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世界の新規上場動向 - 2016年1月~6月

2016.11.08
クロスボーダー上場支援オフィス シニアマネージャー 公認会計士
飯室 圭介

クロスボーダー上場支援オフィスでは、日本企業の海外市場での上場および外国企業の日本市場での上場をサポートしております。未上場企業の新規上場あるいは既上場企業の重複上場の双方をターゲットとして、証券市場で資金調達を目指す皆さまを支援して参ります。

1. 2016年上半期

世界のIPOの概況

政治経済が不安定な状況の中、世界のIPO市場は2016年においても断続的な状況が続くでしょう。しかし、年末までには政治経済状況は明確になり、企業はIPO戦略を強化する一方、民間資本の活用の促進により、ビジネスのパイプラインは、より太くなり、より成熟し続けるでしょう。

2016年の第2四半期の世界のIPOは246件、資金調達額は296億米ドルで上向きとなりました。第1四半期としては2009年以降、最も低調であった2016年の第1四半期に比べ、件数は29%の増加、調達額は120%の増加となりました。しかし、四半期でのこのような改善が見られたものの、年央におけるIPOの動きとしては、前年同期に比べ著しく弱い状況が続いています。2016年の上半期、IPOは437 件、資金調達額は430億米ドルで、それぞれ、前年同期比38%減、61%減となりました。2016年第1四半期の失速にもかかわらず、上半期として見れば、世界のIPOは、2009年以降最も低調であった2013年上半期を上回っています。

2016年の上半期、アジア太平洋エリアの取引所は世界のIPOを牽引し、件数では52%のシェアを占め、EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)が36%、米国が10.3%でそれに続きました。

資金調達額はEMEIA が44%でトップ、アジア太平洋エリアが40 %、米国が16%でそれに続きました。

短期的には、世界のIPOは、特に米国における金利の動向、英国のEU離脱、11月の米国大統領選挙に関する懸念によりインパクトを受ける状況が続きそうです。しかし、このような不安定要因が解消すれば、主要地域の多くやセクターの多くでIPO 準備会社の健全なパイプラインがあるため、見通しはかなり良くなるものと考えられます。

表1 主要エリア別上場件数・調達額(2016年1月~6月)

  資金調達額(前年同期比) IPO件数(前年同期比)
全世界 430 億米ドル(61%減) 437 件(38%減)
米国 70 億米ドル(66%減) 45 件(58%減)
アジア太平洋 170 億米ドル(65%減) 229 件(37%減)
内)グレーターチャイナ 105 億米ドル(74%減) 101 件(57%減)
(出典:EY Global IPO Trends 2016 Q2)

表2 セクタートレンド(上段:セクター 中段:調達額 下段:IPO件数)

全世界 Industrials
56 億米ドル
74 件
テクノロジー
28 億米ドル
72 件
ヘルスケア
33 億米ドル
64 件
米国 ヘルスケア
15 億米ドル
22 件
テクノロジー
8 億米ドル
7 件
金融
8 億米ドル
5 件
アジア太平洋 Industrials
32 億米ドル
50 件
テクノロジー
12 億米ドル
44 件
消費財
19 億米ドル
26 件
内)グレーターチャイナ Industrials
23 億米ドル
36 件
テクノロジー
7 億米ドル
16 件
生活必需品
6 億米
9 件
(出典:EY Global IPO Trends 2016 Q2)

2. 政治的要因によるIPOの小休止

企業は政治体制と規制環境の変化に事業を適応させていますが、株式上場といった重要な計画をしばしば遅延させるのは政治体制というよりも不確実性なのです。

企業と投資家の市場心理的な基調は年初に決まりました。英国政府がEU 離脱に関する国民選挙を6月23日に実施すると発表すると、米国大統領選挙の年の政治的不安定さは度を増しました。このような政治的不安定さと、世界的な経済失速に対する怖れは、超金融緩和政策と資本市場の変動的な状況による市場での株価の上昇により相殺され、上半期のIPO市場は静かでした。

当然ながら、英国市場におけるIPOのボリュームとプライシングは予想された国民投票の結果により多大な影響を受けました。2016年上半期における資金調達額は前年同期比50%減となり、取引件数は11%減少しました。

EU離脱賛成という英国国民投票の結果、英国株式市場は一時的に弱地合いとなり、英ポンドは著しく下落すると予想されています。短期的には、国内で収益を稼ぎ、国際貿易問題と関係しない小規模企業の上場が増えることで、IPOの動きは落ち着くものと予想されます。他方、企業はEU 離脱により生じ得る規制環境の変化にも適応しなければならないでしょう。2016年中に上場を見合わせていた企業が、上場する時期が来たと決断するかもしれないため、株式市場が安定するに従い、2017年にかけてIPOは増加すると予想されています。ポンド安により海外投資家の英国IPOに対する投資意欲も改善するかもしれません。

米国大統領選挙を前にして、政治的不安定さは上半期の米国IPOに重しとなっています。7月初頭の独立記念日前から例年通り市場が静かになる期間が始まり、投資家が休暇から戻るタイミングで選挙活動が最盛期になる見通しのため、2016年下半期においても米国IPOの窓は閉じた状態になるでしょう。このため、新大統領による政治経済綱領に関する見通し及び米金利の方向性がついてくる来年までIPOの目立った改善は見られないでしょう。

3. グレーターチャイナ資本市場の深化

市場のボラティリティ、中国本土における成長率の低下に対する懸念、人民元下落の可能性から、グレーターチャイナのIPO市場は2016 年上期に失速しました。

しかし、年初においての変動はあったものの、市場は今や安定し、深圳・香港ストックコネクト導入の見通しにより勢いを得ています。加えて、規制当局は、健全で安定した環境を作り、多層的な資本市場を創造するための方策を継続しており、長期にわたるIPO 改革のための強固な基盤を固めています。

4. PEとメガディールの回復

ファイナンシャルスポンサーが参加することは先進国経済における健全なIPO市場の特徴です。低調だった2016年第1四半期の後、第2四半期には、スポンサーの回帰が見られました。第2 四半期において、ファイナンシャルスポンサーが関係する63件のIPO により104億米ドルの資金調達がありました。これは、件数ベースでは世界のIPOの26%、調達金額ベースでは35%に相当するもので、PE またはVCが関係するIPO件数が16%であった第1四半期とは対照的となっています。

2016年第2四半期には、メガディールも回復しました。当四半期IPO上位10件のうち6件は10億米ドル超の資金を調達し、デンマーク国営のDONG エナジーの調達額は最も多額で25億米ドルを超えました。

2016年第2 四半期の主要市場における平均ディールサイズは第1四半期に比べ上昇しました。しかし、2016年上半期で見ると、平均ディールサイズは前年同期と比べると主要地域において低下しており、2013年から下降傾向が続いています。

5. 企業戦略においてデュアルトラックは強固なものに

IPOを目指しながらM&Aの対象ともなっている最近の企業の事例は、企業が戦略的な資金調達の選択肢を広くしたいと望んでいることを示しています。企業は、成長資金を確保して株主への利益分配を図るために、事業売却、M&Aまたは伝統的なIPOよりもプライベート・ファンディングという選択肢を重視しているので、マルチトラック・アプローチが重要な戦略になっているのです。この変化により新しい種類のIPOの比率が増加し、より規模が大きく、より安定した企業が、資金調達ニーズというよりも、ブランド価値の向上や新たな市場へのアプローチといった目的のために、企業ライフサイクルのより成熟した段階で上場する例が増えることになるでしょう。

6. 米国エリアの状況

2016年は米国IPO市場にとって散発的に案件が出る年になりつつあります。上半期、IPOは 45件、資金調達額は70億米ドルとなりました。これは、前年同期に比べ、件数ベースでは58%の減少、調達金額ベースでは66%の減少に相当します。しかし、大統領選挙、FRBによる金利引上げ時期、市場原油価格のボラティリティ、景気回復の強さへの懸念といった様々な要因により投資家の警戒感が強まる一方、例年ならばIPO の動きが落ち着く第1 四半期において顕著な改善が見られました。当第2 四半期において、IPOは37件で第1四半期比363%増、調達額は62億米ドルにのぼり第1 四半期比755%増となりました。前年同期に比べるとこれらの数字は低いものの、IPO市場は温まり始めていることを示す良い兆しです。IPOによる調達額が10億米ドルを超えるようなメガディールが復活したことが、このトレンドをいっそう明確に示しています。

MGM Growth Properties LLC とUSFood Holding Corp. は、ともに、12億米ドルを調達し、当四半期における調達額の世界上位10 位のうち2 位と3 位にランクされました。この2 つのディールは、昨年10月以降、米国市場のIPOにおいて最大であり、第1四半期における調達額の総額をそれぞれ上回るものでした。

セクター別では、ヘルスケア関連が最も多く、IPO 件数は22件で調達額は15億米ドルでした。第1四半期では案件が無かったテクノロジー関連は、第2四半期で7件で8億米ドルの調達があり、注目を集めました。

表3 資金調達額上位3社(2016年1月~6月)

順位 社名 資金調達額
1 DONG Energy A/S(Denmark) 26 億米ドル
2 MGM Growth Properties LLC(US) 12 億米ドル
2 US Foods Holding Corp.(US) 12 億米ドル
(出典:EY Global IPO Trends 2016 Q2)

7. アジア太平洋エリアの状況

アジア太平洋エリアにおいて、上半期、IPO 件数は229 件、資金調達額は170 億米ドルとなり、件数ベースでは世界最多、金額ベースではEMEIA に次ぐものとなりました。前年同期比では、それぞれ37%減、65%減となりましたが、世界のトレンドに整合しています。

投資家の市場心理は他の地域に比べ前向きになっているようです。しかるべき時に上場する準備ができている企業のパイプラインは堅調で、下半期にアジア太平洋エリア市場においてIPO が増加するための素地は整っています。四半期ベースでみれば、第2 四半期の調達額は93 億米ドルとなり、件数は第1 四半期比14%増の122 件となりました。

香港IPO 市場は、米国金利の追加引上げに対する不安と中国本土における成長率の減速に対する懸念から、今年は比較的静かです。2016 年上半期、香港メインボードにおけるIPO 件数は23 件、資金調達額は55 億円で、前年同期比では、それぞれ26%減、67%減となりました。

中国本土において、中国政府は資本市場の安定性の維持のため新規上場の流れをコントロールしようとしており、IPO のペースは引き続き当局により規制されています。中国本土で前年同期には187 件のIPO により238 億円の資金調達額がありましたが、2016 年上半期の中国本土の市場におけるIPO 件数は63 件、資金調達額は49 億円でした。

中国の上場準備会社数は800 社を超え、パイプラインの積み上がりにより、潜在的なIPO 案件は尽きることがありません。しかし、短期的には、規制当局による市場の監視と新規上場に対する調整は続くでしょう。

深圳・香港ストックコネクトが下半期に立ち上がれば、両市場の投資家が1 日あたり一定額までクロスボーダー取引を行えるようになり、より大きな外国資本を引き寄せ、投資機会が一層広がると期待されています。

他方、中国本土におけるIPO 登録制への移行は、規制当局がローンチ前に詳細な調査を行うため、時間がかかりそうです。その間にも、市場改革の重点はリスク防止と多層的な資本市場の構築に移りつつあります。スタートアップ企業に対する支援制度を改善するため、中小企業向け店頭市場NEEQ(全国中小企業株式譲渡システム)(2012 年後半に開設)は正式に2つのレベル(イノベーション・レベルとベーシック・レベル)に分割されました。

その一方で、香港IPO 市場は、2016 年の後半、活気を帯びると予想されています。多くのパイプライン企業が上場時期をうかがっており、多くの企業の上場が見込まれています。

8. 2016年下半期の見通し

確固とした上場準備とマーケット環境へ柔軟に対応することが、2016 年下半期においてIPO を成功に導くために重要です。適切に評価された事業に対する投資家の投資意欲は依然強く、IPO のパイプラインは堅調です。2016 年下期を取り巻く不確実性が解消されれば、IPO への動きは回復するでしょう。


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