増減資における会計、法人税および地方税の処理 ~均等割に係る地方税の改正がどのように影響するのか~

2016年8月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

企業再生の場面における増減資

企業再生の場面において、増資と減資を両方行う、いわゆる増減資が行われることがよくあります。既存の株主の権利を消滅(または大幅に縮小)させる一方において、同時にスポンサー企業が増資の払込みを行うことにより、新たな株主が主導権を握って以後再生を進めていく形をとります。

この場合は既存の株主の株式を消滅(または縮小)させるために、発行済株式数の減少を併せて行います。すなわち、資本金の減少の決議(会社法447条)だけではなく、自己株式の取得の決議(会社法156条、157条)を採って行うことになります1。また、資本金の減少によって発生したその他資本剰余金は、その全額を欠損てん補に充てる場合が多いと思われます。

減資と第三者割当増資を組み合わせる、いわゆる増減資は、減資に際して自己株式の取得および取得した自己株式の消却を行うことにより、既存の株主の権利を消滅させます2。すべての株式を取得のうえ消却する場合に、俗称で「100%減資」という言い方をすることがあります。

1:債務超過会社の場合は、通常無償取得によることになります。また、既存の株主の株式を減少させる方法として、株式併合が用いられる場合もあります。

2:会社法における株式消却は、自己株式の消却のみと整理されていますので、いったん自己株式の取得を行い、その自己株式を消却する方法を用います。既存の株主から強制的に自己株式を取得する方法として、種類株式(全部取得条項付種類株式)を用いる方法があります。詳しい解説は、拙著「事業再生の法務と税務」(税務研究会出版局)P23以降をご参照ください。

増減資に係る会計処理

増減資に係る会計処理は、比較的単純です。資本金の減少によって発生したその他資本剰余金を欠損てん補に充てる(利益剰余金のマイナスに充当)する認識を行い、同時に行われる増資については、払込金額について資本金を増加させることになります。

後で設例により具体的な仕訳を示しますので、ご参照ください。

増減資に係る税務処理

企業再生の場面で行われる増減資における減資は、株主に対する払戻しを伴わない無償減資で行われるので、税務上は何もなかったものとして取り扱われます。すなわち、所得にも影響が生じないし、法人税法上の利益積立金額および資本金等の額にも変動が生じません。また、自己株式の無償取得および消却についても、税務上は何もなかったものとして取り扱われます。一方増資により、所得には影響が生じませんが、払込金額について税務上の資本金等の額が増加します。この場合に、法人住民税の均等割の負担がどのようになるのかが問題となります。

平成27年度税制改正による地方税法の改正により、資本金の減少によって発生したその他資本剰余金による欠損てん補額は、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額の算定上、減算すると規定されたため(地法23条1項4号の5)、この減算規定によるマイナスと、増資によるプラスの両方が発生することになります。通常、事業再生の場面では、減資による欠損てん補額の方が増資の額を上回ることが多いため、その場合は均等割が増えることはなく、減るケースが生じ得ます。以下、ケーススタディにより解説します。

ケーススタディ 増減資(企業再生のための増減資)の処理

<前提条件>

ある法人は、企業再生のために、資本金を1,200万円減少し、全額を欠損てん補に充てると同時に、新たなスポンサーからの出資の払込みを500万円受け、債務超過を解消しました。会計処理、法人税法の処理および地方税法の処理を示してください。

なお、増資前における法人税法上の資本金等の額は会計上の資本金と同じ1,200万円、法人税法上の利益積立金額は会計上の利益剰余金と同じマイナス1,500万円であったものとします。

ケーススタディ 貸借対照表

(注)増資後の資産は、増資による払込金額500万円が増加し、2,000万円になっている。

<解答>

1. 会計処理

資本金の減少およびそれによって発生したその他資本剰余金による欠損てん補、新たな新株発行(増資)のそれぞれを、次の仕訳により認識します。

<解答>仕訳表1

3: 払込金額の2分の1を超えない範囲で資本準備金を計上することもできます。

2. 法人税の処理

資本金の減少およびそれによって発生したその他資本剰余金による欠損てん補については、法人税法上は何もなかったものとして取り扱われます。一方、新たな新株発行による払込金額500万円について、資本金等の額が増加します。トータルでみると、資本金等の額が500万円増加します。

<解答>仕訳表2

法人税申告書の別表の記載は、次のようになります。

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書 Ⅰ

(注)会計上は、資本金の減少により生じたその他資本剰余金1,200万円が繰越利益剰余金のマイナスに充当されますが、税務上は利益積立金額と資本金等の額との間の振替調整(プラス・マイナス1,200万円)を入れることにより、欠損のてん補がなかったものとして取り扱われます。すなわち、利益積立金額に影響はありません。

別表五(一) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書 Ⅱ

(注)利益積立金額との間で1,200万円の振替調整が入ることによって、欠損てん補による資本金等の額への影響がないことが表されます。増資500万円が資本金等の額の増加に影響するのみです。結果として、法人税法上の資本金等の額は、1,700万円になります。

3. 地方税の処理

資本金の減少およびそれによって発生したその他資本剰余金により欠損てん補をしても、法人税法上の資本金等の額は変わりませんが、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額の算定上は、法人税法上の資本金等の額から減算します。

また、新たな新株発行による払込金額500万円について、法人税法上の資本金等の額が増加しますので、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額も同額増加します。

トータルでみると、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額は、増減資の前と比べると、700万円(1,200万円-500万円)減少します。これによって、均等割の負担が下がることになります4

平成27年度税制改正前は、均等割の負担が下がることはあり得ず、上がる可能性のみがありましたが、減算規定が設けられたことにより、そのような問題は解消されたといえます。

法人住民税均等割の税率区分の基準となる額
= 法人税法上の資本金等の額1,700万円-その他資本剰余金による欠損てん補額1,200万円
= 500万円
 ↓
増減資前(1,200万円)と比べて、700万円減少

4: 法人住民税均等割の税率区分の基準となる額が、1,000万円超から1,000万円以下に下がることにより、増減資前に比べて均等割は下がることになります。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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