国外事業者から電子通信利用役務の提供を受けた場合の会計処理 ~リバースチャージ方式に係る会計処理~

2015年11月2日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

国境を越えた役務の提供に係る消費税の見直し

電子書籍・音楽・広告の配信などの電気通信回線(インターネット等)を介して行われる役務の提供を「電気通信利用役務の提供」とし、その役務の提供が消費税の課税対象となる国内取引に該当するかどうかの判定基準(内外判定基準)が、役務の提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地から「役務の提供を受ける者の住所等」※1に改正されました。

この改正により、国内に住所等を有する者に提供する電子通信利用役務の提供については、国内・国外いずれから提供を行っても、国内取引として取り扱われるものとされました。平成27年10月1日以後行う課税資産の譲渡等及び課税仕入れから適用されています。

※1 個人の場合は住所または居所、法人の場合は本店または主たる事務所の所在地をいいます。

リバースチャージ方式の導入

消費税法においては、課税資産の譲渡等を行った事業者が、当該課税資産の譲渡等に係る申告・納税を行うこととされていますが、電気通信利用役務の提供のうち「事業者向け電気通信利用役務の提供」については、国外事業者から当該役務の提供を受けた国内事業者が申告・納税を行う仕組みが新たに採用されました。「リバースチャージ方式」といいます。

すなわち、事業者が平成27年10月1日以後に国内において行った課税仕入れのうち、国外事業者から受けた「事業者向け電気通信利用役務の提供」については、その役務の提供を受けた国内事業者が、その「事業者向け電気通信利用役務の提供」に係る支払対価の額を課税標準として、消費税及び地方消費税の申告・納税を行います(消法5条1項、28条2項、45条1項1号)。

また、「事業者向け電気通信利用役務の提供」を受けた場合も、他の課税仕入れと同様に、役務の提供を受けた事業者において仕入税額控除の対象となります(消法30条1項)。

ただし、①一般課税で、かつ、課税売上割合が95%以上の課税期間、又は②簡易課税が適用される課税期間については、当分の間、事業者向け電気通信利用役務の提供はなかったものとされますので、リバースチャージ方式による申告を行う必要はありません(改正法附則42条、44条2項)。

なお、輸入者が行う輸入貨物に係る消費税については、輸入者が課税貨物に係る消費税額等を輸入時に納税するとともに、輸入時に納税した消費税額について、確定申告の際に仕入税額控除を行います。リバースチャージ方式は、この輸入時の納税を確定申告の際に行っているのと実質同じです。その取引によって課される消費税が、納税と控除の両面で出てくることになります。

リバースチャージ方式に係る会計処理

課税売上割合が95%以上であれば特定課税仕入れ※2はないものとして取り扱われますから、課税売上割合が95%以上となる大部分の事業者において、特段特定課税仕入れに係る消費税等を仕訳において認識しないと一見思われます。しかし、①課税売上割合が95%以上か95%未満かは課税期間が終了しないとわからない点、②申告の段階において課税売上割合が95%以上であっても税務調査等で課税売上割合が95%未満となるケースもあり得る点、以上の点を考慮すれば、各取引を入力する段階でその取引が特定課税仕入れに該当するものであることがわかる印をつける必要があると考えられます※3

※2 「特定課税仕入れ」とは、課税仕入れのうち国内において行った「特定仕入れ」に該当するものをいい、「特定仕入れ」とは、事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等(「事業者向け電気通信利用役務の提供」と「特定役務の提供」)をいいます。

※3 課税取引、非課税取引および不課税取引について、一定のコードを入力し、それに応じた計算がされています。特定課税仕入れについても、コードを追加して入力することで識別することが考えられます。また、帳簿上「特定」と付記して、後日わかるようにマークすることも考えられます。

「消費税法等の施行に伴う法人税の取扱い(平成元年3月1日直法2-1(個別通達)」に5の2が新設されました。「消費税法5条1項に規定する特定課税仕入れの取引については,取引時において消費税等の額に相当する金銭の受払いがないのであるから、その取引の都度行う経理処理において当該特定課税仕入れの取引の対価の額と区分すべき消費税等の額はないことに留意する。」として、税抜経理を採用している法人であっても基本的には取引仕訳において特定課税仕入れに係る仮払消費税等の計上が行われることはないことが確認されています。

ただし、特定課税仕入れに係る納税義務が生じることを考慮すると、取引の段階で特定課税仕入れに係る消費税等の額を仕訳で表現することも考えられます。そこで、同通達5-2ただし書きにより、「ただし、法人が当該特定課税仕入れの取引の対価の額に対して消費税等が課せられるものとした場合の消費税等の額に相当する額を、例えば、仮受金及び仮払金等としてそれぞれ計上するなど仮勘定を用いて経理処理することとしても差し支えない。」とされています。

以下、二つの方法を具体的な仕訳で説明します。

支払時に消費税を認識しない方法(個別通達5-2本文)

国内事業者(課税売上割合90%)がデータベース利用料300,000円を国外事業者に支払ったものとします。

支払時に消費税を認識しない方法 仕訳表

※4 課税標準額に対する消費税額24,000、控除対象仕入税額21,600(24,000×90%)です。従って、納付すべき消費税等の額は、24,000-21,600=2,400です。

支払時に仮勘定を用いて消費税を認識する方法(個別通達5-2ただし書き)

先と同様に、国内事業者(課税売上割合90%)がデータベース利用料300,000円を国外事業者に支払ったものとします。

支払時に仮勘定を用いて消費税を認識する方法 仕訳表

なお、支払時に仮払金と仮受金を計上する処理を行っていた場合で、その課税期間の課税売上割合が95%以上となった場合は、単に仮払金と仮受金を相殺するのみとなります。

支払時に仮勘定を用いて消費税を認識する方法 仕訳表2

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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