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太田達也の視点

有価証券の取得に係る財務調査費用の処理について

2017.02.01
公認会計士 太田 達也

有価証券の取得に係る財務調査費用

近年、M&Aの活発化により、他社の株式を購入する企業買収が増加しています。しかも国内にとどまらず、外国の企業の株式を購入する、いわゆるクロスボーダーM&Aも活発に行われています。このような企業買収を行うに当たっては、会計事務所や法律事務所に買収先の財務内容や法的リスクの有無などの調査を委託するのが通常です。これをデューデリジェンスと言います。買収案件によっては、この調査費用が多額になることも少なくありません。この調査費用に係る会計及び税務上の取扱いが問題になります。

財務調査費用に係る会計処理

平成25年9月13日付改正前の企業結合会計基準では、取得とされた企業結合に直接要した支出額のうち、取得の対価性が認められる費用は取得原価に含め、それ以外の支出額は発生時の事業年度の費用とされておりましたが、改正後の企業結合会計基準では、取得関連費用は一律発生した事業年度の費用として処理することに改正されました。

しかし、個別財務諸表上の付随費用については、「個別財務諸表における子会社株式の取得原価は、従来と同様に、金融商品会計基準及び日本公認会計士協会会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」に従って算定することに留意する。」(企業結合会計基準94項)とされていますので、平成25年に改正された企業結合会計基準の適用と関係なく、従来と同様に取り扱います。従って、契約が成立した場合の財務調査費用は株式の取得に係る付随費用として子会社株式の取得原価に含めることになります。一方、契約が成立しなかった場合の財務調査費用は、費用処理することになると考えられます。

この点、連結財務諸表上の処理と個別財務諸表上の処理が異なる点に留意する必要があります。連結修正仕訳により、取得原価に含めた金額を費用に振り替えたうえで、投資と資本の相殺消去をすることになると考えられます。

財務調査費用に係る税務処理

税務上、購入した有価証券の取得価額は、その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)と規定されています(法令119条1項1号)。また、通信費と名義書換料は金額が少額であることから、取得価額に含めないことができるとされています(法基通2-3-5)。これらの取扱いが意味することは、有価証券の取得価額には、購入のために要した付随費用は原則として全て含めるべきところ、通信費と名義書換料は少額であるという理由により例外的に除くことが認められるということです。

企業買収に係る財務調査費用が付随費用に該当するかどうかの判断が問題になりますが、実務上は株式を購入するかどうかの意思決定を行うタイミングとの関係が考慮されます。すなわち、購入の意思決定を行う前の段階の財務調査費用は、株式を購入するかどうかの意思決定を判断するための費用であり、購入のために要した費用とは言えない場合が多いと思われます。その一方で、株式を購入する意思決定後の財務調査費用は、購入することを前提として生じる費用であることから、その株式の購入のために要した付随費用として取得価額に含まれるものと考えられます。

国税不服審判所裁決事例の考え方

他社を買収するに当たって支出した財務調査費用につき、どの有価証券を購入するか特定されていない時点において、いずれの有価証券を購入すべきであるか決定するために行う調査等に係る支出は、この有価証券の購入のために要した費用には当たらないものの、特定の有価証券を購入する意図の下で有価証券の購入に関連して支出される費用は、有価証券の購入のために要した費用として当該有価証券の取得価額に当たるものと解されるところ、取締役会でその株式を取得することを決議した後で依頼した財務調査費についてはその株式の取得価額に含めるべきとした裁決事例があります(平成22年2月8日付国税不服審判所福岡支部裁決:TAINS FO-2-500)。

この裁決事例では、①臨時取締役会において本件株式を取得する旨を決議していること、②外部事務所との財務調査の業務委託契約書において、その調査の目的が本件株式の買収についての意思決定の参考とするためであるとされていること(特定の有価証券を購入する意図の下で当該有価証券の購入に関連して支出される費用に該当すること)が事実認定の根拠となっているようです。

ポイントは、どの企業を買収するのかがまだ決まっていない段階で、複数の企業の中から買収先を選定するために行う財務調査費用であれば、取得価額に含めないで損金算入することができますが、買収先を決定しており、最終的に買収するのかどうか、あるいは買収価額をいくらにするのかという判断のために行われた財務調査のための費用は、取得価額に算入することになると考えられます。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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