、直接法によるキャッシュ・フロー計算書の作成を要求する規定である。直接法では、財政状態計算書の関連する資産、負債又は資本項目及び包括利益計算書の関連する収益又は費用項目と同じセクション及びカテゴリーに分類した上で、現金の受領と現金の支払額を総額で表示する必要がある。両審議会は、直接法によるキャッシュ・フロー計算書の方が、将来キャッシュ・フローの金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が評価する上で、より有用な情報を提供すると考えている。
企業はまた、キャッシュ・フロー計算書の不可分な一部(すなわち、注記ではなく財務諸表本体の一部)として、(当該提案で定義される営業カテゴリーに基づき)営業利益と営業キャッシュ・フローの調整表も表示する必要がある。
EYのコメント
直接法によるキャッシュ・フロー計算書を表示するために、ほとんどの企業にとって、システム及びプロセスに重要な変更が要求される。たとえば、原材料費、直接労務費及びその他の事業に関連するキャッシュ・フローに関して、それぞれの現金支払額を捕捉するために、原材料、直接工及びその他項目に関連する支払債務を区別する必要がある。
当該提案では、原則としてキャッシュ・フローの総額表示を要求する現行規定は、特定の活動を純額表示することを認める選択肢と共に維持されている。しかし、金融機関は、顧客とのキャッシュ・フロー(たとえば、顧客口座からの住宅ローンの返済、顧客口座からの手数料の引落とし、又は顧客口座への利息の払込み)を総額で表示することが要求される。
財務諸表の注記
財務諸表の注記における現行の一般開示規定は、当該提案により変更されない。しかし、再測定と資産及び負債の変動分析に関して、重要な開示が新たに提案されている。
再測定
両審議会は、財務諸表における見積りの変更の影響について、より多くの情報を求める意見が利用者から提起された点を指摘している。そのため、両審議会は、単一の財務諸表の注記として、再測定に関する開示を求める規定を含めることとした。
再測定は、以下のいずれかの項目の変動(又は実現)を原因とした資産又は負債の正味帳簿価額の変動による影響を反映して、包括利益に認識される金額と定義されている。
- 現在価格又は価値
- 現在価格又は価値の見積り
- 資産又は負債の帳簿価額の測定に使用される見積り又は手法
再測定の例として次の項目が含まれる。
- 公正価値の変動
- 資産の減損
- 有形固定資産の売却に係る実現利得/損失
- 引当金の見積手法の変更
注記において表示される項目は、上記の説明と同一のセクション及びカテゴリーを用いて表示される必要がある。ただし、小計は要求されない。企業はまた、再測定情報の内容を理解できるようにするために、定性的情報も含めなければならない。ただし、当該定性的情報が財務諸表の他の箇所(資産及び負債の変動分析に関する注記)で提供されている場合には、同一の情報を繰返す必要はない。
EYのコメント
再測定に関する開示は、企業の業績が経営者の見積りによってどのような影響を受けたか、これらの見積りが比較的客観性のある測定値(たとえば、レベル1の公正価値評価)の変動に関連しているのか、それとも固定資産又はのれんの減損など、より主観的な見積りに関連しているのか、あるいは貸倒引当金や返品引当金の算定方法の変更に関連しているのかを説明するものである。
資産及び負債の変動分析
当該提案には、報告企業の財政状態を理解するうえで、経営者が最も重要であると考える資産及び負債の変動に関する分析の開示を要求する規定が含まれている。当該開示にあたり、各資産及び負債の相対的な重要性を評価するにあたり、企業は特に次の要件を考慮する。
- 総資産及び負債と比較した、期首又は期末残高の重要性
- 収益、費用及びキャッシュ・フローと比較した、残高の変動の重要性
- 収益、費用及びキャッシュ・フローと比較した、表示項目から生じる活動の重要性
- 資産又は負債の測定に関して仮定又は判断が用いられているかどうか、及び測定における不確実性の程度
- リスクへのエクスポージャーから生じる測定の変動可能性、及び当該エクスポージャーの性質(たとえば、信用リスク、為替リスク及び金利リスク)
調整表では、以下の各項目から生じる変動の影響を個別に表示した上で、資産又は負債の期首残高と期末残高のロールフォワード(調整)が要求される。
- キャッシュ・インフロー及びキャッシュ・アウトフロー
- 経常的かつ日常的に生じる非現金取引(たとえば、信用販売、利息の未払計上)
- 経常的にも日常的にも生じない非現金取引(たとえば、企業結合)
- 会計上の配分(たとえば、減価償却費)
- 評価減又は減損損失(たとえば、貸倒引当金)
- 再測定(たとえば、公正価値の変動又は為替換算)
EYのコメント
報告企業は、財務諸表の決算手続の一環として、現在、報告グループ内の個別企業について同様の分析を行っている場合がある。しかし、このように詳細なレベルにまで分解した情報を連結ベースで表示することを要求する規定に準拠するには、グループ企業間取引及び為替の影響を考慮したうえで、必要なデータを捕捉し、それを連結するという課題に直面する可能性がある。
経営者は、ほとんどの勘定科目の変動の分析を、開示が最も適切となる財務諸表の注記(たとえば、対象資産又は負債に関連した注記)で表示することができる。しかし、現金、短期投資、ファイナンス・リース及び債務カテゴリーの各表示項目は単一の注記として表示する必要がある(これらの項目を合算したものを「純債務」と呼ぶ場合がある)。
当期中の変動分析の一環として開示されるすべての金額に関して、比較情報の開示が要求される。
発効日及び経過措置
最終的なIFRSは、2011年の第4四半期(10月~12月)での公表が予定されている。発効日は提案されていないが、2013年1月1日より前になることはないと想定されるため、作成者が提案された変更を適切に導入するための十分な時間が確保される見込みである。さらに、両審議会は、関係者に与える全体的な影響を考慮するために、財務諸表の表示についての基準書を含む、2011年の公表を目標としているIFRSの発効日及び経過措置(早期適用の可否も含む)に関して、まとめて検討する予定である。
提案によれば、企業は当該規定を遡及適用することが要求される。したがって、企業は以前に公表した財務諸表にも当該規定を適用しなければならず、新しい表示に関する規定が常に適用されていたかのように、過去の各期について表示及び開示されている比較情報の再分類、新たなグルーピング及び分解を行うことになる。