適用上の問題
IFRS第9号を適用済みの企業又は適用に向けた準備を開始した企業から、一定の適用上の問題が提起されている。これらの論点には、特定の金融商品に対する契約上のキャッシュ・フローの特徴テストの適用について、常に適用指針、特に一部の例示に従って適切な結論が導かれるのかといった論点が含まれる。
契約上のキャッシュ・フローの特徴テストを適用した際に生じた問題の一部は以下のようなものである。
金利が更改されるが、更改後の金利が適用される期間が、当該金利の関係する期間(すなわち残存期間)と一致しない変動金利の金融商品
IFRS第9号の適用ガイダンス3では、「たとえば、定期的に更改されるが常に5年満期を反映した変動金利を支払う期間5年の変動利付債は、元本及び元本残高に対する金利の支払である契約上のキャッシュ・フローを生じない。これは、各期の支払金利が、その金融商品の期間に関係ないものとなっているためである(契約開始時を除く)」と述べられている。
この適用指針により、多くの一般的な金融商品(たとえば、半年ごとに金利が更改されるが、金利更改が10年物金利を参照する日本の15年物変動利付国債)を償却原価で測定することができなくなる。これに対して一部の関係者は、こうした適用指針は、基本原則よりも金融商品の形式に重きを置きすぎているとして懸念を表明した。
関係者は、企業が更改金利の適用期間が残存期間と異なる金融商品を取得又は発行する背景にはさまざまな理由があると指摘した。たとえば、(a)一定の金利変動を予想しており、それにより利益を得たいと考えている、又は、(b)特定の市場では、市場慣行又は、金利の安定を目的とした政府の規制などにより、このような取引方法が一般的になっている、といった理由が考えられる。関係者は、上記(a)の金融商品については公正価値で計上するのが合理的であるが、(b)の金融商品はそれとは異なるようにみえるとの考えを示している。これらの種類の取引を実行する動機は、裁定機会の追求ではなく、市場慣行に従うことである。そのため、当該関係者は、こうしたケースでは、キャッシュ・フローを適切な期間に配分する償却原価での測定によって、利用者に目的適合性のある情報を提供することが可能であると主張している。
したがって、これらの関係者は、このような性質を有する一部の金融商品について、公正価値が最も目的適合的な測定である理由を、償却原価による測定がより適切となる場合と比較したうえで説明するように適用指針を修正することを再検討するよう要請した。
混合契約
IFRS第9号では、非デリバティブ金融資産の主契約に組み込まれるデリバティブを区分し、個別に会計処理することを求めるIAS第39号「金融商品:認識及び測定」の規定が廃止されている。
その代わりに、IFRS第9号は、混合金融資産(すなわち、主契約の金融資産と組込デリバティブの複合商品)のキャッシュ・フローが、元本及び元本残高に対する金利の支払いを構成するかどうかを判断するため、当該金融商品全体を評価することを求めている。主契約の負債性金融商品から生じるキャッシュ・フローに影響を及ぼす一定の組込デリバティブ(たとえば、期限前償還オプション、期間延長オプション、金利キャップ及びフロア、金利更改オプション)は、元本及び金利以外の支払いを生じさせないとみなされる。しかし、それ以外の多くの組込デリバティブは、元本及び金利の支払い以外のキャッシュ・フローを生むことから、そのような混合契約は償却原価での測定要件を満たさないことになる。
一部の関係者4は、金融資産が管理されている方法がより正確に表されるという理由から、IFRS第9号で金融資産について区分処理を認めるように要請した。また、金融負債についてのみ区分処理を行うことが適切かどうか疑問を呈する関係者もいた。
IASBは、組込デリバティブの区分処理は、IAS第39号の複雑さの原因となっており、それを廃止することは多くの関係者が支持していたことを指摘した。そのため、金融資産を区分処理することが適切か否かを検討する前に、これらの論点が、契約上のキャッシュ・フローの特徴テストを明確化することにより対処できるかどうかを検討すべきであると暫定的に決定した。
弊社のコメント
弊社は、組込デリバティブの区分処理を再導入するという決定を行うのであれば、区分処理の要件及び区分処理が行われない場合の実効金利の計算方法に関するガイダンスの改訂も行うべきであると考えている。というのも、これらの分野は、IAS第39号の適用に際して運用が困難であった主たる分野だからである。
- B4.13項 商品Bの例
- 欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)により2011年1月12日に公表された混合金融商品の会計処理に関するペーパー12.03を参照
米国会計基準とのコンバージェンス
金融商品の会計処理を改訂するプロジェクトは、IASBとFASB(以下、併せて両審議会)の共同プロジェクトとしてスタートした。コンバージェンスの取り組みは、両審議会が、各々の利害関係グループに対応するために定めたプロジェクト・スケジュールが異なっていることから困難な道のりになっている。しかしながら両審議会は、金融商品の会計処理の比較可能性を国際的に高めることを引き続き確約している。実際、IASBは、FASBの分類及び測定モデルに対するフィードバックを関係者に求め、相違を埋めるために何をすべきかを検討するとコミットしている。
FASBが2010年5月に提案した金融商品の分類及び測定についての再審議は大詰めを迎えているが、FASBのモデルとIFRS第9号の間には引き続き重要な相違が存在する。この点を踏まえ、IASBは、IFRS第9号の分類及び測定モデルを、より洗練させ改善する取り組みの中で、IFRS第9号のモデルをFASBが提案したモデルとさらに一致させられるかどうか、その可能性についても検討するとの考えを示している。
弊社のコメント
IFRS第9号をFASBが現在開発中のモデルに近づけることは可能かもしれないが、困難が予想される。たとえば以下の点についてである。
- FASBの暫定的なモデルでは、米国会計基準における現行の区分処理の要件(これはIAS第39号の要件と類似している)に基づき金融資産を区分処理することが要求される。IASBが区分処理をあらためて導入する場合に、同じ要件を用いることを決定するかどうかは定かではない。
- FASBの暫定的なモデルによれば、ほとんどの負債証券の公正価値変動は、その他の包括利益を通じて再測定される。IASBが、その他の包括利益の使用を拡大したとしても、これを任意適用とするか強制適用とするか、また、実現損益を純損益を通じてリサイクリングすべきかどうかに関し、両審議会で異なる方法が選択される可能性がある。