重要ポイント
- 解釈指針案では、プット・オプションが親会社によって発行されている場合に、金融負債を償還金額の現在価値で認識することが明瞭化されている。金融負債は、IAS第39号又はIFRS第9号のいずれかに従って測定され、測定額の変動は純損益に認識される。
- 我々は、解釈指針案を公表するという解釈指針委員会の取り組みを支持しており、これにより実務のばらつきが減るものと考えている。
- しかし、解釈指針案の適用範囲は非常に狭く、NCIプットにかかる会計処理の一側面しか取り扱われていない。
- 解釈指針委員会は、実務のばらつきを生んでいるNCIプットにかかる会計処理の他の側面も取り扱うべく、プロジェクトを継続すべきであると我々は考えている。
概要
2012年5月、IFRS解釈指針委員会(以下、解釈指針委員会)は、解釈指針案DI/2012/2「非支配持分に係る売建プット・オプション」(以下、DI)を公表し、コメントを募集した(コメントの募集は2012年10月1日に締め切られている)。本稿では、当該提案の内容を概説するとともに、今後プロジェクトが向かうべき方向性に関してもコメントを加えている。
DIでは、非支配持分(NCI)が保有する子会社の株式の売建プット・オプションは、企業グループが自らの持分を購入する契約であり、IAS第32号「金融商品:表示」に従い、償還金額の現在価値に関して金融負債が生じることになることが明確にされている。当該金融負債は、その後IAS第39号「金融商品:認識及び測定」又はIFRS第9号「金融商品」のいずれかに従って測定され、金融負債の測定額の変動は純損益に認識される。
背景
親会社は、非支配持分の所有者に対して、保有する株式を将来親会社に売却する権利を与えるプット・オプションを付与する場合がある。これらの取引は、企業結合の一環として実行されることが多いが(たとえば、ある国の法制度が企業買収時における少数株主の保護を目的として、親会社による株式買取を求めている場合など)、単独の取引として行われることもある。IFRSには、こうしたオプションをどのように会計処理すべきかに関して明確なガイダンスが定められていないため、企業はIAS第32号とIAS第27号「連結及び個別財務諸表」のどちらを適用するかに関し、会計方針を決定しなければならない。その結果、これまでこうした取引に対してさまざまな会計処理が用いられてきてしまったという経緯がある。
このような状況に鑑み、解釈指針委員会はDIを作成し、プット・オプションは、IAS第39号又はIFRS第9号により測定される金融負債を発生させ、当該金融負債の測定額の事後的な変動は純損益に認識されると明瞭化した。
適用範囲に関する問題
DIは、非支配株主が保有する子会社の株式を購入することを親会社に義務付けるプット・オプションに関し、親会社の連結財務諸表に適用される。IFRS第3号「企業結合」(2004年)に基づき条件付対価として会計処理されていたNCIプットについては、IFRS第3号(2008年)で取り扱われているため、本DIは適用されない。
我々は、NCIプットに関して提案されている会計処理にはおおむね賛同するものの、解釈指針委員会に提出したコメント・レターの中でも強調したように、DIの適用範囲が狭すぎるという点に関していくつかの懸念を抱いている。
NCIプットに関して、金融負債を総額ベースで計上している企業もあれば、正味のデリバティブに関してのみ負債を計上している企業もあり、さまざまな会計処理が行われているケースが存在すると考えられる。
プット・オプションの当初認識
DIでは、NCIプットに係る負債の事後的な測定は取り扱われているが、当該金融商品の当初認識時の処理については取り上げられていない。非支配株主が保有する子会社の株式に対する売建プット・オプションに関し、これをNCI残高から控除している企業もあれば、資本の他の構成要素から控除している企業もある。NCIを認識する企業のみが非支配株主に収益を帰属させるため、これは、その後の財務諸表の表示にも影響を及ぼすことになる。
我々は、負債を当初認識する際に、これを資本のどの構成要素から控除するのかについても検討することを解釈指針委員会に提案している。
先渡契約
DIは、プット・オプションしか取り扱っておらず、先渡契約など、NCIに関して発行された類似契約は取り扱っていない。解釈指針委員会は、先渡契約を適用範囲に含めるかどうかを検討したものの、最終的には含めないことを決定した。
我々は、これによって、そうした契約の会計処理にはばらつきが生じることになると考えており、それらの契約を取り扱うことを検討すべきであると解釈指針委員会に提案した。
親会社の株式での決済から生じる金融負債
プット・オプションが、現金又は他の金融資産ではなく、親会社の持分金融商品(固定又は変動)で決済される状況について解釈指針委員会が検討したのかどうかDIでは明確にされていない。
我々は、金融負債を総額ベースで計上している企業もあれば、正味デリバティブに関し負債を計上している企業もあるというように、多様な会計処理の事例が数多く存在すると考えている。
我々は、これらの取引をどのように処理すべきか検討することを解釈指針委員会に提案した。
グループの他の企業への適用
DIでは、「親会社の連結財務諸表における、非支配株主が保有する子会社の株式を購入することを親会社に義務付けるプット・オプション」が適用対象であると述べられている。我々は、現在のDIのままでは適用範囲が狭すぎるため、グループのNCIに対してプット・オプションを発行する、どのグループ企業が付与したプット・オプションも対象となるよう変更すべきであると考えている。
他のグループ会社へのDIの提案を適用した場合の効果を、次のようなグループ構造を例に説明する。
我々が理解するところの最終的な親会社(UP)による会計処理は、下記の表のとおりである。
| シナリオ |
DIの適用範囲に含まれるか |
コメント |
| UPがPのNCIにプットを売り建てる |
含まれる |
|
| UPがS2のNCIにプットを売り建てる |
含まれる |
明確化が必要 |
| UPがS1aのNCIにプットを売り建てる |
含まれる |
明確化が必要 |
| PがS2のNCIにプットを売り建てる |
含まれない |
明確化が必要 |
| PがS1aのNCIにプットを売り建てる |
含まれない |
明確化が必要 |
| S1がS2のNCIにプットを売り建てる |
含まれない |
明確化が必要 |
| S1がS2のNCIにプットを売り建てる |
含まれない |
明確化が必要 |
前述のとおり、我々はグループのどの企業が付与したプット・オプションであってもDIの適用範囲に含まれるべきと考えている。我々は、解釈指針委員会もそう考えているのであるならば、この点を明確にするためにDIの表現を改訂することを考慮するよう解釈指針委員会に提案した。
NCIプットに関するその他の論点
NCIプットに関しては、DIでは取り扱われていない他の会計上の論点が数多く存在する。例えば、以下のような事項である。
- NCIに帰属する配当をどのように処理すべきか。
- 非支配株主から受領したプレミアムをどのように取り扱うべきか。
- プットが行使される前に失効した場合に、金融負債の認識をどのように中止すべきか。
とはいえ、まだこれらの課題が存在するからといって、最終的な解釈指針書の公表プロセスを遅らせる必要はないと考えられる。我々は、これらの論点を解決するため、本解釈指針書を最終決定した後も、NCIプットの会計処理に関して作業を継続してはどうかと解釈指針委員会に提案した。
発効日及び経過措置
DIでは、発効日は提案されていないが、早期適用が容認されると記載されている。
DIでは、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従い遡及適用することが提案されている。弊社は遡及適用の方向性自体は望ましいと考えるが、その対象はDIを初めて適用する際の比較期間の期首時点で存在するプット・オプションに限定することを解釈指針委員会は検討すべきであると考えている。失効したオプションにDIを適用したとしても、資本項目の修正につながるだけであり、そうした修正を行なうためのコストはその便益を上回ると考えられる。
次のステップ
我々は、解釈指針委員会がDIに係る再審議を2013年初めに開始するものと予想している。