区分記載請求書等保存方式および適格請求書等保存方式の下での税額計算 ~消費税額の計算について事前の検討が必要~

2019年2月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

区分記載請求書等保存方式の場合

2019年10月1日以後の4年間について、「区分記載請求書等保存方式」が導入され、仕入税額控除が認められるための帳簿および請求書等の記載事項が一部追加されます。

この区分記載請求書等保存方式の下での消費税額の計算ですが、現行と同様に、総額計算方式が適用されます。課税期間における適用税率ごとの取引総額に110分の10(軽減税率対象資産の譲渡等である場合には、108分の8)を乗じて計算する、いわゆる「割戻し計算」が維持されます。

課税標準額=課税資産の譲渡等の対価の額(税込価額)×100/110(または100/108)
課税標準額に対する消費税額=課税標準額×7.8%(または6.24%)

(注)7.8%(または6.24%)は、10%(または8%)に占める国税部分である消費税の税率です。

また、課税資産の譲渡等の前段階において課税された消費税、すなわち課税仕入れの対価の額に含まれる消費税額については、「前段階税額控除方式」が適用され、課税売上げに係る消費税額から控除しますが、次の算式により、仕入控除税額を計算します。課税期間における取引総額に対して一定割合を乗じて計算する方法であることから、こちらも「割戻し計算」です。

  • その課税仕入れが他の者から受けた標準税率適用資産の譲渡等に係るものである場合
    → 課税仕入れに係る消費税額=課税仕入れに係る支払対価の額(税込価額)×7.8/110
  • その課税仕入れが他の者から受けた軽減税率適用資産の譲渡等に係るものである場合
    → 課税仕入れに係る消費税額=課税仕入れに係る支払対価の額(税込価額)×6.24/108

その課税期間における課税売上高が5億円以下で、かつ、課税売上割合が95%以上であるときは、課税仕入れに係る消費税額は全額について仕入税額控除の対象になりますが、それ以外の課税期間については、従来どおり個別対応方式または一括比例配分方式のいずれかにより仕入控除税額を計算することになります。

なお、複数税率に対応した区分経理が困難な中小事業者が存在し得ることから、軽減税率導入以後の一定期間について、中小事業者(基準期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者)に限り、「税額計算の特例」が認められます。中小事業者は、原則的な方法によるか特例によるかを選択できます。

適格請求書等保存方式の場合

適格請求書等保存方式の下では、売上税額の計算および仕入税額の計算ともに、現行と同じ総額計算方式(割戻し計算方式)または積上げ方式のいずれかを選択適用するものとされます。

<売上税額および仕入税額の計算>

  原則的な取扱い 特例的な取扱い
売上税額の計算 総額計算方式 積上げ計算方式
仕入税額の計算 積上げ計算方式
原則として、適格請求書等に記載された消費税額等を積み上げる
総額計算方式
課税期間における課税仕入れに係る支払対価の額を税率の異なるごとに区分した金額の合計額にそれぞれの税率を乗じた額を課税仕入れに係る消費税額とする方法
(売上税額の計算を総額計算方式としている事業者にのみ認められる)

積上げ計算方式とは、適格請求書等(インボイス)に記載された消費税額等を積上げて計算する方法です。ただし、適格簡易請求書で消費税額等の記載が省略される場合、帳簿の保存のみで仕入税額控除が認められる場合(公共交通機関による旅客の運送、郵便切手、出張旅費等)があり、その場合は個々の課税仕入れごとに支払金額を割り戻して算出した消費税額等(1円未満の端数は、切捨てまたは四捨五入)を積上げの対象にすることが認められます。

認められない組合せ

売上税額の計算について積上げ方式を適用し、仕入税額の計算について総額計算方式を適用することは認められません。仮に売上税額を積上げ計算方式で計算し、仕入税額を総額計算方式で行うことを認めると、売上税額については端数処理(かつ1円未満の端数を切捨て)をし、仕入税額については端数処理を行わない結果、納税額が過少になってしまうからであり、端数処理による益税を防止する観点からのものです。

したがって、売上税額の計算につき積上げ計算方式による場合は、仕入税額の計算についても積上げ計算方式によらなければなりません。

結果として、認められる組合せは、次の3とおりです。

売上税額の計算・割戻し計算-仕入税額の計算・積上げ
売上税額の計算・積上げ-仕入税額の計算・積上げ
売上税額の計算・割戻し計算-仕入税額の計算・割戻し計算

免税事業者等からの仕入れ

免税事業者等(免税事業者、適格請求書発行事業者の登録を受けていない課税事業者および消費者)からの課税仕入れについては、適格請求書等保存方式の導入以後3年間は課税仕入れに係る支払対価の額に110分の7.8(または108分の6.24)を乗じて算出した金額に80%を乗じて算出した金額を、その後の3年間は課税仕入れに係る支払対価の額に110分の7.8(または108分の6.24)を乗じて算出した金額に50%を乗じて算出した金額を課税仕入れに係る消費税額とみなしてよいとされ、免税事業者等からの仕入が急激に不利にならないようにする特例措置が期間を限定して設けられました。

<免税事業者等からの課税仕入れに係る控除税額>

課税仕入れの時期 課税仕入れに係る控除税額
2023年9月30日以前 課税仕入れ等に係る税額×100%
2023年10月1日から2026年9月30日 課税仕入れ等に係る税額×80%
2026年10月1日から2029年9月30日 課税仕入れ等に係る税額×50%
2029年10月1日以降 なし

帳簿上、免税事業者等からの仕入れについて、別の消費税課税区分を設けて対応することが考えられます。

また、帳簿の保存要件との関係で、帳簿の記載事項として、一定の事項が追加される点に留意が必要です。すなわち、帳簿の摘要欄に「80%控除対象」または「50%控除対象」というように記載することが必要になります。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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