100%子会社間の無対価分割に係る会計と税務

2013年8月1日
カテゴリー 太田達也の視点

公認会計士 太田 達也

100%子会社間での事業の移転

企業グループとしての経営効率化を目的として、会社分割により子会社間で事業の移転が行われるケースが少なくありません。また、100%子会社間での会社分割が行われる場合は、分割の対価を交付しない分割、いわゆる「無対価分割」で行われるのが一般的と思われます。この場合の会計処理及び税務処理を整理する必要があります。

100%子会社間での事業の移転 イメージ

100%子会社間の無対価分割の会計処理

同一の親会社に発行済株式の全てを所有されている子会社同士の間で、無対価分割が行われた場合の会計処理は、次のとおりです。

1. 吸収分割会社の会計処理

吸収分割会社である子会社は、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(以下、適用指針)の255項に準じて会計処理を行い、株主資本の額を変動させます(適用指針203-2項(2)②)。共通支配下の取引ですので、移転した事業の簿価純資産額について変動させます。変動させる株主資本の内訳は、取締役会等の会社の意思決定機関において定められた額とします(適用指針233項、446項)。

仕訳表1

2. 吸収分割承継会社の会計処理

吸収分割承継会社である他の子会社は、吸収分割会社における分割直前の帳簿価額により諸資産及び諸負債を引き継ぐとともに、吸収分割会社である子会社で変動させた株主資本の額を引き継ぎます(適用指針203-2項、256項)。原則として、吸収分割会社で変動させた資本金及び資本準備金はその他資本剰余金として引き継ぎ、吸収分割会社で変動させた利益準備金はその他利益剰余金として引き継ぎます(適用指針437-2項、437-3項)。

このように資本金及び準備金として引き継がないのは、無対価であって、吸収分割承継会社は新株を発行していないためです。

仕訳表2

親会社の会計処理

個別財務諸表上、当該分割により吸収分割会社である子会社の株式の価値の一部が吸収分割承継会社である子会社の株式に移転します。親会社は、分割直前の吸収分割会社である子会社の株式の適正な帳簿価額のうち、合理的に按分する方法によって算定した引き換えられたものとみなされる部分の価額について、吸収分割会社である子会社株式から吸収分割承継会社である子会社株式に帳簿価額を付け替える必要が生じます(適用指針295項)。

仕訳表3

合理的に按分する方法としては、①関連する時価の比率で按分する方法、②時価総額の比率で按分する方法、③関連する帳簿価額の比率で按分する方法が示されています(適用指針295項の後段)。

100%子会社間の無対価分割の税務処理

平成22年度税制改正により、無対価組織再編の規定が整備されています。分割の場合、まず分割型分割と分社型分割の定義が次のように規定されました(法法2条12号の9、12号の10)。無対価分割である場合は、(1)と(2)のそれぞれの②の定義を参考に判断します。

1. 分割型分割と分社型分割の定義

(1) 分割型分割

① 分割の日において当該分割に係る分割対価資産の全てが分割法人の株主等に交付される場合の当該分割

② 無対価分割で、その分割の直前において、分割承継法人が分割法人の発行済株式等の全部を保有している場合又は分割法人が分割承継法人の株式を有していない場合の当該分割

同一の親会社が発行済株式総数の全部を所有する「完全子会社同士の無対価分割」は、上記(1)②に該当し、税務上、分割型分割となります。さらに適格分割型分割に該当する場合、親会社では分割法人株式から分割承継法人への税務簿価の付け替えが行われます(法令119条の3第12項)。

(2) 分社型分割

①分割の日において当該分割に係る分割対価資産の全てが分割法人の株主等に交付されない場合の当該分割

②無対価分割で、その分割の直前において、分割法人が分割承継法人の株式を保有している場合(分割承継法人が分割法人の発行済株式等の全部を保有している場合を除く)の当該分割

2. 無対価分割で適格分割に該当する場合

無対価分割の場合、次の場合に適格要件を満たすことが明確化されています(法令4条の3第6項)。

(1) 分割型分割の場合

① 子会社から直接の100%親会社に対する分割

② 同一の者が株式を100%直接に所有している兄弟会社間の分割

③ 分割承継法人及びその直接の100%親会社が分割法人の株式の100%を保有している場合の分割

(2)分社型分割の場合 親会社から直接の100%子会社に対する分割

同一の親会社により100%株式を所有されている兄弟会社間の分割は、上記の(1)②に該当します。

3. 100%子会社間の無対価分割の場合

100%子会社間の無対価分割の場合は、分割前に当該分割に係る分割法人と分割承継法人との間に同一の者による完全支配関係がある場合で、かつ、同一の者が分割法人及び分割承継法人の発行済株式等の全部を保有する関係である無対価の分割型分割であるときは、分割法人と分割承継法人との間にその同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれているときは、適格分割に該当することになります(法令4条の3第6項2号ロ)。

適格分割に該当する場合は、分割事業に係る資産及び負債は分割法人における分割直前の帳簿価額により分割承継法人に引き継がれます。 また、適格分割型分割に該当する場合は、分割法人の分割直前の資本金等の額に分割移転割合を乗じた額について分割法人において資本金等の額を減算し、分割承継法人において同額を増加します(法令8条1項6号、15号)。また、移転事業に係る諸資産の帳簿価額から①諸負債の帳簿価額及び②資本金等の額の減算額の合計額を減算した額について計算される利益積立金額を分割法人から分割承継法人に引き継ぎます(法令9条1項3号、10号)。

会計及び税務ともに帳簿価額による引継ぎの処理となるため、会計上のその他資本剰余金及び利益剰余金それぞれの引継額と税務上の資本金等の額及び利益積立金額それぞれの引継額が一致する場合は、税務調整は不要になるものと考えられます。ただし、会計上は、変動させる株主資本の内訳は、取締役会等の会社の意思決定機関において定められた額とする取扱いであるため、両者の引継額が一致するとは限りません。

当コラムの意見にわたる部分は個人的な見解であり、EY新日本有限責任監査法人の公式見解ではないことをお断り申し上げます。

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