I はじめに

国際会計基準(IFRS)における収益認識の基準については改訂作業が行われており、公開草案「顧客との契約から生じる収益」(以下、公開草案)が公表されています。

この公開草案の解説として、当法人では2011年1月に「公開草案『顧客との契約から生じる収益』-提案された収益認識モデルが実務に与える影響」(以下、収益認識EDに関する刊行物)を発行しています。本稿では、小売業および消費者製品製造業に特有の論点について、補足的な説明を提供します。本稿と収益認識EDに関する刊行物をあわせてお読みください。

なお、本稿は、現行基準との全ての相違点を明らかにするものではありません。また、公開草案であることから、その後の審議により提案内容が変更されている場合もある点にご留意ください。

II 個別論点

1. 通常の製品販売について

提案された収益認識モデルでは、収益は、顧客が商品やサービスに対する支配を売手から獲得した時点で認識されます。一方、IAS第18号「収益」では、収益は、所有に伴うリスクと経済価値が顧客に移転した時点で認識されます。小売業者や消費者製品製造企業にとって、通常の製品販売に関して収益を認識するタイミングは、提案されたモデルにおいても、変わらないものと思われます。これは、商品に対する支配は、一般的にIAS第18号におけるリスクと経済価値が移転するのと同時に、顧客に移転すると考えられるためです。

小売業者や消費者製品製造企業にとって、通常の製品販売に関する収益認識のタイミングには、重要な影響を与えないものと考えられます。しかし、返品権、値引きに関する取決めなどの領域については、現行実務からの変更が求められる可能性もあります。

2. 返品権について

小売業や消費者製品製造業において、返品権付きで顧客に商品を販売する実務は多く見受けられます。国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)は、顧客が返品権を行使することにより、不成立になると予想される売上については、収益を認識するべきではないと結論付けました。また、返品権の存在は、販売時点では取引価額が不確実であることを示唆していると結論付けています。

従って、提案されたモデルでは、合理的な見積りが可能である範囲において、小売業者や消費者製品製造企業は、確率加重平均アプローチを用いて、予想される返品を見積もり、当該見積返品額を控除した純額で収益を認識することになります。返品の可能性を合理的に見積もれない場合は、それが可能となる時点まで収益を認識することはできず、場合によっては返品可能期間が終了するまで、収益を認識できないという可能性もあります。

現行のIFRSの下では、ほとんどの企業が、予想される返品に係る義務について、財政状態計算書(貸借対照表)において負債を計上しています。しかし、提案されたモデルでは、顧客から返品される商品を回収する権利も、資産として計上することになります。また、現行実務では顧客からの返品が予想される商品は通常、棚卸資産に計上されますが、提案されたモデルでは棚卸資産とは区別して表示されます。この返品に係る資産は減損テストの対象となり、企業は減損の兆候の有無を評価する必要があります。

なお、公開草案では、顧客が、ある商品を同じ種類、品質、状態および価格の他の商品(例えば別の色の商品)と交換することは、提案されたモデルを適用する上で、返品とは見なされないことが明確化されています。

【返品における設例】

衣料小売業であるABC社は、販売から30日間について、返品に対する返金または同等品との交換を認めている。

提案されたモデルでは、商品の交換は返品とは見なされないため、ABC社は代金を返金することになると予想される返品量だけを考慮することになる。

ここで、販売単価200円・仕入原価120円の商品Aを1,000個販売するに当たり、返品の発生について<表1>の通り見積もり、その確率の加重平均を求めた。

このように商品Aの販売において、返品が1.5%発生すると見積もられたため、ABC社は返品されないと予測される、全体の98.5%(=1-1.5%)に当たる19万7,000円を収益とし て認識することになる。

(1,000個×98.5%)×200円=19万7,000円

また、返品が見込まれる商品に対して、返品負債を認識する必要がある。返品に対し、顧客に返金することになると予想される金額を、確率で加重平均した金額をもって、その返品負債を測定する。

(1,000個×1.5%)×200円=3,000円

従って、現金販売時における収益と返品負債を計上する仕訳は、次の通りとなる。

現金 200,000 /販売収益 197,000
    /返品負債 3,000

結果として、ABC社は、返品が見込まれる金額を控除した金額で収益認識することになる。

さらに、返品負債を計上した時点で、顧客から返品商品を回収する権利に関して、資産および対応する売上原価への調整を認識する。

表1
返品割合 見積発生確率
返品が全く発生しない 20%
全体の1%が返品される 20%
全体の2%が返品される 50%
全体の3%が返品される 10%
確率の加重平均:
(0.2×0%)+(0.2×1%)+(0.5×2%)+(0.1×3%)
1.5%

ABC社は、この資産を、棚卸資産の帳簿価格から、商品を回収するための予想コストを控除した金額で測定する(この例では、ABC社は商品の回収コストに重要性はないと見積もっていると仮定)。具体的には、以下の計算に従い、当該資産は当初1,800円で測定される。

(1,000個×1.5%)×120円=1,800円

従って、売上原価、棚卸資産の認識の中止、および返品資産を計上するための仕訳は、次の通りとなる。

売上原価 118,200 /棚卸資産 120,000
    /返品資産 1,800

なお、各報告期間の末日時点で、見積りや仮定の変更に関し、必要に応じて返品負債(および返品資産)の測定を見直す。この見直しに伴う調整額は、収益および売上原価に認識される。

3. 販売インセンティブと値引きについて

小売業や消費者製品製造業では、さまざまな販売インセンティブや値引きが行われるのが一般的です。消費者製品製造企業は、卸売・小売業者や、その他の顧客に、ボリュームディスカウント、価格保護、棚代、広告および販売促進に係る値引きなど、さまざまな形態で値引きを提供しています。さらに、消費者製品製造企業が、クーポンやリベートの形態で、最終消費者に直接、販売インセンティブを提供することも多く見受けられます。また、小売業者も、無料の製品、リベート、クーポン、その他の販売促進形態により、販売インセンティブを顧客に提供することが一般に行われています。

【消費者製品製造企業での考慮事項】

顧客に支払われた、または支払われることになる対価は、提案されたモデルでは、これら取決めの性質に基づいて分類され、次の通りの会計処理となります。

  • 顧客に提供された財またはサービスに対する値引きや返金...収益から減額して会計処理
  • 顧客から受領した区別できる財またはサービスに対する支払い...通常購入時点で費用処理
  • 上記の組み合わせ

ボリュームディスカウント、価格保護、クーポン、その他類似の取決めの形で、消費者製品製造企業が小売業者やその他の顧客に対して支払った、または支払うことになる対価を含む契約について、その一部は、顧客に販売した商品に対する値引きや返金と見なされる可能性があります。

しかし、提案されたモデルでは、棚代や販促品など一定のその他の取決めは、受領した区別できる商品またはサービスに対する顧客への支払い(または、その他の形態での対価)を含んでいる可能性が高いといえます。また、この種の取決めは、個別に販売できる、すなわち区別できる機能を有するサービス(商品の保管および展示、広告宣伝など)に対する顧客への支払いを含んでいる可能性もあります。これらの支払いが、区分できる商品またはサービスに対するものである場合は、消費者製品製造企業は、これらの支払いを費用として処理します。

現行のIFRSの下では、この種の販売インセンティブに関する会計処理には、ばらつきがあるものの、近年、販売促進費を収益から控除する方法に会計方針を変更した事例もあります。現在の会計処理に変更が必要となるかどうかを判断するために、提案された規定を慎重に検討する必要があるものと考えられます。

販売インセンティブや値引きに関して検討すべき重要な点は、値引き、リベート、返金および、その他のインセンティブを含む契約は、取引価額の一部が変動するように設計されるケースが多いということです。変動性のある対価は、当該対価を受け取るために特定の履行条件を満たす必要があって、かつ、その結果に関して不確実性が存在する場合に問題となります。この種のインセンティブは、提案されたモデルにおける、変動性のある対価に関するガイダンスに従うことになり、確率加重平均法を用いて取引価額の一部を見積もることが必要となります。なお、これについては収益認識EDに関する刊行物で、より詳細な検討を行っています。

4. 輸出取引について

公開草案では、企業がFOBの輸送条件で顧客に製品を販売するものの、輸送中に製品に破損や紛失が発生した場合に、無償で代替品を提供する商慣行を有する企業の設例が示されています。この設例の中で、代替品を提供する、このような商慣行は、強制可能な義務(すなわち、顧客は破損のない製品を受け取れるという保険の提供)を黙示的に生じさせている場合があることが示されています。従って、このような場合において、企業は商品の引渡し時点で全ての履行義務を充足していないといえ、顧客への商品の引渡し時点で収益の一部を繰り延べる必要があるものとされます。

5. その他の検討事項

小売業者や消費者製品製造企業は、提案された収益認識モデルによる影響を評価するに当たっては、前記で解説した領域に加え、商品券の取扱い、債権の回収可能性の考慮、カスタマー・ロイヤルティー・プログラムといった領域についても評価することが必要となる可能性があります。

過去記事「IFRS導入が小売業に与える影響について」(2010.06)



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