商品券等の会計と税務処理 ~収益認識会計基準の適用下の実務~

2018年8月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

商品券等に係る会計処理

商品券等を発行した段階では、従来の実務においても、「財貨の移転の完了」という要件を満たさないため、収益計上は認められませんでした。収益認識会計基準適用後も、財に対する支配が顧客に移転していませんから、その点は同様です。

将来において財又はサービスを移転する履行義務については、顧客から支払を受けた時に、支払を受けた金額で契約負債を認識します。財又はサービスを移転し、履行義務を充足した時に、当該契約負債の消滅を認識し、収益を認識することになります(収益認識適用指針52項)。

非行使部分に係る会計処理

顧客が権利行使しないと見込まれる部分(非行使部分)の処理が重要なポイントになります。収益認識会計基準では、契約負債における非行使部分について、企業が将来において権利を得ると見込む場合には、当該非行使部分の金額について、顧客による権利行使のパターンと比例的に収益を認識します。また、契約負債における非行使部分について、企業が将来において権利を得ると見込まない場合には、当該非行使部分の金額について、顧客が残りの権利を行使する可能性が非常に低くなった時に収益を計上することになります(収益認識適用指針54項)。

商品券等に係る法人税法上の取扱い

1. 商品引換券等の発行に係る収益の帰属の時期

法人が商品引換券等を発行するとともにその対価の支払を受ける場合、その商品の引渡し又は役務の提供(以下、「商品の引渡し等」という)に応じてその商品の引渡し等のあった日の属する事業年度の益金の額に算入します。また、その商品引換券等の発行の日から10年が経過した日の属する事業年度終了の時において商品の引渡し等を完了していない商品引換券等がある場合には、当該商品引換券等に係る対価の額を当該事業年度の益金の額に算入します(法基通2-1-39)。

法人税基本通達の改正により、従来のアグリーメント方式は廃止され、発行の日から10年を経過した日の属する事業年度終了の時において未引換えの商品券等については、一括益金算入するものとされました。ただし、後で説明する非行使部分について、権利行使のパターンと比例的に収益計上した部分については、すでに収益を計上済であるため、一括益金算入額から除かなければなりません。

なお、その商品引換券等の発行の日から10年が経過した日前に次に掲げる事実が生じた場合には、その生じた日の属する事業年度の益金の額に算入する必要があります。

① 法人が発行した商品引換券等をその発行に係る事業年度ごとに区分して管理しないこと又は管理しなくなったこと

② その商品引換券等の有効期限が到来すること

③ 法人が継続して収益計上を行うこととしている基準に達したこと

(注) 例えば、発行日から一定年数が経過したこと、商品引換券等の発行総数に占める未引換券の数の割合が一定割合になったことその他の合理的に定められた基準のうち法人が予め定めたもの(会計処理方針その他のものによって明らかとなっているものに限る)がこれに該当する。

2. 法人税における非行使部分に係る収益の帰属の時期

非行使部分の金額について、顧客による権利行使のパターンと比例的に収益を認識する会計処理が、法人税法上認められるのかどうかが重要なポイントとなりますが、一定の要件を満たす場合に、認められるとされました。

すなわち、法人が商品引換券等を発行するとともにその対価の支払を受ける場合において、その商品引換券等に係る権利のうち相手方が行使しないと見込まれる部分の金額(非行使部分)があるときは、その商品引換券等の発行の日から10年経過日等(10年が経過した日、なお同日前に上記①~③の事実が生じた場合には当該事実が生じた日)の属する事業年度までの各事業年度においては、当該非行使部分に係る対価の額に権利行使割合(相手方が行使すると見込まれる部分の金額のうちに実際に行使された金額の占める割合をいう)を乗じて得た金額からすでにこの取扱いに基づき益金の額に算入された金額を控除する方法その他のこれに準じた合理的な方法に基づき計算された金額を益金の額に算入することができます(法基通2-1-39の2本文)。

非行使部分の見積りを行う場合には、過去における権利の不行使の実績を基礎とする等合理的な方法により見積もられたものであること及びその算定の根拠となる書類を保存していることを要します(同通達の(注)1)。

また、10年経過日等の属する事業年度において、非行使部分に係る対価の額のうち本文により益金の額に算入されていない残額を益金の額に算入することとなることに留意する必要があります(同通達の(注)2)。

設例 商品券等の会計処理

<前提条件>

X1期に商品券等を1,000,000円発行しました。非行使部分を10%と見積もり、この非行使部分について企業は将来において権利を得ると見込みました。X2期に、1,000,000円のうち税抜価格で400,000円相当の商品と引き換えられ、消費税を含めて行使がされました。このとき、消費税率を8%とし、非行使部分の金額について権利行使のパターンと比例的に収益を認識する場合の会計処理を示してください。
なお、単純化のため、X1期の発行と、それに対するX2期の権利行使に係る会計処理に限定した部分に限り示すものとし、他の事業年度の発行分及びそれに対する権利行使部分については捨象するものとします。

<解答>
1. 会計処理
(1) X1期

商品券を発行しただけでは収益の認識はできません。契約負債を認識し、収益の計上を繰り延べます。

仕訳表1

消費税法上は、不課税取引に該当します。

(2) X2期

権利行使されたのは400,000円であり、契約負債を減額し売上に振り替えます。このとき消費税相当額も契約負債から減額されます。また、非行使部分については、非行使部分に係る対価の額100,000円(1,000,000円×10%)に権利行使割合48%(432,000円÷900,000円)を乗じて得た額48,000円を収益に計上します。

仕訳表2

商品と引き換えられた400,000円については消費税の課税取引となります。一方、非行使部分の収益計上については、消費税法上の譲渡等がないため、不課税取引になると考えられます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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