I はじめに
コンテンツ(映像作品・ゲームソフトなど)について、わが国で適用されている現行の会計基準では、具体的な会計処理が明確に示されていない部分があります。従って、実務上は、わが国の会計慣行で合理的と認められる範囲内において、各社でさまざまな会計処理が行われているのが現状です。
本稿では、国際会計基準(IFRS)を適用するに当たっての留意点および、IFRS適用が現行の会計実務に与える影響のうち、コンテンツ産業(本稿では主に映画・映像作品)に関連がある主要な項目について解説します。なお、本稿の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。
II 制作費の処理
1. 貸借対照表上の計上科目
現在、わが国においては明確な基準がないため、過去の実務慣行等を踏襲する傾向があり、制作費の計上科目として、たな卸資産、無形固定資産、有形固定資産が混在している状況にあります。
IFRSにおいては、明確化された要件等に基づいて処理されるため、制作費の経済実態に応じて、各社の採用する処理は統一されると考えられます。具体的には、映画・映像作品の制作費は、無形資産の一項目として計上されることとなります(IAS第38号9項)。よって、現在、たな卸資産や有形固定資産として処理している企業は、無形資産への振替が必要となります。
また、映画・映像作品をDVDやビデオなどに複写して販売する場合の、DVD-ROMやビデオテープといったメディアの費用、複写費用、パッケージ印刷費、梱こん包ぽう費などについては、たな卸資産として計上されるものと考えられます(IAS第2号6項)。
2. 資産計上のタイミング
資産計上の開始タイミングについても、わが国の会計基準上、明確になっていません。そのため、各社が費用収益対応の原則にのっとり、実態に即して、制作費の資産性が認められると判断した時点(主に企画着手時点、企画完了時点、プリ・プロダクション完了時点)から資産計上している状況にあります。これを整理すると<図1>のようになります。
IFRSでは、制作費のうち研究局面で発生した費用については、わが国における会計処理同様、発生時の費用として処理します。開発局面で発生した費用については、次に示す、自己創設の無形資産一般に適用される資産計上の6要件を全て満たした場合に、資産計上されます(IAS第38号57項)。
- ①無形資産が使用または販売できるように完成させることが、技術的に実現可能であること
- ②無形資産を完成させ、使用または販売するという企業の意図
- ③企業が、無形資産を使用または販売できる能力
- ④無形資産が将来の経済的便益をどのように生み出すか(無形資産による産出物または無形資産自体の市場の存在、あるいは無形資産の自社利用の場合にはその有用性を立証する)
- ⑤開発を完成させ、無形資産を使用あるいは販売させるための、適切な技術的、財務的、その他の資源の利用可能性
- ⑥開発期間中の当該無形資産に起因する支出を、信頼性をもって測定できる能力
従来、資産計上していた制作費についても、IFRSでは、これらの要件を満たさないものは資産計上できなくなります。そのため、各社において、制作費が資産計上の要件を満たしているか否か判断するためのルールと体制を確立することが必要となります。
資産計上については、前記の一般的な判断基準しか明示されていません。一般的には、社内において映画・映像作品制作の許可が下りる「グリーンライト」と呼ばれるタイミング(<図1>のパターン3)で、資産計上を開始するケースが多いようです。
図1 資産計上の開始タイミングの整理

出典:新日本有限責任監査法人編著『コンテンツビジネスの会計実務 IFRS対応版』(東洋経済新報社)
3. 借入費用の処理
借入費用については、わが国における実務上、発生時に営業外費用として処理するのが一般的であり、映画・映像作品を有形固定資産として処理した場合の取得原価への算入が、例外的処理として認められています。IFRSにおいては、映画・映像作品の制作に当たり、制作物が完成し、上映、販売可能となるまでに相当期間を必要とするような場合には、その制作と一定の関連性を有する借入費用は、取得原価に算入することになります。
4. 費用化の方法
現在、法人税法上の定めを含むわが国の会計慣行上、制作費の償却方法は次の3通りに大別されます。
- 市場販売目的のソフトウエアに適用されている将来の予測収益などに基づく償却方法
- 法人税法に基づく償却方法(償却期間2年の定額法、定率法や特別な償却率など)
- その他、各社の実態に応じた償却方法(一括償却など)
IFRSにおいても、無形資産の償却については、取得原価から残存価額を控除した償却可能価額を、企業が予測した当該資産の経済的便益の将来における消費パターンを反映した方法で、耐用年数にわたり、規則的に配分すべきとされているのみであり、個別の指針は示されていません。
実務上は、米国基準に準拠した方法である、将来の予想収益に基づく方法により償却されるケースなどが見受けられます。従来の償却方法から、消費パターンを将来の予測収益の見積りによった償却方法へと変更する場合には、各社において、映画・映像作品から得られる将来の予想収益を見積もり、修正するための、ルールや体制を確立することが必要となります。見積計算の手続き自体は、現時点ですでに大半の企業が行っている、企画段階で映画・映像作品の採算性を検討する際の手続きや、企業の予算や事業計画を策定する際の手続きと実質的に同様と考えます。これらの手続きを規定などに明文化し、また手続き過程で使用したエビデンスを残すことで、予測収益の計算結果の妥当性を第三者に対し、客観的に証明できるような体制の確立が、新たに必要となります。
なお、消費パターンにつき信頼性をもって決定できない場合には、定額法による償却など、代替的な方法も認められています。
5. 期末評価
わが国においては、映画・映像作品に係る制作費をたな卸資産として計上した場合には、たな卸資産会計基準に基づいて、また固定資産として計上した場合には減損会計基準に基づいて、期末評価が行われています。
IFRSにおいては、II.1で述べた通り、映画・映像作品が無形資産として処理されたものについては、基本的にわが国において固定資産として処理されている場合と同様、減損会計に基づいた評価・処理が行われます。ただし、わが国の会計基準と異なり、減損の認識判定を行う際に使用するのは、割引後キャッシュ・フローである点に留意が必要です。また、耐用年数が確定できない無形資産については毎年、減損テストを実施しなければならない点についても留意が必要です。この他、資産価値が回復する見込みが明らかな場合は、過去に計上した減損損失の戻入れが認められる点も、わが国とは異なります。そのため、減損損失を計上後、資産価値が回復する見込みについて、継続的にモニタリングする体制が必要となります。
一方、たな卸資産として処理されたものについては、取得原価と正味実現可能価額のいずれか低い金額で評価されます。
III 収益認識
1. 映画配給およびビデオグラム化権に係る収益認識
IFRSにおいては、IAS第18号付録第20項における、次に示す規定を除き、具体的な規定はありません。
- ライセンス収入は契約の実態に応じて計上すべきである。
- 映像作品の使用許諾者が、配給者を管理せず、かつ興行収入から何ら収益を期待しない市場で映画フィルム上映権を付与する場合については、販売時(使用許諾時)に収益を計上すべきである。
IFRSを適用しているエンターテインメント企業においては、次に示す、米国基準である会計基準編纂書(ASC)926において収益の計上が認められるために充足すべき要件と、同等の基準による処理が行われているケースが多いと考えられます。
- 販売または顧客とのライセンス契約に関する、説得力ある証拠が存在する。
- フィルムが完成しており、かつ契約条件に従い、すでに引き渡しが行われているか、あるいは即時、無条件の引き渡しが可能な状態にある。
- 契約におけるライセンス期間が始まっており、顧客はその利用、公開あるいは販売を開始することが可能である。
- 契約の料金が確定しているか、または決定可能である。
- 契約料金の回収が合理的に保証されている。
基本的な考え方は現在のわが国の会計慣行と同様と考えられるため、IFRS適用による大きな影響はないと考えます。ただし、収益認識に関しては、IFRSでは現在、基準の改定が予定されているため、今後の動向に留意する必要があります。
2. パッケージ製品(ビデオ、DVDなど)の販売に係る収益認識
わが国において、映画・映像作品をビデオやDVDに複写して販売する際の収益は、収益認識の一般原則である実現主義が適用されています。実務上は、出荷基準により収益を認識しているのが一般的ですが、納品基準や検収基準によるケースもあります。
IFRSにおいては、物品の所有に伴う重要なリスクおよび経済価値が買い手に移転した時点で収益を認識しなければなりません。これは、わが国における実現主義の考え方と根本的には大きく相違ありませんが、具体的な実務処理の場面で、大きく相違する可能性があります。
具体的には、現在、出荷基準を採用している企業について、納品基準または検収基準に変更する必要がある可能性が高いものと考えます。これは、パッケージ製品を販売する際の契約上、物品の所有に伴う重要なリスクや経済価値が、出荷時点で買い手に移転することを示唆する記載のないケースが大半であり、出荷時点では収益認識の要件を満たさないと考えられるためです。
IV 映像プロダクションの会計処理
1. 進行基準が適用できる場合
わが国における実務上、他社から映画・映像作品の制作を受託する場合には、工事契約会計基準に基づいた処理がされており、IFRSの考え方と大きな相違はありません。IFRSにおいては、収益認識と進行基準に関する一般的な規定である、IAS第18号やIAS第11号などに基づき会計処理されます。
2. 進行基準が適用できない場合
成果の確実性が判断できないなどの理由で進行基準が適用できない場合、わが国において適用されることになる完成基準について、IFRSでは規定されていません。IFRSにおいては、収益を、発生した契約原価が回収可能であると見込まれる範囲まで認識するとともに、原価を発生した期間の費用として認識する原価回収基準が適用されることになります。すなわち、強い客観性と確実性よりも、漸次進行する収益の稼得過程を反映することを重視し、通常は、会計期間中に発生した原価と同額だけ収益を計上する処理が行われます。
参考文献:新日本有限責任監査法人編著『コンテンツビジネスの会計実務 IFRS対応版』(東洋経済新報社)